中編7
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クゥーン

これは私が昔、聞いた実話です。わかりやすくするため少しだけ話を整理しましたが、内容には支障はないので安心して下さい。

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私は犬が大好きだった。

しかし家庭の事情で犬を飼った経験は一度たりともない。

なので家が近所にある幼馴染で犬好きの青山という友人の家にはよく遊びに行っていた。

青山の父親は大の犬嫌いだったが青山の必死の説得に折れてちゃんと世話をする、途中で投げ出さないと約束し、何とかペットの飼育を許可された。

そして青山はすごく大きいゴールデンレトリバーを飼いはじめた。

名前はサッチーと言って、青山の家に行ったときは毎回、まずリビングに行きサッチーと戯れるのがお決まりになっていた。

サッチーはエサが欲しいときには決まって

「クゥーン」

と大きな声で鳴き声をあげ、舌を出す。

犬好きの青山はすぐにエサを与えた。

同じく犬好きの私も水をすぐに準備しサッチーに与える。

サッチーが大きくなりすぎた原因は私と青山の異常な動物愛かもしれないと思ったほどだ。

しかし普段からかわいがっている物欲しげな鳴き声と舌を出した愛らしいサッチーをみるとついエサを与えてしまう。

エサを食べ終えたサッチーは静かに昼寝を始める。

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夏休みのある日、私達の大好きなゲームの発売日が来た。

私と青山、そして辻井という友人の三人であらかじめ予約していたそのゲームを買いに近くのゲームショップまで自転車で向かった。

無事にお目当てのゲームを買えた私達3人は、早くゲームをやりたいという気持ちを抑えられず、辻井の家に向かう予定を切り替え、ゲームショップから一番近い青山の家に向かう事になった。

青山の家には父親と弟がいた。

弟は夏休みの宿題、

父親は新聞をリビングで見ていた。

母親は父親とケンカし、今は実家に行っているらしい。

そのせいかここ最近父親はすごく機嫌が悪いようだ。

私達三人は家に着いてすぐにリビングでゲームを開封した。いつもは「おじゃまします。」ときちんと言ってリビングに入っていたが、今日は家に走って駆け込んだあげくおじゃましますも言わなかったため、青山の父親に怒鳴られた。

「挨拶も出来ないような子をウチに連れて来るな。」

私と辻井は

「すみません。」と頭を下げた。

しかし青山は気にもせずゲームの開封に手こずっている。それをみた私と辻井もゲームの開封し、ゲームを始めた。

私達三人はすぐにゲームに夢中になった。誰一人喋らず、二時間はゆうに超えたか。それくらいゲームに夢中だった。その時青山の父親の怒声が飛んできた。「やかましい!!!!!!」

