長編10
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踏みつける

うっ、、痛い・・・

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気がついたら病院のベッドの上にいた。

ぼやける視界、なんだかやたらに痛むお腹。

病院だと一瞬で分かったのは隣のベッドにこっちを向いて横たわる、白髪のおじいちゃんがいたからだ。

じっと俺を見ている、気がしたが痛みがすごくて

ナースコールのボタンを押した。

「ガ、ガガガ、すぐに行きます。」

頭の方から声がした。

少ししたら看護師さんがやってきた。

「気がつきましたか?分かります?」

「は、はい。痛みがすごくて。」

「痛み止めを点滴しますね。」

また深い眠りに落ちた。

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目を覚ますと親父と母ちゃんが心配そうにベッドの横にいた。

「勝也、大丈夫?びっくりしたよ。学校から連絡きて階段から落ちて頭を打ったって聞いて、お父さんととんできたんだから!」

「大丈夫か?痛みはないか?」

親父と母ちゃんが交互に喋る。

返答する間もない。

話を聞いていくと、どうやら学校の階段から転げ落ちたらしい。

ただ、俺にはその前後の記憶、一日の記憶がない。

しかも頭を打ったのに頭より腹部が痛む。

母ちゃんにお腹の方が痛いと言ったのに、少し打ったのね、でも検査の結果は異常ないみたいだから大丈夫と言われた。

2、3日もすれば退院できるからと言い残して親父と母ちゃんは急いで帰っていった。

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ベッドの上でどうして転んだのか思い出そうとしたが、全く思い出せない。

そんな時に隣のおじいちゃんが話しかけてきた。

「お兄さん、とても変わった治療をしてたな。なんの病気なんだい?」

「病気じゃないんです。階段から落ちちゃって。」

「ははは!しかし変な先生だったな、医者じゃないみたいだった。てっきりお祓いかと思ったよ。あんなの呼ばない方がいいぞ。絶対に!」

おじいちゃんの意味の分からない言葉を気にするより痛みが辛かった。

またナースコールをし、深い眠りについた。

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目が覚めた。

空腹のせいか寝過ぎのせいか。

トイレに行きたくなったのもあり、起き上がろうとした。

あれ?お腹の痛みがない。

あれほど痛かったのに何ともない。

携帯を探して時間を確認したら夜中の1時をちょっと過ぎた頃だった。

喉も乾いたし、トイレも行きたい。

6人部屋にいるらしく、部屋の出口にトイレはあった。

ずっと寝ていたせいかスッキリしていて頭のガーゼと首のコルセットがなければ調子がいい感じだ。

ベッド毎に区分けされたカーテンは全部しまっている。

静かに歩き用を足して廊下にでた。

すぐにエレベーターがあった。

案内図をみて上に食堂、地下に売店がある事が分かった。

食堂は閉まっているだろう、売店もやってないと思うけど、自販機くらいはあるだろうな。

エレベーターの下ボタンを押した。

すぐにエレベーターはきた。

地下1階のボタンを押し、ゆっくりしまる扉をみながら、看護師さんの待機する場所がないな、何て思っていた。

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地下に着いてすぐに売店を見つけたが、やはり開いていない。

だけど自販機もやっぱりあった。

普段は飲まないスポーツドリンクを買い、一気に飲み干した。

何だかお腹が痛くなってくる気がしたから、病室に戻ることに。

エレベーターのボタンを押し、エレベーターがくるのを待っていたけど、不意に変な考えが頭をよぎる。

なぜならエレベーターは誰かが呼ばないとその階には行かないと思ったからだ。

エレベーターは5階から向かってくる。

僕の病室も5階だ。

誰か自販機に買いにくるのかな?なんて思いながら待っていると、すぐに到着した。

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ゆっくりと扉が開く。

中には隣のベッドのおじいちゃんがいた。

こんな時間にだ、、びびる。

鳥肌が全身を駆け巡り、恐怖心を倍増させる。

少し後ずさりをすると同時に白髪のおじいちゃんは言った。

「返せ…」

異常だ、絶対に異常事態だ。意味が分からないけど直感で危険だと理解した。

首のコルセットのおかげで上手く走れない、お腹も急激に痛みをだしてきた。

焦る、やばい!やばい!!

笑っているのか、怒っているのか分からないけど

すごい早さで追いかけてくる。

階段が見えた、一つ上の階に上がれば外に出られるはず。どこにいるか分からないけど外なら逃げられる気がした。

必死に階段を登るが暗さとコルセットのせいで焦りがます。

足音がすごい早さで追いかけてくる。

タッタッタッ

タッタッタッタッタッタッ

真後ろにピッタリくっつく様に、いる。

「返せ、返せ、返せ、返せ、返せ。」

暗やみのなか気配と声が聞こえる。

まるで呪文だ。。

とてつもない腹部の痛みで前屈みのまま階段に倒れこむ。

気配が顔のすぐ横にある。

耳元で「返さないのか。苦しめ、あはは、苦しめ。」

気を失いかけながら、信じられない光景がぼやけた視界から見えていた。

おじいちゃんがお腹を踏んづけている。

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気がつくと病室のベッドの上にいた。

カーテンを閉めてくれればいいのに全開だ。

ガバッ!一気に起き上がった。

隣のベッドには誰もいない。

昨夜の出来事を振り返る。

とんでもない恐怖が込み上げてきた。

入り口側から声が聞こえた。

「勝也!大丈夫?」

母ちゃんだ。泣きそうになった。

自分が体験した事を話そうとしたが何から話せばいいのか整理がつかない。

ようやく話そうとすると母ちゃんが、「大丈夫、大丈夫。」何度も繰り返す。

だけど、様子がおかしい。

僕の顔は見ずに下を向いている。

涙を見せない様にしてるのか体も震えている。

僕はやばい病気なのか??

