中編6
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花束と靴と

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 これは、娘がバイトをしているお店の常連さんが実際に体験したお話です。

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 僕は実家を離れ、会社員として日々営業で忙しい日々を送っています。

それでも実家へは、今アパートを借りて住んでいる所から、高速を使って車で片道2時間半くらいの場所だし、父が一人で暮らしているのでほとんど休みの度には帰るようにしています。

 明日が休みなので、今日も実家への道を一人で車を走らせていました。

実家へ帰る道、何度も何度も通った、通い慣れた道には途中トンネルがあります。

さほど長くない、何の変哲もないトンネルです。。

そのトンネルに入ろうとした時、ふと入り口の左側に花束が置いてあるのが目に入りました。

(誰か事故で亡くなったのかな?)

何度も通っているのに、今まで全然気が付かなかったのが不思議な気がしましたが、その日はそのまま通り過ぎ実家に帰りました。

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 それからは、帰る度にそのトンネルの入り口には花束が置いてありました。

何回も、何回も、通るたびにその花束が目に飛び込んできます。

 それがどれくらい続いた後だったでしょうか?

(今日も花束があるのかなあ?)

と思いながらそのトンネルに差し掛かると

(やっぱり、花束あったな)

そう確認してもう一度入り口を通過する時に助手席側の窓から外を見た時

(!)

その場所に見えたのは靴・・・しかも片方だけ

(どうして片方だけ?)

一瞬見えたそれは、黒い革靴のようでした。

どういうわけか、僕にはそれが女の人の靴のように思えてなりません。

黒い革靴なので、男物かもしれないのに、なぜか女の人の物だと思えたのです。

トンネルの入り口に片方だけの靴。

とても奇妙な光景は、僕の脳裏に焼きついて離れませんでした。

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 その次に帰った時も、トンネルの入り口には花束と片方だけの黒い靴がありました。

先回帰った時から気になっていたので、今度はもっとしっかりと見ました。

黒い靴は細身で、サイズもやはり女物のようでした。

(やっぱり、女の人がここで・・・)

僕の中には、女の人がここで事故にあっているのではというストーリーができ始めていました。

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 その後も実家に帰る度に何回もその光景を目にしました。

が、ある時そのトンネルを通過する時、声が聞こえてきました。

女の人の声です。

何て言っているのかはわかりませんが、とにかく女の人が何かしゃべっている声です。

(えええっ、何だ?)

と思っているうちにトンネルを抜けました。

トンネルを抜けるともう声は聞こえてきません。

それから、何回も何回も、通るたびに女の人の声が聞こえて来ました。

(こんなに何回も女の人の声が聞こえるなんて、ひよっとしたらその女の人の遺体は見つかってないんじゃないのかな?)

僕はそうに違いないと思い

(それなら、警察に言いに行かなくちゃいけないよ。でも、何の証拠も無けりゃ、警察だって相手にしてくれないだろうなあ?)

そこで僕は、この声をビデオに撮ろうと考えました。

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 その次に帰る時、僕はトンネルを通過する時にビデオを撮りました。

案の定、今回も女の人の声が聞こえてきました。

帰って再生してみると、バッチリ女の人の声は入っていました。

ただ、姿は全く見えません。

それでも、何らかの証拠にはなるはずだと思い、次の日、僕は警察に行きました。

 地元の警察署に行ったところ、窓口には誰もおらず、どうしたもんかなあ?と僕は考え

「すみませ~ん」

と奥に向かって声をかけました。

すると、すぐに奥から一人の警察官が出て来ました。

「はい、どうされましたか?」

そう聞かれ、何から話すかな?と迷いましたが

「実は、○○のトンネルのことなんですが、その入り口に花束が置いてあって・・・」

と今まであったことを僕は順を追って話しました。

「それで、声が聞こえてきたので、ひょっとしたら女の人の遺体がまだその近くにあって見つかってないんじゃないかと思ったんです。でも、何の証拠もないとと思ってビデオで撮ったのがこれなんです。」

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そう言って僕は持ってきたビデオをその警察官に渡しました。