shake

「!?」

私達三人一斉に声のする方を見た。

青山の父親が鬼のような形相でこっちに近づいてくる。

私達は恐る恐る青山の父親の行動を見ていた。

青山の父親の視線はサッチーに向けられていた。

サッチーが何度も「クゥーン」と鳴き声をあげ、舌を出していた。

私達はまだサッチーにエサをあげていない事に気づいた。

それでサッチーが何度もエサを求め私と青山に訴えていたのだ。

エサをあげようと急いで私と青山は立ち上がった。

エサを準備していると青山の父親はサッチーを連れてどこかへ行ってしまった。

私達はサッチーが帰ってきたらすぐにエサをあげれるよう準備をした。

三十分ほど待ってみたが父親とサッチーは帰ってこず、あれだけの怒声を聞いた後に再びゲームをする気にはなれなかったのでとりあえずリビングを出て外に出た。

ちょうど青山の父親が帰ってきた。

しかしサッチーの姿は見当たらない。

あれだけ怒声をあげられた後だったので声もかけづらく、私達は手分けしてサッチーを探すことにした。

青山は家の中、私と辻井は庭を探すことにした。

こうして探してみるとなかなか見つからない。

改めて青山の家の広さを知った。

私と辻井は家の周りを探しきったが、サッチーは見つからなかった。

「どうする?この辺には居なそうだぞ」

と諦めムードの辻井。

「サッチーは大きいからすぐに見つかるよ。」

諦めムードの辻井を励ましたが、正直どこを探せば良いかわからなかった。

私は他に探していないところがないか必死に考えた。

長い間沈黙が続いた。

辻井の口が動いた。

「青山の父親が怒って外に逃がしたんじゃない?」

その言葉を聞いて私はもうひとつ心当たりがあるのを思い出した。

「ひとつ心当たりがあるからそこ探してみる。すぐ帰るって青山に伝えておいて。」

と辻井に言い残し、私は心当たりの場所に向かった。

心当たりの場所とは昔青山と私が秘密基地として遊んでいた古い空き家だ。

青山の家から五十メートルは離れていて、周りには人のすんでいそうな建物はなく、

空は薄暗くなり始めていた。

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旧秘密基地に着いた。

異様な静寂のなか、携帯のライトを頼りに

「サッチー!」と何度も叫んだ。

歩くたびに床がギシギシなったり、蜘蛛の巣が顔に引っかかったり、時間の経過を感じた。

サッチーと叫びながら半分くらい進んだところで

「クゥーン」

という鳴き声がした。

「サッチー!?」

と反射的に問いかけた。

しかし返事は帰ってはこない。

私はゆっくりと声のした方へ足を進めた。

周囲を散策しながら進んでいると何かを踏んだ。

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それはなんと血のようなものが付着した鎌であった。

驚きのあまり心臓が止まりそうになった。

私は一瞬最悪の展開を予想してしまった。

その予想が外れる事を祈りながら、サッチーを探した。

「サッチー!サッチー!!」

奥へ進むと旧秘密基地の休憩室の扉をみつけた。

その時

「クゥーン」

という鳴き声が休憩室から聞こえてきた。サッチーが居る!

私は安堵の表情を浮かべながら扉を開いた。

私の表情は凍りついた。

そこには血で滲んだ大きいダンボールがおいてあった。

私は一目散に逃げ出した。

暗くて体の所々をぶつけたがそれよりも恐怖心の方が遥かに大きかった。

無我夢中で逃げ、気がついたら青山の家に着いていた。

家の前には辻井が立っていた。

辻井が言うには、私が心当たりの場所にサッチーを探しに行くって事を青山に伝えようと家のインターホンを押して青山を呼んだら、父親が出て青山の様子がおかしいから今日は帰ってくれ。と言われたらしい。

青山の様子も心配だったがさっきの出来事をが頭から離れず、サッチーの鳴き声と血塗られたダンボールの話を辻井にしたら

「明日もう一度来よう。青山の様子も気になるし、そのダンボールも確かめたい。

本当は今すぐダンボールを調べたいけど、もう遅いし、暗くて怖いし…」

辻井の提案に私は頷き、今日は帰る事にした。

帰り道はお互いなにひとつ喋らなかった。私の家に着き、

「じゃあ、また明日な…」

と一言言って私は家に入った。

その日は一睡も出来なかったのはいうまでもない。

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次の日朝九時に辻井が家に来た。

私と辻井は軽く頷いて青山の家に向かった。

途中でゴールデンレトリバーを連れて散歩している人がいて、つい私は

「サッチー!」

と呼んでしまった。

飼い主らしき人は奇妙な目でこちらを見ている。

辻井が私の肩を叩いてくれて、ようやく我にかえった。

私は急に胸騒ぎがして、早めに足を進めた。五分ほど歩き、青山の家に着いた。

私と辻井は顔を見合わせた後、辻井がインターホンを押した。

青山がゲームをしながら出てくるだろう。と私は勝手に予想していた。

しかし一向に出てくる気配がない。

青山はおろか父親も出ないのだ。

車はあるので誰かはいると思うのだが、音沙汰ひとつない。

もう一度インターホンを押したが結果は同じ。

私達は諦めて、昨日の血塗られたダンボールがあった場所へ向かった。

昨日に比べ明るく、辻井もいたが血塗られたダンボールがある部屋へ近づくにつれ恐怖心が徐々に戻ってきた。

辻井に先に行ってもらい私は後から続いた。

休憩室前に着いたがサッチーの鳴き声は一回も聞こえてこなかった。

私の心臓がバクバク鳴っていた。

辻井も恐怖心があったのか、足が震えていた。

私と辻井は覚悟を決め、恐る恐る扉を開けた。

私はこのときなんとなくダンボールがなくなっている気がした。

その予想は的中し、ダンボールがなくなっていた。

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しかし昨日は暗くてわからなかったが、血痕は所々に残っていた。