少しすると担任の先生と親友のタケルがやってきた。さらに見た事のないスキンヘッドでスーツの

若い男が立っている。

母ちゃんが担任に話しかけたと同時にスキンヘッドの男が言った。

「なんてことだ。ここまでだとは思わなかった。すぐに向かいましょう。」

何の話か、、全然理解できない。

タケルの顔色は真っ青になり、震えているように見えた。

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着替える暇もなく担任の車に乗せられた。

1時間くらい走っただろうか、小高い丘のような上に建つ屋敷に着いた。

屋敷の中に入ると、広い部屋に通された。

不思議とお腹の痛みは感じなくなっていたし、タケルもいたから気持ちもいくらか落ち着いていた。

広い部屋の中に入ると、天井から紐のようなものが四隅にぶら下げられている。天井の真ん中にはお札が貼られていた。

その四隅の紐の中にタケルと2人にされた。

変な状況だけど、タケルとやっと話せると思い口を開いた。

「なぁタケル。何が起きてるんだ?やばくないか?」

「勝也、お前見えてなかったのか?」

会話がかみ合わない。

理解不能な顔をしている僕に対してタケルはこう言った。

「今から順を追って話す。よく聞けよ。」

タケルは話し始めた。

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いつもの様に僕とタケルは学校に向かっていた。

毎朝同じ道はつまらないからと、僕が違う道を進んでいったらしい。

土手沿いを歩きふと下の方を見つめ、何かあると言って土手を下り始めた。

タケルは遅刻するぞ、と言ったが聞く耳を持たず下りていくのでタケルも仕方なくついて行った。

下につくと僕は倒れている花瓶と花、高そうな人形をちゃんと元にあったであろう位置に戻そうとした。

花を花瓶に戻したはいいが、人形がちゃんと立たないからと、足を石で固定しようとした。

それでも倒れてしまうので「これじゃダメだ。」とつぶやくと人形を寝かせた状態にした。

タケルは何か供養っぽいなと人形と花をみて思ったが、勝也がちゃんと戻そうとしてんだなと思い先に土手を上った。

それまではよかった。しかし寝かせた人形の上に花瓶が倒れた。

気づかなかったのか分からないが、倒れた花瓶は人形のお腹に乗っかっていたようだ。

そのまま学校へ向かってしまった。

そして事は起きる。

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昼休みになり校庭へ出ようと僕とタケルは階段を降りていた。

上履きのかかとを踏んでいたせいか、階段を僕は踏み外した。

普通なら2、3段滑るくらいで済みそうな感じだったが、横から倒れこむ。そこで終わればまだよかった。

そこから僕は不自然に転げ落ちていった。

ただ、タケルには見えていた。

倒れている僕のお腹を白髪のおじいちゃんが蹴り、小さな男の子が足を引っ張っていた。

あまりの光景に何もできなかったと。

その話を聞いて落ち着いていられるわけもなく、取り乱していた。

すると広い部屋の入り口側から声がした。

さっきのスキンヘッドの男だった。

「いいですか、供養はしました。しかしあなた達を追いかけてしまい、元の場所に帰る事も成仏もしません。今もあなた達を探しているでしょう。ここにはこれませんが、この四隅の紐からでれば見つかってしまう。現にもう屋敷の前にいるようです。」

