中編5
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落語 吉原炎上

落語風にお送りします。

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江戸の町には、嘗(かつ)て吉原という、皆さんもご存知の…遊郭がございました。

店にも、序列、位(くらい)がございまして…

まず、茶屋を通さなければ、座敷に上がることすら出来ない、格式のある、総籬(そうまがき:大店)

一つ位を落としますってえと、コレを、半籬(はんまがき:中店)なんてぇのもございますが…

まぁ…落語でよく噺(はなし)になるのは、路地裏にある小店…チョンチョン格子なんて呼ばれて、例えるなら牢みたいな感じで、格子が店の周りに張り巡らせてあるわけですな。

…その中で女郎さん達が何人か座って、客を引く…

其処で…殿方が、今夜のお供を探し、選ぶわけでございますが、中には、座敷なんかにも上がらず、只々、フラフラ…と冷やかしなんかで来る輩もおったそうで…

……………

その『冷やかし』には、少し不気味な者もおったそうで、遊女の間でも、気味悪がって、表に出ることを嫌がる者もおったそうです。

「嫌だよぅ…また来てるよ、あの気味の悪い男…何しに来てるのかねぇ…まったく。」

……………

この男、ほぼ毎日この店の前にやってまいりまして、女郎達をジイッ…と眺めている。

特に声をかけてくるわけもなし、勿論、座敷に上がるわけもない…

笠を被っているから表情もうかがい知ることは出来なく、いくら提灯なんかで明るくしてあったってんでも、やはり夜でございますから暗い…顔も見えないわけです。

こういった『冷やかし』なんかは、『客引き』なんかが追い払うが…何故か、その男だけは見えてないみたいに何時も放ったらかしで…

女郎達も不思議に思って、客引きをしている佐吉さんに聞いて見た…

「佐吉っちゃん!あんた、何だってあの気味の悪い男だけ追い払わないんだい?!あたいら気味が悪くってかなわないよ!」

「へ?何のことですかい?」

「何のことですかじゃないだろ?あんただって、知ってるだろ?毎日来てる、あの笠を被った男だよう!」

「さあ?知りませんなぁ…その人…毎日来るんですかい?」

「嫌だねぇ!どこ目ぇつけていてるんだいお前さん…?毎日だよぅ…不気味で煙管(きせる)も不味くなるってなもんだ!今度、来た時にゃぁ、ちゃんと追い払っておくれよ!」

「へえ。分かりました…」

と、返事をし、その日、その笠を被った男ってぇのが来るのを一日、見張ったが、そんな男は来なかった。

…が、

「佐吉っちゃん!!なにやってんだい!?今日も来ていたよ!?どうにかしてくれって言ったじゃないか!!」

「え?来たんですかい??」

「え?来てたんですかい?じゃないだろ?!来てたじゃないか!?お前さん直ぐ横で客引きしてただろ?!その目は何だい?ガラス玉でも入れてんのかい?まったく…今度は、ちゃんと追い払っておくれよ!!」

