長編11
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お地蔵さまの夢

カナエちゃんは夢を見ました。

カナエちゃんより、少し小さい女の子がカナエちゃんの枕元に座っていました。

その子はカナエちゃんの知らない子でした。

「カナエちゃん、いつも来てくれてありがとね、」

そう言って頭をピョコンと下げました。

「私わからないよ、

あなただーれ?」

「私、メグミちゃんだよ。カナエちゃんよりちっちゃいけど、本当はお姉ちゃんなんだよ。

いつもは私、カナエちゃんには見えないんだよ。だから、夢の中でお礼言いに来たんだ」

女の子そう言いました。

女の子の後ろにお坊さんの格好をした男の子がニコニコして立っています。

カナエちゃんは思いました。

顔は知ってるけど、誰だったかな?

「僕は、メグミちゃんの、お・じ・ぞ・う・さま・だよー!」

何その喋り方、変なの…⁉︎

これって知ってる誰かの

え?お地蔵さま?

そこで目がめたのでした。

その日、おばあちゃんのお迎えで、幼稚園から帰ってきたカナエちゃんは、お着替えをして、おばあちゃんのお買い物に 一緒に行きました。

カナエちゃんの住んでいる町は、昔は田んぼの中の小さな村だったそうですが、そんな事が信じられないほど、今は賑やかな町になっていました。

もともと電車の駅があり、車の通る道もカナエちゃんが生まれる前に広くなったそうです。

そして、会社がある大きな町に近かったので、お勤めに行く人たちが越してきて、お家を建てて暮らすようになったのです。

カナエちゃんのパパも、お勤め先がその大きな町でした。

そしてママも隣の町でお仕事をしていました。

おばあちゃんとカナエちゃんは、何時もの道を、何時もの通りにお店の方に歩いていました。

そして、車の多い大通り、そして何時もの…、おばあちゃんは、道路脇にお祀りしている小さなお地蔵さまの前でしゃがんで、手を合わせました。

カナエちゃんも手を合わせました。何時ものように…。

カナエちゃんはおばあちゃんに聞きました。

「おばあちゃん?このお地蔵さんってメグミちゃんのお地蔵さま?」

おばあちゃんは、ハッとしてカナエちゃんを見ました。

「カナちゃん?それ誰に聞いたの?」

カナエちゃんは夕べ見た夢の話をしました。

カナエちゃんが話し始めると、おばあちゃんはポロポロ涙を流しはじめました。

「おばあちゃん?どうしたの?どうして泣いてるの?」

カナエちゃんも泣いてしまいました。

少し落ち着いて、おばあちゃんは、カナエちゃんの手を引きながら、こんな話を聞かせてくれました。

「カナちゃんは吉田さんん知ってるでしょ?

