長編12
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鬼ごっこ【コピペ】。

これは学校の七不思議の一つです…

「廃校…?うちらの学校が?」

高校からの帰り道。私はアイスを片手に驚きの声を上げた。私達が通っていた小学校が、ついこの間廃校になったという噂を聞いたからだ。

「まぁ、分かるけどね~」

「ボロかったもん」

加織と利歩が揃って頷く。確かにそうだ。あの小学校は築60年と言われており、今時珍しく木造だった。というより、長いこと建て替えをしておらず、ほぼ建築当初のままなのだ。

「おせーぞ、愛美!早くアイス寄越せよ」

「あ、嗚呼…。ごめん」

私はベンチに腰掛ける玖美にアイスを手渡した。玖美に買ってこいと命じられていたのだ。

「今から行こうよ、小学校!」

アイスを食べながら、玖美が唐突にそんな提案をした。玖美はいつもそう。思い立ったら後先を考えずに行動するタイプなのだ。

「いや…」

「もう暗いし…」

加織と利歩がやんわり牽制するも、玖美は引かなかった。

「いいじゃん!肝試しだって!…何?文句ある?」

ギロリと睨まれ、2人は慌てて首を振った。玖美を怒らせると後々大変だということを熟知しているからだ。勿論、この私も知っている。

玖美に逆らうということは、教室から自分の居場所がなくなることなのだ。

「でしょっ!決まりっ!」

玖美は上機嫌になって笑いながら、先陣を切って歩き出す。私達は気乗りしないまま、仕方なく玖美の後に続いた。

ーーーでも……

小学校だけには来てはいけないと……

気付くべきだった……

辺りはすっかり日が暮れかけていて、黄昏時というに相応しい時間帯だった。

薄い闇の中、黒々と聳え立つ木造3階建ての校舎は、あちらこちらが傷んでおり、蔦が壁に生い茂り、不気味な風格を醸し出している。

「なっ…中に入るの?」

恐る恐る玖美に尋ねると「当たり前でしょ」とぶっきらぼうに言われてしまった。幾ら慣れ親しんだ校舎とはいえ、こんな時間に足を踏み入れるのは気が進まない。それに廃校になったとはいえ、勝手に入ったらは不法侵入になるのではないだろうか。

「!?」

その時、2階の窓に人影らしいものがスッと歩いているのが見えた。

「いっ…今!窓っ…!」

「うるっさいな、行くよ!」

玖美は本気で中に入る様子だ。まさか中に入ることまでを想像していなかった加織と利歩も、不安そうに校舎を見上げた。

「ホントに入るの…?」

「マジかよ…」

沈んだ声で言い合いながらも、2人はか玖美のあとに続いて歩いていく。私も慌てて3人のあとを追った。

昇降口の扉を開け、中に入る。キィィィィ…と軋む音が嫌に耳に付いた。

中の空気は外とは打って変わったようにヒヤリと冷たく、また湿っぽい感じがした。

廃校になってからは手入れがされていないらしく、床には埃が舞い落ち、壁は煤けている。

「もう充分でしょ?出ようよ」

おろおろしながら玖美に話し掛ける。だが玖美はまだまだ校舎内を散策したいらしく、不機嫌な顔になった。

「何でよ。来たばっかじゃん」

「だってここは…『マリ』のことがあった場所だよ…?」

『マリ』と聞いた途端、加織と利歩はギクリと肩を震わせた。

思い出したくもない、あの忌まわしい事件ーーー記憶の隅に追いやった筈の記憶が、ゆるゆると思い起こされていく…。

「ねっ?だから帰ろう?お願いだから…」

「ったく…。さっきからウザい奴だな!いつまで昔のこと気にしてんの?」

「だって…」

「ーーーそうだ。だったら『鬼ごっこ』してみようじゃん。スリル満点の肝試しになるよ」

鬼 ご っ こ……?

