長編10
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防空壕

私は戦争のことをよく知らない

今も多少の知識はあるけど、当時実際にどんな状況で、どれだけ過酷な時代だったのかなんて、これはもうその時代を生きた人にしかわからない

私が小学生のとき、戦争について学校や親から色んなことを教わった

当時の私は戦争の話を聞くとただただ怖いとか、大変だったんだなぁとか、まぁその程度にしか考えてなかった

私の通っていた小学校の裏山には

まだたくさんの防空壕が残っていて、学校の授業でその防空壕を実際に見てみるってゆう野外授業みたいなのがあった

攻撃を避けるため、家などを失った人がこの狭くて暗い防空壕の中で生活していたのだとゆう

防空壕の入口には柵が設けられていて、中に入ることはできない

老朽化していて足場が悪く、また崩れてしまう可能性があって危険だからあまり近づかないよう先生に言われた

その日の学校帰り私は仲がよかった男友達Bと話していた

防空壕の話だ

B男のおじいちゃんは戦争中前線の兵隊として活躍していたらしく、B男はそんなおじいちゃんから当時のことを色々教えてもらったらしい

B男の話はかなりショッキングな内容ばかりで耳を覆いたくなるようなことばかりだった

その中でも特にキツかったのは、さっき見たばかりの防空壕での話

B男のおじいちゃんは戦争中、敵兵からの攻撃を受け片腕を切断してしまったという

その結果戦いの前線から外され、その代わりに防空壕で生活する人達を保護したり面倒を見る様国から命令された

最初は戸惑ったB爺だったけど、次第にその命令に使命感を抱き積極的に保護活動をしていたという

B男のおじいちゃんだって腕切断してるのに...と本当に大変な時代だったんだなって痛感した

ある日B爺は焼け落ちた家と家の間に力なく座り込む痩せこけた女性と、その腕にしがみつき母乳もでない乳房に必死に吸い付こうとする赤ん坊を発見したという

B爺は一目でその親子が被災し、今にも生き耐えそうになっていると気づき、女性を背負い赤ん坊を片腕に抱え自分が面倒を見ている防空壕へ連れて帰った

防空壕の中にはすでにたくさんの人達が生活していて、老若男女総勢30人近い人達が暮らしていたという

B爺が事情を説明し、その親子を受け入れてほしいと話す

私はそんな傷付いた親子なら、みんな快く受け入れて介抱してくれるんだろうなって思った

でも、実際には殆どの人がその親子が加わることを拒否し、B爺にその親子を捨ててくる様促したという

中には石を投げつける人もいたとか

防空壕の中では水も食べ物も不足していて、何の働き手にもならない親子に水や食料を分け与えることは、自らの命に関わることだからだ

B爺は大勢の非難を浴びる中、親子のことは自分が全て責任を持つ、誰一人迷惑をかけないと両膝をつき何とか皆を納得させることができたという

私は人に優しく親切にするように親や先生から教わってきた

そしてその言い付けを守り行動してきたつもりだった

でももしこの時代に私が生き同じ状況になったとき、果たしてこの親子を本当に受け入れることが出来るだろうが

人に優しくするとゆう言葉の本当の重みを痛感した

B爺は親子を防空壕の奥へと案内し、何とか横になれるくらいの小さなスペースを発見する

そこに親子を座らせるとすぐに、水や食料を探しに外に飛び出した

外はもう薄暗くなっていて、少し雨も降っている

あの場の勢いで面倒は全て自分が見ると言い切ったB爺だったが、本当は頼る当てなんてあるわけもなく、既に自分が大変な大口を叩いてしまったという事を痛感していた

山を降りると辛うじて空襲を免れた小さな村があった

「よし!ここなら大豆やさつまいもくらい分けてくれるかもしれない」

B爺は期待に胸を膨らませ村の奥へと進んでいった

だが、村の奥に進めば進むほどそんな淡い期待は消えてく

辺りを見渡せば痩せ細り道端で息絶える老人

一匹の鼠を奪い合い殴り合う子供達

あまりの空腹に耐えきれず、自害した死体がぶら下がっている

そこはまるで地獄だった...

何の収穫も得られないまま仕方なく村を後にしたB爺の心は、不安で一杯だった

一時間くらい歩いただろうか...

すっかり日も落ちて暗闇と静寂が広がる中、遥か向こうの方に一つの光を発見する

その光に吸い込まれるように歩き出すB爺はとんでもないものを目にしてしまう

光だと思っていた物は火で、燃え盛る火の海の中逃げ惑う人々だった

目の前に広がる光景に唖然としていると、物凄い爆発音とともに10メートルほど吹き飛ばされた

何が何だかわからないまま辺りを見渡すと、たった今目の前で逃げ惑っていた人々が変わり果てた姿で転がっている

B爺は気付いた

この村は今まさに空襲をうけている...

