長編10
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工事現場

music:4

こんばんは。海斗と申します。

三回目の投稿です、今回は僕が社会人になってからの体験談をお話しさせて頂きます。

中学三年生も残り僅かとなった日の放課後。

僕のクラスメイト達は家に帰ろうとはせずに、

放課後の教室に残って勉強を一生懸命やる生徒達で溢れている。

必死に志望校に合格しようと問題集と睨めっこしている生徒達の光景が当たり前になる、

いわゆる、お受験シーズンだ。

「一緒に合格しなきゃね♪」などと声を掛け合い、

それぞれが団結し一つの目標を達成しようとしている、

この時期特有の空気感が漂う教室に今僕は居る。

僕「みんな頑張ってるな〜…」

周りが皆、進路を「進学」と選ぶ中、僕はクラスで1人だけ…

いや、同級生の中で1人だけ「就職」を選んだ身だった。

僕の友人でありとても仲の良い、

K、S、芋、Mの4人も進学の道を選び必死に勉強していた。

(芋という奴は元々Hという奴だったが前作で大量に芋を持ってきたことから、あだ名が芋野郎になったので「芋」という表記になっている)

正直僕は「受験が迫ってもコイツらは相変わらず勉強しないんだろーな」

と思い込んでいたが、今僕の目の前にいる彼等は、

机に向かい、ペンを持ち、教材積み上げ、

至る所に消しゴムのカスが転がっている…

その光景そのものが半端じゃなく違和感だった。

机、ペン、教材がここまで似合わない人間はそうそういないと心の中で笑う反面、

どことなく寂しい気持ちになっていた。

その寂しさを紛らわそうと

僕「おいK!お前が字書ける奴だとはしらなかったぞww」

K「てかお前まだ居たのかよ…別に先帰っててもいーぜ?」

僕「あ…う、うん」

僕「S〜〜!なーにしてんだッ?」

S「え?どう見ても勉強でしょ…」

僕「だよね〜…」

僕「M〜!!Mはインドの高校いくんだろ?ww」

Mの見た目は中学生ながらヒゲが濃く、

ホリが深い色黒でインド人そっくりなので、

よくインド人ネタが使われる。

M「いや、地元の高校だよ」

そんな事は知っている。今僕はボケたんだぞ……

僕のボケにここまで真面目に答えられたのは初めてであり、

返す言葉に困って静かにその場を離れてベランダに出た。

校庭で後輩達が部活動に励んでいる姿を見下ろしながら僕は考えていた。

「やっぱ皆、今まで勉強していなかったせいか、

分からない事だらけで四苦八苦してイライラしているのかな、

僕が頭良ければ少しでもアイツ等に協力出来たけど、

勉強は出来ないし邪魔しちゃうだけだ…」

などと落ち込んでいると、ニコニコしながら芋野郎がやって来た。

芋「なんだお前?wそのシケまくったモアイ像みたいな顔はww」

ちなみに僕はモアイ像に似ていると言われた経験はないが、

K、S、M等とは違い''いつもの芋''だったので、

涙が出そうなほど嬉しかった…

芋「なに悩んでんだ?言ってみろ!!」

僕「それより芋、お前は勉強しなくていいのか?」

芋「勉強か〜K、S、M達頑張っちゃってるよな〜…」

僕「いやいや、あなたも進学するんだから勉強しとけよ!」

芋「だってさ、K、S、Mには悪いけど、受験1ヶ月前になってから

いきなり勉強したって他の皆が中学三年間勉強してきた内容に

追いつけるわけないと思うんだよな〜…ましてやアイツ等

やればできる!ってタイプじゃないし、むしろ

やってもできない!タイプたぜ?ww」

僕「ま、まぁ、そうだけどさぁ…」

芋「しかも、俺もそうだけどアイツ等が行こうとしてる高校は、

超が付くおバカさんでも合格できちゃうヤンキー高校だしさ、

今更あんなに勉強に気合い入れても無意味だってww」

芋野郎のマシンガントークは終わらない…

芋「海斗は卒業したら親父の仕事手伝うんだろ?