「洒落にならないって、それ…!」

「ヤバいよ、止めようよ…」

加織と利歩も流石に玖美を止めた。この学校で、このメンバーで、しかも『鬼ごっこ』をやるなんて……。幾ら玖美の提案とはいえ、それだけは出来ない。

『マリ』のこともあるのだし……。

「いいからやるんだよ!分かった!?」

玖美が声を荒げ、廊下の隅に置かれた机をガツンと蹴り飛ばす。その迫力に私達は了承せざるを得なかった。

「鬼は愛美な!」

「えっ…!」

「あんたのせいで盛り下がったんでしょ!」

「はっ、はい…」

「10数えたら追ってきていいから。んじゃね~、鬼さん♡」

アハハと笑いながら玖美は廊下を駆け出す。加織はそのすぐあとを追い、利歩は「頑張ってね」と苦笑いしながら走っていった。

1人残された私は、壁に額を付け数を数え出した。

「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく……」

暗い廊下を自分の声が反芻していく。湿っぽい空気がジトリと肌に絡みつき、背筋が寒くなってきた。

「もう駄目…!耐えられない!」

帰ってしまおうか。でも勝手に帰ったら、玖美が怒るだろうし…。どうしよう…

「そうだ、お腹痛いとか言って…」

仮病を使うのは狡い手だと思ったが、もう構っていられない。私は鞄から携帯を取り出すと、玖美にメールを送ろうとボタンを押した。

タタタタタ…ッ

背後から聞こえる足音に、ビクリとして振り返る。

そこには息を弾ませた利歩が立っていた。

「利歩!脅かさないでよ~」

「それはこっちの台詞だよ。だって、愛美は私を後ろから追い掛けてたのに、いつの間に先回りしてここに来てたの?」

「わっ、私、利歩のこと追い掛けてないよ?」

「えっ…?嘘、そんなはず…」

狼狽える利歩の背後から、やはり息を弾ませた人物がひょこっと現れた。加織だ。

「加織!」

「あれっ、おかしいな…」

加織は不思議そうな顔をして、私を見る。

「向かいの校舎から人影が見えたから、こっちに来たんだけど、あの影、愛美じゃなかったの?」

「違うよ!私、全然動いてないもん!」

私達は互いに青ざめた顔を見合わせた。

利歩を追い掛けてきた人物…

加織がま見たという人影…

嫌な胸騒ぎが脳裏を掠めた。

「これって、やっぱり…」

「玖美を呼んで、もう帰ろう…」

玖美を電話で呼び出し、私達は廊下の隅に固まってこれまでの経緯を話し終えた。

「追い掛けられた…?」

「私も人影みたいなの見た…!」

「ホントなんだって!ここ…、やっぱりいるんだよ!私達4人以外にーーー」

5 人 目 が 。

利歩の言葉に、一瞬その場は静まり返った。だが、果敢にも玖美はそんな利歩に食って掛かった。

「馬鹿じゃないの?誰だよ、その5人目って…」

「『マリ』だよ…」

利歩の顔は暗闇でもハッキリ分かるほど、血の気が失せて真っ白だった。恐怖のためか、声が変な風に上擦っている。

「マ リ の 霊 だ よ 」

ーーーそれは遡ること6年前……

私達が小学5年生だった頃……

玖美と加織、利歩と私はいつも4人でつるんでいた。仲が良かったというより、女王様気質の玖美につき従っていた、という表現の方が正しいかもしれない。その関係は、まるっきり今と同じだ。

玖美は気が強く、苛めっ子だった。玖美がいつも目を付けていたのは、『マリ』というグラスでも大人しめの女の子だった。

主犯となっていたのは玖美だったが、加織や利歩も玖美に命令されるがまま、マリを苛めていた。

私は直接は手を下さなかったけれど…。玖美が怖くて知らないフリをしているだけだった。

見て見ぬフリをしていた。

ずっとずっと……

あの日ーーー放課後になると、マリが涙ながらに玖美に訴えにきた。苛められていることを、ひたすら隠して耐えてきたマリだったが、ついに限界を迎えたようだ。

「お願い!もう止めて!」

涙をポロポロ零しながら訴えかけるマリの姿に、私と加織、そして利歩は怯んだ。マリに対する罪悪感も加わり、気まずく黙っていると、玖美がこんなことを言い出した。

「じゃあ、こうしよう。鬼ごっこするの。マリが鬼になって、全員捕まえることが出来たら、もう苛めないよ」

「ホント?約束よ!」

それまで泣き顔だったマリの表情がパッと明るくなる。マリは嬉しそうにしていたが、私は何だか素直に喜べなかった。

「愛美」

すれ違い様、玖美が私の耳元で囁く。

「…すぐ捕まるんじゃねーぞ」

その言葉が何を意味するのか、私には瞬時に悟った。事を穏便に済まそうなんて、考えが甘かったのだ。

鬼ごっこはすぐさま開始され、私達は校舎内を逃げ回った。校舎は意外と広く、おまけに3階建てである。隠れようと思えば隠れる場所などたくさんあったし、そもそもマリはあまり足が速い方ではない、

