中編4
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ラブホテル。

一昨日のことである。久々に彼とラブホに行った。最近、ご無沙汰気味だったから。

いつもなら彼のアパートに泊まるついでに、というパターンが多いのだけど。マンネリ化してしまってイマイチ盛り上がらない。

そこで彼と相談して、最寄りのラブホテルに行くことになった。フロントで受け付けを済ませていると、高校生くらいのカップルが手を繋いで出てきた。

今時の子はホテルを利用するのか。自分の学生時代の時を思い出し、ふっと笑ってしまう。

当時付き合っていた人は年上だった。ネットで知り合った会社員で、ドライブが趣味の男。休日になると、彼が車で迎えに来てくれて、二人でドライブばかりしてた。

山にまで行ってセックスだけして帰ってきたこともある。シートが汚れないようにとバスタオルまで用意してきた彼の周到さに、肩すかしをくらったような気分になったものだ。

汚れるのが嫌なら、車の中でしなければ済む話なのに。耳元に掛かる熱い息や、繰り返し呟かれる「好きだよ」の決まり文句を聞き流しながら、味毛のない車の天井をぼんやり見ているきりだった。

つくづく可愛げのない女だ。自分でもそう思う。

「何、どうかした?」

彼に肩を叩かれ、はっとした。受け付けを済ませた彼がキーを持ちながら歩き出す。

「ほら行くよ。俺らの部屋、四階だって」

私は彼のあとに続いた。今日はいつもより熱くなれるかしら、と若干の期待を胸に抱きながら。

○○○

部屋に入ると、どこからか甘酸っぱい臭いがした。甘酸っぱいと言っても果物のかぐわしい臭いじゃない。

私は彼に「変な臭いしない?」と尋ねたが、「精液の臭いでしょ」と身も蓋もない返事が返ってきた。

「それより先にシャワー浴びてきな。待ってるから」

彼は私の頭を撫で、優しくそう言った。

シャワーを浴びながら考える。部屋に漂っていた臭いのことだ。

確かに精液の臭いと言われてしまえば、そうかもしれない、と思う。ここはラブホテルなのだ。日々男女が絡み合い、もつれ合い、溢れる蜜を垂れ流す場所。

興奮すればするほど蜜は濃くなり、臭いも強くなる。その時の臭いが密閉された空間の中に漂っているのだとすればーーー一応の説明はつく。

我慢出来ないくらい強烈な臭いではなかったし……むしろ、他のカップルの精液や垂れ流された蜜の臭いだと考えれば、興奮も高まるかもしれない。

「……まあ、こんなと長く考えてたって仕方ないわね」

苦笑じみた笑いを浮かべた時だった。

鏡にチラリと人影が写ったのである。

その人影は私の背後に隠れるようにして立っていた。濡れた肩先と、すんなり伸びた腕だけが見える。

「誰?龍騎(リュウキ)?」

彼の名を呼ぶ。しかし返事はない。バッと振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。

見間違いか……。そう思ったけれど、シャワーで温まったはずの体は寒くもないのに震えていた。

私はバスタオルを体に巻き付け、彼の元に向かった。彼はベットに寝転がり、スマホを弄っていた。

「シャワー空いたよ」

「嗚呼、うん……。ね、これ見てよ」

彼は起き上がると、画面を私に見せてきた。それは過去に起きたニュースの内容が書かれてあるサイトだった。

「ここのラブホ、前に殺人事件が起きたんだってさ」

「嘘っ。止めてよね、変な冗談は」

「嘘なもんか。読んでみろよ」

画面に目を通す。

なるほど。確かにこのホテルでは、以前に殺人事件が起きているようだ。

被害者はまだ十代の少女。一回りも年の差がある彼氏とこのホテルに入り、散々弄ばれたあと、首を絞められて殺されたのだそうだ。

遺体はベットの下に隠されていたのを、掃除しに部屋へと入ったスタッフが見つけたらしい。死後、五日は経過しており、遺体には腐敗しかけていたとか。

徐々に気分が下向していく。これからセックスしようというのに、どうしてこんな話をするのだろう。

げんなりした顔をしている私の唇に、彼の唇が重なった。そのまま押し倒され、バスタオルを剥がされた。

「……シャワー、浴びないの?」

彼は何も言わなかった。猫みたいに目を細め、薄く笑いながら、ゆっくりと愛撫を開始する。首筋をなぞる指先が下へ下へと下向していく度、緊張と期待とが入り混じる。

「あれ……?」

ベットの弾力がーーー何かおかしい。

フカッとした柔らかい布団のそれじゃない。柔らかいは柔らかいのだけれど……ブヨブヨした感触だ。

彼が私の上に乗り上がった。二人分の重さを受け、グググッとベットに体が沈む。ブヨブヨとした嫌なあの感触が素肌に当たり気持ち悪い。

グチャッ。

「…ひっ!」

何かが潰れる音。シーツがぬめぬめとした生温かい液体によってグッショリと濡れた。

グチュグチュグチュ……

またあの甘酸っぱい臭いがする。これは……精液の臭いでも、垂れ流された蜜の臭いでもない。

……何かが腐った臭い。とろけた死体の腐敗臭だ。

「ネエ、シッテル?」

彼が私にグッと顔を近付けてきた。その目は焦点が合っておらず、呂律が回っていないような変な喋り方だった。

声もおかしい。彼はこんな甲高い声じゃない。

いきなり首を両手で締め付けられ、呼吸が出来なくなった。爪を立てて抵抗したものの、びくともしない。

「クビヲシメルト……アソコモシマッテキモチヨクナルンダヨ」

「……ッ、」

こ の 人 は 彼 じ ゃ な い。

首を絞める手に更なる力がこもる。息を吸おうと口を開けても、酸素が全く入ってこない。

苦しい……苦しい……苦しい……くる……しい……くる…し……い……

