長編11
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祭囃子に狐面

ひとつ、貴方に聞きたい事がある。もし、貴方のていた世界が、他の人の見ている世界と違っていたら、貴方は一体どうする?これは、僕が小学5年生だった時の話だ。季節は夏

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「こっ・・・この裏切者!」

「何の事だ。」

トイレから帰った僕を見て、薄塩が叫んだ。

ここは夏祭りの会場。その日僕等はその祭りの会場に近い山で肝試しをした。で、肝試しも終わり今時刻は7:00。お腹も空いていたし、どうせなんだから祭りにも寄っていこうと、いう事になった。

だが、僕等は二人ともがっつり上下長袖だったのだ。理由?知らない。薄塩がそうしろと言ったからだ。大人ならまだしも、小学生で夏祭りに上下長袖は珍しい。僕等はかなり目立つ。しかし、僕は最初から祭りに寄る事を想定して、着替え(甚平)を持って来ていた。←で、いまここ。

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「何でお前着替えてんだよぉぉぉぉぉ!」

「悪目立ちするのが嫌だったからだ。」

「だぁぁぁぁぁあ!」

五月蝿いな・・・仕方ないか。僕はリュックからある物を取り出した。

「・・・何これ。」

薄塩が叫ぶのを止めた。

「半袖Tシャツ。上を変えれば大分目立たなくなるだろうしな。」

パァァァ・・・と、薄塩の顔が明るくなった。

「コンソメ~!」

「早く着替えて来い。」

「おお!さんきゅ!」

いそいそとトイレに向かう薄塩を見送り、僕はボケー・・・と、立っている事にした。

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ゴンッッッ

頭に衝撃が走る。後ろから

「おどろいた?」

と言う声が聞こえた。

「のり塩さん、痛いです。」

今僕の後ろにいるのはのり塩さん。薄塩の姉だ。

「のり姉って呼んでって言ったじゃん。もう一発いっとく?」

「勘弁して下さい。のり姉様。」

「様は要らないなぁ?」

頭にはまださっきの物体が乗っている。のり塩さんが、物体をグリグリと頭に押し当てた。

「・・・のり姉。これでいいですか?」

「うん。許す。」

頭から物体が退けられた。そして僕が後ろを振り向くと。

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トイレから帰ってきていた薄塩が、ドン引きした顔でこっちを見ていた。

「お・・・俺は何も見て無いんだゼ!」

は?

「見たとしてもっ気にしないんだゼ!」

「むしろ幸せになってほしいんだゼ!」

・・・。こいつが何を考えているのかは分かった。

「何あり得ない事を考えているんだお前は。」

のり塩さ・・・いや、のり姉がニヤニヤしながら言う。

「へぇ~?コンソメ君からすると、私は《あり得ない》なんだぁ?」

なんて面倒な人だ!ここはよく考えねば。失敗は許されない。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ!!

「僕の様な若輩者がのり姉に釣り合う訳無いですから。」

「私は一向に構わないけど?」

「僕、まだ小学生なんで恋愛感情とか分かんないです。」

「キャラのブレが激しいね。・・・恋愛感情なんて、私一言も言って無いよ?」

「・・・負けました。」

フフン、とのり姉が笑う。

「つまり、二人は別に付き合って無いんだよね?・・・おk?」

まだよく理解していない薄塩が、困った様な顔で聞いてきた。僕はそっと耳打ちをした。

「頼まれたとしても、お断りする。」

「だよなー!俺もだわ。」

僕等はクスクスと笑いあった。歩き出していたのり姉がこちらを向いた。

「ほら、二人とも行くよ~。」

「「はーい!」」

急がなくては。

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僕等が着いたのは、古びた神社だった。高台で見晴らしが良いのに人気が無いのは、おそらく階段が異常に長いからだろう。のり姉が嬉しそうに言う。

「ここ、花火の穴場なんだよねぇ~♪」

僕等?足がガクガクになって半生半死。

「あっっ。」

のり姉が、わざとらしく手を打つ。

「いけない!晩ごはん、買い忘れちゃったね!」

「へ?」

ま・・・まさか・・・まさか?!

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「晩ごはん、二人で買ってきて☆」

やっぱり!そんなこったろうと思った!!

