長編8
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ある後輩の謎

約5年前に俺がIT関連企業に勤めていた頃の話。

長い話なので複数回に分けさせていただいた。ご了承いただきたい。

その事件が起きた頃、俺はシステムを売る営業部門に所属していて、

Iリーダー(39歳)、俺(27歳)、新入社員の後輩M(23歳)の3人でチームを組み、ある企業にシステムの営業をかけていた。

ようやく先方の担当者と話がまとまり、その上司など役職者へのプレゼンを行えることが決まった。

Iリーダーは、Mにプレゼンさせることにした。すでに2月になっていて、Mはもうすぐ入社2年目に入る。そろそろ大きな経験をさせようという考えからだ。

先方へのプレゼンを翌日に控えた夕方。Iリーダーと俺は顧客役になり、Mのプレゼンを聞いた。

Mは相当練習したらしく、プレゼンは完璧と言っていい出来だった。意地悪な質問にもスマートに答えて、何の心配もないように感じた。

「明日は任せてください!」Mはそう言って会社を出た。後は明日の成功を祈るだけだった。

しかし当日、思わぬ異変が起きた。

始業時間を1時間過ぎてもMが出社しないのだ。

携帯に電話をかけても呼び出し音がひたすら鳴るばかりで、電話にでる気配はなかった。

Mはこれまで遅刻したことはなく、電車遅延などによる数分の遅れでも会社に連絡していた。

交通事故にでも巻き込まれたか、もしくは身内に不幸があったか・・・。

それ以上に俺とIリーダーは焦った。

今日のプレゼン資料(パワーポイント)はMが持っているのだ。MのパソコンにはID、Passがわからないため、ログインできない。プレゼンは俺が代わりをしても資料がないとどうにもならない。

