中編5
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覗く目

道産子です。

社会人として初めての会社はプレハブの工場でした。そこであった少し怖い話をしましょう。

子供の頃体験した人形の一件から、何度か怖い体験をしたのですが、その後ぐらいから何故か交通事故現場や自殺現場など人の負の思いが強い場所に近づくだけで、気分が悪くなるのです。

そのおかげで本当に近づいてはいけない場所が解るので今まで何事もなく、とはいきませんが、なんとか過ごしてきました。

それでも関わりを避けられない事があります。

専門学校生だった私は、何社目かの企業でやっと内定をもらったのですが面接時からその場所は気分が悪くなり嫌な感じがしたので悩みました。

でも就職難のこの時代、内定を蹴る事など出来ず、周囲の進めもあって就職を決める事になりました。

その会社は、大きな2階建のプレハブが6 軒連なった建物で、端久の2軒は事務所になっており、あとの4軒は工場で私は端の事務所で勤務する事になりました。

事務所といっても私の業務内容がその会社でも特殊で2席設けられた小部屋の中のPCでデザインや図面を作成するというものです。

小部屋の中、PCの背面上部に小窓があり、その小窓から工場内部が見える構造です。

その小窓は工場の人に図面の受け渡しや指示をするためにあります。

入社してしばらくはそんなに残業もなく、残業したとしても工場の人も一緒で、

仮に工場の人が先に帰ったとしても、いつもその小部屋には常時2人体勢で勤務しているので、会社に一人という状況はありませんでした。

面接時から気になっていた嫌な感じはずっとあるものの、特にこれといって怖い思いをする事なかったんですが…

入社して半年、4棟目(D棟)の工場に用事があり行く事になった時の事です。

たびたび足を運ぶ所なのですがD棟に行くには3棟目(C棟)を通る近道か、反対側の事務所から行く遠回りのルートの2通りあります。

C棟の工場は主に製作された物を塗装する場所で、換気の為いつも大型の強制換気が回っています。それでもシンナーの香りが強烈な場所だと先輩に聞かされていたので、私はいつも遠回りのルートでD棟に行っていました。でもその日は塗装の作業が行われてないと聞いたので、個人的にC棟を見たいと思うこともあり、近道で行く事にしました。

C棟のドアを開け中に入ると、塗装をした商品が日焼けするのを防ぐ為なのか、窓が少なく、作業日ではないので電気が点いてない状態だった事もあると思うのですが、なぜか不気味に見えました。

工場の中央付近に住器を2階に上げるための大型の昇降機がある事に気が付きました。

これと同じものがD棟にもあるので見慣れていたのですが、一階に降りてある状態しか見たことがなく、それは一階の天井より40センチ程下がった状態で止まっていました。

昇降機が上にあり中途半端な状態で停止している事を不思議に思い、上に誰かいるのかな?と思った直後でした、シンナーの臭いとものすごい頭痛と吐き気に襲われ、一瞬目を離し、また昇降機を見上げると、塗装用のマスクとゴーグルを身に着けた作業着姿の男が昇降機と一階の天井の40センチ程の隙間から、しゃがみ込み首を昇降機から外側へ身を乗り出す様な形で私を見ていました。その異様な光景にその男から目が離せなくなり、何秒たったかわかりませんが突然昇降機が上に上がり始めたのです、その男の首は天井と昇降機に挟まれ、なんとも表現しにくい音をたて、最後は「ギュチャ」と鈍い音と共に首だけが床に落ちてきたのです。

そこからは記憶がありません。気が付くと事務所のソファーで救急車待ちでした。

1時間たっても戻ってこない私を心配した先輩がC棟の昇降機の上で発見したとの事でした。昇降機は1階に下りていたそうです。

その一件から一層イヤな感じが深まり会社に来るといつも何処からか見られているような気がして最悪でした。

それからしばらくしたある日、初めて一人で会社に残り残業しなければいけなくなり、怖いのでイヤホンを付けてPCの前で音楽を聴きながら仕事をしていました。

22時頃、あと少しなのになかなか作業が思うようにいかず、手間取っていると何処からかシンナーの臭いがツーンと鼻の中を刺激してきました。

あの時のシンナーの臭いだと思い、頭の中が恐怖でいっぱいになり、残っている仕事を投げ出しデータの保存だけをして、電源も付けたまま帰ろうとPCに向き直ったその時、PC背面の小窓から照らされる工場の内部が目につきました。その見える範囲に白い人影が立っていたのです。

その人影はゆらゆらと近づいて来ました。だんだんと輪郭がハッキリしてきてゴーグルとマスクを付けた男がはっきりと見えたと思った瞬間、小窓までものすごい速さで寄ってきたのです。口をパクパクさせながら。

一気に全身鳥肌がたち、これ以上ここに居るとまずいと思い、小窓から眼を離さずに席を立ったと同時に後ろの入口のドアが勢いよくバン!!!!と開いた。入口に目をやると誰も居ないが気配がする。回り込んだのか?と小窓に目をやると、そこにはまだあの男が、ガラスに顔をへばりつかせながら「じゃまするなじゃまするなじゃまするな」と言っていた。

入口にも行けなくなり恐怖でその場で足が崩れてしまい、意識が飛びかけた時、頭の中で「カワレ、カワレ」と、子供の時に聞いた人形の声が聞こえたのです。その時はっきりとわかりました。変わったら助かるのだという事が。

そう思った瞬間からまた記憶がありません。

ただ今になって記憶が飛んだ後の夢をみるのです。たぶんあの人形なのでしょう、紫色の着物を着た少女の後ろ姿の夢、へたり込んでいる私と小窓にへばりついている男の間に立つような形で、明らかに私を守っていると分かる夢をみます。入口を開けたのも彼女なのでしょう、ここから逃げろという勝手な解釈ですが。

その後の事なのですが、そのまま気絶したのか目を覚ますと朝でした。小窓のガラスには何かを擦りつけたような跡だけが残っていました。

暫くしてから解った事なのですが、昔C棟でノイローゼ気味の塗装工が昇降機のあたりで首を吊って自殺していたようです。その自殺した男は他人と関わる事が苦手なのか、いつも休憩の時は1階から会話が聞こえてくると2階から覗きこむような形で見ていたようです。

私はその男に目を付けられたようで、会社ではなるべく一人にならないように心掛け、3年後に退職しました。

Concrete
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