短編2
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どうして。

数年前のこと。仕事の関係で地方に出張していた私は、駅前のホテルに宿を取った。

シングル用の部屋なので、狭苦しく、お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。ハッキリ言えば汚い。掃除くらい、きちんとしろっての。

ストッキングを履いた足の裏にくっつく埃を叩きつつ。一仕事終えた達成感と疲労感から、どうしようもなく体がアルコールを求め出した。

部屋の隅に備え付けられている小さな冷蔵庫からビールを取り出し、片手で缶を弄びながら窓際へと移動する。

夜風に当たりながら一杯やりたい気分だったのだ。

カラリと窓を開けると、ひんやりとした涼しい風が首筋を撫でた。「1人寂しくかぁんぱ~い!」なんておどけながら、缶を高々と持ち上げたその時。

「あっ…」

…一瞬。ほんの一瞬だったが、ハッキリ分かった。

髪の長い女が窓の外を落ちていった。

落ちていった。

おちて、いった。

落ちた。落ちた。おちた。オチタ。

お ち た

「…ッ!」

缶が手から滑り落ち、床に大きなシミを作った。

窓から覗くと、地面にはうつ伏せで倒れている女性が目に入る。ま、まさか自殺…!?

ど、どうしよう。この場合、まず何したらいい?救急車?警察?ああ、違う違う。その前にフロントに電話して事の次第を伝えてーーー

「ねえ」

背後から聞こえてきた声に、ハッとして振り返る。

そこには一体いつからいたのか、髪の長い女が恨めしそうに私を見つめていた。怪我をしているらしく、こめかみからは一筋の血が流れ、右腕は変な方角に捻れてしまっている。

固まる私の耳元で、彼女はボソリと囁いた。

「さっきはどうして、助けてくれなかったの?」

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怖女様。コメントありがとうございます。

旅館に従事されていらっしゃったとのことですか!
では、色々と体験されたり人づてに聞いたりすることも多いのでしょうね。

是非とも、その話を投稿して下さい。
今から楽しみにしています。

私は最近まで旅館に従事していました。
やっぱりいろいろ聞きますよ。
今度お話投稿したいと思います!

宵子様。コメントありがとうございます。

ホテルや旅館では、よく曰わくつきの体験をしてしまう方が多いと聞きます。

自分が宿泊する部屋が、もしも曰わくつきであったら…なんて考えただけでも、眠れなくなりそうです。

ある芸能人の方は、仕事で地方のホテルや旅館に泊まる時などは、必ず壁に掛かっている絵画の裏をチェックするのだとか。曰わくのある部屋は大抵、絵画の裏に御札が貼ってあったりするそうですよ。

 うー怖いですね。ホテルとか旅館の話は本当、いつ自分に起こってもおかしくないので本当に怖いです。