たしか、建築屋さんだったよな?」

僕の親父は建築業を経営しているが、

以前から親父は人手不足に頭を悩ませていた。

そんな父親の力になりたいと思ったのと

これまで散々迷惑をかけた恩返しの意味と、

周りより一足早く社会人になって

人間として真っ当になりたいと思ったのが

就職を選んだ理由だ。

芋「お前はお前で十分すげーんだから、

この受験シーズン独特のピリピリした空気なんか

気にすんなって!それに実際アイツ等だって

一週間もすりゃ勉強しなくなってるよww」

芋野郎…お前…なんていい奴なんだ…(涙)

そしてそれから幾日かして僕たちは中学を卒業。

K、S、芋、Mは無事に志望校に合格。

芋の予想通りにアイツ等は一週間もしない内に

勉強机から離れて行った。

________________________________________________________________________

前置きがとても長くなってしまい退屈せさてしまったと思いますが、

これからが本題の工事現場の話になります。(T^T)

僕を除いた、ほとんどの卒業生が

新しい高校生活を控えている春休みのことだ。

僕はこの日仕事が休みだったため、

受験のストレスから解放されたであろう、

友人のK、S、芋、Mと僕の家に居た。

いつものメンバーだ。

S「海斗の仕事ってどんな事するの?」

K「そりゃお前建築業って言うんだから家たてんだろ!な?」

僕「簡単に言っちゃえば大工だよ」

芋「大工さんかぁ〜…俺ら春休みで毎日暇だからさ

海斗ん所がいいなら一週間だけ

アルバイトみたいなのやらせて欲しいな〜…」

僕「人手不足だからむしろ助かるよ!」

K「じゃ決まりだな!!」

友人達はウチの親父と仲が良かったこともあって

翌日にはこのメンバーで、一週間だけだが

現場作業員として一緒に働けることになった。

初日は皆、予想通りの素人っぷりで、

なにも分からなくて落ち着かない様子だったけど、

友人と仕事ができるということが新鮮な感覚で、

あっという間に1日が終了した。

2日目にはそれなりに理解してきたのか、

そこそこ働けていた。

勉強は向いていないがこういった仕事は覚えが早く、

効率良くテキパキ動いていた。

得意科目が図工と体育ってだけある。

3日目にはSが変なことを言い出した。

S「ん?この辺に幼稚園なんてあんのか?」

僕「ないと思う、幼稚園は隣町までいかないとないよ」

芋「幼稚園がなんだっていうんだよ?」

S「いやさ、いまそこの道に幼稚園児達が行列つくりながら

歩ってたからさ…」

K「初めての力仕事で疲れてるだけだってww幻覚幻覚ww」

Sは多少霊感がある奴なので少々嫌な予感はしたものの、

それほど気にしなかった。

4日目のお昼休み中、Sが腹が痛いと言いトイレに向かった。

工事現場には電話ボックスのような形をした仮設トイレというものが

設けられていることが多い。

もちろん電話ボックスのように中が丸見えでわないし、カギもかけられる。

Sがトイレに向かってから15分程経過したがまだ戻らない様だ。

僕たちはそんなSのトイレの長さをネタに笑あっていた。

芋「S奴トイレ長いww」

K「まさか紙がなくて困ってたりしてww」

M「紙ないと死ぬほど焦るよな〜」

K「最悪、トイレットペーパーの芯でどうにかするしかないww」

などとお昼時に大変下品な会話をしていたことを良く覚えている。

気分を害してしまったらごめんなさい。

僕「もう昼休憩おわっちゃうけどSなにやってんだろう?」

芋「ちょっと心配になってきたな」

僕「ちょっと様子みてくる」

トイレに近づくと意外な事に、

トイレの方を向きながら腕を組んでSが立っていた。

僕「S〜、昼休憩終わっちゃうよ?

お昼ご飯食べないと午後もたないぞ!…てかなにしてるの?」

S「あのさ、俺がトイレ入ろうとしたら幼稚園児の行列がすぐそこの道を歩ってたんだ。だから思わず立ち止まって、どこの園児達なのか知りたくて見てたら園児のうちの1人が俺の方に歩って来て「おトイレかして」って言うから「どうぞ〜」って言ったんだけど、いつまで経っても出てこないんだよ…」

