長編9
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河童塚《後編》

今僕等は、山の前にいる。時刻は午後の6時。夏なのでまだ結構明るいが、むしろハッキリ見えてしまうのが怖い。目の前には、薄暗い山道。

「いやー!いいね!いい感じ!」

のり塩さんが、爽やかに笑った。どう考えても場違いな笑顔だ。

「嫌ー。やだね。やな感じ。」

薄塩が、憂鬱そうに呟いた。うん。これが正しい反応だろう。

のり塩さんが、右手を大きく突き上げた。

「さあ!いくよ!」

僕等はトボトボと、のり塩さんの後に続いた。

で、僕等が何でこんな山道を登る事になったのかと言うと、話は1週間前まで遡るのだが・・・それは、前編を読んでもらう事にしよう。ここに書いておくのは、そこから数日。昨日の事だ。

その日、僕に一本の電話が掛かって来た。薄塩からの電話だった。以下、会話文。(薄塩=薄)

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僕「はいもしもし。○○です。」

薄「もしもし。俺俺。」

僕「ああ。田中さん?」

薄「おお。久しぶりだね。」

僕「僕には田中なんて知り合いは居ない。」

薄「・・・。えー・・・。」

僕「で、薄塩。何か用か?」

電話の向こう側で、薄塩がコホン、と咳払いをした。

薄「明日の事なんだけどさ。用意する物、教えとこうと思って。」

僕「ああ。で、何を持って行けばいいんだ?」

薄塩が少しだけ考えこんでから言った。

薄「うん・・・。まず、小刀。カッターとかハサミでいいから。あとお米。袋か何かに入れて。ミネラルウォーターも。あ、コンソメの家って水道から出るの、井戸水?」

僕「そうだけど・・・。」

薄「じゃ、井戸水の方がいいな。」

僕「ミネラルウォーターより?」

薄「自分に縁が深い方がいい。コンソメには、ミズチ様もついてるし。」

あ、そう言えばミズチ様、水の神様だった。すっかり忘れてた。

僕「・・・了解。他には?」

薄「赤い布。柄は有っても無くてもいいから。ただ、地がちゃんと赤い奴な。大きさはどの位でもいいよ。・・・うん。取り敢えずはそのくらいかな。」

僕「あのさ、塩は持って行かないでいいのか?いや、こういうのは薄塩のが得意だとは思うんだけどさ。」

薄「ああ。塩ってのは良くも悪くも《拒絶する》物だから。俺とかが持つ分には良いんだけど、コンソメにはミズチ様が居るからな。まぁ、俺が持って行くから、コンソメは持ってこなくていいよ。」

僕「分かった。他に、何かあるか?」

薄「ある。服装なんだけど、絶対に上下共に長袖な。俺としては下はジーンズ推奨。露出控え目な感じで。生地は薄くていいから。肌を見えないようにするってのが大事。あとは・・・もう無いな。」

僕「分かった。ありがとう。」

薄「本当は、日本酒なんかもあると良いんだけど・・・俺達、未成年だし。」

僕「了解。」

薄「あのさ、色々言っといてなんだけど、一番必要なのは《必要以上に怖がらない事》だから。初めてのコンソメにはキツイかも知れないけど・・・。」

僕「・・・頑張るよ。まあ、見えないかもしれしな。」

薄塩は、少し笑った。

薄「本当に資質の無い奴は、水神なんかに干渉されないよ。多分、コンソメは《見える》と思うな。」

僕「そうなのか?知らなかった。」

薄「多分な。多分。・・・じゃ、また明日。・・・頑張ろうな。」

僕「ああ。じゃあな。」

と、言う事があって、荷物が重たい。流石に自分でも、水1Lは持って来すぎたと思う。前を見るとのり塩さんは、小さなバッグひとつでどんどん進んで行く。まあ、その代わり薄塩が後ろで半生半死の状態で荷物を運んでいるんだが。僕は見かねて声を掛けた。

「おい、大丈夫か?少し位なら僕も手伝ってやらん事もないけど。」

薄塩が、なにも言わずに荷物をひとつこっちに渡した。・・・成る程。これは重いはずだ。でも、1度言ってしまったからには、これはちゃんと僕が持たなければ。僕は、渡された荷物の持ち手を、しっかりと握り直した。

「はい、到着!」

のり塩さんが言った。・・・。荷物・・・。せっかく持ったのに・・・。

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そこは、周囲より若干開けているものの、特別に何かがある訳でもなかった。正直言うと少し拍子抜けした。

