長編11
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お札

これは、自分の田舎に帰省した時の話です。

帰省といっても、実家はなく、お墓参りに行くのが目的でした。

お墓参りには何年も行けておらず、久しぶりのお参りでした。

田舎の実家はずいぶん前に、引き払ってしまっていたので、帰省のときはいつも決まった旅館に泊まっていました。

この時は久しぶりだったので、早めに予約をし、2泊3日の予定。

予約の電話をした時に、本館の工事をしているので、別館での宿泊となりますと言われたがさして気にもしませんでした。

部屋は、兄と自分で一部屋、母と妹で一部屋という感じで二部屋に別けてもらいました。

片道6時間ほどの道のりをこの先に起こることなどまったく想像できずに、楽しく向かっていました。

朝の5時に出発し、ゆっくりと向い、到着はお昼前。

旅館のチェックインは15時だったので、先にお墓参りをすることに。

しばらく来れなかったお墓をきれいにし、お花とお菓子を御供えして、来れなかったことを心の中でお詫びしました。

お墓参りをおえて、旅館へと出発です。

少し早く着いてしまったので、工事中の本館の周りを散歩して、別館を探しました。

しかし、場所は分からず車を停めた位置からだいぶ離れてしまったので戻ることに。

チェックインできる時間になったので、旅館の本館へと。

チェックインを済まし、別館へと案内されました。

工事中の本館の中を通り、中庭に渡してある

一人幅の橋を渡り別館へ。

どうりで外からは分からないわけだなどと思いながら部屋へ入りました。

自分と兄の部屋は一番奥の部屋でした。

その隣が母と妹の部屋です。

他の部屋にお客さんがいる様子はありません。

別館の窓からは先ほどの中庭とは違う竹やぶが広がる景色です。

別館自体が竹やぶに沿って一直線に建っている感じです。

自分たちは、夕食まで部屋で休むことにしました。

部屋の中は10畳ほどの和室とトイレ、洗面台という感じです。

お風呂は本館のお風呂を利用してくださいとのことでした。

兄「なんでだろうな?」

自分「何が?」

兄「だってよ、この部屋の先は風呂場だよ。」

自分「なんで分かるの?」

兄「突き当たりのドアあったろ?男湯って札がドアノブにかかってたよ。」

自分「本当に?気がつかなかったな。開けてみよっか?」

兄「あとで見てみるか。本館まで行くの面倒だしな。」

などと、会話をしていました。

自分は運転の疲れもあり、眠ってしまい夕食が運ばれてきた時に目を覚ましました。

兄「おーい。起きろ。飯食うぞ。」

自分「うん。」

兄「まぁ、ゆっくり飲もうぜ。」

自分「いいね。あれ?夕食は本館の食堂じゃないの?」

兄「食堂は使えないんだって。こっちの方がいいじゃん。」

自分「まぁ、ゆっくりできるね。」

兄「そうそう、風呂のこと聞いたらさ、開けないでくださいってよ。鍵がかかってるから開かないですが、開けないでくださいって。

まるで何かありますって感じだよな。」

自分「何かやだねー。やっぱり風呂は本館だね。」

食事を終え、兄と風呂に向かいました。

お風呂場は相変わらずな感じです。

とても風情というか、歴史があるというか、

とにかく古いです。

だいぶ長湯をしてしまったので缶ビールを購入して兄と散歩に行くことに。

本館は所々入れないようになっていて、フロントとお風呂だけ機能してる感じです。

中庭にはだれでも出れるようにサンダルが用意されていたので、中庭に出て缶ビール片手に一服。

あることに気がつきました。

自分「ねぇ、兄ちゃん、誰も泊まってなくない?風呂も貸切状態だし、旅館の人以外にあってないよね?」

兄「確かに。でもこの時期だからな。旅館自体も改装中だしな。気にしすぎじゃないか。」

自分「そうだね。」

あまりの静けさにいたたまれなく、部屋に戻ることにしました。

母と妹の部屋に寝るよと伝え、眠ることにしました。

時間は夜の11時。

昼寝をしてしまい、なかなか寝付けなかったので、テレビを観ながら横になりました。

ぼーっとしながらテレビを観ていましたが、

外から人の鼻歌?のような声らしき音が聞こえます。

何だ?と思いましたが、兄は眠りについていたので、気にせずにテレビを観ていました。

しかし、声は大きくなってきました。

酔っ払いの客だな、どこの部屋だなんて頭の中で考えながら、テレビをぼーっと観ていました。

すると、コンコン とノックの音が聞こえました。

あれ?この部屋かな?どこをノックしているか分かりません。

ゆっくり起き上がり、部屋のドアを開けました。

しかし、誰もいません。

念のため隣の母たちの部屋に声をかけましたが、ノックはしていないとの返答。

気のせいだなと自分で解決して、部屋に戻りました。

再び横になり、またテレビを観ていると、

コンコン とノックの音。

今度はテレビを消して、音の出処を確認しようとしました。

コンコン 確かに聞こえます。

コンコン