その後も空襲は続き民家は崩れ、次第に逃げ惑う人々もいなくなっていく

火だるまになり生き絶えていく人々を目の当たりにし、自らの死を覚悟した

次の瞬間、また大規模な爆発がおきた

爆風に吹き飛ばされたB爺は崖下に転げ落ち、そのまま気絶してしまった

...一体どれくらいの時間がたっただろうか...

鼻をつく焦げの臭いで目が覚めた

もう永遠に終わらないとまで感じていた攻撃は終わっている

辺りを見渡すと動く者はなく、焼け落ち崩壊した民家はもう人の住めるような場所ではない

ゆっくりと立ち上がり変わり果てた村の中を歩き回ると、人なのか焦げなのか見分けが付かなくなった何かがたくさん転がっていた

そんな中に一つだけ、運良く崩壊を免れた大きな民家が建っている

B爺は悪いと思いながらもその民家の門をあけた

きっと立派な人が住んでいたんだろう...

民家の中には当時では珍しい革製の衣類や見たこともない金属があちこちに置いてある

さらに奥に進むと食糧貯蔵庫のような部屋に辿り着いた

そっと扉をあけると、そこには大豆やさつまいも

さらには白米や醤油など庶民には手の届かない貴重な食料が大量に保管されている

B爺はそれを見るや否や持っていた風呂敷にこれでもかというほど食料を大量に詰め込んだ

もうなりふりかまって何ていられなかった...

辺りを見渡し誰もいないことを確認すると、一目散に来た道を走りだす

これで皆との約束を果たすことができる!

あの親子を救うこともできるんだ!

B爺の心は踊っていた

そして一度も休むことなく防空壕に辿り着いた

息をきらしながら親子の元に向かおうと防空壕の入口を潜ると、突然中から出てきた大男に胸ぐらを掴まれ突き飛ばされた

B爺「一体何をするんだ!早く食料を届けないと!」

大男「うるせー黙れ!この野郎なんて女を連れて来やがったんだ!

B爺「一体何を言ってるんだ?」

大男「あれを見ろ!」

B爺が防空壕の中を覗き込むと奇声をあげ暴れ、男たちに取り押さえられる女性の姿があった

B爺「これは一体どうゆうことだ!」

大男「どうゆう事もなにもねー!この女、自分のガキが死んだのを見てとち狂いやがったんだよ!」

B爺「し、死んだ?まさかあの子が!」

大男「俺たちはわかってたさ。あのガキがもう何時間ももたないってことくらいな」

B爺「間に合わなかった...」

B爺はその場で地面を殴りつけ涙を流した

B爺「彼女は子供が死んだのを見ていきなり暴れだしたのか?」

大男「最初はそんなことなかった。ガキの泣き声が止まったから料理担当のやつが見に行ったんだよ。女はずっと子供を抱いてて顔を見せなかったらしい」

B爺「どうしてだ?」

大男「俺たちにガキが死んだってこと知られたくなかったんだろ。怪しいと思ってガキを取り上げたら案の定青白くなってやがったさ」

B「くそっ!もう少しで助けられたかもしれないのに...」

大男「そんで料理担当のやつがガキを運んで料理を始めようと包丁を持った途端その女が暴れ出したってわけよ」

B爺はよく理解できなかった

料理と子供が何か関係あるのか

なぜそのタイミングで暴れ出したのか...

大男「ん?なに不思議そうな顔してるんだ?あ、もしかしてお前知らないのか?ここにいる人間がくたばっちまったら俺達はそいつの肉を食う。ここじゃあ暗黙のルールだぜ」

その言葉を聞いたときB爺はもう大男に掴みかかっていた

だが小柄だったB爺はすぐに大男に突き飛ばされ、その場に蹲り泣き続けた

そのまま外で夜を明かしたB爺は持って帰ってきた食料を崖下に放り投げると防空壕に向かう

防空壕のやつら全員を殴り飛ばし、女性に土下座させてやる!...そんな心境で防空壕に辿り着いたB爺は全員を威圧するように女性がいる場所まで歩いた

そして深呼吸をし、さぁ、怒鳴りつけてやる!っと顔を上げた瞬間、ある光景が目に入った

人々の周りには昨日のあの子と思われる肉が一人一人に配られている

赤ん坊一人分の肉を30人もの人数でわければ、一人に与えられる量なんてほんの一切れにも満たない

その一切れの肉を目の前にし、両手を合わせ深々とお辞儀をするお婆さん

自分に与えられた肉を母親にあげようとする3歳くらいの女の子

あんなに痩せ細っているのに...

