フラッシュバック【オヤジ】

中編4
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フラッシュバック【オヤジ】

music:4

父は仕事中、機械に巻き込まれ左腕を失った。

父は、心に大きな傷を負うことになった。

そして、ある事に悩まされていた。

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フラッシュバックという現象をご存知だろうか。

強いトラウマ体験を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様に夢に見たりする現象。

心的外傷後ストレス障害や急性ストレス障害に顕著である。

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父はフラッシュバックに悩まされていた。

父の場合、自分の腕をミンチにした機械の前に行く度に、とてつもない不快感と共に自分の腕が機械に刻まれていく様を鮮明に思い出してしまうという。

酷い時には、夢にまで見てしまう有様。

「痛い痛い痛い、、、返せ、返せ、返せ、俺の腕、、、返せ!!」

「返せ!!!!」

そして、

目覚めた父は、後悔の念に押し潰されそうになり、とても苦しんでいた。

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あの頃のことを思い出すと今でも心が痛む。

身体が元気になっても、心の傷はそう簡単には癒えないのだ。

そんな状態では、まともに仕事をこなすこともできず、働くことを父は諦めた。

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労災金と退職金で、まとまったお金が出きた父は、第二の人生を歩むのも悪くないなと、マイホームを購入することに踏み切った。

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この時は、これで父が元気になってくれると信じていた。

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ーーーーこれが、全ての始まりだった。

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引越しも終わり落ち着いた頃、父が家庭菜園を始めたと、母から聞いた。

父は、昔から家庭菜園をする事が夢であった。

土いじりは心を癒すのに良いと何処かで聞いたことがある。

この頃から、父はフラッシュバックを見なくなった。

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3週間程たった頃、

父から大きくなった野菜を見に来いと呼びれた。

俺はとても嬉しそうなに話す父を見て、本当に心の傷が癒えたんだと、一安心した。

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俺は野菜に引っ付いた青虫を見つけた。

そして、殺そうとした。

「殺すんじゃない」

父から思いもよらない事を言われビックリした。

「なんで殺さへんねん?」

「お前はアホか。虫は旨い野菜しか食わへんのや。コイツらは俺が作った野菜を旨い言ってくれるやで、殺すなんてとんでもないわ」

俺は、なるほどと納得した。

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父が片手の生活に慣れるまでの間、週末は父の世話をするために実家に帰っていた。

父は相変わらず庭に行き、農作業している。

いつからか、父に異変が起き始めた。

いつもなら、庭から帰ってくると、真っ先に野菜の育ち具合などを話して聞かせてくれた 。

しかし最近は、ただ一人でブツブツと独り言を言っている。

その頃から、父が庭に行くと庭の方から変な音が聞こえるようになった。

カン!

カン!

カン!

嫌な音が鳴り響く。

そういうことが、しばらく続いた。

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今日も父は庭に行き、畑の手入れをしていた。

カン!

カン!

カン!

今日も聞こえる。

嫌な感じがする。

何というか、とにかく嫌な感じ。

戻ってくると、やはりブツブツと独り言を言っている。

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何を言ってるのか気になり、気付かれないように近づいて、耳を澄ました。

俺は後悔した。

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music:2

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「返せ、返せ、返せ、返せ、返せ!!」

「返せ、返せ、返せ、返せ、返せ!!」

「返せ、返せ、返せ、返せ、返せ!!」

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父はまた、フラッシュバックに悩まされていた。

なぜ今になって。

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父がこんな事になったのは、いつも聞こえてくる【あの音】に関係があるんじゃないかと考えた。

そして、その疑いを確信に変えるため、庭での父の行動を確かめる事にした。

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そして次の日、

チャンスが訪れた。

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俺は気付かれないように、庭に向かう父の後を付けた。

カン!

カン!

カン!

やはり聞こえる、、、、

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カン!!

カン!!

カン!!

段々と音が大きくなる。

そして、そこの角を曲がれば父の姿が見える所まで来た。

父は何かを言っている。

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music:3

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

父は完全に壊れていた。

意を決した俺は、父の方を覗き込んだ。

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父は、狂ったように庭の岩をシャベルで叩き続けていた。

カン!!!

カン!!!

カン!!!

その姿は異様な光景だった。

父は、何度も何度もシャベルを叩き付け、シャベルの裏で青虫を叩き潰している、、、

あの父が、なぜこんな非道な行動をとっているのか理解ができなかった。

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カン!!!

べチャリ

カン!!!

べチャリ

カン!!!

べチャリ

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岩を叩きつける音と青虫が潰れる音が重なって、不気味な音に聞こえる。

父は変わり果てていた。

「何してんねん!?虫は殺さへんのやろ?オトンの野菜旨い言ってくれるんやろ?なんで殺すねん!!」

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振り返える父の顔を見て思った。

左腕を失った、あの日の顔だ。

何かを失い後悔した、、、

そんな眼だった。

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どれくらいの時間が経っただろう。

とても長く、そして短くも感じた。

父は後悔した眼で

「頼む、殺してくれ、、、」

次の瞬間、俺はフラッシュバックしていた。

まだ元気だった頃の自分の作った野菜を認めてもらって大喜びする父の姿を。

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そして全てを理解した。

なぜ、父が壊れてしまったのか。

なぜ、父が後悔した眼をしていたのか。

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そして父の願いを受け容れることにした。

だから俺は、殺すことに決めた。

「今まで、辛かったな」

父は、軽く微笑んだ。

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俺は、近くにあった石を拾い上げ、

そして、、、

思いっきり振りかざした。

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グチャリ!!

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そう、

父と共に、ハゲ山状態になった父の畑を救うために、、、

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殺したのは父?青虫?

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この筋がザキ男さんの作風と理解致しました。
読みやすいですし構成がいつも素晴らしいです。

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