短編2
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エレベータ

最近、おれが住んでいるマンションでエレベータの定期検査があった。

4,5日やっていたのだが、おれは隣のコンビニで煙草を吸っていた若い作業員の一人と仲良くなった。

作業が終わる日、その作業員に飲みに誘われた。

そこで、エレベータにまつわる色々な話を聞いた。

エレベータの仕組みは、太いロープみたいなものを巻き取って箱を上下させたり、

油圧で動かしたりするらしい。

そのため、その制御をする機械を設置するスペースが必要になる。

その仕組みによって違うらしいが、だいたいのエレベータは地下にその空間がある。

今回の検査はその地下のスペースに潜っての作業が主で、

地下での作業のときは大抵、箱を最上階に上げておいて行うらしい。

知らない業界の話は興味深く、面白いものだった。

その中で、とりわけ面白い話があった。

それは、ある雑居ビルの検査をしていたときの話だ。

検査と言ってもそれは誰もビルに人がいない夜中に

ちゃちゃっと地下にある制御する機械の検査をする、というものだった。

その日はそいつともう一人、ベテランの作業員が作業に当たっていた。

その日も箱を最上階に固定して、順調に作業していた。

予定の時間より30分も早く作業は進み、2人は箱を最上階に固定したまま地上に上がり、一服することにした。

煙草を吸いながら、今日は早く終わりそうだ、なんて話をしていると、

最上階からエレベータが下がってくる。

もうビルには誰もいないはずだ。

自分達が操作しない限り箱が動くはずはない。

若い作業員が混乱している間に、箱はあっと言う間に1階に到着し、

扉が開いた。

灯りのついていない真っ暗な箱の中。

中に何かがいる。

闇よりもっと黒い、小学生の背丈ほどの人型の影が

縫い付けられたようにたたずんでいる。

作業員が声も出せずにいると、

それはわずかな隙間から地下のスペースに

にゅるりと吸い込まれていった。

若い作業員がはっと我に返り、地下に潜ろうとすると、ベテランに止められた。

「おい、今日はもう上がりだ。帰るぞ。」

帰りの車内でベテランが話してくれた。

「ああいう雑居ビルにはたまにああいうもんがいる。そういう時は作業中止だ。

あれが一体何なのかはわからないが、関わっちゃいけねえもんだ。」

あの影の正体はわからないままらしい。

それでもわかることがある。

あれにはこちらから関わるべきではないこと。

そして、普段なにげなく利用するビルやエレベータにも

あれはいるかもしれない、ということだけだ。

Concrete
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