このような事態を予想できずに、データ共有しなかったことを後悔した。

そろそろ会社を出ないと、13時のアポに間に合わない。

取り合えず、先日のリハーサルで使ったパワポのプリントアウトをスキャンして代用することにした。

Mの携帯にはこうしている間にも何度も電話をしたが、呼び出し音がなり続ける状況に変化はなかった。

もしかしたら、プレゼン先に直行しているのでは・・・そんな期待もあえなく打ち砕かれた。

お粗末ながら、どうにかプレゼンを終えた帰り道、Iリーダーは「もしかしたら家で倒れているかもしれない」と不吉なことを言った。

状況がどうであれ、社会人として一言連絡するのが常識。

事故や身内の不幸であれば、何かしら連絡が付くはずだ。

それができないとなるとIリーダーの言うことも否定できない。

会社に戻った俺とIリーダーは、会社に保存してある社員の住所録をもとにMの家へ様子を見に行くことにした。

Mとは会社帰りに飲みにいったりすることはよくあったのだが、プライベートの付き合いは一切なかった。

もちろん家にいったことなどない。

住所録によると、Mの家はある私鉄の駅から歩いて20分ほどのところにあるアパートの2階だった。

会社からは1時間ほどかけて、最寄り駅に着いた頃には18時を過ぎていて、すでに辺りは真っ暗だった。

冷たい風が吹いていて寒かった。寒さを我慢しながら、商店街を抜けて住宅地へ進む。

Mのアパートは、周りに畑がある、住宅地の外れにあった。おぜじにも綺麗とは言えない外観。

「なんだ、あいつ家に居るじゃねーか」。

Iリーダーが指差したMの部屋と思われる先には明かりがついていた。俺は少しほっとした。

アパートの前で、Mの携帯に電話をかけた。ところが相変わらず呼び出し音が鳴るだけだった。

「あいつ、わざと電話にでないのかもしれないな」。

Iリーダーはそう言って、階段を上っていった。

部屋番号を確認すると、明かりがついている部屋はMの部屋で間違いなかった。

他の部屋は真っ暗だった。もしかしたら空き部屋かもしれない。

部屋の前で、何度かチャイムを鳴らした。

しかし少し待ってみるもMが出てくる気配は無かった。

俺はドアノブに手をかけた。鍵がかかっていないことに気づいた。

「よし家に入ってみよう」。

Iリーダーに言われるがまま、ドアを引いた。

たちまち暖かい空気が俺たちを包んだ。外とは20℃くらい気温差があったように思えた。

部屋は2DKの間取りだった。一つの部屋は電気がついていてドアが半分くらい開いていた。

そこから暖房の空気がもれていたのだ。

その部屋は居間に使っているようで、玄関からテレビやテーブルが少し見えた。

「おーいM!」

俺は呼びかけたが返事はなかった。

Iリーダーは靴を脱ぎ、アパート内に入った。俺は玄関からその様子を見ていた。

Iリーダーは電気がついている部屋の半分開いているドアから、おそるおそる中を覗いた。

「いないぞ!」

そこにMの姿はなかった。

そうなると、もうひとつの部屋なのか。

そっちはドアが閉められていた。

Iリーダーは不気味な気配を感じたのか、ドアを開けるのをためらった。

恥ずかしながら、俺は玄関から中に入ることができずにいた。

Iリーダーは意を決して部屋に近づき、ドアを開けた。

「うぉっ!」

ドアを開けたIリーダーは声をあげた。

「どうしました!」

俺は叫んだ。

「おい、あれ何だよ・・・」

リーダーは小声でつぶやいた。

俺も勇気を振り絞り、呆然と立ち尽くすリーダーのもとへ向かった。

目に飛び込んできたのは、部屋の中央に吊るされた、大きな旗のようなものだった。

解読不能な文字やマークが一面に書き連ねてあった。

不思議なことにその部屋の中には、家具などが一切なく、旗だけが中央に吊るされていた。

見てはいけないものを見た気がした。

「帰ろう!もうMのことは知らん」

リーダーは焦っていた。俺も一刻も早く、部屋を出たかった。

そして、まさにMの部屋を出ようとしたときである。

走って階段を上る音が聞こえた。

「静かにしろ!誰かが来る」。

その足音は部屋の前で止まった。

しかし、俺たちに気づいたのか、走って階段を降りていってしまった。

「Mかもしれない!追いかけよう!」

俺たちは外に出て、そいつを探した。

が、5分くらいアパートの周りを別々に探し回ってもどこにもいない。

そう遠くに逃げられるわけはないのだが、見つけられなかった。

「帰ろう!」

リーダーは俺に言った。

「しまった!カバンを忘れてきた」。

大きな失態だ。

俺たちは嫌々部屋に戻ることになってしまった。

部屋につくと異変に気づいた。

「カバンがない!」

置いたはずの場所からカバンが消えていた。どういうことだ・・・。

俺たちは途方にくれていると、部屋の固定電話が鳴った。

「Mかもしれない!」

俺は電話に出た。

「もしもし、Mか!俺だ!今何している!」

相手はしばらく無言だった。

その後電話は切れた。

俺はすかさず、Mの携帯に電話をした。

すると着信メロディが部屋から聞こえてくるではないか。

さっきの居間からだった。

居間に向かうと、テーブルの下に携帯が置いてあった。

着信履歴を見ると不在着信だらけ。すべて会社と俺とリーダーからだった。

だが、不思議なことに最初の着信が、今日の10時過ぎに俺が会社からかけたもので、それより以前の履歴がない。さらに、電話帳には番号が一件も登録されていないではないか。

意図的に消したことは明らかだった。

幸い俺のカバンには財布など重要なものは入っていなかった。

強いて言えばiPodが入っていたが、あきらめることにしてアパートを後にした。

来た道を戻り、駅に向かった。

「あれは!」なんと道端に俺のカバンが置いてあった。iPodも無事だった。

「あいつのことは、明日俺から課長に報告しておくから」

俺はリーダーと別れて家に帰った。

家に着き、念のためカバンの中身を調べ直した。

するとカバンの内ポケットに手紙のようなものが入っていることに気づいた。

カバンの内ポケットに折りたたまれて入っていた、紙を広げた。

「うわっ!」

心臓が止まりそうになるとはまさにこのことだった。

その紙には、Mの部屋で見た旗に描かれていたのと同じく、意味不明な文字やマークが書き連ねてあった。

独身の俺は、部屋に1人でいることがとてつもなく恐くなって、外に出た。

夜でも人が大勢いる場所として大型のパチンコ屋に入って気を紛らわし、その紙をごみ箱に捨てた後、

居酒屋に入り酒を飲み、部屋に戻ってからは滅多に電話することもない学生時代の友人に電話して、

今日の出来事を思い出さないようにして寝た。

次の日、早くこのことをIリーダーに伝えたくて、いつもよりも早く会社に行ったのだが、Iリーダーは休んでいた。

「もしや昨日ことが原因で・・・」

席についてそう考えていると、K課長が声をかけて来た。

課長はMの緊急連絡先を俺に渡した。

これは仕事中に社員が何か事故などにあったときの連絡先として会社に登録しておく、自宅以外の電話番号や住所のこと。

独身のMの連絡先は宮城県の実家だった。

課長はこれから出張する予定があった。もし今日もMが無断欠勤するようなら、実家に連絡を入れておいてくれと頼まれた。

課長もMに対して早朝に何回か電話をかけたのだが、出なかったという。

午前中、やはりMは出社しなかった。

その電話番号を手帳にメモした俺は、営業の合間に一休みした喫茶店から電話をかけた。

15時頃のこと。

外は弱い雨が降っていてたことを思い出す。

しばらくコールし続けた後にようやく電話に出たのは父親だった。

まず、自分はMと同僚であることを伝え、そしてMが昨日から無断欠勤しているが心当たりがないかを聞いた。

すると父親は予想もしなかったことを言い出した。

「Mは昨日から実家に帰ってきています」。

(えっ!そんなはずは・・・)

少し考えた後に思い切って尋ねた。

「それではMと代わってください」

そう父親にお願いすると、

「今は出かけていていない」の一点張り。

何度もMの携帯に電話をかけていることを告げると、都合が悪くて出られないのだろうと言う。

そこで、質問を変え、昨日は大事なプレゼンが13時からあったことを伝えた。

すると「Mは昨日の昼過ぎに突然帰ってきた。申し訳ない」と答えた。

(うそだ・・・)。

俺とリーダーは昨晩、Mの部屋に行った。

携帯は部屋にあったし、Mらしき人が部屋に帰ってくる足音を聞き、固定電話にも電話があった。

そんな思いを巡らせていると、

「退職させたいので、手続き方法を教えてくれ」

と父親は続けた。

(何か隠している・・・)

電話をいったん切った。

退職となると俺の手には負えない。

会社に戻り、課長に電話報告した後、休んでいるIリーダーにも電話をかけた。やはりIリーダーは精神的なショックを受けていたようだ。

そのリーダーに対して、昨日の紙のことと今日の出来事を伝えると過剰な反応を見せた。

「退職したいと言うなら、そうさせればいい。もうMにはかかわらない方がいいぞ」

「しかし・・・」

思わず俺の口から出た言葉を遮るように、

「お前は昨日気づかなかったかもしれないがなー」

間髪をいれずに言い放った。

(つづく)

怖い話投稿:ホラーテラー geeさん

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