ホームで電車を待っていたら、スーツ姿の若い男性がにこやかに話し掛けてきた。
「良かったら一緒に行きませんか」
何この人。新手のナンパだろうか。ちょっと顔をしかめてみせたが、彼は臆することなく続けた。
「1人じゃ寂しいんですよ。俺も男ですし、出来たら若い女性と2人で行く方がいいかなぁってね」
やっぱりナンパか。どーせ飲みに行こうとか、そういう意味合いなんだろうけど、知らない男と飲みに行くほど飢えちゃいない。
私は腕組みをして虚勢を張ると、「行かないっつってんのよ。行きたきゃ1人で行きなさいよ」とか何とか言ってやった。
彼は気を悪くした風もなく、やはりにこやかに笑いながら「そうですか。分かりました」と頷いた。彼はそのまま私に背を向けた。
少しして、電車の来訪を告げるアナウンスが流れた。嗚呼、やっと帰れる…。安堵の息を吐くと、さっきの男性が首だけ動かして私を見た。
「それでは、1人で行ってきますね」
彼はにこやかにそう言うと、線路に飛び込んだ。
彼が飛び込んだのとほぼ同時刻、電車がホームに入ってきた。
作者まめのすけ。