中編6
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記憶の転移

ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…

規則正しい電子音がゆっくりと、フェードインしていく。

耳の中、鼓膜を揺さぶり意識にかかっていた、もやのような物が薄れていき瞼を開く。

瞼を開く行為をこんなにもゆっくりやったことなどなかったと、頭で考えられるほど、静かにゆっくりと開いた。

『Aくんっ!!目覚めたんだね!!よかった…』

時間経過をスローモーションに感じるのはなぜだろうか、

文字通り彼女が飛んできているのがわかるのによけられない、体が動かせない。

彼女の目の腫れが視界に入ったのは、ズシッとその彼女の重みを全身に受け止めたからだった。

その瞬間、全身を駆け巡るいろいろな種類の痛み。

『痛っ!痛い!!』

声も、心なしか出し辛い。

『ごめん!!』

と、いいながらギューッと抱きつく力が、より強くなる。

『痛い痛い痛い!!』

話を聞くに、どうやら俺は一週間くらい寝ていたのだという。

ここは壁や天井、何から何までもが白に統一されており、

テレビの中でしか見たことのないような機械が複数、俺へと繋げられている。

ピッ…ピッ…ピッ…

と規則正しい機械音が広がる 空間、

随分と危なかったみたいで、大掛かりな手術もしたのだという。

ここはいわゆる集中治療室というやつなのだろう。

手術着の隙間から見える大きな胸の手術痕が痛々しく、そして他人ごとのように感じた。

『何があったんだ…?』

訪ねる俺に彼女は

『大丈夫…きっとまた前みたいに戻れるから…』

と目をあわせることもなくうつむいたまま答えるのであった。

彼女のはっするその雰囲気は、

質問をこれ以上しないで…

そう思わせるのに十分な説得力にも似た、重さをもっていた。

それでも俺には確認をしなくてはならない事がある。

『Aは?…Aは無事なのか??』

そう聞くと、みるみると表情が変わっていく…

彼女は悲しみと驚きの混じりあったような、そんな見たことのない表情を顔に貼り付けたまま

『お医者さん呼んでくるね…ちょっと待ってて!!』

と部屋から走り去っていった…

『クソ…あのバカに何かあったんだな…無事であってくれればいいが…』

規則正しい機械音の響く部屋の中、俺の言葉は誰にも届くことなく消えていった。

数分もしないうちに医者がやってきて、いろいろと説明をしてくれた。

一週間前の夜中のこと、

高速道路で大きな事故をおこしてしまい、瀕死の状態で運ばれてきたこと。

そして、事故の衝撃で折れた肋骨は心臓を突き破り、もう移植手術しか助かる見込みはなかったこと。

そして不幸中の幸いとでも言うのだろうか…

そのドナー提供者はすぐに見つかったとのこと。

そうか…この心臓…俺のじゃないのか…

なんだか不思議な感覚だった。

そして医者は一言

『気をしっかり持って、話を聞いてくださいね』

と付け加えるとなおも説明を続けた…

ドナーは基本的には誰なのか知らされることはない、

が、自分で知りたい場合や理由があれば別とのことで、

彼女が言うには俺が混乱しているようなので、全てを教えてやってほしいと伝えられたとのことだった。

医者の背景にある扉がスライドして開かれたのが目に入り、泣きながら彼女が部屋に入ってきたことに気がついた…

そして医者は言う…

『あなたに心臓を提供してくれたのはいとこの俺さんです。』

絶句した、

(言葉を失うとはこういう場で使うのだなぁ~)

だとか冷静に言葉の意味を考えていた。

『Aさん、大丈夫ですか?気を確かにもってください、あなたは生きている!それこそが一番大事なことなのです!きっと俺さんもそう思っていてくれるはずです。』

医者が何かを言っているがよくわからない…

鳴り響く着信音。

(なんの話をしてるんだ??)

『こりゃあなんの冗談だ??』

彼女の方を向くと、携帯を耳に当て唇の端だけを持ち上げ、こちらを見ている彼女はもう泣いていなかった。

『おいっ!Aはどうしたんだ!?さっきから何を言ってるんだ!!?俺は俺だろうが!!おいっ!!』

『Aさん落ち着いてください!今、暴れては危険です!傷が開いてしまいます!!』

『おいっ抑えるのを手伝え』

と医者は看護士に言いながら手際よく俺へと注射を打ちつけた…

それから数時間後のことだろうか、全身の痛みでまた目を覚ますとニヤニヤしながら顔をのぞき込んできている彼女がいた。

『どうなってんだ?なんで俺縛られてるんだ??』

そう聞くと、

『危険人物だからじゃないかな?』

と笑ってみせる。

そして笑顔のまま聞いてくる、

『お前はどっちだ?』

(お前はどっちだ?お前はどっちだ…?)