「ゴフゥッッ」

余りのショックに薄塩が倒れた。

「コンソメ・・・俺はもう駄目だ。」

「薄塩!薄塩ー!死ぬな!死ぬんじゃない!」

のり姉がにっこりと笑う。

「あ、そうそう。さっきの、全部聞いてたから☆」

「ザオ○ク!!」

薄塩が自分で叫んで階段の方へ走り出す。

「ちょ、待て!待てってば!」

僕も後ろを振り返らないように走り出した。

ズビシッッッ

頭に何かが当たる。見てみると、のり姉の財布だった。こんなに物を当てられて、僕の頭皮は大丈夫だろうか?

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長い長い階段を下り終え、僕等は屋台が並ぶ通りを歩いた。揺れる提灯。溢れているオレンジの光。流れる様に歩いている人々。

「なあ。」

薄塩がふと立ち止まり、呟いた。

「なんかさ・・・非日常って感じだよな?」

僕は少し驚いた。僕も全く同じ事を考えていたからだ。答えようとしたが、薄塩はもう隣にいなかった。周りを見渡す。

「・・・薄塩?」

「何?」

「えっっ?」

すぐ後ろから声が聞こえた。いつの間に・・・。

「ほら、早くなんか買おう。」

薄塩が言った。

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すぐ傍の屋台で、僕等はお好み焼きと焼きそばとたこ焼きを買った。また元の道を戻る。沈黙が気まずくて、僕は薄塩に話し掛けた。

「あのさ。」

「ん?」

「薄塩って、のり姉のいる時といない時で、大分キャラって言うか・・・テンション違うよな。」

「ああ。違うよ。姉貴がいる時はかなりハイテンションだな。」

「何故に?」

薄塩は、少し考えて言った。

「まあ、・・・暗いってデコピン喰らわされたくないからな。」

「へー・・・。大変だな。」

「大変だよ。」

薄塩は、何故か可笑しそうに笑った。

「あ・・・。」

ふらり、と薄塩が横路に逸れる。僕も後を追う。

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薄塩が足を止めたのは、ある屋台の前だった。

売っているのは、お面や髪飾り。お面は、紙製の本格的な物だった。店の主人の顔には狐の面。

「いらっしゃい。」

髪や声から察するに、まだ若いのだろう。着流しの袖から見えた手は、皺ひとつ無かった。

「何を御求めで?」

薄塩が、主人に笑いかけた。

「此方の祭りにも屋台を出していたんですね。」

「おや。○○(薄塩の名字)の・・・。」

主人が薄塩を見た。どうやら知り合いらしい。

「御嬢様は如何なされていますか?今日は御一緒では無いんで?」

「姉は神社の方にいるんです。」

ほう、と主人が頷く。

「それはそれは・・・。宜しく御伝え下さい。」

「ええ。それは勿論。」

僕は薄塩の後ろで二人のやり取りを聞いていた。何だか薄塩が妙に大人っぽく見える。僕だったらこんな落ち着いた受け答えは出来ないだろう。

薄塩が主人に聞く。

「狐の面を頂きたいのですが。」

主人は少し考える様にして言った。

「ふむ・・・。これ等、如何でしょう?」

指を指したのは、自分で着けている狐の面だった。

主人が続ける。

「いえね、ここにある奴の中じゃ、これが一番の上物なんですよ。ですが、何分私が着けてしまいましたからね。御値段はぐっと御安くしてしておきます。めったにない掘り出し物ですよ。」

薄塩が目を細めた。

「へぇ・・・。確かに素晴らしい品ですね。御値段は・・・?」

「1500円で。本来なら軽く3000は行く品なんですが。」

僕は今一ピンと来なかった。安いのか?1500円って。だが、薄塩は満足そうに微笑んだ。

「じゃあ、それ、頂きましょう。」

「有り難う御座います。」

主人が、深く頭を下げた。

ゆっくりと顔の面に手を掛ける。

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面の下から現れた顔は、良くも悪くも普通のイケメンだった。涼しい目元には赤い線が引いてある。一瞬ビクッとした自分を殴りたい。薄塩には見られていないだろうか?

主人と目が合った。

「おや・・・?」

「え?あ、今晩は。」

主人が、ふっと笑う。

「すみません。蚊帳の外にしてしまって。」

「い、いえ・・・。」

こんな時、自分のコミュニケーションスキルが恨めしくなる。

「時に、珍しい甚平ですね。男物なのにその柄とは。・・・何処でお求めになった品ですか?」

その日僕が着ていたのは、紺の地で袖口に鈴の模様をあしらった物だった。祖母が誕生日に贈ってくれたのだ。

「え?いや・・・。御免なさい。わかりません。」

謝る僕に主人が苦笑した。

「いえ、此方もこんな商売をやっているので、珍しい物があるとつい・・・。いきなり、失礼しました。」

「い、いえ。失礼だなんて、そんな。」

「お詫びと言っては何ですが、何かひとつ、差し上げましょう。」

「うえっっ?!えーと・・・」

ああ、もう!助けろよ薄塩!ニヤニヤすんな!

