中編3
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今思えば

僕が大学に入った時の話です。幽霊関係の話ではないのですが、今思えばちょっと怖かったな、って話です。

大学に入学するとともに、僕は寮に入りました。寮には各棟に掲示板があって、アルバイトの募集とか、サークルの宣伝とか、野犬注意とか、いろいろ貼ってありました。

野犬?

寮は山に囲まれていて、それで夜な夜な野犬が下山してきて人を襲うのだ、と。そのプリントはもうカラカラに乾いて黄色く変色しており、かなり前から貼られていた感があって、下には最近の被害報告ということでバッグに噛みつかれた、追いかけられた、脚を咬まれた、そんな内容が真っ白の紙にプリントされていました。

入寮した日は、ふぅん、と思っていたぐらいだったのですが、その日の晩からよくわかりました。もううるせぇのなんの。威嚇、遠吠え、その他もろもろ。毎晩々々やかましくて結構ムカッ腹が立っていました。

ただ昼間の野犬たちは全く吠えず、子連れだったりすると愛らしくて、ついヨシヨシしたくなるので拳の振り上げようがありませんでした。

3ヶ月ぐらい経ったある夏の晩、友達2人が僕の部屋に遊びに来て、3人でふざけていました。そしてコーヒーを出そうとしたら無くなっていたので、下の自販機で飲み物を買ってくることにしました。

「いいよ、すぐそこだし。待っててよ。何がいい?」

「でも大丈夫?相当犬吠えてるで?」「うん。まずくない?」

「大丈夫じゃない?ありがとう。コーラでよかったかな?」

「そうだね。それじゃあ頼むよ」「俺もコーラでいいよ。何かあったら叫んでや」

「あはは。わかった」

僕は小銭を受け取って部屋を出て、敷地内の自販機に向かいました。階段を下り、広場を横切って自販機に向かい、コーラを買って同じ道を引き返しました。

広場を横切る途中で無意識に煙草をくわえて火を点けようとしたのですが、ライターの調子が良くないらしくてすぐに火が消えてしまい、何度も何度も擦っていると、何か聴こえ、ふと顔を上げました。火ばかり見ていたので暗闇に目が慣れず、しばらく目を凝らしていると

囲まれとるんですわ。野犬に。自分を中心に半円状にグルッと。

聴こえたのは野犬たちの喉の音で、しばらくぼんやりと見てました。その時になぜか、まだ大丈夫やわ、と思い、ようやっと煙草に火を点けてまじまじと見てみました。

各々が後脚にバネを蓄える姿勢で8匹。半円からずれる形で奥に1匹。

こいつかぁ。

全然怖くなく、むしろ昼間の愛らしさの欠片もないのが手伝って、ラッキーとさえ思いました。

ゆっくり煙草を吸い、足元で煙草をねじ消し、コーラを置いて、火が消えたことを確認した瞬間猛ダッシュ。

本当に走りましたよ。リーダー目掛けて。

クゥルゥアアアアア

瞬間的に散り、どれがリーダーなのかわからなくっても無差別に追いかけまわしましたが追いつけるわけもなく、しかも野犬たちは一定の距離を保って走ったり止まったりするので余計にヒートアップし、追いつけないのも理解できずに走り回っていました。

頭で理解する前に体にガタがきたので諦め、コーラと吸殻を回収し、野犬たちを眺めながら広場を横切って部屋に戻りました。

肩で息をしながら部屋に着くとすぐに友達が

「病院行く?」

と心配してくれました。

今思えばちょっと怖かったな、って話です。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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