心の中でその言葉の意味を探す…

『俺は俺だ…よな?』

彼女はまたも唇の端だけを少しあげると話し始めた

『あの日の事をどれだけ覚えている?日本について私達はそのまま家へ帰らず、最近噂になっている都市伝説を探しに行こうということになった。』

『人面犬再来ってやつだろ?』

『そう、私のオカルトコミュで話題にあがっていたやつ、空港から高速でそんな遠くないし探しに行ってみようて話になったとこまでは覚えてる?』

『あぁ、覚えてるよ、俺はアルコールをいれていたから運転をしたくないと言っていたらAが運転すると騒ぎ出したな。』

『そう、仮免のお前じゃ危ないだろ、ってことになったけど、高速での運転講習も終わってるし大丈夫だろうということになって、お前が運転、お前のいとこが助手席、私が後部の真ん中に座ってた。』

彼女の声が少し鋭くなったのを感じた…

『そして、事故は起きた…急カーブをオーバースピードで入ったお前はどうにかカーブをやり過ごしたが、飛び出してきた動物を跳ねてしまいそのままコントロールを失った車はガードレールを突き破り崖へと落ちていった…』

『そうだったな…とっさに彼女が前に飛び出さないように抱え込んだ…』

彼女の目には涙がたまってきている

『Aはハンドルで胸を強打、私を抱え込んだ俺はそのままフロントガラスに後頭部を強く打ち付けた』

抑えきれなくなったのか彼女の頬をつたう涙

『そして私はほぼ無傷、あなたは心臓に肋骨が刺さって生死の境をさまよっていたのでしょうね…そして、俺は…後頭部を強く打ち付けすぎたせいで、脳死、もう目覚めることのない植物人間になっていた、家族もあなた位しかつながりがない彼の保険証にはドナー登録の意思表明がされていて、危険な状態なあなたを助けるために彼はドナーとなった。』

『俺はだれなんだ!?俺には兄貴の記憶がある、考えがある…俺は俺じゃないのか…!?機内でキスしたことをAは知らない、これは俺とSしか知らない…』

『あぁ~あAにばれちゃった…』

泣きながら彼女は笑ってみせる…

そして化粧ポーチから鏡を取り出すと『見ろ』と俺の顔を写し込んだ…

そこには見慣れた間抜けつらがあった

無謀なトラブルメーカーの顔があった

そこにいる俺はAだった…

『あんたの事だから、消えないと思ったよ。』

満面の笑みを浮かべながら説明をしてくれた。

医者がい言うには、一種の混乱症状、

もしくは移植手術による、

『記憶の転移』なのだろうと、

移植手術を受けた者の中にはまれにドナーの記憶や性格を転移させるケースもあるのだとか…

なんにせよ、落ち着きを取り戻し、回復して冷静に考えるようになればきっと、いつものA君に戻るはずだよ。

と医者は言ったらしいのだ。

『一時的な…断片的な記憶なんて許さない…』

そう言うと彼女はベッドに腰掛けゆっくりと近づく…

そして胸の手術痕に手を当て、爪を立てる。

『いッ!!?』

言葉を発する前に彼女に唇を噛まれる…

『あなたは、私がここにつなぎ止める、だから消えないで…』

痛みをともなう記憶というものは深層心理の奥深くに色濃く刻まれ消えることがないと言う。

俺は確かに存在している

この血の味のする、痛みをともなう口付けが…

俺の、Aの、

深層心理に色濃く刻まれ、

消えることはもうないだろう。

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chocolateさん コメントありがとうございます!
そうですね、現段階ではそうですね(^_-)知識と根性を得た好奇心の塊は今後もっとトラブルをバラまいていってくれると思いますので、お楽しみにです(^^)

わぁぁΣ (´Д`ノ)ノ読みのがしてましたっ(ノ_<。)

凄い展開になっていますね。

このお話を読む限り、まだAさんの人格は出てきてないみたいですが...。

Aさん体に俺さんの記憶。

続きが気になり過ぎます!w

黒歌さん 質問ありがとうございます、お答えします。

記憶の転移というのは移植された側が、そのドナーの性格や記憶を引き継ぐ事があるのだそうです

この2人はそれぞれを深く知っているので、その現象が色濃くあらわれていますが、あくまでAの体と人格に俺がたせれてしまった、感じになっています。
ここでは目覚めたばかりでまだ混乱していますがいずれは1人のまとまった人格になってしまうのでしょう

アンサワダットさん コメントありがとうございます
楽しみに、気長にお待ちいただければと思います!

マッスル樽さん ありがとうございます!!書かせていただきますね!

欲求不満さん そう言って頂けて、嬉しい限りです ありがとうございます。
また書かせていただきます!!

Aの体だけど記憶は俺さんだという事ですか?

まさかこんなことに…びっくりしました。
これからの展開がたのしみです。

また続きをお願いいたします。

また読んてやってもいい、というより是非読ませてください。と思います。

欲求不満さん コメントありがとうございます
更新が遅く、長々と引っ張り通したにも関わらず、ずっと読んでいただきありがとうございました。

また読んでやってもいいよといっていただけるなら、また彼らのその後やばらまいてある伏線を拾いながら過去を書いていきますので、いつも通り、気長にお待ちいただければと思います!

ありがとうございました。