主人がこちらに何かを差し出した。

「ほら、貴方が手を出さねば、これは地面に落ちてしまう。」

咄嗟に手を出す。僕の手の上に落ちたのは

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髪飾りだった。

形は細いU字ピンの様で、U字のカーブしてある所に、幾つか石らしき物が付いている。

「和簪、ですよ。」

主人が得意気に言う。

「付いているのは、瑠璃、紫水晶、真珠です。真珠は、淡水ですがね。でも、綺麗な球形でしょう?」

・・・え?!

「全部ちゃんとした宝石じゃないですか!!そんなの、頂く訳には・・・。細工も凝っていますし・・・。」

いえいえ、と主人は手をパタパタと振った。恥ずかしそうに笑う。

「実を言うとそれ、私が作った物なんです。石も全て大きさが規格外だった物。あ、勿論、石の品質自体は、かなりの物なんですよ?」

貰って下さい。と、主人が言う。

「店の品では無いのですから、遠慮等要りませんよ。・・・きっと、よく似合うでしょう。」

こんな時、大人はどう対処するのだろうか。薄塩は相変わらずニヤニヤしている。気が動転した僕は思わず手に持っていた袋を主人に押し付けた。

「あっあのっ、これ、たこ焼きです!まだ温かいと思います!・・・お礼と言っては、何ですが。」

下げた頭の上に、クスクスと笑い声が降ってくる。

「お詫びのお礼・・・ですか。夕食を買う手間が省けました。有り難う御座います。」

「い、いえ。」

ふと、主人が気付いた様に言う。

「着け方、分からないでしょう?少し後ろを向いて下さい。」

簪を受け取り、僕が後ろを向くと、主人はゴムか何かで僕の髪の一房を縛った。頭の上の方半分だけ、髪を集めた様な感じだ。

「こうやって縛った所に、これを挿すんです。最後に、落ちない様に、2本だけある長い紐を使って固定します。これは、髪ゴムを隠す役も持っています。・・・ほら、出来た。」

頭の後ろでチャリチャリと音がする。

「あ、ありがとうございます!」

いえいえ、と、主人が笑う。

「またのお越しを。縁があったら。」

薄塩が答える。

「ええ。縁があったら。また。」

僕等は、横路から抜け、大通りへと戻った。振り返ると、

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あの屋台は、影も形も見当たらなかった。

「・・・ええ?!」

薄塩が、愉しそうに笑う。

「相変わらず、神出鬼没だなー。」

いや、そんなに軽く済む事か!僕は、恐る恐る聞いてみた。

「・・・あの人、人間?」

薄塩がさらっと答えた。

「知らね。」

「・・・知らねって。」

薄塩が、さっき買った狐の面を着けた。

「大丈夫。腕は確かだから。」

そして、神社へと向かい始めた。

仕方がないので、僕も後を追った。

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僕の前を、狐面を着けた薄塩が歩いて行く。僕が貸した和柄のシャツに、狐面は不思議とよく映えた。でも・・・。

何だろう。この違和感は。

「薄塩ー?」

「花火、楽しみだな。」

「・・・ああ。」

・・・どうして、僕の考えている事が、分かるんだろう。

「あのさ、」

「ああ。遅くなったな。姉貴、怒ってないといいな。」

・・・どうして。

「どうして。」

「え?」

「どうして、考えている事が分かるんだ?」

薄塩が、こちらを向く。

「気のせいだろ。」

顔の上には、狐の面。

ゾワリ。鳥肌が立つ。周りを見ると、

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誰も人がいない。

「さあ、行こう。姉貴が待ってる。」

足が竦む。

何故だろう。進んじゃいけない気がした。

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ガシッッッ

誰かが僕の腕を掴む。

振り返ると、

「何やってんの?」

「・・・薄塩。」

僕がいたのは祭りのある大通りから少し行った、林の中の道で、薄塩は、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