警察官はビデオを再生し、確認したところ

「なるほど、確かに女の人の声が聞こえますね。」

「やっぱり、聞こえるでしょ?」

「うんうん、じゃあこれからそのトンネルに行ってみましょう」

「良かった、よろしくお願いします。」

僕はその警察官の対応にホッと胸をなでおろし、いっしょにトンネルへと向かいました。

車から降りてトンネルの入り口から中へ入るとやはりトンネル内で女の人の声が聞こえて来ました。

警察官は

「確かに聞こえてますね。警察としても証拠としてビデオを撮っておきますね。」

と言い、持参したビデオカメラで撮影し、再生するとやはり女の人の声がそこに聞こえていました。

「それでは、この件は署に帰って本官が調べてみます。あ、本官は桜田と言います。何かわかったらお知らせします。また、何かありましたらご連絡下さい。」

そう言って、桜田さんという警察官は去って行きました。

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その後からは、何度そのトンネルを通っても女の人の声は聞こえなくなりました。

時々花束は置いてありましたが、女の人の靴も見えなくなりました。

その後、何回も実家へ戻ってきましたが、警察からは何の連絡もありませんでした。

2~3ヶ月たっても、全く連絡が無かったためさすがに僕は

(どうなってるんだ?なしつぶてか?)

とむかつき始め、ある日警察署に行ってみました。

警察署に入ると、今度はちゃんと窓口に女性がいたので

「すみません、○○地区の担当の人お願いします。」

と言い、待っていると奥から警察官が出てきました。

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「はい、○○地区担当の井上です。どうされましたか?」

初めて会う警察官に、僕はとまどい

「桜田さんはいらっしゃいますか?」

「桜田という者は、この署にはいませんが・・・」

(???いないって、何言ってるの?)

井上という警察官は自分をからかっているに違いないと思い

「そんなはずは無いです。3ヶ月くらい前に相談に来た時、桜田さんが一緒にトンネルまで来てくれてビデオまで撮っていったんですよ。何か調書とかビデオとかあるでしょ?」

と僕は思わず声を荒げてしまいました。

僕のその剣幕にその警察官は驚きながらも、しばらく考え込んで口を開きました。

「・・・・実は、その桜田は5年前に亡くなっているんです。」

「え?そんな馬鹿なっ、僕は確かに桜田さんと話をしたし、一緒にトンネルまで行ったし、亡くなったなんて信じろって言う方がおかしいですよっ」

僕は、まるで狐に摘まれたようなありえない話に怒りしか湧いてきません。

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ヒートアップする僕に向かって、まあまあ、落ち着けと言う様に両手を下向きに押さえるような仕草をしながら、冷静に僕の顔を見つめる警察官が

「実はそのちょっと前に、あのトンネルの近くで奥さんがバイク事故で亡くなったんですよ。」

と静かに話し始めました。

(え?奥さん?)

僕は息を呑みました。

「桜田さんの奥さんのバイクと靴だけが○○トンネルの入り口付近に転がっていたので、事故だということで通報が入ったんですが、夕方ということもあって肝心の奥さんがなかなか見つからなかったのですよ。桜田さんは、一旦我々が引き上げた後も奥さんを探すために個人的に現場に行って探していたところ、車にはねられて亡くなってしまったんです。その後奥さんの遺体も近くから見つかりました。」

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 警察署を後にした僕は、初めて幽霊と呼ばれる存在を見てしまったことが怖くて怖くて、一目散に家に戻り、父に話さないではいられませんでした。

「お父さん、実は僕すっごく怖い体験したんだよ。」

と父の顔を見るなり、今までの経過を怒涛のように話しました。

トンネルの入り口の花束や片方だけの靴。そして、にわかには信じられない亡くなっていた警察官のこと。

それを聞いていた父は

「確かに桜田さんっていう警察官は5年前に亡くなったよ。実はお父さんのツーリング仲間だったんだ。」

「ええ?そうだったの?」

「奥さんも時々一緒にツーリングに参加してたんだよね。」

そこで僕の脳裏には黒い片方だけの革靴が浮かびました。

最初見た時になぜか女物と感じたそれは、バイクに乗る時に奥さんが履いていたものに違いないと確信したのです。

「二人が一度に亡くなって、寂しくて悲しかったなあ。」

父の寂しそうな顔を見ていると、さっきまで怖いだけだった出来事が物悲しく感じるようになっていました。

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テイラー様、コメントありがとうございます。
きっと、これは「僕」のお父さんへの、この二人の想いの強さなのではと思っています。
二人の想いを想像すると、本当に切ないですね。

なんだか切ない話ですね((((;゜Д゜)))