中編4
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首。【姉さんシリーズ】

俺には4つ年上の姉がいる。フランス最大の悪女と謳われたマリー•アントワネットも真っ青な悪女ぶりを発揮する姉さんだ。

「私の物は私の物。お前の物は私の物。お前は私の物」などど、弟に向かって声高らかに宣言している時点で、相当な変わり者である。高校では品行方正で、成績優秀な模範的生徒で通っているらしいが……あれは絶対猫を被っている。1度でいいから、姉さんのクラスメートや教師軍に、本来の姿を見せてやりたい。

そんな猫被りな姉さんだが……実は、只の二重人格者ではない。

「見える」のだ。この世ならざるモノが。アヤカシが。怪異が。

怪しなりて、異なるモノが、見える。

また、簡単な御祓いくらいなら可能らしく、姉さんの自室には赤い梵字が書かれた御札やら御神酒やら清めの塩が入った壺などが所狭しと並べられている。年頃の高校生の部屋にしては、かなりシュールなものだ。

かくいう俺自身も、姉さん程ではないが、色々と奇妙な体験をしている。洒落にならないくらいの危ない目には何度も遭遇しているが、今から話すのもその中の1つ。

非日常が日常となってしまっている可哀想な俺の話を、どうか聞いてほしい。

それはある麗らかな土曜日に起こった。特に何の予定もない俺は、部屋でゴロゴロしたりリビングでテレビを見たりしていた。

その内トイレに行きたくなり、立ち上がった。廊下の突き当たりにあるトイレに入り、用を足し、ふと前にある窓を見る。

「ん?」

トイレの窓に、何やらおじさんの生首がへばり付いているのが見えるんだが……。うん、何度見てもおじさんの生首だ。胴体はなく、朱を塗りたくったように真っ赤な顔をしたおじさんの生首が、空中にボゥッと浮かんでいる。

最近の幽霊は丑三つ時じゃなくて、昼間から出勤か。すげーな。土曜日なのに御苦労様。などと、あることないこと考えていたら、おじさんはカッと口を開け、窓をすり抜けてトイレに入ってきた。

「ッ……、ギャーアアアアアアアッ!!」

おじさんにアップを突き付けられ、俺は悲鳴を上げてトイレを飛び出し、2階に駆け上がった。

「姉さん姐さんお姉様開けて!知らないおじさんか不法侵入してきた!生首のまま!トイレから!」

早口でまくし立て、乱暴に部屋をノックすること数回。カチャリとノブを回す音がして、姉さんがひょっこり顔を出した。

「ッ……、ギャーアアアアアアアッ!!」

姉さんの頭に付いている物を見て、俺はまた絶叫した。姉さんは白い猫耳が付いたカチューシャを付けていたのである。しかもセーラー服で。因みに、姉さんの通う高校の制服はブレザー。

「何だよ、化け物でも見たような顔しやがって。失礼な奴だな、お前」

「だって、そんな格好してるから……。どうしたの。変な店でバイトでもすんの?」

「違うよ、莫迦。ほら、お前が喜ぶかなーって思って。通販で買ってみた」

姉さんは招き猫のように手を丸めると、無表情で「にゃんっ」と言った。その仕草は可愛らしいが、無表情なので、あまり萌えない……じゃなくて!そうじゃない!

「そんなことより御札貸して!悪霊を退散させる効果があるヤツ!」

俺は姉さんの脇をすり抜けると、部屋の中に入った。あちこち引っ掻き回し、漸く見つけた御札の束を抱え、再び部屋を飛び出した。

その御札を1枚ずつ各部屋に貼り付けていく。トイレは勿論、バスルーム、リビング、俺の自室、両親の寝室……部屋の壁にベタベタと貼り付け、余った物は廊下の壁や窓、玄関の扉にも貼り付けた。

