中編6
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ひっかくもの

これは、私が小学三年生の頃に担任の先生から聞いた話です。

担任の先生はもともとこの地方出身で、とても親近感があり、優しく大好きな先生でした。

なぜ、小学三年生の頃の話を覚えているのか、はっきりは分かりません。

ただ…

その担任の先生が大好きだったって事と、

この話はきっと小学三年生には話すべき内容ではない程、夢を見て、うなされる程に怖かったので、

大人になった今でも内容を鮮明にひとつひとつ覚えています。

その話をここで書かせてください。

………………………………

それは、私の担任だった先生が高校生だった頃

クラスのある女の子(仮にBとします。)がいつの間にか右手の甲に傷ができ、もう二週間ほど経つが全くよくならないとの事。

その手の甲の傷は、気づいた時は数センチだったが、不思議なことに日に日に広がっていったらしい。

その傷はまるで誰かにひっかかれたような傷であり、耐え難い鋭い痛みらしく、痛みがひどいときはいくら包帯を巻いても、血がにじんでくるらしい。

Bは、傷が一向によくならないのと、鋭く耐え難い痛みがどんどん広がり、自分はとんでもなく恐ろしい病気なのではないかと、不安になり、いくつも病院へ行ったが、結局は原因は全くわからないと診断されたそうだ。