意識が朦朧とする中ーーー彼の背後に髪の長い女が見えたような気がした。

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*chocolateさん☞まめのすけ。

覚えて下さっていたのですね。ありがとうございます。感涙ものです。

実は……私も諸事情あり、コメント返しを止めようかと思っていた時期もありました。

しかし、皆様とこうして繋がれるのはコメントの欄だけだと思い、そこをなくしてしまうのは寂しいと思いまして、コメント返しを続けさせて頂いております。

私自身が至らず、他のユーザー様方にご迷惑をお掛けしたこともありました。厳しいご意見を頂いたこともあり、落ち込むこともありました。

しかし、*chocolateさんをはじめ、多くの方と繋がれるこの場を大切にしたいと思っております。

未熟者かつ至らないところが多い人間ですが、努力を重ねていきますので、これからも宜しくお願い致します。

赤煉瓦さん☞まめのすけ。

コメント、ありがとうございます。

そしてお久しぶりです!久しぶりにお名前を見つけ、ドキドキしております。とても嬉しいです。

この度、「言葉遊びの弟子。」から「まめのすけ。」に改名致しました。特に意味はないのですが、気分を変えたくて(笑)。どうぞ宜しくお願い致します。

お仕事、お疲れ様です。お忙しい中、私なんぞの作品を読んで頂き、感謝申し上げます。

まだまだ力不足ですが、これからも初心を忘れず頑張りたいと思います。

勿論覚えてますよ!
むしろ自分なんかを覚えていて下さって光栄です!感涙です!(´;ω;`)笑

お姉さんシリーズやその他のシリーズ物では無い作品も全て既読済みでございます。改名されても相変わらず大ファンをさせていただいております(笑)

ただ脆事情がありまして、今まではあまりコメントを出来ませんでしたが、少し落ち着きましたので、またコメント欄で少しでもお話が出来れば嬉しい限りです!

お姉さんシリーズだけでなく、その他のお話も楽しみにしております。

これからも応援させていただきます!
次作も頑張って下さい!

毎回、言葉巧みな表現で怖さが伝わりますね。
どの作品も引き込まれ過ぎて、部屋の小さな物音にも過敏になってます(ビビりなんです)
仕事が忙しく、久々に怖話に来て見たら改名なさってたんですね!
今夜は徹夜で読ませて頂きます

uniまにゃ~さん☞まめのすけ。

確かに(笑)。まして笑顔で言われたりしたら滅茶苦茶怖いです。

そんな方が実際にいらっしゃったら「申し訳ないんですけれど、近付かないで下さいますか」と言ってしまいます。くわばらくわばら。

おまめさん…

そんな軽い感じで教えてくれる人なんて私もイヤだぁぁ

でも、知りたいな  ウフ(*^。^*)

uniまにゃ~さん☞まめのすけ。

コメント、ありがとうございます。腐敗臭……人が腐る臭い。私自身も嗅いだことがないので、想像するしか出来ず、上手くお伝え出来なくて申し訳ないです。

まあ、「実際に嗅いだことあるから分かりますよ!詳しくお伝えしますね!」という方がいらっしゃったら恐ろしいんですが……(笑)。

どんな に お い だ ろ う

人間だったものの匂いはまだ嗅いだことがありません。

想像もできないのは悔しい。

*chocolateさん☞まめのすけ。

コメント、ありがとうございます。

覚えていらっしゃいますでしょうか。以前は「言葉遊びの弟子。」というペンネームで投稿させて頂いており、*chocolateさんからは何度もコメントを頂いておりました、現まめのすけ。です。

久しぶりにお名前を見つけ、コメントを頂き、ドキドキしております。またこうして*chocolateさんと繋がりを持てて嬉しいです。

ローザさん☞まめのすけ。

コメント、ありがとうございます。

ネットで検索したところ、ラブホテルでの怪奇現象はたくさんあるようですね。しかも実話だったり……。
非常に興味深い。検証しに行きたいくらいです(笑)。

阿部サダ事件……。ううむ、知りません(泣)。無知で申し訳ありません。今度、調べてみますね。

ラブホテルって意外と曰く付きの所、多いですよね。

自分が昔初めて行った所は自殺があった所だったそうなんですが...。
その事を知らずに、しかも自殺があった階に入ってしまい、電気が勝手に消えたり、お風呂のお湯が勝手に止まったり、入り口のドアノブがガチャガチャ鳴ったりと、散々なホテル初体験でした(笑)

それにしてもベッドの下に隠すとは...。

清掃員さんちゃんと掃除しましょう(笑)

ら、らぶほてる行けない…。
首を絞めると…←阿部サダ事件を思い出しました(*^^*)

あゆさん☞まめのすけ。

コメント、ありがとうございます。

恐ろしい体験をなさったんですね…!性別の分からない人物が足元に立っていたなんて……ちらと想像しただけでガクブルです。

あゆさんにしか見えなかったのでしょうか。彼氏さんは気付かれなかったのですね。

自分にしか見えないというのは、何ともゾッとします。その人、一体何のために出てきたのでしょうね。

ラブホは不特定多数の人が利用するから楽しい反面怖いですよね。ラブホでは無いけど温泉旅行で泊まったホテルで3部屋ある豪華な部屋だったのですが
1部屋嫌な感じがして..でも大きなベッドの魅力に勝てず寝てしまったら夜中に怖い夢でうなされて起きたら足下に薄い性別のわからない人が立ってて..
カレを起こしたらはぁ?な反応をされましたが
あれは何だったのだろ(A;´・ω・)アセアセ

違う部屋で布団に潜り窒息しそうになりある意味ヤバかったです。薄い人?は大声でカレを起こしたらスーッと消えました。