じゃあどうすりゃいいんだ!言葉にならない。

男は続ける。

「しばらくここにいて、様子をみます。今夜はその中で2人とも過ごしてもらいます。」

絶望だよ。。

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タケルがまた話し始めた。

「でもさ、本当にびびったよ。病室にいった時、勝也の横にあの男の子がいるんだもん。まさかと思ったけど、あの坊さんいなかったらやばかったな。」

なるほど、母ちゃんも見えてたのか。

僕は切り出した。

「白髪のじぃさんは?」

「いなかった、と思う。」

「僕は病院で追いかけられて、病室の横のベッドにいて、とても怖かった。」

「勝也が追いかけられたあとさ、俺の所にもきたんだよ。孫を知らないかって。知らないって答えたらさ、嘘をつくなっ!返せっ!て。」

「ま、マジで?」

「本気でやばいと思ったからさ、担任に話をした。そしたらさ、あの土手かって言って勝也の母ちゃんに連絡したみたいなんだ。」

いろんな事を受け入れ始め、思い出したことがあった。

土手の上から見えた物、タケルがくる前に拾っていた物。

多分、制服のポケットにある。

あれが原因だろ…

だけど本当に大丈夫なのか、ここは。

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時間も分からない、タケルは寝ているようだ。

拾った物を思い出してみる。

・・・あっ、500円玉だ。

タケルを起こす。

「タケル、思い出した!500円玉だよ!僕が拾ったのは!」

タケルは寝ているように見えたが、答えた。

「そんなんでこんなになるか?500円返したら許してくれるのか?」

おもむろにタケルは財布を開き500円玉を紐の外に向かって投げた。

入り口とは反対の小さな小窓のある方へ。

なぜ投げたのか分からない。

「おい、何やってるんだよ?」

500円玉を拾いに紐の外に出ようしたらタケルが叫んだ。

「出るな!」

腕を引っ張られ中央に座り込む形で戻された。

「窓の外にいるよ。」

タケルがつぶやく。

僕には何も見えない。

「男の子だ。勝也を探してるんだろ。窓から覗いてるよ。」

「嘘だろ…タケルは見えるのか、どうして僕は見えないんだ?」

見えない恐怖。生きてる心地がしない。

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お互いに言葉を発することもなくなる。

早く朝にならないのか、なぜ誰もこの部屋にこないのか?

タケルはすべてを知っているようだった。

「なぁ、タケル、どうして誰もこの部屋にきてくれないんだ?」

「坊さん曰く、一緒にいた俺の所にもくるぐらいだから、念には念をってことらしいぜ。男の子もいなくなったし、寝るしなかないだろ。寝る。」

考えても分からないし、僕も寝るか。

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寝れてる気はしなかったけど、ドアの開く音が聞こえビクッと起きた。

タケルもその音で起き上がった。

「お二人とも大丈夫ですね?では行きましょう。」

出て平気なのか、不安だったけどお坊さんいるし大丈夫と言い聞かせあとに続いた。

部屋をでると母ちゃんと親父もいた。

タケルの母ちゃんもいて、目を潤ませていた。

みんな黙ったまま頷き、二台の車で移動を始めた。

僕は坊さんと同じ車だったので、思い出した500円玉の話をした。

意外な答えが帰ってきた。

「これですね?お母さんに持ってきてもらいました。これからお返しに参りましょう。」

全部分かっている、そんな感じだった。

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例の土手に着いた。

坊さんと僕、タケルの三人で土手の下へ降りた。

人形と花、花瓶は新しくなり線香もたかれていた。

坊さんに500円玉を渡され、人形の前に置くように言われた。

そっと500円玉を置き両手を合わせた。

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それから歩いて行ける程の距離にある一軒家に向かった。

昔ながらの平屋でボロボロの家だった。

親父が声をかけると、中から80歳は過ぎているだろう、お婆さんがでてきた。

お婆さんはニコニコしながら会釈をし、中に入れてくれた。

家のなかは物が少なく、お婆さん一人なんだろうというのがすぐに分かる。

きしむ床を歩き、奥の和室に入ると血の気がひいた。

あのおじいちゃんが仏壇の中で小さな男の子を抱きあげ、楽しそうに笑っている。

タケルもびっくりした顔をしている。

これからどうしてこうなったのか、話を聞くことになる。

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お婆さんはお茶をいれてくれ、静かに話を始めた。

話は5年前から始まる。

お婆さんには娘がいた。一人っ子で甘えん坊だったが、親思いのいい娘だった。

なかなか結婚せずにいたが、お腹に子供を宿しようやく結婚した。お婆さんとおじいさんはとても喜んだ。

子供が産まれ1年たった頃、娘と旦那は子供をお婆さんとおじいさんに預け、買い物にでかけた。

だけどいつになっても帰ってこない。

心配して待ち続けると警察から電話があった。

交通事故に巻き込まれ即死だったと。

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それから孫との三人暮らしが始まった。

おじいさんはとにかく可愛がり、少しでもいい生活をさせてやる為に、仕事までしていた。

ある日のことだった。お婆さんは夕飯を作っており、おじいさんは疲れていた為うたた寝をしていた。

孫が疲れているおじいさんの為に、テーブルにあった500円玉を握りしめおじいさんの好きなタバコを買いに一人で外へ行ってしまった。

小さな男の子の精一杯の思いやりだったのだろう。

男の子は土手を歩き、おじいさんと散歩する時に必ず買うタバコの自販機に向かっていた。

歩いている時に何かの拍子に足を滑らせ土手から転げ落ちてしまった。

打ち所が悪く、男の子は両親の元へ旅立ってしまった。

孫がいないことに気がついたおじいさんが土手の下に倒れている男の子を見つけた。

男の子の手には500円玉が握りしめられていた。

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それから間も無くしておじいさんも旅立った。

最後は孫が倒れていた土手の下で。

500円玉を握りしめながら…

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「かえせ…」

Concrete
コメント怖い
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切ないですね。

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読んでいるうちに、頭の中に情景が浮かんでくる様な臨場感があります。中々、レベルが高い!

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おもしろかったです^^

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