原因も分からない、この傷に自分は殺されてしまうんじゃないかと、当たり前だがBは、病んでしまい、情緒不安定になってしまった。

そんなBを心配して友人達は、放課後、どうにかその傷の原因を突き止めようと話し合った。

すると、どこからともなくある一つの考えが浮かんだ。

「このまま何もしなくても原因は絶対わからないんだ…。なら、一度、あの子に見てもらったら?……ほら、寮生の…。」

そこにいたみんなは、顔を見合わせ、立ち上がり、あるクラスへと歩き出した。

そして、あるクラスで立ち止まり、教室にいる生徒に尋ねた。

「C子さんは、いませんか…?」

突然の訪問にその生徒は不思議そうだったが、

「あの席に座ってるのがC子だよ。」

と指をさした。

みんなが指先を見つめる。

その指先の向こうにいたのは、席につき、頭をうなだれ、一人ぶつぶつと何かを呟いてる…その子がC子だ。

「ありがとう。」

と、その生徒に言い、C子の席に恐る恐る近寄る。

近寄るにつれ、C子がぶつぶつ呟いてる言葉がお経だった事に気づく。

C子はお経を唱えながら、小刻みに震えたりニヤニヤ笑ったり頭を左右に振ったりしていた。

「気味が悪い。」

そこにいた誰もがそう思ったはず。

でも、もしかしたら解決の糸口がわかるかもしれない。

そう思いながら意を決して話しかけた。

「あの、…C子さんですか?」

C子は勢いよく頭を上にあげ、目を見開き、にやりと笑っていた。

「あぁ…………そろそろ来るかなと思っていたよ。」

やはり、気味が悪い。

「その手の傷だろ?治らないから原因が何か、この学校で一番、霊感の強い私に見てもらおうとしてきたんだろ?」

みんなは息をのんで、何も言葉が出てこず話せなかった。

「へっへ。図星?いやぁ、怖がることはない。私は少し先の事がわかるだけなんだ。まぁ、怖がるのも無理ないけど。」

と、言いながら、C子は立ち上がり、B子の右手に顔を近づけてまじまじと見つめた。

そして、静かに口を開いた。

「あんたの右手に、髪の長い血だらけで爪の長い女がいるんだ。」

背筋がぞわっとした。

C子はにやりとして続ける。

「あんたを連れて行こうとしてる。」

Bは恐怖で震えながら泣き叫んだ。

友人達が、Bを抱きしめながら

「ちょっと、脅さないでよ!」

と言った。すると、C子は、

「これは、決して脅しじゃない。今もその女、あんたを睨みながら手の甲に長い爪をたててひっかいてるんだ。ぎぃ~ぎぃ~って。」

Bは、泣き崩れた。

同時に右手をつかみ、

「痛い、痛い。」

と叫んだ。右手を包んでる包帯はうっすらと血がにじんでいる。

「どうすればいいの?…」

友人が問いかけた。

すると、C子は、しばらく考え、ゆっくり口を開いた。

「私なら祓うことができる…。」

みんなは、一筋の光が見えたように、笑顔を取り戻した。

C子は、

「だが、今日は無理だ。いろいろ準備をしなきゃいけない。だから、明日だよ。今日は今から寮に帰ってやらないといけないことがあるから。」

またみんなの表情が暗くなった。

Bの右手は今もなお、血がにじんでる。C子は、かばんから何かを取り出し、

「不安だろ。今日は何があってもこのお守りを身につけてな。少しは良くなるはずだ。」

と、お守りを渡した。

Bが、そのお守りを握りしめていると、不思議と痛みが和らぎ、肩が軽くなった気がした。

「じゃ、寮に帰るから。また明日。」

C子は、ふらふら~と歩き出した。

右手の甲をさすりながら。

その日、Bは、嘘のようにぐっすり眠れ、朝起きると、右手の傷はすべてかさぶたになっていた。

「なんだ、やっぱり気のせいだったんだ。

私を連れて行くなんて、嘘よ。

学校に着いたら真っ先にC子にお祓いなんてしなくていいって言って断ろう。」

まさにBは久しぶりにルンルン気分で学校へ行った。

学校へ着くと、緊急ホームルームが開かれた。

何事かと思い、みんなが静かにしていると、教師が教室に入ってきた。

喪服だった。

「今日は、みんなに悲しい知らせがある。実はな…。」

みんなが息をのむ。

「三年○組の○○C子さんが、昨日の夜、自分の寮部屋で遺体で見つかった。」

教室内がざわついた。

B、友人は、青ざめた顔を見合わせた。

「ただ、遺体の損傷がひどくてな。鋭利な刃物のようなものにひっかかれた跡がたくさんあるんだ。

…血だらけで、押入の中で見つかったそうだ。

今のところ、他殺と判断し、捜査してる。

第一発見者の相部屋のDが、見たそうだ。

髪の長い血だらけの女が不気味な笑顔でC子を押入の中に引っ張っているのを…。」

もう誰も何も話さなかった。

「今回の事は悲しいが、自分の身は自分で守るように注意してくれ。不審者を見かけたら、すぐに警察に連絡するように。今日の授業は中止だ。ホームルームが終わったらみんな、すぐに帰ること。」

そこまで言ってホームルームが終わった。

Bは半狂乱になり、泣き叫んだ。

自分がC子に頼まなければこんな事にはならなかったんじゃないか。

C子ですら、殺されたんだ、自分もきっと殺される。

頭を抱え、Bは、ずっと吐き続けた。

自分を責め、友人を責め、そして、右手の甲をシャープペンシルで刺し続けた。何度も。

「もうやめて!」

友人が、Bを抱きしめた。

Bは、友人を振り払い、

「私が何をしたと言うのよ!」

と、やるせない気持ちで自分のかばんの中身をぶちまけた。

すると、昨日、C子から渡されたお守りが落ちた。

「こんなお守り、何になるのよ!」

お守りをシャープペンシルで何度も刺し、友人へ投げた。

友人は散らばったお守りを見続けた。

そして、

「ねぇ、このお守り、なんか書かれてる!」

友人は、お守りの紙を広げた。

そこには、こう書かれていた。

「私は身代わりになっただけ。

言ったでしょ?私には少し先の事がわかる。

これで、楽になれる。

あなたは、もう大丈夫。

やつは、私が連れて行くから。

C子」

…………………………………

私が、先生から教えてもらった話はこれまで。

先生は、怖かったでしょ!?

とか言ったけどみんな、何も話さなかった。

というより、何も話せなかった。

だって、先生、泣いてたから。

先生は、泣きながら

カサブタになっている右手の甲を何度も何度もさすっていた。

……………………………………

時が流れ、私は高校生になり、私はその先生と同じ高校へ入学をした。

先生の話なんて、すっかり忘れていた。

聞いた当初は怖かったが後々に先生が作った話だと思うようになった。記憶から抹消する為に。

でも…

寮生の後輩からの電話でこの話を思いだした。

その会話を話して、この話を終えたいと思う。

「先輩、おかしいんです。

私の隣の部屋、昔、何かあったのか今は誰も住んでいない開かずの間なんですが、

時々、押入付近から何かをひっかく音が聞こえるんです。

ぎぃ~ぎぃ~って。」

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