カーテンの閉まった、竹やぶ側の窓を誰かがノックしています。

こんな時間に?いくら酔っ払いでもおかしいよな?どうしよう…

コンコン コンコン

ノックは続きます。

意を決してカーテンを開けようと立ち上がりました。

「やめろ!」 小さな声が聞こえました。

振り向くと兄が自分の手を掴み、頷きながら、自分を戻しました。

兄「気にせずに寝ろ。何があっても反応するな。」

自分は頷き、布団をかぶります。

ここからが、悪夢の始まりでした。

頭の中で現状を整理しました。

竹やぶの向こうは山になっていたから、普通人はいない。

隣の部屋は母と妹、こんな時間にいたずらする訳がない。

別館は道路に面していないから、通行人が入ることはできない。

ノックされる道理が見つからない…

訳の分からない状態でしたが、ノックはずっと続きます。

コンコン コンコン コンコン

兄は微動だにせず、目をつぶっています。

心臓が破裂しそうなぐらいでしたが、兄と一緒にいることが唯一の救いでした。

ノックはずっと続きます。

コンコン コンコン コンコン…

しばらくすると、窓を開けようとしているのが分かりました。

ガタッ…ガタッ…ガタッ…

ほっとしました。鍵がかかっていたのを開かないことで確認した感じです。

ガタッ…ガタッ…ガタッ…

どれくらいたったでしょうか。

また鼻歌が聞こえてきました。

しかし、何を言っているのか分かりません。

メロディーも聞いたことのない感じです。

何なんだ一体…頭は混乱し、どんどんと兄の方に寄って行きました。

どうやら得体の分からない奴は、窓に口をつけて唄っています。

「あしゅ、あしゅ…かぁしぇ…あしゅ」

時折、ガタガタッと窓を開けようともします。

しばらくすると、静かになりました。

終わったのか…と思い、体の力が抜けた瞬間鉄の扉を開ける音が聞こえました。

ギィーッ…ガチャン…

例の扉と直ぐに分かりました。

そして、ドアの鍵!っと思った瞬間に、この部屋のドアノブを回す音がします。

ガチャン…ガチャン…

開かないようです。

よかった…鍵しめてた…

安堵もつかの間です。

コンコン… コンコン…

今度はノックです。

コンコン… コンコン…

「ひるぅんでぅしょ」

とても低い男の声です。

コンコン… コンコン…

「はけぇて・・・」

ドンッ!ドンッ‼

ドンッ‼ドンッ‼

「はけろっ、はけ、はけろっ‼」

「あしゅっ‼あしゅっ‼」

とても恐ろしく布団をかぶり震えることしかできません。

ただ、耐え続けていると、鉄の扉を開ける音が聞こえました。

外にまた戻ったようです。

窓の前をウロウロしている気配があり、

相変わらず、鼻歌を唄っています。

自分は知らない内に眠っていました。

朝になり兄に起こされました。

兄「やばかったな…まじで…」

自分「あれは現実だったんだよね…」

兄「ちょっと、カーテン開けてみ。」

自分「まじ?怖いな…」

恐る恐るカーテンを開けました。

景色は竹やぶです。

昨日と変わりありません。

母と妹に昨夜の話をすると妹は「全然わからなかったよ。本当の話?」

などと言います。

母は俗に言う見える人なのですが、気がつかなかったと言っています。

朝食を済ませ、もう一泊の予定なので、旅館の人に言うことにしました。

兄とフロントに向かいました。

兄が旅館の人に話を始めると、従業員はなんとか取り繕うものの、顔が青ざめていきます。

部屋を移らせてもらうことになり、自分たちはとりあえず了承しました。

話しが終わった直後に従業員は走って別館に向かいました。

兄からのアイコンタクトで自分たちも従業員を追いかけます。

部屋の前に着くと、従業員は座り込みブツブツ何かを言っています。

「住職、住職呼ばんと…」

大丈夫ですか?と尋ねましたが、従業員には聞こえないようで走って本館に戻っていました。

自分「なんだ?」

心の言葉がでていました。

兄「男湯の札が…割れて落ちてるよ。あれが原因だろ…」

自分「…と、とにかく荷物をまとめよ…」

違う従業員が別の部屋に移ってくださいと部屋にきました。

先に部屋を案内してもらいました。

1階は使用できる部屋がないということで、母たちも一緒に2階の部屋に移ることになりました。

場所は1階の母たちの真上の部屋に。

2階はとても広い部屋だったので、4人とも同じ部屋になりました。

自分「2階だけど、下が見えるよね。大丈夫かな…」

兄「まぁ、大丈夫だろ。上にはこれない。」

兄の言葉にハッとしました。

昨夜のこと、今の発言…何かを知っていると思いました。

しかし、今聞くのは無理な気がしたので、そのまま頷きました。

母たちは荷物をすでにまとめており、手伝いに来てくれました。

母は部屋に入るなり言いました。

母「ここはまずい感じがするね。」

全員が母を見ましたが、誰も言葉を発しませんでした。

その日は予定を変更し、お墓参りに再度行くことにしました。

母曰く、お墓に行けば分かるかもと。

お墓に着き、しばらく母は手を合わせていました。