music:2

僕「え?…じゃいまもトイレに居る感じ?」

S「そのはず……」

Sがここまではっきりと園児を見たと言っている以上、

Kが言うような幻覚なんかじゃないと確信した。

昼間ということもあってか幽霊とは思わなかったが、それより、

幼稚園児がトイレに入ったまま小一時間出てこないとなると、

そりなりに事件である。

僕はそれを聞いて焦っていた事もあって変な日本語でSに怒った。

僕「おいアホ!やばいだろ子供っすよ!1時間も出てこないんだったら、そこに突っ立ってないで俺達に知らせるとか!扉トントンでだいじょーぶーとか声かけるとかしろよ!」

S「…海……斗……。」

Sが何かを言いかけた事は気づいたが、

話を聞いてる暇がないと思い、

必死に鍵のかかったトイレをこじ開けようとしながら、中にいる園児に声をかける僕。

「もしもしー大丈夫?出られなくなっちゃったのかな?今開けるからね〜。くそっあかねぇ!どこか痛いところあるのかな〜?くっっそ!まじあかねぇー!」

扉を開けようとする音と、僕の必死の呼びかけに気づいて、

K、芋、Mが走りながらやって来た。

K.芋.M「おい!どーした!?」

事情を説明すると、

K.芋.Mも扉を開けようとしたり、

園児を心配して必死に声をかけている。

だが何度やってもなんの応答もない上に、

鍵のかかったトイレはなかなかこじ開けることが出来ない。

この騒ぎを聞いたのか近隣住民も心配そうに様子をみている。

M「Sもボーッと突っ立ってないで手伝え!!」

S「…動けないんだ…体が動かない…」

S以外の皆「は??意味わからんわ」

K「あいつこんな時になに言ってんだ!もう放っとこう!」

僕「これ救急車とかレスキューとか呼ぶべきだと思う」

芋「救急車ここまで来るのに時間かなりかかるぞ!」

M「とりあえず現場にある道具で扉の鍵の壊すか!」

K「中にいる園児が怪我したらどうすんだよ!」

こんな緊急時に15歳の少年達だけで立ち向かうのは

非常にハードルが高すぎた。あまりにも無力。

僕達が、なんだかんだ言い争っているとSがいきなり声を張り上げた。

sound:22

S「なんで気づいてくれねーんだよ!!!」

あまりにも唐突すぎて皆ビックリしている。

Sの顔を良く見ると汗だくで酷く青ざめている。

そして次にSの口から発せられた言葉でこの場にいる全員が凍りついた。

music:6

S「幼稚園児達が何人も俺の体にしがみついてんだよ!動けねーんだよ!」

「………」

僕たちにはそんなモノ見えていないのは当然だ。

そしてなにより今の時刻は昼時の12時半。

すごく天気もよく、小鳥のさえずりも聞こえてくる真昼間に、

そんなことって……

僕「…もしかして今僕らが必死に助けようとしているトイレの中に居るモノって……」

僕がそう呟いた直後、Mが電動ノコギリでトイレの扉の鍵を破壊し、

扉が開かれた。

案の定、中には誰もいなかった。

扉が開かれた瞬間、Sは半狂乱になり大笑いしながら、

顔面から地面に倒れんでピクリとも動かない。

その後Sは救急車で運ばれ、その日の仕事はここで終わりにし、

すぐさま皆でSが運ばれた病院へ向かったのだった。

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医者から難しい言葉でサラッと説明されたので良く分からない部分もあるが、

簡単に言ってしまうと、

極度の緊張状態が長く続いたことと、過労と、栄養不足が重なって倒れたのだと言う。

一週間も入院すれば良くなるとのこと。とりあえずは安心した僕達。

安心できないのはただ一つ明日からまた、

あの園児達が現れた工事現場で仕事をしなければならない事だ……

「幽霊が出るから行けない」など通用する世の中でわないので

K.芋.Mは残りの3日間だけど、僕はあの現場の施工が完了するまでいなくてはならない。

K.芋.M達には無理しなくて大丈夫と伝えたのだが、

「お…親父さんに悪いし、も…もしなんかあっても、かっかっ海斗の母ちゃんがなんとかしてくれるから、ぜぜぜ全然余裕だぜ!」

と見え見えの嘘で答えられた。

そして5.6.7日目。毎日を覚悟して出勤したが一日中変わったこともなく、

K.芋.M達のアルバイト期間が終わった。

皆に渡した給料には''怪奇現象手当''を僕から上乗せしておいた。

僕が知る限り''怪奇現象手当''を出す会社はウチぐらいだろう。

Sもその後無事に退院し元気そのものだ。

結局あの園児達がなんだったのかは今も分かっていない。

多少なりとも霊能力がある僕の母親も「何も見えてこない」といっているのが現状だ。

書き忘れるところでしたが、

K.S.芋.M達のアルバイト期間が終わってから、

僕はまだ一ヶ月程あの現場に通っていました。

もうあの日の恐怖もだいぶ薄れていたとおもいます…

そしてお昼ご飯も食べ終わり、

建物の中で少し仮眠しようと考え横になると、

子供達の楽しそうな話し声が聞こえた様な気がした。

Concrete
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あゆ 様

コメントありがたいです。

芋野郎に惚れちゃいましたか(笑)
これからも芋野郎のキャラを生かして投稿させて頂きます。

返信

Sクンにしか見えなかった園児達...何か訴えたかったのかな...悪い霊では無いにしても怖いですね。

園児事件後も投げ出さないでバイトを続けた仲間の根性と友情にジーンとしました。

しかし芋野郎はいい人(*''д`*)ポッ
ちょっと惚れちゃいましたょ。
ワタシ3枚目キャラに弱いみたいです。一緒に芋食べたいです。Mクンのカレーキャラも笑えました。

凄く怖い体験でしたね。園児達の笑い声のオチがより一層怖さを感じさせられました。

これからも不思議な怖いお話楽しみにしてます。

返信