鳴海今日子の怪奇特集~その2~

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鳴海今日子の怪奇特集~その2~

私の名前は鳴海今日子。フリーのライターをしている。

ライターの仕事は凄く不安定なもの。仕事がある時は収入もいいのだけれど、ないとトコトン貧乏だ。

幸い、今は仕事を抱えている身なので、どうにか食い扶持は持てている。大きな仕事とは言えないが、与えられた仕事は誠意を持ってこなさなければ。

私が請け負つ仕事とは、怪奇特集なるものだ。

怪異、幽霊、アヤカシ…そんな非日常的な世界に住まうモノ達と、運悪く遭遇してしまった人間から話を聞き、記事を書く。

今回の取材は、東京都在住の30代主婦の方から話を聞いた。彼女は綺麗にマニキュアが塗られた爪を弾くと、最初にこんな前置きをした。

「私の話は、幽霊が出たとか、生き霊に殺され掛けたとか、そんな生々しい話じゃありませんよ。人による人に纏わる怖い話です。結局、生きている人間が1番怖いの」

彼女の名前は仮に沢崎さんとする。

沢崎さんがまだ大学生だった頃、付き合って間もない彼氏がいた。2人は同棲もしていたという。

「当時は貧乏学生でしたからね。私も彼もそれぞれバイトしてました。忙しかったけど、それなりに充実してましたよ」

誰しも経験があると思うが、付き合いたての時期は1番楽しいものだ。お互いを気遣える余裕もあるし、一緒にいるだけで心が安らぐ。

沢崎さんと彼氏は仲が良かった。バイト三昧で忙しかったけれど、お互いが休みの時は必ず一緒に遊びに出掛けていたし、寝る時も手を繋いで寝ていたのだとか。

「俗に言う、バカップルってやつ。とにかくラブラブでしたよ。家の中でもいちゃついてたし、一緒にお風呂に入ったりもしたりね」

他人が見れば、思わず羨むような関係の2人。

しかし、唐突に事件は起こった。

忘れることなど出来ない、あの忌まわしい事件が……。

その日は彼氏が居酒屋のバイトで、沢崎さんは1人でアパートにいた。彼氏がいない寂しさから、彼女はメールを送った。

「お疲れ様。バイトは終わった?早く帰ってきてよー。寂しいよー」

すると意外に早く返信が来た。てっきりまだバイト中だと思っていたので、正直驚いた。

「バイト終わったー。今から帰るよ♡待っててね」

沢崎さんは嬉しくなった。彼はどちらかといえば、あまりマメな性格ではないので、メールの返信が遅いのだ。彼女は更にメールを送った。

「すっご~く寂しい~。早く帰ってきてよぉ」

すると1分ほどして、彼から返信が来た。

「俺も寂しい~。今すぐ帰るからね。なるべく早く帰りたいから、タクシー乗るわ。ねぇ、住所何だっけ?ド忘れしちった」

「仕方ないなぁ。○○市○○町△△アパートの2階だよ。忘れないでよね、私達が住んでるアパートくらい」

「ごめんごめん、もう絶対に忘れないからさ。待ってて、今すぐ帰るから」

その後もメールは途切れることなく続いた。彼とこんなに長くメールが続いたのなんて初めてだよなぁと思いつつ。退屈だったこともあり、沢崎さんもなるべくすぐ彼に返信した。

やがて外から車が停まる音がした。きっと彼氏だ。そう確信した時、またメールが来た。

「着いたよ♡」

沢崎さんは軽い悪戯心を起こした。押し入れから布団を引っ張り出してくると、頭からすっぽりと被り、部屋の隅に移動する。布団の中から、彼に返信した。

「さーて。私はどこにいるでしょうか?探して下さい。制限時間は1分でーす(笑)」

キイ、とアパートの扉が開く音がした。沢崎さんは笑いを必死に噛み殺し、息を潜めた。

シャッ…シャッ…シャッ…畳の上を歩く足音。

それはゆっくりではあるが、確実に近付いてきた。

布団の端を掴まれ、ガバッと捲り上げられる。顔を上げた沢崎さんと、男の視線がカッチリと合った。

「みーつけたー♡」

男は歯茎を見せて低い声で笑った。それは沢崎さんがよく知る彼氏ではなかった。

「全然知らない人だったんです…。中年のおじさんでしたね、見ず知らずの」

彼女は悲鳴を上げると、男を突き飛ばしてアパートから逃げ出した。近くの交番に駆け込み、わけを説明し、お巡りさんにアパートまで来て貰ったが、男は既に逃走した後だった。

「後で分かったことなんですけど、彼氏の携帯が盗まれてたんですよ。ロッカーにしまっておいた手荷物ごと、一切合切持っていかれちゃったみたいで。その犯人が彼氏の携帯を使って私にメールしてきてたんですよ」

未だに犯人は捕まっていないんです、と沢崎さんは顔をしかめた。事件後、彼氏とも上手くいかなくなり、別れてしまったという。

「怪異だの幽霊だのアヤカシだの…そんなモノは私には見えない。見えないから怖くありません。でも、生きている人間って、どうやったって見えるでしょう?人並みの常識を持ち合わせていない人種ーーー一般的に変人とか奇人って呼ばれている人。私にはそっちのほうが怖いですよ」

あの事件以来、私はメール派ではなく電話派になりました。沢崎さんはそう締めくくった。

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ニンニク
知ってます(^-^)/

ドラキュラが隠してるから
ニンニクニンニクといいながら探すと出てくるとか(*´ω`*)

何度かお世話になりましたw

死ん様。コメントありがとうございます。

そうですね。私独断の見解ですが、生きている人間こそ、1番恐ろしいと思います。

愛情が一転して憎悪となったり、妬ましさが積もり積もって怨みと化したり…。人間は時として理性を忘れ、本能的な行動を取ったりしますからね。恐ろしい…。

薄紅様。コメントありがとうございます。

生きている人間の狂気…。哀しいかな人間というものは、ちょっとしたはずみから、道を踏み外してしまう生き物なのでしょうね。

子どもが子どもを殺害してしまう…などという痛ましい事件も起きています。

余談ですが…昭和初期の頃は、子どもが子どもを殺してしまうという事件が結構起きていたようです。
嘆かわしいというか、切ないですね…。

ぼーや様。コメントありがとうございます。

おじさんが凶器を持っていたら、アウトでしたね。人間の狂気とは恐ろしい…。

知り合いを装ってメールを交わすというのは、少し図々しいような気がしますが(笑)。

バケモノガタリ様。コメントありがとうございます。

私もよく携帯を紛失します(笑)。さっきまで持っていたはずなのになくすという。

なくしものをした時、「ニンニク!ニンニク!」と言いながら探すと見つかるというジンクスがあるらしいですよ。

所詮、一番恐ろしいのは人間ってわけね

コワイ((((;゜Д゜)))
命に関わるような被害がなくて良かったけど、やっぱり一番怖いのは生きてる人間なんだなぁと悲しい気もしました
安心して暮らせる世の中なんてあるのかなぁ…

これはだれでも起こり得る話ですね…
こわー(;´Д`)
おじさんが何も凶器らしきものださなかっただけよかったですよね(゚Д゚;)

凄く実際にありえそうな話ですね。
私もよく携帯を無くす方なのでなんか他人事の気がしませんでした。
ちょっと前に流行った都市伝説で「知らない間に自分の家に人が隠れて住んでいる」なんて話もありますし、やっぱり現実の人間の方が怖いですね。