長編8
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お盆

私は小学生の頃、夏休みに入ると毎年田舎のおばあちゃんのところに遊びに行っていた

いつもは私と両親の3人で行くんだけど、両親が仕事で休みがとれず、その年だけ私一人で行く事になった

実家から田舎のおばあちゃんの家までは電車を乗り継いで2時間くらいかかるため、小学生の私は不安でいっぱいだった事を覚えている

田舎の最寄駅に着くと、おばあちゃんと叔母さんが迎えにきてくれていて、私が手を降るとすごく嬉しそうに暖かく迎えてくれた

私も初めての長旅が終わった安堵から、自然に笑みがこぼれていた

駅からおばあちゃんの家までは車で30分くらいかかるけど、おばあちゃん達との久しぶりの再会で話が盛り上がり、あっという間に到着した

朝早くから向かっていたので、時計を見るとまだお昼を少し回ったくらいの時間だ

さすがに夕飯の準備に取り掛かるには気が早いので、私は少し遊びに行ってくると告げ家を飛び出した

おばあちゃんの家は玄関を開けるとすぐに海があり、毎年おばあちゃんの家にくる最大の楽しみでもある

その日は波が高く、たくさんのサーファーや観光客で溢れかえっていた

いつもならお父さんとお母さんが一緒にいたので問題なかったんだけど、小学生が1人で遊ぶには少し賑やかすぎる

私は人混みを避けるように海沿いを歩いていた

だんだん人も疎らになっていき、岩場の方まで歩いて行くと誰もいない静かな海が広がっていた

ここでなら思いっきり遊ぶことが出来そうだ

よく見ると岩と岩の間に貝やイソギンチャクがくっついていて、その脇を蟹やヤドカリが歩き回っている

好奇心の塊だった私は蟹やヤドカリを捕まえることに夢中になり、時間を忘れて遊んでいた

気が付くとすっかり日も暮れていて、流石におばあちゃん達が心配すると思った私は家に帰ることにした

岩と岩の隙間を縫う様に歩いていると、人が何とか入れるくらいの小さな洞窟があった

私は好奇心にかられその洞窟に足を踏み入れそうになったんだけど、おばあちゃん達の心配する顔が思い浮かび、その日はなくなく断念した

明日は絶対にこの中を探検すると決め、そのまままっすぐ家に帰った

家に着くと玄関先でおばあちゃん達が心配そうな顔で待っていて、頗る怒られた記憶がある

その後夕飯を食べてる時、隣の家が何やら提灯のような物をぶら下げながら帰ってきた

私「おばあちゃん、あれは何?」

おばあちゃん「あれは迎え火って言ってね、ご先祖様や亡くなった人を家に迎え入れるためのものだよ」

そういえば毎年この時期になるとあんな風に提灯を持っている人達をよく見かける

私「なんでそんなことするの?」

おばあちゃん「毎年お盆になるとね、ご先祖様を家に迎え入れてお供え物をするんだよ」

私は不思議に思った

おばあちゃんの家では一度もそんな行事やったことがない

その事をおばあちゃんに聞くと一瞬表情が曇り、あんまりお喋りしているとご飯が冷めてしまうと話題を変えられてしまった

夜、叔母さんと一緒の部屋で寝ることになった私はさっきの話を叔母さんに聞いてみた

叔母さん「興味あるの?あんたにはちょっと難しい話だと思うけど...」

どうしても知りたかった私はしつこく問い続けると、叔母さんは話し始めた

この辺りの地区は昔もっと小さい集落に分割されていて、丁度おばあちゃんの家と隣の家がその境界線になっていたらしい

おばあちゃんの家がある側の集落は仏教の中でも独特な宗派だったらしく、お盆になると地獄の門が開くと言い伝えられていた

ここから先は当時は理解できなかったんだけど、あの時の話が気になって最近調べてみた

仏教に於ける盂蘭盆(ウランバナ)の行事―地獄の苦しみをうけている人々をこの世から供養する

古くからの農耕儀礼や祖霊祭祀などが融合して伝えられてきたのが日本のお盆らしい

(よくわからないね)

