中編3
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回胴バブルの犠牲者

※若干マニアックな内容になっております

4号機全盛時代のはなし

今はすっかり足を洗ってしまったのだが私は一時期スロットに嵌っていた。

休みの日は勿論、毎晩毎晩仕事が終われば真っ直ぐホールに向かい閉店まで打っていた。

この日は吹雪の中、営業に出てそのまま直帰だった為、時間も勿体無いので営業先から近いホールに行った。

ホームのホールではないが好きなHANABIならどこにでもある。

当たり前のようにDDTでビシビシと挟み打つ!

そして美しいリーチ目を堪能していた。

「ん?遅れた!」

トイレタイムだ!

私は迷わず第1リールに「の・べ・こ」を目押し!

チェリーではないことを確認して回したままトイレに向かった。

このホールのトイレは大きな入り口が1つあり入った左が男子トイレ

右が女子トイレとなっており共に扉が無いタイプでよくあるパチンコ店のトイレだ。

用を足しながら「第3リール下段に七が止まっていれば美しいなぁ~」などと考えていた。

今考えれば当たっていれば何だって良い話であるのだが・・・・

コインで真っ黒になった手に緑色の液体石鹸をたっぷりと取り綺麗に洗う。

ジェットタオルで水気を取ってトイレから出た。

パチンコ屋の店内なので、かなり騒々しかったのだが女子トイレから呻き声が聞こえてきた。

「グッグッグぇぇぇぇ~~」

みたいなとても苦しそうな声だったので私は少しだけ躊躇したが女子トイレの中に入った。

個室が並んでいるが1つだけ使用中だった。

戸をノックしながら「どうしました?大丈夫ですか?」と問いかけたが返答は無い。

仕方ないのでトイレ横にある景品交換所のお姉さんに今の出来事を話して助けを求めた。

途端にお姉さんの笑顔は無くなり「判りました後はこちらで対応します」と事務的な返答が帰って来た。

お姉さんはインカムで誰かに連絡をし事務室から男性が血相を変えてやってきた。

私のホームに半月前までいた店員だった。

最近見ないと思ったらどうやらこの店に引き抜かれたらしい。

「Hさん何かあったのかい?」

すかさず声を掛けた。

「ああ~」「今ここで店長やってるんですよ」

「へ~出世したねぇ~」「所でどうしたの?」

「え?!い、いやぁ~・・・」

「呻き声聞こえたって言ったの俺なんだけど!」

「そうなの?・・・」「実は・・・・・」

彼は重たい口を開いた。

他の客に聞かれるとマズイのか私を引っ張り女子トイレの中に入っていった。

「実はさぁ、先月末に自殺があったのさ・・・」

とひとつだけ使用中の個室を指差す。

亡くなった方は30代の既婚女性でパチスロ依存症だったらしくサラ金からかなりの借金をして打っていたらしい。

今の5号機とは違いギャンブル性の高い回胴が多かったのでハマる気持ちは良く判る。

当日も返済日だというのに朝から散々負けており

閉店直前にトイレの梁にマフラーを掛け

首を括って死んでいるのを掃除のおばちゃんが発見したらしい。

それからというもの・・・・

朝、出勤すると自殺のあった個室だけがなぜか使用中になっていて、常連のお客さんからも使用中の個室から

「変な声聞こえるわよ」と言われていたそうだ。

その都度、上の隙間によじ登り中から鍵を開けるのだが、いつの間にかまた使用中になってしまうのだとか・・・・

帰りに店長が私の所にやって来てこう言った。

「誰にも言わないでね。新聞沙汰にならなかったしお客さんにも見られてないんだわ」

私は「6打たせてくれたら黙ってる」といやらしく微笑んだ。

数日後その店は突然休業することになった。

店長によると女子トイレの心霊現象が収まらず御祓いをしてトイレを全面改装するらしい。

1ヵ月後、新装開店したホールはトイレだけ異常に綺麗で男女の場所が入れ替わっていた。

私は約束通り何度か6を打たせてもらったが店長が札幌店に移動になったので、そのホールには行かなくなった。

店長とはたまにメールのやり取りをしていたのだが

御祓いをしたにも関わらず月命日にはやはり苦しそうな女性の呻き声が聞こえているらしい。

男子トイレから・・・・

                  

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