「これで……よし!」

最後の1枚を貼り終え、額の汗を拭う。これでおじさんの生首幽霊は、この家に入ってこられまい。そういえば、さっきから見当たらないしな。

リビングで一息ついていると、いつの間にか姉さんが俺の傍に来ていた。猫耳とセーラー服は着たままだ。両親が不在で良かったと、俺はつくづく安堵した。

「お前……何してんの?」

姉さんは訝しげな顔をして、御札が張り巡らされたリビングを見渡す。俺はどんなもんだと胸を張りながら誇らしげに言った。

「見れば分かるだろ。家の中に潜む悪霊を退散させたんだ」

「悪霊を退散させた?こんな御札の貼り方しといて、何言ってんだ」

「え?だって、これだけ御札貼れば悪霊だって家の中に入ってこられないんじゃん?」

「……あのなぁ」

姉さんは呆れたように呟くと、壁に貼られた御札を1枚剥がした。

「確かに御札は結界の意味合いを持つが、たくさん貼ればいいってもんじゃない。貼っていい枚数も決まっているし、御札を貼る正式な手順も踏んでないだろ」

続けて、極めつけの爆弾発言を容赦なく投げかけた。

「家のあらゆる箇所に御札が貼られたせいで、この家の中に入ってきちまった霊が外に出られなくなってる。家自体が一種の強力な結界になったんだ。お前の背中に貼り付いてる生首も、外に出られないって喚いてるぞ」

……俺は着ていたTシャツを破く勢いで速攻脱いだ。

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*chocolate様。コメントありがとうございます。

姉さん、お茶目になりましたね(笑)。シリーズを重ねていくうち、どんどんキャラ設定がおかしくなってきております(笑)。

因みに。私は霊感など微塵もないのですが、オカルト好きな性格なため、今さっきホラー小説を三冊も購入してしまいました(笑)。

お話が増えるに連れて、お姉さんのキャラが大変な事に...www
最初の無口で近寄り難い雰囲気からは、想像も出来ない程、お茶目になりましたね( ゚∀゚ )w

弟さん...Tシャツ脱いだだけでとれてるといいですが...www

最近お姉さんシリーズのお話が沢山出ていて、怖話を見るのが凄く楽しみです(*/ェ\*)

次作も楽しみに待ってます(*´ω`*)

端美豆様。コメントありがとうございます。

喜んで頂けたようで、私もとても嬉しいです(笑)。実は姉さん、コスプレ好きでもあるようです。

このまま、イケない方向性に進んでしまいそうですが(笑)、ギリギリの地点で押し止め、何とか健全な作品にしたいです。

いつもありがとうございます。

ヒャハハハハハッ!
ネェさんヤヴァイ!
無表情のにゃん♡の方が生首より怖いw

どんだけ弟君が好きなんだろう?
ワタクシ違う妄想をソロソロしてしまいますw

そんな意味で…萌えぇ〜♡

あぁ〜w
ネェさん可愛いなぁ〜(◍›◡ु‹◍)☆

死ん様。コメントありがとうございます。

姉さんの意外な性癖がバレてしまいました(笑)。これで外出しようものなら、即座にお縄でしょうね(笑)。

私なら猫耳より犬耳のほうが萌えますね。

斧落様。コメントありがとうございます。

シリーズを読んで頂いていらっしゃるとのことで。大変嬉しく思います。

姉さんは私の理想像の表れなんです。サバサバしていて物怖じせず、明暗がハッキリした性格に仕立てたくて(笑)。私とはまるで正反対にしたかった(笑)。

どうぞこれからも宜しくお願い致します。

姉さんたのむから
そのカッコウで外は出ないでくれ。
ここに居られなくなるから。
ついでに、霊も居られなくなるかも

姉さんシリーズ、毎回楽しく見させてもらってます。
毎度のことながら、姉さんがサバサバしていてカッコいいですね。話もテンポが良くて読みやすいです。
これからも陰ながら、応援していきます。