しかし、何も分からなかった、ここから連れてきた訳じゃないと言いました。

旅館に戻り、本館から別館に渡り、階段の手前までくると、お経が聞こえてきました。

覗いてみると例の鉄の扉の前でお坊さんがお経をあげています。

新しい札がかかっていました。

文字までは確認できませんでしたが、二文字ということは分かりました。

何かをあの扉の向こうに閉じ込めているのか、入ってこないようにしているのか、ただ尋常ではないことは確かです。

深夜に目が覚めました。

なぜか分かりませんが、竹やぶ側のカーテンを開け、下の方をみてしまいます。

後ろに気配を感じました。

すると兄も起き上がり、気になるよなと…

真っ暗な竹やぶをジッと2人でみていました。

しばらくすると目が慣れてきて、なんとなく下が見えるようになってきます。

兄「風呂、やっぱりあるな。」

1階からは見えませんでしたが、簡易的な露天風呂のような場所が、壊れた屋根の間から確認できました。

どうやらあの鉄の扉から露天風呂に行けるようです。

自分「あそこに何かいるのかな。」

兄「だろうな…あれが…でてくるのか…」

自分「なに?あれって?」

自分が言葉を発した直後に、聞いていたのか母が起きてきました。

母「見ない方がいいよ。もうでるよ。」

…沈黙が流れます…

「あしゅ、あしゅ…かぁしぇ、あしゅ…」

また…聞こえてきました。

自分には見えません。

しかし、兄は「なんだ…ありゃ…」

顔が青ざめていきます。

母「こっち見たら、やっかいだからやめなさい。」

そういうと、母は布団に戻りました。

自分には声しか聞こえません。

兄「お前、見えないのか?」

自分「うん…声は聞こえる。怖い…」

兄「見えない方がいいな。やばいよ。」

兄は震えています。

自分も逃げたいのですが、なぜか動けません。

兄「明日、見てみるか。何かあるな。」

兄の言葉でようやく体が動くようになりました。

翌朝、兄と例の扉の前に行きました。

札をみると 男湯 ではなく、読めない感じで

男みたいな字と、湯というより、渚という漢字に近い文字でした。

鍵がかかっており、開けることができません。

どうするか考えていると、昨日の住職がこちらに向かって歩いてきます。

自分たちに気がつき、話しかけてきました。

住職「あんたたち、見たのか?」

兄「はい…」

住職「何を見た?」

兄「片足がない感じで、顔が縦に割れてる感じで…」

住職「もうよい。」

兄の言葉を遮ります。

住職「来なさい。」

住職は鉄の扉を開け、外にでます。

兄も躊躇なく外へ出たので、自分も続きます。

扉の外は2階から見た通り、露天風呂になっていました。

大きな浴槽が2つあり、シャワーなども2カ所に分かれています。

仕切りはないのですが、あきらかに別々にする予定だったと思われます。

屋根は壊れ、もう何年も使用されていない感じです。

それどころか、使用されていたのか?浴槽の石はお湯の入っていた跡などありません。

兄「ここは…」

住職「まだ、6ヶ月前の話だ。」

住職が話を始めようとすると、旅館の従業員がやってきました。

従業員「住職!その話しは!」

住職「この人らは見てしまった。話さねば、たちまち広がる。」

従業員は下を向き、何かを考えてる様子です。

従業員「分かりました。私から話します。」

従業員は兄と自分の顔を交互に見ました。

そして話を始めました。

「6ヶ月前の話です。本館もだいぶ古くなってきたので、改装をすることになりました。

とくにお風呂はだいぶくたびれたので、全面的にやろうと。 そこで別館のこの場所に露天風呂を作り、完成してから本館のお風呂場の改装をすることになりました。

この大きさなのであの浴槽と浴槽の間に大きな仕切の壁がありました。

もちろん、どちらも外から見えないように高い壁を作りました。

完成間近になり、最後の仕上げの工事の時です。

仕切の壁が倒れてしまい、作業していた方が急いで逃げ出し、外の壁にぶつかりました。

固定作業をしている最中で外の壁は簡単に倒れてしまい、外側で作業をしていた方の上に倒れました。

その作業をしていた方は…亡くなり、このお風呂は閉鎖をしています。」

住職「そのものが、でてきてしまう。足を探しにな…顔は縦に割れてしまい、足はあの部屋の窓ガラスを割り、転がってしまった。

だから足を探してる…」

ようやく分かりました。

あの鼻唄は、足を返せと…だからあの部屋に入ろうとしていた…

そして兄が2階には来れないと言った意味。

すべてがつながりました。

恐怖の2日間は終わりを告げ、帰りは少し複雑な気持ちでした。

あの部屋は本来、お札が窓の下に置かれており、扉のお札と合わせて効果を発揮していたようです。

原因が分からないそうですが、1枚なくなり、残った1枚では耐えきれなかったということでしょうか?

お札には色々あるようですので、分からない物は触れない方がいいみたいですね。

長文、失礼致しました。

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