今まで薄塩がいたと思っていた場所には、狐の面が、落ちていた。

薄塩が、困った様に笑う。

「化かされたね。」

「え?」

「狐の面に。」

「面が、人を化かすのか。」

薄塩は笑いながら言う。

「名作はね。に、しても、早く気付けてよかった。・・・それのお陰かな。」

「・・・それ?」

「うん。髪飾り。超光ってた。」

そっと頭に手を伸ばす。

「これが?」

髪飾りは、変わらずチャリチャリと音を立てるだけだった。

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「行こう。」

薄塩が歩き出す。僕も後に続く。

ほら、神社の石段が見えてきた。

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僕等が帰った時、のり姉は、大きめの万華鏡で大通りの方を見ていた。

「おかえり。掘り出し物ゲットお疲れー。」

「やっぱ見てたか!・・・趣味悪。」

薄塩がうんざりした様に言った。

僕は聞いた。

「見てたって、・・・その万華鏡で?」

のり姉は、事も無げに答える。

「うん。」

「見えるんですか?」

「祭りの時だけね。この万華鏡は、特別だから。」

あ、そうそう、とのり姉が切り出す。

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「さっきの事、多分分かったよ。河童の奴の。」

「え?!」

さっきの事とは・・・まぁ、詳しくは《河童塚》を読んで貰うとして、ざっくり言うと、

・普通はR指定付く位のグロ系幽霊が、僕には可愛い河童にみえた。

と、言うことだ。

「あれ、多分コンソメ君の能力だね。」

のり姉が、楽しげに説明を始めた。

「デフォルメ化能力。見える幽霊が、デフォルメ化されたり、修復されたりするの。」

「・・・ごめんなさい。意味が分かりません。」

「本当ならグロい幽霊さんが、生前と変わらなかったり、可愛いキャラクターの姿で見えたりするってこと。」

そこまで言って、のり姉はニヤッと笑った。

「コンソメ君、何かに護られてる?」

僕はハッ(゜ロ゜;とした。

「ミズチ様・・・。」

今度はのり姉が、ハッ(゜ロ゜;とした。

「ミズチ様?!」

ミズチ様と言うのは・・・。ごめんなさい。《蛟の夢》を読んで下さい。

「神格じゃん・・・。何があったの?」

僕等は、のり姉にミズチ様との事を話した。

「・・・・・・と言う事がありまして。」

のり姉は、何故か頻りに頷いた。そして言った。

「恋人にグロい物見せるのが嫌なんだろうねぇ。良い人(?)じゃん。」

僕は、頭の中で、だが爬虫類だ。と思った。

のり姉が、近くの電信柱を指差す。

「じゃあ、あれは?見える?」

「・・・電信柱ですか?」

「女の子。」

その途端、ブワッと電信柱の上に女の子が現れた。ワンピースを着て、頭には麦わら帽子を被っている。僕は思わず声を上げた。

「出た!」

のり姉が聞く。

「どんな子?」

「えっと、ワンピース着て、麦わら帽子被っています。・・・下から見たら、パンツ丸見えですよ。きっと。」

ふうん。とのり姉が言う。

「頭、私には見えないけどね。潰れてて。」

「嘘?!」

「ある程度は、見えない様にする能力もあるっぽいね。」

「てか、よくそんなグロいの見れるな。」

薄塩が、気味悪そうに呟いた。顔が青い。

女の子は電線の上を、身軽そうに渡っている。

・・・どう見ても、グロくは見えない。

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ドーーン!!

花火が上がる。女の子がこちらを見た。

あそこからなら、きっとさぞかし綺麗に見えるだろう。軽く手を振ってみる。

女の子は嬉しそうにこちらに手を振り返し、花火の方を見た。

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ドーーーン!!!!

更に大輪の花が咲く。薄塩が、僕の隣に立った。

「たまやー!」

のり姉が叫んだ。

薄塩が笑う。

「お前って、ほんと、お得な奴だなー。」

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電信柱の彼女が、消えていく花火に向かって大きく手を振った

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久しぶりに、再読しちゃいました。やっぱり、この時の木葉さん、神秘的で素敵(≧∇≦)b

始めてこのお話し読んだ時は、まだコメントとか出来なかったので…今更ながら、コメントさせてもらいました。

ありがとうございます(^^)
でも、僕は優しくなんかないです。
見える物がファンシーかつ優しげなので、落ち着いて出来るだけなんです。
・・・悔しいですが、薄塩やのり姉の方が、僕なんかよりずっと優しいんですよ。

やはりミズチ様の能力でしたかd(*・ω・*)b♪
神格の能力は優しいコンソメ君にピッタリですね。

これからの色々なお話楽しみにしてます!

ありがとうございます。
あの主人はまた、と言うか、結構この先も出てきます。理由もあります。
あとで、書きます。

今回も良い話でした(≧∇≦)