短編2
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不可解な法事

ある坊さんが、またいつものように法事に行くことになった。「法事」とは、大体の人が知っているであろうが、要するに故人の命日に家族や親戚が集まってお経を聞く行事である。

その坊さんが約束の時間通りに、招かれた家に到着し、玄関でピンポンを押したが何の返答もない。もう一回、ピンポンと呼び鈴を押しても誰も出てこないので、しょうがなく勝手にドアを開けてみた。

ドアを開けるとすぐ右手に部屋があり、その部屋から、ちょうど小学生くらいの子供が出て来た。

「あ、すいません。今日の法事に来られたお坊さんですね。今日はわざわざどうもありがとうございます。皆さん、もう、お待ちかねですよ。どうぞあがって下さい。僕が部屋までご案内します。」

小学生くらいなのにずいぶんと礼儀正しい。よっぽど親の教育がなっているのだろう。

その子に案内されて仏壇のある部屋に通された。部屋にはすでに20人くらいの人が集まっている。その坊さんが部屋に入ると、今日の法事の主催者らしき夫婦があわてて走り寄ってきた。

「あ、これはこれは・・。まことにすみません、部屋が非常にざわついておりまして、せっかく来て下さいましたのに気がつきませんで・・。まことに失礼をいたしましたが、今日はなにとぞよろしくお願いいたします。」

一応の訪問の挨拶を終して法事を始めた。一通りお経をあげて法事を終え、そして最後の説教まで済んで、今日の法事が完全に終了すると、「どうもご苦労さまでした。」と言って主催者の夫婦がお茶とお菓子を持ってきてくれた。

お茶を飲みながらその夫婦と色々世間話をする。その会話の過程で、一応の礼儀からか、その坊さんが主催者夫婦の子供さんをほめてあげた。

「しかし、お宅の子供さんは礼儀正しい、いいお子さんですね。私にちゃんと挨拶をしてくれて、この部屋まで案内してくれて。あの年でそこまで出来るなんて、よっぽどいい教育をなさってるんですね。」と。

この言葉を言った瞬間、相手の夫婦が急に驚いたような顔になった。「子供ですって? 今日の法事には子供なんて一人も来ていませんよ!」

「え、そんなことはないでしょう。」と言いながら、なんともなしに、ふと上を見上げると、仏壇の上には額縁(がくぶち)が掛けてあって、その額縁に入っている写真は間違いなく、さっきのあの男の子!!

「あっ あの子ですよ! 私を案内してくれたのは!!」と、写真を指さしながら叫ぶと、

「何を言ってるんですか。今日はあの子の三回忌の法事をお宅に頼んだんじゃないですか。あの子がここにいるわけがないでしょう!」・・・と、その夫婦は怒ったように答えたという。

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