それが地区によって様々な形に変化して、おばあちゃんの家の地区では地獄の苦しみを受ける人々を供養=生贄って考え方だった

この地区は昔かなり閉鎖的な場所であり、周りとの交流を避けていたため、その結果自然と血が濃くなっていき、障害児が生まれてくることが多かった

今みたいに医学的に血とそれが関係してる事を知らなかった当時の人達は、その子供達を地獄の門を開く者【鬼子】とし、年に一度その鬼子を生贄として捧げる事で地獄の門を閉じると信じていた

でもいくら鬼子とは言え、生まれたばかりの赤ん坊を殺すことは精神的な負担を伴う

そこで当時の人達は海神様【ワタツミ】に子供をさらってもらう神事を行い、生贄として捧げ続けた

それが時代とともに廃れていき、今ではこの地域でお盆をやらなくなった経緯らしい

当時の私はそんなこと聞いても理解できず、なんか怖いなって思ったくらいだった

次の日朝ご飯を食べ終わった私は早々に家を飛び出し、昨日のあの場所に向かう

相変わらず賑やかな砂浜を横目に岩場に辿り着くと、また静かな海が広がっていた

あの洞窟はどの辺だったかな?

昨日は暗闇の中を闇雲に歩いて帰ったこともあって場所が把握できず、中々見つけることができない

左右を慎重に確認しながら見落とさない様に探していると、20メートルくらい先の方で一人のお爺さんが手を合わせていた

見るからに地元の人のようだ

私はこのお爺さんなら洞窟の場所を知ってるかもしれないと思いたずねてみた

私「おじいちゃん、この辺に小さな洞窟がなかった?」

お爺さんは少し驚いたような顔でこちらを振り返った

お爺さん「洞窟かい?お嬢ちゃんあの洞窟に行ったらいけないよ。あそこに入ると海神様にさらわれてしまうんだ」

当時の私には意味がわからなかった

むしろそのかいじんさまと言う言葉に好奇心が掻き立てられ、ますます洞窟の中に入りたくなってしまった

でも、おじいさんは絶対に行ったらいけない。あそこは本当に怖ろしい場所で、入ったらまずい事になるからと再三注意し、その場を後にした

さすがにそこまで言われるとだんだん怖気付きはじめた私は、洞窟に行くのを諦め帰ることにした

それからさっき歩いてきた道を戻ってるつもりで歩いてたんだけど、岩場が入り組んでいるせいか、中々出口が見つからず小一時間彷徨ってしまう

だんだん不安になってきた私はその場に座り込みしばらく途方にくれていた

俯き項垂れていると突如私の座っている岩のすぐ下に昨日の洞窟が口を開けている

あれ?さっきまでなかったはずなのに...

入るのをやめると決めていたとは言え、こうも目の前に現れてしまうとどうしても我慢できない...