優しいおばちゃんって、カナちゃんがいつも言ってる。

吉田さんはね、メグミちゃんのお母さんなの。

一人娘でね、お父さんもお母さんも、それはメグミちゃんを可愛がっていたわ。

でね。メグミちゃんの育て方で困った事があるとどういうわけか、ずっと私にいろいろ聞きにくるの。

メグミちゃんは、私の大変なついていたのよ。

だから、私、メグミちゃんのお母さんの事、自分の娘みたいに思ってきたの。だからメグミちゃんも自分の孫みたいにおもってたの。

でもメグミちゃんのお母さんは、メグミちゃんを連れてお買い物に行ったとき、急にメグミちゃんが道の方に走り出して、車にはねられて…

本当にあっけなかった。病院に運ばれた時、もう手遅れだった」

カナエちゃんはものすごいショックでした。でもおばあちゃんは話を続けます。

「これは、カナちゃんがまだ生まれるずっと前の話よ。

私は孫を亡くしたみたいで、半年位、毎日泣いてたのよ。

でも、一番悲しいのはメグミちゃん…メグちゃんのお母さん。

でも、一年かけて、そのお母さんがあそこにあのお地蔵さまを祀ったのよ。私は偉いわと思ったの」

不意にカナエちゃんはおばあちゃん聞きました。

「おばあちゃん?メグミちゃん車にはねられたのあそこなの?」

おばあちゃんが話をしている間カナエちゃんは、

メグミちゃんが、車に轢かれたのあそこじゃないよ。って誰かがずっと自分に囁いているので思わず知らずおばあちゃんに聞いたのでした。

「え?どうして分かるの?」

おばあちゃんが聞くと、

「どこかから誰かがあそこじゃないって言ってるの」

おばあちゃんはカナエちゃんが聞いてることの本当の答えを知っていました。でもカナエちゃんの様子を見て、

「カナちゃんの言う通り、お地蔵さんのある方の真向かい、

道を渡った向こう側から道の方へ走って、車にはねられたのよ。

でも、向こうっ側のほうが何か良くなかったみたいね。

それがなぜってカナちゃんに聞かれてもおばあちゃん分らないの。

でもね、カナちゃん、絶対、絶対、歩く道から車の道に行かないでね。約束よ」

「はい、おばあちゃん」

二人は買い物を済ませ、家に帰りました。

カナちゃんはマーケットでおばちゃんにねだって、小さな花束を買ってもらいました。そして帰り道のお地蔵様に

「お地蔵さん、お花あげる。メグちゃんの分もね」

小さな花束をお地蔵さまの前に置いて、チョコっと頭を下げて手を合わせました。

お地蔵さまが立てられるまで、月に何度も、そこで大きい事故や、小さい事故が起きていました。

それが、あのお地蔵さまが立てられててから、事故があの場所で全然起こらなくなりました。

あくる日は幼稚園はお休みでした。おばあちゃんカナエちゃんはお散歩に行きました。

またお地蔵様に手を合わせて公園に行こうと歩き出すと向こうの角から女の人が来ます。

メグミちゃんのお母さんが花束を持って歩いてきたのです。

カナエちゃんとおばあちゃんを見ると、

「あ、津田さん、お久しぶりですね。カナちゃんこんにちは、」

「こんにちは、」

「吉田さん、今日はどちらへ?」

「朝から病院へ行ってきました」

「何処か具合悪いの?」

「いえ、良い事の方なんです。

今朝方、お地蔵さまの夢を見ました。

『メグミちゃんはもう私のところは卒業だよ』

そう言われるので、私、聞いたんです。

『ちゃんと成仏出来たんですか?』

お地蔵さまは、

『メグミちゃんは自分の一番行きたい所行くことになったんだよ。

そしてもう一つ、

あなたのお腹に、今赤ちゃんがいるから、確認しておいで』

そう言われたので産婦人科へ行ったんです。

そうしたら…」

「良かったね!」

おばあちゃんが言うと、

吉田さんは嬉しそうに、うなずいていました。

おばあちゃんは

「メグちゃんのお墓参りさせてもらっていい?」

そう吉田さんに聞きました。

「お参りしていただけますか。今から私もお寺へ行こうと思ってたんです」

