中編2
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逢えたね。

去年の夏のこと。

不眠症気味の私は、睡眠薬がないと眠れないタチなのだが、その日はやけに眠くて仕方なかった。

午後10時には床につき、それから間もなく寝付いてしまった。こんなに早く寝付けるのは久しぶりだった。

夢を見た。私は真っ白い靄の中に1人で立っていた。目を凝らすと、誰かが同じように立っているのが何となく分かる。

「…誰?まゆちゃん?」

口元のホクロに見覚えがあった。高校時代の友人、一ノ瀬真弓さんだ。

彼女は高校卒業してすぐに交通事故で亡くなっている。私もお葬式に出たし、間違いない。

私が近付こうとすると、彼女は手で制した。そしてにこりと微笑んだ。

「やっと生まれ変われる。また現世で逢えるから」

「生まれ変われる…?まゆちゃんが?」

「そう。私は双子に生まれ変わるわ。男の子と女の子の双子。だから待ってて。また逢いましょうね」

そこで目が覚めた。妙にリアルで生々しい夢だった。彼女の姿も、声も、脳裏にハッキリとこびり付いて、なかなか消えそうにない。

それからしばらくして、私は仕事先の用事で隣町に行くことになった。電車を降り、改札口を出ると、ベビーカーを引いた若い母親が目に留まった。

母親は時々ベビーカーに揺られている赤ちゃんの顔を覗き込みながら、あやしていた。よくよく見ると、そのベビーカーは双子用の物だ。

ーーー私は双子に生まれ変わるわ。

彼女が夢の中で言った台詞が脳裏を過ぎる。

まさか…あの双子…。

いや、そんなはずがない。あれはただの夢だ。予知夢や正夢じゃあるまいし、そんなに都合良く事が運ぶわけがない。

そう思ったものの、何だか気になり、母親の後ろからそっとベビーカーの中を覗いた。そこにはまだ歯も生え揃わないような赤ちゃんが2人、機嫌良く並んでいた。

キャッキャッと楽しそうに笑う様子がそっくりである。愛嬌たっぷりの表情がいじらしい。

その無邪気な顔を見ているうち、何だか自分がつまらなく思えた。どうかしている。夢の話を信じ込み、この子達が彼女の生まれ変わりだなんて…。

気を取り直し、ベビーカーを追い越そうとした時ーーーグッと手首を掴まれ、振り返った。

双子の女の子のほうが、私の手首をしっかり掴んでいたのだ。その表情はさっきまでとは違い、無表情だった。隣に座る男の子も、同じ表情を浮かべ、私をジッと見つめている。

やがて2人は唇の端を吊り上げ、歪に笑ってみせると、声を揃えて呟いた。

「逢えたね」

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