中編3
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託児所の裏事情。

聡美さんは東京の短大を出て、晴れて念願だった保育士になれた。高校生の時からずっと保育士に憧れていて、ようやくその夢が叶ったのだ。

あとは就職先さえ見つかればいいのだが……この不景気な世の中、なかなか保育士を募集している園は少ない。

いや、ないこともないのだが。交通的に不便な場所にあったり、パートの募集のみしか行わない園が多かったのである。せっかく保育士の資格が取れたのだから、正規で働きたいところである。

どうしようかと困っていたら、キャバ嬢のバイトをしている友人からこんな話を聞いた。

「アタシが働いてるキャバクラなんだけどさぁ、キャバ嬢の子どもを預かる託児所があるんだよ。で、そこで職員募集中みたいだからさ、面接受けてみれば?」

ありがたい話である。聡美さんはその友人に連絡を取って貰い、面接へとこぎつけた。

面接は古い3階建てのビルの3階で行われた。ビルの構造としては1階がキャバクラ、2階が託児所、そして3階は空き店舗だという。

面接官は託児所の所属長と名乗る30代後半くらいの派手な女性だった。彼女は聡美さんの差し出す履歴書など殆ど見ないまま、採用すると言った。

「人手不足だから、今日からさっそく働いてほしいと言われました。勿論、了承しましたよ。すんなり面接が通ったんで、有頂天になってたんだと思います」

託児所が開くのは、大体午後7時。その頃になると、キャバクラで働く女性達が乳飲み子を連れてワラワラとやってくる。

どの母親も愛想が悪く、一言も話さない人もいた。その日は聡美さんと、所属長の女性しか職員はいなかった。

託児所は思いの外狭く、12畳くらいしかない。それに反し、子どもの数は10人。ベビーベットの類もなく、申し訳ない程度に玩具があるばかりで、きちんと掃除もされていないらしかった。

子どもは10人だったので、半分ずつ見ることになった。赤ちゃんというのは、1人が泣き出すと、連鎖反応を起こしたように次々に泣いてしまう。聡美さんは必死にあやしたり、オムツを替えたりするが、5人を1度に見るのは容易ではなかった。

寝付かせる時がまた大変である。どの子も抱っこしないと寝ないし、せっかく寝かしつけても、他の子がぐずると起きてしまったり泣き喚いたり……。終いには聡美さんが泣きたくなった。

その様子を見かねたのか、所属長が聡美さんに何かを差し出した。「これ使いな」と差し出された物は何とスーパーのビニール袋である。一体ビニール袋をどう使うと言うのだろう。これを使えば、子どもが泣き止んでくれるのだろうか。

聡美さんがキョトンとしていると、所属長は「見てな」と言い、いきなり子どもの顔にビニール袋を被せた。子どもは驚き、顔を真っ赤にして泣いたが、所属長は決してビニール袋を外さなかった。

驚愕する聡美さんの前で、ビニール袋を被せられた子どもは泣き止み、汗をびっしょりかいてグッタリした。所属長はそれを確認すると、ようやくビニール袋を外した。

「ほらね!こうすりゃ効率いいのよ。すぐ寝るでしょ」

……それは寝たのではなく、酸欠で気絶したんじゃないですかとは口が裂けても言えなかった。

所属長はこのやり方で、次から次へと子どもを「寝かしつけた」ようだったが、聡美さんはとても真似する気になれず、地道に抱っこして寝かしつけた。

それから3日間は何とか働いたが、ついに耐えきれなくなり、4日目には辞表を出した。当然と言うべきかそうでないのか、お金は一切払わないと言われたが、それでも良かった。とにかく辞めたかったのだ。

「あまりにも杜撰過ぎるんですよ。哺乳瓶なんてロクに消毒もしないで使い回すし。経費削減とか言って、オムツを長時間替えないから、オムツかぶれしちゃう子も大勢いて。極めつけはあの寝かせ方だし、職場の雰囲気も人間関係も良くなかったですし。辞めて正解でした」

聡美さんはその後、小さな印刷会社に就職し、平穏な暮らしを送っている。もう保育士関係の仕事には就かないですと最後にキッパリ宣言していた。

因みに、あの託児所は今でも経営しているそうだ。

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欲求不満様。コメントありがとうございます。

これは一応フィクションですが、ネタはとある筋から仕入れたものでして……。もしお気を害されましたら申し訳ありません。

これ、本当なんですか?

本当だとしたら
虐待じゃないですか……