「へっ…へえ。」

とは言ったものの…

佐吉さんも困った…

そんな気味の悪い『冷やかし』なんか見たこともない…

追い払おうにも、見たことがないってんじゃ、追い払えないってなもんだ…

仕方ないと、女将さんに相談する…

「ふぅん…で?花魁(おいらん)達が困ってるって、お前に話したんだね?」

「へえ。」

「へえ。じゃないだろ?…だったら、追い払えばいいじゃないか。」

「いえ、ですからね…あっしゃ、その冷やかしの顔を知らないもんすか…」

「馬鹿だねぇお前は本っ当に…あのねぇ!…だったら、花魁達にその男が来たら知らせてくれって、そう言やいいだろ?違うかい?」

「ああ…なるほど…」

「お前、そのでっかい頭、何が入ってんだい?まさか八丁味噌でも、仕込んであるんじゃないだろうねぇ?」

「いやぁ…へへへ…」

ってぇことで…佐吉さんは、花魁達にその男が来たら知らせる様にと言って、子分の三太と裏手でもって、張り込む事にしたわけです。

「佐吉っちゃん!来たよ!ほら、あいつだよ…」

「どれ?何処?あっしにゃ見えませんが…」

どうやら佐吉にゃ分からない…

するってぇと三太が…

「兄貴!…ごほっ!…あっし…分かったんで行ってきやしょうか?ごほっ!ごほっ!」

「おぅ!よし!蹴散らして来い!って…お前風邪でも引いてんのか?」

「いんえ…大丈夫っす!行って来ます!

ってな形で、佐吉の代わりに三太が冷やかしを追い払う事になった…

「こりゃあ!!ごほっ!…おどりゃあ!!ごほっ…冷やかしなら他行ってやりやがれってんだ馬鹿め!って?………うわぁあぁ!!!!ば、ば、ば、化け物ぉおお!!」

様子がおかしい…

なんだだなんだと、人が集まる…

佐吉も気になり、外に出て

人をかき分け三太の元へ行くってぇと…

「なんてこった…」三太の変わり果てた姿…

亡くなっておったたんですな…

こりゃ大変だと周りを見渡し笠を被った男を探した…が、そんな男はいない…

人が集まりすぎちまってっからか、何処ぞに逃げちまったか分からない…

そこへ、騒ぎを聞きつけた女将さんが出てきて…

「佐吉?何事だい?」

「女将さん…さっ…三太が誰ぞに殺されちまったぁぁ…」

「泣くんじゃないよ!誰に殺られたってんだい?」

「笠の男だよう…」

「何処にいるんだい?まさか、逃がしたのかい?なにやってんだよぅ!しようがない奴だねぇ!」

「だって…」

「だってもヘチマも無いだろ?三太は?」

と、三太の死骸の元に行くってぇと、女将さんの顔色が変わる…

「な…なんてこった…こりゃあ…しっ死神だね…」

「へ?死神?」

「ちくしょう…何だってウチなんだい……

佐吉、多分だけどね…ウチの女郎達の中に労咳持ちがいるよ…」

「なっ!!?」

「見てご覧よ、三太を…血ぃ吐き出して死んでるだろ?これが証拠さ…お前に死神が見えなかったのは、お前に、まだ労咳がうつってなかったからだよ…」

「そんな…でも、あっしゃ、喜んでいいんですかい?それ…」

「さあね…」

そんな話しを聞いていた、周りの野次馬は驚いてワァ!!っと、逃げて行く…そりゃそうだ、労咳っていや、その頃ぁ…死の病、女郎達も何事だと、煙管を投げ捨て後に続く…

煙管の火種が畳に移り、火が瞬く間に燃え広がって…

吉原は一夜にして灰になった…と言う説。

野次馬に幕府の高官がいて、焼き払う様に部下に指示したと言う説。

どちらも取るに足らないと言う説。

と諸説ございますが…

まぁ兎に角…この吉原に居た殆どの者には、この死神の姿が見えておったんでしょうなあ…

というところで…吉原炎上これまで。

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にゃお様、この褒め上手!ありがとうござんす。次回作も是非!

こんにちは。
今回のお話は、一風変わっていて良いですね。
落語風に、江戸吉原のお話。
一味違う怖さと、流れる様な言葉運びに想像力が掻き立てられます。
次の投稿も楽しみにしてますね(*^_^*)

ファントムルージュ様、べらんめえ調が難しい…だって私…江戸っ子じゃないもん!
エセ江戸言葉でございましたが、お褒めの言葉ありがとうございます!

江戸言葉が、心地良いです。犬神さんの落語、次回も楽しみです。

山田太郎様、そうですか?よかった…。雰囲気が一番苦労したところなんです。

雰囲気があってよかったです。今後も楽しみ。

匿名様、以前化身でコメントいただいた方ですか?匿名だったので…
コメントありがとうございます。