当時のマリが私達4人を捕まえられる可能性は零に等しいものだったのだ。

それでもマリは必死だった。息を切らせ、足をもつれさせながらも一生懸命走って、私達を捕まえようと躍起になっていた。

マリに見つかったのは、私が1階の踊場で足を止めた時である。呼吸を整えるため、休憩していると、必死な表情のマリがいつの間にか階段の下まで来ていたのである。

「愛美!」

マリの声にハッとする。マリはもう階段を半分ほど上がってきていた。私は踵を返し、上の階へと走った。

「逃げないで!私、もう苛められたくないの…」

泣き出しそうなマリの声を背中に受けた。

可哀想な気もしたが、私は自分自身のことで頭が一杯だった。

ごめん…

私も捕まるわけにはいかない…

すぐ捕まれば…

次 は 私 が 苛 め ら れ る!!

走って走って、2階の踊場まで来た時だった。マリの足音がパタリと止み、その姿さえも見えなくなっていたからである。

「マリ…?」

追ってこないマリを心配し、そろそろと様子を見に行った。

マリはーーーいた。

階段の下で俯せに倒れていた。

夥しい血が流れ、マリはピクリとも動かなかった。

慌てて階段を上がっていく際に、足を踏み外して落ちてしまったらしい。

私の喉からは、つんざくような高い悲鳴が上がった……

「馬鹿言うな!霊なんかいるか!」

それまで押し黙っていた玖美が声を荒げる。しかし、利歩は切羽詰まったように喚き出した。

「でも私達…マリに怨まれても仕方ないことした…!もしかしてマリはまだ鬼ごっこを続けてるんじゃない?きっと今も、私達を捕まえる気でーーー」

ヒタヒタヒタ……

利歩の声を遮るように、小さな足音が近付いてきた。まるで忍び足をしているかのような、こちらにその存在を知られまいとしているかのような……そんな足音だった。

ハッとして私達は廊下の奥に目を向ける。足音は確かにそちらから聞こえてきたのだ。

「誰だよ…」

玖美が震える声で呼び掛ける。

「誰だ!!出てこい!」

ヒタ…ヒタヒタヒタ…ヒタ

「見 つ け た……」

あどけない女の子の声が聞こえたかと思うと、廊下の奥からゆらりと影が伸びた。ツインテールの毛先を揺れているのが分かる。マリのチャームポイントとも言える髪型だった。

キャアアアアアアアアア……

誰が叫んだ悲鳴か分からない。しかし、その声を合図に私達はその場から走った。

「いった…」

鈍い私は躓き、その場に倒れ込んでしまった。痛がる余裕もなく立ち上がると、3人の後ろ姿が遥か遠くなっていくところだった。

「待って……!」

※※※※※

玖美は立ち止まって後ろを振り向いた。今し方まで一緒にいた筈の3人の姿が見えない。

「クソ…。あいつら、どこ行った?」

いつもは威張り散らしている玖美だったが、1人になると急に心細くなってきた。いつだって強気でいられるのも、加織や利歩、そして愛美といった仲間がいるからこその虚勢なのだ。