それを見たB爺からはもう朝の威勢の良さは完全に消え、怒りをぶつける対象を失った心は押し潰されていた

そんなB爺を見つけた昨日の大男が声をかけてくる

大男「まぁ、外にでてちょっと話そうや」

大男に背中をポンっと押され、そのまま力なく外まで歩いた

大男「あんな状態でジメジメした洞穴の中にいたらおかしくなっちまう。ちょっと頭冷やせ」

B爺「俺はどうしたらいいんだ...人一人救えない。あんな残酷な光景を目の当たりにしたって、誰も責めることも出来やしない」

大男「別にお前が悪い訳じゃねーよ。自惚れるな」

B爺「誰も自惚れてなんてっ!」

大男「まぁ、落ち着け。...あれを見てみろ」

大男が指を差す方向にゆっくり目をやると、そこには一本の大樹が立っていた

大男「お前、あれが何年くらい生きてるかわかるか?」

B爺「いや、全くわからん」

大男「700年だ。俺もお前も精々2、30年そこそこしか生きてねぇ」

B爺「...」

大男「この大樹に比べりゃ俺やお前はもちろん、あそこにいる爺さんだってまだまだクソガミみたいなもんなわけだ」

B爺「...」

大男「だがな、俺たちはそんな短い時間の中で自分の足で立ち、歩き、色んな物を見ることができる」

B爺「...」

大男「そうやって見てきたものが自分を作り、時には自分を成長させる。」

B爺「こんな辛いことばかりなら、いっそ何も見ない方が幸せだ」

大男「俺はな、このクソみたいな戦争のせいで妻と息子を失った」

B爺「...!」

大男「最初は妻子を殺した奴らを殺してやりたいって思ったさ。俺の一番大切な家族をうばったんだからな」

B爺「今はそう思ってないのか」

大男「今も、もし妻子を殺したやつらを目の当たりにしたら自分を抑えられるかわからねー。でもな、この大樹の前に立ったとき、俺は思った。

いくら怒ろうと、いくら悲しもうと妻子が戻ってくるわけではない

B爺「...」

大男「この大樹が何百年も倒れねー運命だったように、あいつらもきっとあそこで死ぬ運命だったんだ」

B爺「そんなことあるか!そんなことが運命でたまるかよ!」

大男「じゃあお前が今そこでくよくよしてる間に何か変わったのか!」

B爺「それは...」

大男「結局な、俺たち人間なんてもんは前に進むしかねーんだ。

どんなに辛くったって、立ち止まったらそこで終わっちまう

俺たちにはこの大樹のように長い時間は与えられてねーんだよ」

B爺「...」

大男「その短い時間の中でくよくよ立ち止まるのか、前を見て歩くのか、どっちかしかねーんだ」

B爺「俺はどうしたらいい...」

大男「あとは自分で考えろ」

B爺の心は壊れそうだった

大男の言ってることは間違ってない

間違ってないのに、あんな風になれない自分の弱さに涙が止まらなかった...

暫く泣いたあと、防空壕を見つめていた

普段あまり気にしなかったけどよく見たら入口に花や少しの水が供えられている

その花や水の前で涙を流し手を合わせるお婆さん

片足を失いながらも母親の肩を借り、必死に歩こうとする男の子

そして、暴れ疲れ眠っているあの女性に優しく話しかけ、頭を撫でる叔母さん

皆一緒なんだ

本当は今にも心が折れそうなのに、ああやって寄り添い助け合って自分の生きる意味を探してるんだ...

B爺は走った

昨日崖下に放り投げた大量の食料を探しにひたすら崖をおりた

あれだけの食料があれば俺たちは全員生き延びることができる!

B爺は自分が国から託された使命を思い出していた

自分がこの防空壕の人達を救う

それが今自分が生きている理由になるんだ...

崖を一番下までおりたB爺は草をかき分け食料を探した

でもいくら探しても見つからない...

なぜだ!昨日確かにこの辺に投げたはずなのに!

今こうしている間にも死者がでるかもしれない

もう誰もあの子のようになってほしくない

二時間ほど探しただろうか

探し疲れその場に座り込むB爺の足元にあの風呂敷が転がっていた

慌てて立ち上がり中身を確認する

良かった!全部そのまま残ってる!

B爺は意気揚々ときた道をひた走った

あの時最初にこの食料を手に入れたときと同じように、いやもっと大きな使命感を持って防空壕に向かう

でも防空壕についたB爺は風呂敷をもつ手を放した

そしてその場で膝を付いてガタガタ震えた

その時B爺が見たものは

防空壕にむかい

迷いもなく火炎放射器を発射する敵兵の姿だった...

その後捕虜になったB爺は、自分が防空壕の場所を敵兵に知らせるための囮だった事を知らされる

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火というものはあらゆるものを焼きつくし、
人に恐怖を与える。
ところが、今の建築物は昔に比べちょっとやそっとでは
燃え尽きるということはない。
今、世界ではいろんなところで戦争、内戦があるが
物が破壊されはするが、劫火で焼き尽くされるということは
ないといってもいいぐらい。
今ある戦争の映像を子供たちに見せても
昔の戦争の映像ほど衝撃を受けないだろうな。
人は本能で火を恐れるということだな

悲しすぎる!

まさにこの世の地獄。

辛過ぎますね、そして誰もが余裕すらなく怯え憤り悲しんでいた事でしょう。
しかし前を向き生きようとしている男性の重みある言葉は力がありました、が・・・最後の文は最高にホラーでした、今までとは違うゾッとした思いでしたよw