中編3
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墓地前

『次は墓地前~墓地前です。』

こんな不気味なアナウンスがかつて拙者の住んでいた故郷の地下鉄の駅で流れていた。

これは拙者がまだその故郷に住んでいた頃

実際に体験した話しである。

その日拙者は久しぶりに会った友人達と夜遅くまで

遊んでいてすっかり終電の時間になってしまった。

予定では夕方に帰るつもりだった。

何故なら如何せんこの夜中には地下鉄に乗るには

気が進まなかった。

拙者の当時住んでいた家の最寄り駅は

冒頭の『墓地前』を通り過ぎなければならない

夜中に『墓地前』のアナウンスを聞くのは辛い。

友達に家に泊めて欲しいと頼んでは見た

『何でまた、今日に限って泊めてなんて言うんだ?』

『…あのさ。俺の家、彼処の先の駅だぜ』

『へへ…こんな時間に可哀相にな。今日辺り出るかもしれないぜ。』

『よせよ…。…で、どうなん?泊めてくれるの?』

『わりぃ…。明日、バイト早くてさぁ。ごめん!』

そんなやりとりをしている内に地下鉄が到着して

友達に見送られ乗り込3つほど駅を過ぎたらやがて地下鉄は地上へと上がって行き、一番最初の駅が

『墓地前』なのだ。

地下鉄が地上へ上がってゆくのは他の地域では珍しく無い。

だが、多くの場合は地上で地下鉄以外の路線に乗り上げて普通電車への直結になるが、この地下鉄は最後まで地下鉄なのだ。

何故なら遠い昔、この地域が冬のスポーツの祭典の開催地になり町の中心地と早急に結びつけなければならず地下を掘るより手っ取り早い地上へ幾つか駅を作ったからだ。

地下から這い上がったら『墓地前』

出来過ぎているが本当だ。

友達と別れてから地下鉄に揺られる事、

…数十分

混んでいた車内は気づけば

拙者ただ一人。

あのアナウンスが近づいている事を意味していた。

ガタンゴトン…ガタンゴトン地下鉄は徐々に加速して行く

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

そしてやがて車窓には月明かりに照らされた

広大な墓地が不気味に浮かび上がった。

『墓地前~墓地前です。』

そのアナウンスが鳴り響いた車内。

墓地が広がる車窓越しに映る駅のホーム

一人の俯いた女性が扉が開き

乗車してきた。

髪型は肩位までの茶髪のショートボブ淡いピンク色のブラウスにひざ下丈のパンツ

足元は何故か片方だけ裸足だった。

少しポッチャリとしていて

拙者好みの女性だった。

酔っているのか

かなりフラフラと揺れてい

た。

拙者と同じ車両に乗り込み

拙者と同じ座席に座るのが車窓越しに見えた。

車窓越しに暫くぼんやり眺めていると

『…グゥッ…グゥッ…ゴポ…ゴポ…』

その女性が突然口から血を吐き出し苦しみ出した。

車窓越しに咄嗟にヤバイと思い

声を掛けながら女性の方へ振り向いた

『大丈夫で…っ!!』

拙者は一瞬背筋が凍りついたかのように

固まってしまった。

『……!!』

言葉がその後続かない…。

声が出ない。

只、恐ろしい目の前の光景に震えるしかなかった。

やがて、彼女はゆっくりと此方を振り向いた!

口からゴポ…ゴポ…と血を流しながら

大きく手を広げ助けを媚びるかのように近づいて来た。

『…ぁぁぁっ~!』

声にならない断末魔を上げて

拙者は気を失った。

『お客様、終点です。お客様っ!』

『ぁぁぁっ!』

『お客様っ!どうしました?』

『いやあ…あの…ぺらっ…女の子が…ゴポ…ゴポ…と血を…血を…』

『お客様っ!しっかりして下さい。大丈夫ですか?』 

『ぁっ!…はっ…はい何とか』

『かなり、魘されていましたよ。悪い夢でも見たんですね…。』

『…』

そう…悪い夢に違い無い。

何故なら彼女は一反木綿のように薄かったのだ。 

真っ正面しか…なかったのだ。

ヒラヒラと揺れていた。

悪い夢に違い無い。

今、墓地前は駅の名を変えた。

今もまた、名を変えたその駅に

彼女はいるのかも知れない。 

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想像すると、すごく怖いものをご覧になられましたね。
駅を通過される度に思い出されるんじゃないですか?