中編3
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つ け ま つ げ

昨今の女性の中ではもはや当たり前かつ必需品となった付け睫毛。

その名の通り、人工の睫毛を模した製品を糊などで自身の睫毛の生え際に付けて目元を飾るものである。

その発想はとてもではないが私のような凡人には思いつかない。

しかし加えて考えてみると、現代の科学のすばらしきことは、あんな薄く細い面積に塗られた糊のみで、あんな柔らかく薄いまぶたに長時間接着していられるということのようにも思う。

その糊は、なかなかに強力なものまで発売されているとのこと。

いやはや恐れいるばかりだ。

先日、そんな現代人の日常生活に浸透しきった付け睫毛について、少し肌寒い話を聞いたのでここに。

仮にTさんとするが、現代の女性らしくおしゃれや美に対してとても積極的であった彼女も例外なく付け睫毛を愛用していた。

元々重い一重まぶたが悩みだった彼女は、自宅でも簡単にできる二重にする技と共に付け睫毛も併用していた。

ぱっちりとした目元をつくり、自信と共に毎朝部屋を出て行く彼女の姿は眩しいものであった。

一度、美しくなる術を覚えてしまうと慣れというのは恐ろしいもので、もはやその術がないと外出が不安定になると、彼女はよくこぼしていた。

しかし彼女の欠点とも言うべき箇所があり、大変なめんどくさがりであった。

マスカラのたっぷり付いた付け睫毛も剥がしたそのまま、洗ったり取り替えたりすることもあまりなかったようだ。

それでも毎日外に出る時にはそれを付けて(元々マスカラが付いたままのため手間が省けるとのこと)ぱっちり二重にして出て行く。

友人からも、虫がわいたりして不衛生だと指摘されてはいたが、帰宅してしまうと処理は途端にめんどくさくなった。

ある日のこと。

外出先のレストランで友人とお茶をしていた時、ふと視界が狭く感じて何度かまばたきをした。

どうやら、付け睫毛が下がってきているらしい。

普段からマスカラがどっさり乗った付け睫毛だったため、糊の効力も薄れていたのだろう、接着部分が取れかかっていた。

友人に断り化粧室に入った彼女。

付け睫毛ぐらい、外しても支障はない程度に顔は整えてあったのだが。

この、マスカラだらけの付け睫毛を今外して、持ち帰るまではどうしようと、つまらないことを迷ってしまった。

付け直すには、他の化粧が崩れる可能性があるため時間がかかってしまう。

少し悩んだ彼女は、化粧ポーチからいつも常備している付け睫毛用の糊を取り出した。

うまくやればいいのだ、毎日触っているものだからそうそう失敗もしないだろう。

外れかかった付け睫毛を支えつつ、まぶたのすぐ真上で、糊を直接付け睫毛に塗布しようとした。

「ぎゃっ!!」

妙な体勢で垂らした糊はまぶたから眼球に垂れ、反射的に彼女は目を閉じてしまった。

ものすごい痛みと熱さに、閉じたまぶたの中で目玉がぐるんぐるん動こうとしているのがわかったが、その動きもどこか引っかかりがあるようで、それが更に痛い。

あまりの痛みに悶え苦しんでいると、帰りが遅いことを心配した友人がやってきて彼女を見つけるなり、急いで処置しなくてはと、水道の水を出して目を洗うよう言った。

水で流せば目も開くだろうと、とにかく糊でくっついたまま閉じて居るのはよくないと。

彼女はされるがままに片目を水で流すと、冷やされて感覚が鈍ったのか痛みがひいたように感じた。

心配そうに労わる友人に促され、そっと目を開けた。

べりべりべりっ。

嫌な音がして、その瞬間、彼女の視界は片方が暗転した。

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