私と辻井は一応その部屋を探したが、ダンボールはなかった。

結局その日は青山にも会えず、ダンボールも見つけることが出来なかった。

夏休みがあけても青山は学校に来なかった。その後青山とはずっと音信不通だ。

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あの恐ろしい体験を忘れかけていた頃に青山の母親から連絡を受けた。

どうやら青山は入院し、

父親は行方不明になっているらしい。

なぜか青山の母親は青山の様子を教えてはくれなかったが粘っこく問いかけ、なんとか入院している病院を教えてもらった。

しかし、

お見舞いには来なくていい。

と強く念を押された。

普通はお見舞いに行ってあげて。

というところではないのか?

私は疑問に思ったが深くは考えなかった。

「お見舞いには来ないで」

と言われたが青山の様子が気になり、辻井と相談してお見舞いに行く事にした。

土日は青山の母親がいるかも。と思ったので、私達は月曜日に学校を休んでお見舞いに向かうことにした。

当日、辻井とお見舞いの品を病院の近くのスーパーで買って、病院に向かった。

病院に着いたが青山の病室がわからなかったので近くにいた看護師の人に尋ねた。

すると私達を哀れむような目で

「あの子の友達?大変ですね~。あの子は六階の六○一号室にいますよ」と教えてくれた。

私達は急いでエレベーターに乗り込み六階へと向かった。

六階に着くと甲高い声で

「クゥーン」

という声が聞こえてきた。

サッチーが生きていた!?

私達は声のした方へ向かうと

青山の病室へ着いた。

何度も何度もクゥーンという声が聞こえ、私と辻井は急いで病室に入った。

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残念ながらそこには不気味に笑いながら舌を出しているアオヤマしかいなかった。

Concrete
コメント怖い
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ネタバレ注意
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ウルトラマン太郎さん

コメントありがとうございます(^ ^)

そうですね…ゲームなどもほどほどに…ですね。

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ロビンさん

コメントありがとうございます(^ ^)

私も犬が大好きだったので…本当に悲しいです。

人も犬もひとつの命として大切にして欲しいです(T_T)

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ローザさん

コメントありがとうございます(^ ^)

申し訳ないです。
私の力不足で鎌の画像が準備出来なかったので代わりに包丁の画像を使わせて頂きました。

今後の事はこちらに解説として書こうと思ってますのでもうしばらくお待ち下さいm(_ _)m

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あゆさん

コメントありがとうございます(^ ^)

サッチー、天国に行って欲しいですね(T_T)

私の知るかぎりの事は、後々解説として書こうと思ってますので、もうしばらくお待ち下さいm(_ _)m

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蘇王 猛さん

コメントありがとうございます(^ ^)

初投稿で文章にあまり自信がなかったので、面白いと言って頂けて自信が持てました(^O^)

私も聞いたときは本当にぞっとしました…

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あたしも犬好きやから、凄く悲しいわ。

お父さんもいっぱいいっぱいやったんかな(T_T)

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あ、お父さんも無事だったかも知れない(´;ω;`)

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鎌なのに包丁の画像を使わなくてもいいんじゃないかな?
怖いけど、箱の中、確かめたかったね(´;ω;`)ウッ…もしサッチーで助けられてたら、青山くんも元気に学校に通ってたかも知れない。。。

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青山さんのお父さんは何処にいったのでしょう?
またサッチーと思われるダンボールも..
青山さんにはサッチーは無くてはならない存在だったのですね..本当のお話なら青山さんの回復を願っています。怖くて悲しいお話で切なくなりながら読ませていただきましたサッチーが天国に行けたら良いですね。

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これは実話ですか⁉怖いですね…。文章もとても読みやすく、最後の一言でゾッとしました。内容も面白かったです!

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