中編7
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喜劇に溶ける鬼

羽瀬川。

俺はテレビの世界でディレクターをしている。

今日も何か面白い番組ができないかと頭を捻っていた。

自慢じゃないが、企画案は山ほど頭の中に浮かんでいる。

しかしながらどれもしょうもないのだ。

袋小路に立たされた俺は決めた。

あえてそれをやってみようと。

俺が担当するのは地方ローカルの深夜枠。

基本誰も見ないようなチャンネルだ。

そんなところに金をかけるわけにはいかない。

低予算をキーワードに脳内番組フォルダから取り出したのは…。

心霊ロケだ。

最近めっきり減ってしまった。

俺がカメラを持ち、演者が三人いれば十分。

芸人、アイドル、霊能力者ってところか。

適当に廃墟に行って、写真を何枚かとれば形になる。

放送時間は三十分だったので、そんなに頑張らなくていい。

いつ撮るの?

今でしょ!!

…。

というわけで、三人にオファーしてみた。

芸人枠はくまだひろし。

消えかかった一発屋はギャラが少なくていい。

アイドル枠は麻倉菜々子。

無名の新人に高いギャラを払うことはない。

そして、驚いたのが霊能者枠の小羽健之助。

なんとノーギャラでいいというのだ。

それに飛び付き、即座に決まった。

ロケ地はベタにトンネル。

古歪トンネルというバカみたいに長いトンネルだ。

所謂心霊スポットと呼ばれる場所ではないが、知名度の高い場所がいいだろうと思った。

特に変わったことをしようとは思っていない。

オープニング、写真撮影、肝試し、アイドル号泣、お祓い。

こんな感じじゃないの?