「こっちこっち!」

のり塩さんが手招きをする。

「はーい!」

僕等がのり塩さんの所に行くと、そこにあったのは

墓石の2/1位の、小さな石碑

「これは・・・?」

何か文字が書いてあるが、掠れて読めない。大分古い物のようだ。

「これ、《河童塚》って、書いてあるんだよ。ここに置かれたのは江戸時代。」

河童塚・・・。

「でも・・・何でこんな山の中に。」

のり塩さんが笑った。

「やだな。町中にある方が変でしょ。」

「いや、そうじゃなくて・・・。」

「水場じゃないのに・・・って、事だろ?」

僕は頷いた。のり塩さんの顔が、ふっ・・・と変わった。ああ、これ、薄塩が怪談をする時の顔だ。

「何でこんな山の中に《河童塚》が、あるのかって言うとね・・・。」

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キュー。

「え?」

僕が声の方を見ようとすると、

「コンソメ!」

腕をグイッと引っ張られた。薄塩だった。

「出た。覚悟しとけ。」

薄塩が、僕の前に立つ。手には、片方にファ○リーズ。もう片方には、リセッ○ュを持っていた。のり塩さんも何か手に持っている。あれは・・・木刀?

僕も裁ち鋏を構える。恐る恐る声の方を見る。そこに居たのは・・・。

大勢の河童達だった。

なにこれ。可愛い。

河童達は

「キュー。キュゥゥー。」

と鳴きながらゆらゆらと揺れている。河童と言っても、妖怪大図鑑などに載っている恐ろしいものでは無く、デフォルメされたぬいぐるみの様な感じだ。大きさもそんなに大きくない。鳴き声も可愛らしい。僕がすっかり和んで二人をみると、

「うっわ・・・。」

や、

「くそ・・・ッ!」

と、言いながら、凄い顔をしていた。え?なんで?するとその時

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一匹の河童が、

「キュー。」

と、言いながら、こちらに近づいてきた。可愛い。

「コンソメ、下がって!」

薄塩が、ファブ○ーズだかリセッ○ュだかを吹き掛ける。

「ギュッッ!」

河童が踞る。どうやら目に入ったらしい。薄塩が更に構える。

「・・・っっ!やめろよ!」

思わず河童の元に駆け寄る。河童は痛そうに目を押さえている。僕はリュックの中からペットボトルに入った水を取り出した。

「ほら、目を開けて。」

目に水を注ぐ。

「ちょ・・・?!コンソメ、何を・・・!」

「失明したらどうするんだ!」

「いや、失明って言うか・・・。」

「うるさい!」

河童の目を見てみる。うん。少し赤くなっているが、大丈夫そうだ。河童がペコリと頭を下げた。

「キューーウ。」

どうやら、お礼を言っているらしい。グルルル、と音がなる。お腹が空いているのだろうか。リュックの中からおにぎりと、甘酒の入った水筒を出した。甘酒をカップに注ぐ。

「コンソメ?!」

後ろで薄塩が騒いでいる。

「案ずるな!コールドでも甘酒はおいしい!」

「そこじゃねえ!」

河童がおにぎりに手を伸ばした。嬉しそうに頬張る。甘酒も飲み干した。

「キュー!」

河童が満面の笑顔で言った。後ろの河童達も、わらわらとこちらに寄ってくる。

「キュー。キュゥゥー。キュー。」

みんなお腹が空いている様だ。でも、おにぎりはさっきあげたのを除いて2つしか残っていな・・・あれ?残ってる。確かにさっきあげたはずなのに・・・。よく見ると、甘酒も残っていた。・・・なぜだろう?

「キュゥゥィ」

河童達が物欲しそうにこっちを見ている。まぁ、結果オーライだ!僕は河童達におにぎりと甘酒を配る事にした。

薄塩&のり塩 (゜ロ゜)(´・ω・`)

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「ほらほら、一列に並んで。」

河童達が一列に並ぶ。一匹一匹におにぎりと甘酒を渡していく。なぜ両方とも減らないのかは分からないが、ま、いいか。可愛いし。食べ終えた河童は、だんだんと薄くなって、消えていった。最後に残ったのは、最初に目を洗ってあげた河童のみだった。