私はいけないと思いつつも洞窟の中に入ってしまった

中に入ると入口の狭さとは裏腹にかなりの広さの空間が広がっていて、外の蒸し暑さが嘘のように冷んやりした空気が流れていた

奥に進むと少し狭くなってはいるけど、洞窟自体はずっと奥まで続いて、進めば進むほど狭くなっていく

そしてだんだん光も届かなくなってきた

さらに奥に進み小学生の私でもやっと潜れるくらいの小さな穴を潜るとその先には足場がなく、私は10メートルくらい下に落下してしまった

最初何がなんだかわからなくて呆然としたんだけど、落ちた場所には運良く肩に浸かるくらいまでの海水があり、怪我はせずにすんだ

周りを見渡すとそこにもまた広い空間が広がっていて、穴の空いた洞窟の天井から何本もの光が帯の様に射し込んでいる

洞窟の中に出来た天然のプールみたいになっていて、光の反射なのか水の色は青く煇き、なんとも神秘的な光景だ

私は自分専用のプールを見つけたような心境になり、それが嬉しくて時間を忘れて遊んでいた

こんな綺麗な場所が怖ろしい場所なんて理解できない

ふと気が付くとさっきまで射し込んでいた光は消え、少し薄暗くなっている

はしゃぎ過ぎて気がつかなかったけど、かなりの時間が経っていて外はもう日が落ちはじめているようだ

さっきまでの神秘的な光景が嘘のように、暗く静まり返った洞窟の中は薄気味悪いの一言につきる

私は完全に日が暮れて周りが全く見えなくなる前にここから抜け出そうと、上によじ登れそうな場所を探した

辺りを見渡すと岩が等間隔で突き出てる場所があり、そこを使えば何とか上まで上がれそうだ

私はそれなりに活発なほうで木登りとかも得意だったので、途中までは特に苦もなく上がることができた

でも上の方の岩に手を伸ばそうとした次の瞬間、突然体が重くなった...

まるで誰かが私の足を引っ張っているような感じで、中々上に上がることができない

すごく嫌な予感がした...

そしてさっきのおじいさんの言葉を思い出していた

もしかして本当に海神様が私をここから出さないようにしてるの?

それでも何とか上の岩を掴んだそのとき

広く広がる洞窟の中で、そこにいるはずもない者の笑い声が響きわたった...

赤ちゃんの声だ...

次の瞬間、誰かが確実に私の足を掴んだ感触がしてとっさに足元のほうを見てしまう

そこには私の足を掴みニコニコと微笑む青白い顔をした赤ちゃんの顔が確かにあった

よく見るとその下にも、またその横にも、そして私の顔のすぐ隣にも青白い顔の赤ちゃんがいて、ニコニコと微笑みかけている

私は恐怖のあまり心臓が破裂しそうになり、赤ちゃん達を振り払うと猛スピードで上に上がり洞窟から飛び出した

そのまま振り返りもせずおばあちゃんの家にたどり着いた私は、家に着いた途端その場で気絶してしまう

目が覚めると目の前に両親がいた

私が倒れたのを聞いて仕事を休んで駆けつけてくれたらしい

おばあちゃんが慌てた様子で私に問いかけてきた

おばあちゃん「あんた!一体なにがあったんだい!」

私は泣きながら洞窟に行ったこと、そこでたくさんの赤ちゃんを見た事を話すとおばあちゃんの顔が見る見る青くなっていた

その後私は念のためお祓いをしてもらい、両親に連れられ家に帰った

帰りの車の中でふと自分の足に目をやると赤い小さな手の後が痣のようにびっしりと残っていた

それから何年もたった今でも何事もなく私は平和に暮らしている

今になって思うのは

多分あの洞窟は自然にできた海蝕洞でずっと昔からあの場所にあり、普段は陸にあるけど満潮になると海の下に沈んでしまうんではないかと思う

私が洞窟を探して彷徨っていた時、ちょうど満潮の時間だったので発見できず、その後しばらくして私のすぐ下に突然現れたのは潮が引いたからと考えると頷ける

昔の人はこの洞窟に生贄となる赤ん坊を連れていき、その場に放置した

そしてその赤ん坊を溺れ殺すことを海神様【ワタツミ】にさらってもらうと称し、自ら赤ん坊を殺す罪悪感から逃れていたんじゃないかなって思う

もしもあの時上に上がることができず、そのまま満潮になってしまったらと思うと今でもゾッとする

そして親に愛される事もなく、生まれてすぐに殺されてしまった赤ちゃんたちの顔を忘れる事ができない

きっと誰かに愛されたくて私にすがり付いてきたんだね

そして何十年もたった今でも、母の愛を求めて彷徨ってるのかもしれない...

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