番組の流れを説明し、準備万端。

ロケは一週間後だ。

…。

とっぷり暮れまして。

冬の十八時半は当然暗かった。

トンネルが威圧感を増す。

くまだ「いや~、着きましたね。」

羽瀬川「はい、十分後にオープニングなのでよろしくお願いします。」

麻倉「やっぱり薄気味悪いですよね…。」

小羽「トンネルの尾っぽにヤなものを感じますね。」

俺には霊能力者がやけに緊張しているように見えた。

ちなみにテレビに出演は初めてらしい。

羽瀬川「はい、じゃぁオープニング行きます。3,2…。」

くまだ「は~い、始まりました「肝試しロケハン」。この番組は怖いもの好きの皆様のために我々が先回りして心霊スポットの下見をしようというものです。」

MCくまだが麻倉と小羽を呼び込み、オープニングトークを撮り終えた。

羽瀬川「次は、トンネル入り口辺りを軽く歩いてください。小羽さんは何か感じたらコメントお願いしますね。」

このトンネル、人も車も全く通らない。

というのも、このトンネルの先には寂れた一軒家がポツンとあるだけである。

用が無いから人は来ない。

ロケはしやすい環境だった。

いよいよトンネル内の撮影に取り掛かった。

くまだ「いやぁ~、年末にヘビィなお仕事いただきました。」

麻倉「そうですね。先生何か感じますか?」

小羽「奥のほうに重い空気を感じます。もっと入ってみましょう。」

こういうロケでは普通トンネルの中間辺りで霊能者が「引き返しましょう。」と言ってエンディングになる。

俺の頭にもそういう画が浮かんでいた。

羽瀬川「ここいらで一枚撮っておきましょうか。」

霊が一匹でも映ってくれりゃあいいんだが。

すると突然、「写真を撮るのはもっと先です!ここじゃない!!」

小羽が急に叫んだ。

くまだ「…、どうしました先生?」

小羽「いえ…、すみません。もっと先のほうで撮りましょう。このポイントには何も感じませんから。」

羽瀬川「先生、一応カメラ回ってますんで。意識してくださいね。」

小羽「はい…。」

羽瀬川「じゃぁ、続けてください。」

くまだ「いや~、トンネルは冷えますね。」

麻倉「おばけも凍えてるんですかねぇ。」

中身のない三流トークを織り交ぜて先に進む。

百メートルほど歩いて、次のコーナーへ。

くまだ「はい、ここでひとつ催しものを。菜々子ちゃん!」

麻倉「はい!実は私、ニューシングルを発売します。」

くまだ「よっ!」

麻倉「そこで、怖さを吹き飛ばすために少しだけ歌っちゃおうと思います!」

くまだ「いいねぇ。」

麻倉「スキップしながら歌います。テレビの前の皆さんもご一緒に~。」

小羽「写真撮りましょう。」

麻倉「へっ?」

小羽「写真です。ここで撮ってください。」

羽瀬川「小羽さん、流れがありますから…。」

小羽「ここで撮るんですよ!!早く!!」

編集面倒くせぇなと思いつつ、写真を撮る画を挟んだ。

この霊能力者、何かおかしい。

くまだ「おぉ!」

心霊写真が撮れていた。

薄っすら人の顔のようなものが浮かんでいた。

麻倉「先生、何か感じてたんですか?」

小羽「えぇ、まぁ。」

くまだ「感じたら教えてくださいね。こちらも心の準備が要ります。」

小羽「緊張してつい…、すみません。」

写真を紹介して麻倉を歌わせた。

スキップする彼女を先頭に更に進む。

下手な歌をしばらく聞かされたところで、次のコーナーへ。

くまだ「さぁ、ここで肝試しをしたいと思います。番組のテーマですからね。」

麻倉にトランシーバーを渡し、一人で入口に戻ってもらい、こちらと連絡を取るというものだ。

一キロくらいあるトンネルだ。

向こう側に行くべきだろうが、尺の問題がある。

引返すほうが賢明だ。

くまだ「じゃぁ、菜々子ちゃん。がんばってね~。」

麻倉「もう、他人事だと思って!行ってきますよ!」

ここで泣き面が撮れるかなと期待したその時。

小羽「駄目だ!そっちに行ってはいけない。重たい空気が蓋をしている。」

くまだ「おっ!ついに何か感じました?」

小羽「えぇ、かなり強い念を感じます。」

羽瀬川「麻倉さん、行ってください。」

小羽「いや、駄目です。危険すぎる。」

くまだ「では、閉じ込められたということですか!?」

小羽「私が何とかします。とにかく今はこちらに!!」

奥の方を指さした。

羽瀬川は思った。

番組めちゃくちゃにしやがって。

コイツ霊に憑りつかれないかな。

今のところ取れ高はオープニングと写真のみ。

小羽「さぁ、行きましょうよ。」

急に早歩きで進んでいく小羽。

協調性のない奴だ。

他の三人はやる気をなくしていた。

羽瀬川「こんなもんお蔵だよ。」

なんと残り百メートル位まで歩く羽目になり、イベントは特になし。

誰も一言もしゃべらず、番組の体を成していなかった。

すると唐突に、「感じます!男性が立っているんですよあそこに!!」

小羽だった。

くまだ「えっ?どんな男性ですか?」

小羽「年齢は私と同じくらい。どうも寝間着姿のようだ。眼鏡もかけている。」

麻倉「写真撮りましょうか?」

小羽「いや、どうも御怒りのようだ。やめておきましょう。」

くまだ「引返しますか?」

小羽「大丈夫、行ってみましょう。」

麻倉「あの、危険じゃないですか?」

小羽「私がついてます。行きましょう。」

出演者の顔が歪む。

羽瀬川の欲しい画だった。

更に進む。

小羽「まだ見えてますよ男性が。かなり強いオーラです。」

羽瀬川は目を細めた。

羽瀬川「ん?あれって…。」

他の二人も気づいたようだ。

トンネルの出口。

人が倒れている。

くまだ「何だよあれ!!」

男だった。

パジャマを着たメガネのおじさんだった。

麻倉「キャー!!」

崩れる麻倉。

小羽は冷静におじさんの脈を確かめ、「救急車は呼ばなくてもいいでしょう。」

冷静な人間がもう一人。

羽瀬川だ。

大きく溜息をして、「こんなに頑張ったのにお蔵かよ。流石に殺人鬼をバラエティーに出すのはなぁ。」

くまだ「え?」

羽瀬川「話してくれれば罪は軽くなりますよ、小羽さん。」

視線が集中する。

小羽「何のことでしょう?」

羽瀬川「どうやら私にも見えるようだ。あなたとは違うがね。」

麻倉「羽瀬川さん、どうしたの…?」

羽瀬川「私に見えるのは…、トンネルの壁に人の顔に見える模様を落書きをする男、トンネル近辺を下見する男、この先の一軒家に侵入する男、獲物を担いで満足げに一軒家を後にする霊能力者です。」

小羽「…。」

羽瀬川「自分の霊能力を強調するために、ピンポイントで落書きの場所の写真を撮らせ、遺体を発見させるために引返すのを止めた。」

小羽「おっしゃる意味が…。」

羽瀬川「よほど名を売りたかったのでしょう。ノーギャラでオファーを受けてね。」

ダンマリのくまだと麻倉。

羽瀬川「恐ろしい人だ。こんなやらせショーのために赤の他人を殺すとは…。」

小羽「ふふ…。仕方ないでしょう。一週間ではこれくらいの準備しかできない。」

羽瀬川「ふふ…。」

小羽「なぜお気づきに?」

羽瀬川「カメラを回す直前です。あなた言いましたね。「トンネルの尾っぽにヤなものを感じますね。」と。打ち合わせではトンネルの途中で引き返してエンディングをとお願いしていたのに…、口が滑りましたね。」

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