中編3
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石鹸

中国に出張中、現地の日本人から聞いた話です。

ある日、李さんがお風呂場で身体を洗っている時の事。

真っ白な石鹸が薄汚れて黒ずんでいた。

床に落した時にゴミでも付いたのかと思い、擦ってみたが汚れは取れない。

おかしいなと思い、擦り続けてみると、表面が汚れているのでは無く、石鹸の中に何かが入っていた。

擦っても擦ってもなかなか汚れの正体が明らかにならないので、浴槽の角に思いっきり石鹸を叩き付けた。

「これって…」

真っ二つに割れた石鹸の間から出てきたのは、人間の指。

どの指かは分からなかったが、爪の無い第二関節から先の指だった。

李さんは驚いたが、冷静だった。

機械トラブルで切断された指が食品等の売り物に混入する事はよくニュースで聞いていた。

李さんは真っ先に警察に電話…は、しなかった。

直接、製造元に連絡した方が、口止め料を多くせしめる事が出来ると考えたからだ。

ゴミ袋の中から石鹸の入っていた箱を拾い出し、製造元を確認し、電話をかける。

案の定、担当者が直接謝罪に伺うので、おおやけに公表しないで欲しいと口止めをされた。

知り合いにこの話をしたところ「5万元は貰えそうだな」と言われ、李さんは笑いが止まらなかった。

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担当者との待ち合わせ当日。

『ピンポーン。ピンポーン。』

予定よりも15分早く、担当者が到着した。

名刺を渡され、散々謝罪を聞いた後に石鹸と指の入ったビニール袋を手渡した。

担当者はビニール袋を受け取るなり、乱暴にビニール袋を引きちぎり、中から指を取り出した。

「あぁ…やっと見つけた。」

担当者は嬉しそうな表情を浮かべ、指を眺めている。

いつまで経ってもお金が出てくる気配が無く、李さんはあからさまに不機嫌な態度を取った。

「分かってますよね?」

両手を擦る仕草を見せ、現金を待ちわびた。

「すみません。そうでしたね。」

そういって担当者はバッグから木箱を取り出した。

李さんは木箱の中身を確認した。

「こんなに?!」

中には10万元入っていた。

知り合いからは5万元と言われていたが、せいぜい1万元くらいだろうと思っていた為、予想をはるかに超える金額に驚き、歓喜した。

担当者は無言で立ち上がると、玄関から出て行った。

目の前の大金に気を取られていた李さんはしばし呆然としていた。

すると。

「ピンポーン。ピンポーン。」

再びチャイムが鳴った。

先程の担当者が何か忘れ物でもしたのかと思いドアを開けた。

目の前に立っていたのは先程の担当者では無かった。

しかし、話を聞くと、どうやら目の前にいるのが本物の担当者(張さん)だった。

先程まで家に来ていた担当者の話をし、受け取った名刺を見せると、張さんの顔色が真っ青になった。

明らかに同様した様子で、携帯電話を取り出すと玄関から出て行った。

数分後。

「後程、改めて上の者と伺いますので、本日は失礼致します。」

そう言って張さんは帰って行った。

状況が把握出来ない李さんだったが、頭の中には木箱の大金しか思い浮かばなかった。

再び、木箱に手をかけ、蓋を開ける。

「…え?!」

木箱の中には、大金は入っていなかった。

びっしりと真っ黒く長い髪の毛が大量に詰め込まれていた。

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後日。

いつまで経っても謝罪しに来ない事に激怒した李さんは警察に届け出た。

証拠品の鑑識結果で、木箱の髪の毛と石鹸に付着していた指のDNAが一致した。

石鹸の製造元を調査したところ、工場内でリンチ殺人があり、製造元はそれを隠匿する為、被害者を工場内の機械で細切れにした後、焼却したらしい。

どうのようにして指が石鹸に混入したのかは分かっていないそうだ。

そして、李さんが受け取った名刺に書かれていた人物こそが、その被害者だった。

李さんに被害者の写真を見せたところ、間違いなくこの人だったと証言した。

被害者は唯一焼かれずに残った指を探しに来ただろうか。

未だに、指は見つかっていない。

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