中編3
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長野のホテルにて

初投稿です。

僕が東京の会社に勤務していた時の話です。

入社後しばらくは地方勤務だったが、半年後には

東京へ転勤になった。

慣れない首都での生活に追われる中、立て続けに

出張の予定が入った。その内の1つ、長野の案件は

泊まり掛けになる為、ホテルを探さなければならない。

現場から最寄りのホテルをインターネットで探し、

地名の入ったホテルを見つけた。

偶然にも、同じ市内に同名のホテルが二件あった為、

住所をよく確認した上で電話をかけ、○日18時に

チェックインしますと伝え、予約を済ませた。

受付のお婆さんは「 かしこまりました。お待ちして

おります」と、丁寧に挨拶をした。

当日、現場事務所へ挨拶を済ませ、簡単な打ち合わせを

行ったあと、予定時間より少し早めにホテルへと向かった。

ホテルを前にして、僕は少し驚いていた。

あまりにその外観は古めかしく、また老朽化が激しかった。そして、一切の照明が点いていなかった。

…正直、宿泊するには勇気がいるレベルだった。

しかし、まだ準備中なのだろうと楽観的に考えていた僕は、外観の写メをとり、ドアノブを引いた。

一階は、非常灯しかついていなかった。

正面に従業員出口、右手にはフロントがあった。

フロントはカーテンがかかり、中の様子は分からない。

左手には受付後、個室へ向かう為の階段があった。

おかしい、チェックイン予定の一時間前にもなり、

人の気配がしない。

間違えたのだろうかと思い、発信履歴から電話を掛けた。

ジリリリリ

…フロントの向こうで黒電話が鳴っている。

ゾクッとした。

この時は、仕事に支障が出てはいけないという気持ちが

恐怖感に勝っており、左手の階段を登ることを決めた。

二階へ上がるも、廊下はやはり真っ暗だ。

非常灯だけが気味悪く点灯している。

三階への階段を登ろうとして、足を止めた。

階段の埃が酷い。堆積しており、人が踏んだ痕跡はない。

そして、上をみる限り明かり1つ見えない。もし、非常灯が点いていればわかるはずだ。

…やはりおかしい。

この時初めて、恐いという気持ちが爆発した。

チェックイン時間をすぎても人が来ないのを確認し、上司へ連絡をした。

事情を説明し、他のホテルを探してもらうことができた。

聞くと、ここから歩いていける距離のようだ。

やっと泊まれる、安心して宿に向かっていると、道路沿いにタクシーの詰所がある。

タクシードライバーならば、ホテルの営業事情には明るいだろうと、聞いてみることにした。

あそこのホテルに泊まる予定だったのですが…と。

すると、運転手さんは不思議そうな顔で言う。

「お兄さん、同じ名前のホテルが2つあるが、駅前のほうじゃろ。なにせ、もう片方はずいぶん前から営業しちゃおらんよ。

…僕が訪ねたのは、駅前の方ではない。

後日談

この時の写真を友達に何度か見せる事があった。皆、口を揃えて廃墟のようだ、よく入ったと驚いていた。

ある日、スカイプで友達と恐い話で盛り上がり、僕はこの時の写真を自慢げに見せていた。

うおー、こえー、と予想通りの反応に満足していた。

すると、友達は意外な事をいう。

「…三階の窓に人影が見えねえ?」

そこには確かに人影があった。

そんなはずはない…。

何かの見間違いと、画像編集ソフトで色相を変えるなどやってみたが、その輪郭はハッキリとしていくばかりだ。

僕は恐ろしくなり、写真を消した。

足跡ひとつない埃階段をどうやってあがったのか。

埃にまみれ、明かり1つ見えない三階に何がいたのだろうか。

そんなことは考えたくもなかった。

Concrete
コメント怖い
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コメントありがとうございます。
写真なのですが、僕自身怖くなったことや、
知人からも消したほうがいいと勧められたため、
全て消したんですよ。申し訳ないです。

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