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「コンソメ!!」

薄塩が腕を引っ張る。

「え?」

そのまま無理矢理走らされる。

「ちょ、薄塩?!」

後ろから、

「キュー。」

と言う声が聞こえた。見ると、河童が手を振っていた。僕も引き摺られながら手を振った。

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僕等は、一気に山を駆け下りた。

「コンソメ!大丈夫か?!」

薄塩が、凄い勢いで言った。

「え?大丈夫って?」

「お前・・・。何してたか分かってんのか?」

「・・・河童達に、おにぎりと甘酒配ってた。」

薄塩の顔が歪んだ。

「河童って・・・あれがか?」

意味が分からない。

「あれって?」

「お前が配ってた相手だよ!」

「え??」

「コンソメ君。」

のり塩さんが、静かに言う。

「私達には、痩せこけた子供に見えたよ。」

「・・・え?」

「痩せこけて、中には体が一部無い子もいた。」

薄塩が言う。

「コンソメが一番最初に目を洗ってあげた奴、いたろ?・・・あれ、失明どころか、目が無かった。」

僕の背を、冷たい汗が流れる。

のり塩さんが、語り始めた。

「《河童塚》って、言うのはね・・・。」

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《河童塚》って、言うのはね・・・。口減らしにされた、子供の慰霊碑なの。口減らしって、知ってる?・・・そう。コンソメ君、物知りだね。じゃ、《水子》って、分かる?・・・うん。そう。大体は、合ってるかな。でもね、《水子》が、産まれる前に死んじゃった子供、っていうのは結構最近出来た意味でね。本来は、成人前に死んだ子供の事を指す言葉なの。ほら、あの塚が置かれたのは、江戸時代って、言ったよね?

「・・・飢饉。」

そう。あの塚は、・・・あの場所は、飢饉で死んだり、口減らしされた、子供の置場所だったの。・・・ううん。墓とは違う。そんな物、造って貰えなかった。埋めてすら、貰えなかった。・・・

・・・。コンソメ君、河童って何て書くか、知ってる?

「難しい方の河に、児童のドウ・・・ですよね。」

うん。じゃ、水子は?

「水に、子供の、子って言う字。」

ほら、似てるでしょ?

「あ・・・!」

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「そういう事。」

そう言って、のり塩さんはニコッと笑った。

「じゃ、お祭り、行こうか!まだ7時だよ!」

「ちょ、姉貴!」

「このまま帰るなんて、後味悪いでしょ?」

そう言って、のり塩さんはスタスタと歩き出した。慌てて僕等も後を追う。

歩きながら、僕と薄塩は話をした。

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「・・・薄塩。」

「うん?」

「薄塩には、あの河童達、どう思えた?」

少しだけ考えてから、薄塩が口を開く。

「怖かった。てか、気持ち悪かった。」

「でもさ・・・。」

息を整える。

「僕がおにぎりを渡しとき、あいつら、笑ってたんだ。」

薄塩が、少し立ち止まる。

「・・・ああ。笑ってたな。」

きっと、僕等は全く違う物を見たのだろう。そして、正しい物を見たのはきっと、薄塩の方なんだと思う。でも・・・

「なあ、最後、僕はあいつらが笑いながら消えていくのが見えたよ。薄塩には、何が見えた?」

薄塩は、なんだか優しい顔で言った。

「俺にも、そう見えた。笑っている様に、見えたよ。」

僕は呟いた。

「良かった。」

薄塩が言った。

「ああ。良かったな。あいつらを救い出せて。」

思わず泣き出していた。

「違う。僕は、あの姿だから、優しく出来たんだ。薄塩達が見た姿なら、きっと何も出来なかった。」

薄塩が笑う。

「当たり前だろ?そんなの。救えたんだから、そんなのどうでもいいじゃん。」

「・・・そうだな。」

「ほら、行こう。姉貴が待ってる。速く行かないと怒り出すよ。」

「・・・そうだな!」

前を見ると、お祭りの明かりが見えた。

あの子達が本当に救われたかも、僕にはまだ分からない。でも。

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僕等は走り出した。明るい方へ。

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(;_;)泣けます。すごくいーお話でした。

いい話で、楽しかった。見え方次第ってのがイイですね。

何となく切ないが温まる話ですね。

コンソメ君ファイトォォ(^_^)/

何故?かゎぃぃ河童に見えたのかな?
ミズチ様からの能力?優しい気持ちで先入観が無いから?謎な展開で次回作楽しみです(・∀・)
ファブが除霊に効くってチャネラーの友達に聞きました。

チャネのオカ板では幽霊見たらファブをまけ!みたいな
薄塩クンはチャネラーなのかな?(笑)

すごくいいお話でした。

胸がほっこりしました。

子ども達はきっと成仏出来たんじゃないでしょうか。

薄塩シリーズ、大変楽しみにしています。

次作も頑張って下さい。