辺りを見渡すが、誰もいない。暗い廊下に1人ポツンと佇む自分がいるだけだ。

玖美はポケットから携帯を取り出すと、加織に電話を掛けた。

プルル…プルル…

数回のコール音の後、相手が出た。

「もしもし…」

「あっ、加織?」

ホッとして友の名を呼ぶ。しかし、電話口から聞こえてきたのは、あどけない少女のものだった。

「捕 ま え た」

玖美の手からカシャンと携帯が滑り落ちる…。

※※※※※

「嘘ー、はぐれた?」

加織は唸った。確か、玖美のあとを追い掛けてきたはずだったのに。いつの間にかはぐれてしまったようだ。

必加織は今、階段の踊場にいた。ふと耳を済ますと、ギシギシと階段を踏み鳴らす音がする。

「誰!?」

ギシ…ッ…ギシギシ…ギシ……

「く、玖美…?」

返事はない。足音はゆっくり近付いてくる。

「…利歩?愛美…?」

声が震えているのが自分でも分かる。笑いたくなんてないのに、口元の筋肉がピクピク痙攣し、口角が吊り上がった。

ギシ……パキッ……

「そんなっ…」

※※※※※

人一倍臆病な利歩は、半泣き状態だった。

「皆…どこ…?」

教室が並ぶ廊下を歩きながら、利歩はキョロキョロと辺りを見回した。だが、見知った友人達からの応答はない。

「もう1人はいやーっ!」

「利歩…」

すぐ近くの教室から細い声が自分を呼んだ。ふと見やると、扉から白い手が覗いており、手招きをしている。どことなく愛美である気がした。

「愛美…?良かった!もう離れないでね」

ガラリと教室の中に入る。中には乱雑に置かれたままの机と椅子で散らかっており、人影は見当たらない。

「あれ…?」

その時、利歩は後ろに誰かが立っている気配を感じた。

※※※※※

どこをどう走ったかなんて覚えていない。階段を上がったり下がったり、廊下を全力疾走したりを繰り返し、漸く私は昇降口に辿り着いた。

乱暴に扉を開け、外に出る。後ろを見るが、誰も追い掛けてはこないようだ。

「やった…。私、逃げ切ったんだ…」

ハーッと息をついた。こんなに走ったのはいつぶりのことだろう。まだ心臓の鼓動が治まりきらない。

一呼吸置いて顔を上げる。そういえば、玖美達はどうしたのだろう。まさかまだ校舎の中にいるのだろうか……。

そこまで考えたが、被りを振った。運動音痴の私がこうして逃げられたのだ。玖美達は私よりずっと運動が出来るし、きっともう逃げ切ったのだろう。

そしてそのまま、家に帰ったのだ。きっとそうだ。

皆はきっと大丈夫……。

大丈夫だよね……

私は何となく後ろ髪を引かれながらも、家路についた。

家に帰ると、両親はいなかった。テーブルの上には「2人で出掛けてきます」というメモが乗っていた。

やれやれ、仲がよろしいこと。そんなことを思いつつ、私はソファーに寝そべった。

プルル…プルル…プルル…プルル…

電話のコール音にハッとして目が覚める。どうやらうたた寝をしてしまったようだ。

眠い目を擦り擦り、電話を取った。

「…ハイ?」

「あっ、光森さん?担任の笹山だけど。遅くにごめんなさいね」

電話を掛けてきたのは、クラス担任の笹山先生だった。普段はおっとりした先生の、妙に固く強張った声に、私も不安を煽られていく。

「どうかしたんですか」

先生は「ちょっと言いにくいんだけど」と前置きをして話始めた。

「さっき、警察から電話があって……、仙田さんと中越さんと野々村さんが亡くなったそうよ……」

仙田玖美。中越加織。野々村利歩。

3人がーーー亡くなった……?

「なっ…、なん…で…?」

「閉鎖された小学校の階段下で遺体が見つかったそうよ……。3人とも足を踏み外して落ちてしまったらしくて……」

先生の声はだんだんと涙声に変わっていった。

「光森さんは仙田さん達と仲が良かったでしょう?どうして閉鎖された小学校に行ったかなんて聞いていないかしら」

「いいえ…。知りません」

唇が乾いていく。煩いくらいに高鳴る心臓を押さえつけ、なるべく平成を装って答えた。先生もそれ以上は追求してこず、どちらからともなく電話は切られた。

マリがやったの…?

玖美も加織も利歩も、マリに捕まってしまった……?

「ーーー私も…」

あのまま、校舎に残って鬼ごっこを続けていたら。3人と同じ目に遭っていたんだろうかーーー

「良かった…逃げられて…」

あ市の力が抜け、へたりと座り込んだ。3人の死を悼むよりまず、自分の身の安全を知って安堵した。

ヘタすれば、私だって死んでいたのだ。

すると、玄関の扉がカチャリと開いた。私は両親が帰ってきたと思い、嬉しくなって出迎えにいった。

「もーっ、留守番させるなんて酷いよー。ずーっと待ってたんだからーっ。おかえりなさいっ」

「捕 ま え に き た よ……」

ーーーマリが鬼になって

『全員』捕まえることが出来たら

もう苛めないよ……

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端美豆様。コメントありがとうございます。

私の好きな言葉は幾つかあるのですが、その中の1つに「人を呪わば穴2つ」もあります。

因果応報。やられたらやり返されるもの。
善いことにしろ、悪いことにしろ、全て自分自身に返ってくるのですよね。

死んでしまうのはどうかと思うけど、イジメの果ての自業自得だと思う…

イジメはダメです!

人の痛みを知る人間でいましょう!