メグミちゃんのお墓のおあるお寺は近くにありました。

お寺に行くと、

白い着物姿のお坊さんが庭を掃除しておられました。

吉田さんが挨拶して、お墓参りに来た事をお坊さんに言うと、

お坊さんは三人を見て、

「よくお参りくださいました。お墓参りのお帰りの時には、庫裏にお寄りください」

ん?どうして?と吉田さんもおばあちゃんも思いました。

お墓参りが終わって庫裏を訪ねると、

三人は客間に通されました。

吉田さんは、赤ちゃんができたことをお坊さんに報告しています。

そこから見える坪庭には白い砂が敷き詰められていて、その真ん中あたりに椿が一株植えられています。花はもう終わりかけで、白砂の上に一輪赤い花が落ちていました。

三人が、ご住職様とお話をしていますと、カナエちゃんと同じくらいの小さな小僧さんが、お茶を持って客間に入ってきました。

お盆のお茶を三人の前に置き、

「粗茶でございます」

と言って、ぴょこっと頭を下げてから、お客様にお茶を出そうとして、三人を見て、

「あ、カナエちゃんだ!」

カナエちゃんは、びっくりして小僧さんの顔を見て、

「あ、お地蔵様!」

夢に出てきたお地蔵さまでした。

「ちげーよ!僕だよ。僕は、シ・ン・ち・ゃ・んだよー」

カナエちゃんは、お・じ・ぞ・う・さ・ま・だよーを思い出しました。頭がツルツルなので、小僧さんがシンちゃんだとは気が付かなかたのです。

「シンちゃん?幼稚園、こないだから休んでたシンちゃん?

シンちゃん、いつからお地蔵さまになったの?」

「じゃなくて、お坊さん!ま、 まだまだお坊さんの卵だけどね」

シンちゃんは元気というか、腕白な、悪戯っ子、粗茶でございますなどいう子ではありません。

「だからツルツル頭なの?」

「それ言うな!気にしてるんだから。さっきから、お地蔵さまお地蔵さまって何なの?」

カナエちゃんはシンちゃんの頭がツルツルなので、小僧さんがシンちゃんだとは気が付かなかたのです。

おばあちゃんはご住職にカナエちゃんの夢のお話をしました。

「そうですか、それは不思議なお話を聞かせていただきました。カナエちゃんも仏様のご縁が深いのですね」

ご住職は深く頷き、お話を聞いていました。

それから何か月かして、吉田さんに男の子がうまれました。

その翌日、吉田さんのご主人がご住職の前に座っていました。

庭の椿が赤い花を咲かせ始めていました。

ご主人はあ朝からお寺を訪ねて来ました。

そしてご住職に、子供の名前をつけてください。と言うのです。

「名付け親ですか。それはどうしてでしょう。吉田さん、詳しくいきさつを聞かせていただけませんか?」

「お恥ずかしい話ですが…

私は娘が死んだ時、すっかり落ち込んでしまいました。

そして、娘が死んだ事を全て妻のせいにしていました。

妻がお地蔵さまを立てたいと言った時も、勝手にしたらいいと言っていました。

どうせ長続きしないと思っていたら妻は本当にお地蔵様を立てたのです。

今ではとても後悔しています。

妻が仕事をしたいと言い出した時も私は無関心でした。

子供がいなくなって暇になったからと思っていました。

それは間違いでした。

実は、彼女は私に頼らずにひとりでお地蔵様を立てようと思っていたからです。

そしてたったひとりで、彼女はあそこにお地蔵様をたてました。

今から考えると、私はなんとひどい夫だったのだと思います。

私以上に、妻が悲しかった、辛かった。それに全く気づかずにまるで自分だけが悲しいのだと思い込んでいました」

ご住職はその話を聞いて、

「そんなに自分を責めなくても良いのですよ。人間は本当に悲しいときに、周りのことを考えられなくなります。

自分だけが悲しいのだと思い周りの悲しみはわからなくなってしまう…

仕方がないのですよ。私も何度もそのようなことを繰り返していますよ。

今あなたはそれがわかったのだから、それでよろしいのではないですか?

奥さんや、生まれてくる赤ちゃんを、大切にしてあげたらそれでいいのではないですか」

吉田さんは涙をポロポロ流して、話を続けます。

泣いてはいけない、泣いてはいけない、と思っても、涙は後から後から流れました。

「妻から妊娠した事を聞く前の夜の事でした。

私は夢を見ました。

玄関先の方から『ただいま』という声が聞こえてきたのです。

メグミの声でした。

驚いて玄関先に行ってみると、娘がニコニコと笑っていました。

『メグちゃん帰ってきたよ』

私は慌てて娘の抱き上げようとして、その時に目が覚めました。

私は会社に出勤して仕事をしておりました。

どうもあの夢のことが気にかかって仕方がありませんでした。

そして、妻から電話がありました。お腹に赤ちゃんができたという…」

ご住職はしんみりとその話を聞いていました。

そして、硯石を取り出し墨を擦り始めました。

「メグミちゃんの名前は恵に美しいだったですよね?だったら」

ご住職は紙に筆を走らせ、書き上げてから、吉田さんにそれを見せました。

そこには恵と言う一字が書かれていました。

「恵と書いてケイと読みます。これでいいですか?」

それを見て、吉田さんの顔がいっぺんに明るくなりました。

ご住職の書き上げた一文字で、吉田さんの心はいちどに晴れたのでした。

「ああ、メグミが帰ってきたのですね!本当に私たちのところに」

吉田さんは大声を上げて泣き崩れました。それはうれし涙でした。

吉田さんは帰りがけに、玄関先まで送ってきたご住職に、これまで不思議に思っていたことを聞きました。

「ご住職様、妻はなぜあそこにお地蔵様をたてたのでしょうか?

あそこは娘が死んだ場所とは反対側です。私にはどうもふに落ちないのです」

ご住職は少し微笑んで、

「そうですね、どうして奥さんがあの場所にお地蔵様をたてたのか?

実は、私も不思議に思っていました。

そこで、奥さんがお寺にお参りになった時、私は聞いてみました。

そうしたら奥さんは、

『お地蔵様をお祭りする前まで、あそこには何か恐ろしい物の姿が見えていたのです。

メグミの事故が起きるまで、あまり感じなかったのですけど、

メグミが死んでから、だんだんはっきり見えるようになってきました。

何人かの骨のようにやせ細った人たちの姿です。男の人も、女の人思いました。みんな表情のない顔を道路のほうに向けています。昔の着物を着ていて、どの人も顔色はみんな灰色でした。

こちらの歩道を歩いている人は誰も気が付かない、そしてこちらに向かって時々手招きをするのです。

その時はこちら側の歩道をお年寄りが歩いていて、手招きされるほうにフラフラと行こうとするので、私は必死になって止めたことをがありました。

主人に話そうかと思いましたが、主人は怖い話が苦手なので、何も話していません。

あれは一体何なのでしょう?』

そう聞かれても、私にはわかりません。

奥さんはこれが自分の娘を取ったのだと思ったそうです。

あそこにお地蔵さまを立てたら、娘の供養になるし、あの人たちも浮かばれる。そう確信されたそうです。

そして、奥さんはお地蔵さまをあそこに立てたとき、

私が、お地蔵さまにお性根を入れるお経をあげた時に、ずっとそこに立っていた、その怪しいものは消えたと言います。

あれからは、なんの事故もあそこでは起こらなくなりました。

檀家のお年寄りにあそこの事をお聞きしたのですが、

あそこには、石の供養塔が立っていたそうです。

道路が作られた時にどこかに持って行ったようです。由来はわからないとの事でした」

それを聞いて、吉田さんは少し納得しました。

お寺の築地塀のところには白い水仙の花がちらほら咲き始めていました。

冬が過ぎ春になりました。カナエちゃんもシンちゃんも小学校に入学しました。

2人は一緒に小学校に通っています。

通学路はあのお地蔵さまの大通りを通ります。

カナエちゃんはお地蔵さまに手を合わせます。シンちゃんもつられて手を合わせます。シンちゃんはもう髪の毛が伸びていてお地蔵さまみたいではありませんでした。

そのあとカナエちゃんはシンちゃんに聞きました。

「シンちゃん、お地蔵さまってどうして道端に立っているの?」

シンちゃんは言いました。

「 わからん。なぜかな?どうしてなの?」

「私もわからん。わからんから聞いた」

「学校遅れるから急ごう」

二人は急いで学校に向かいました。

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こんにちわ×
こんにちは○

あえての表記でしたら余計な指摘ですが気になったものでσ(^_^;)