長編8
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春に生まれて春に死ぬ

ひらひら風に揺れ、木から花びらが散る。あんなに散って丸裸にならないのか不思議。

桜って綺麗だなー。

一斉に咲くのはソメイヨシノの特徴。

いつから見てたっけ。

随分長く見てる気がする。

私、このあとどこ行くんだっけ?

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あ!鳥が飛び立ったあとの枝が折れてしまった!蕾沢山ついてるのに…。あれじゃ枯れちゃう。

歩いていた青年がその小枝を拾い、飲んでいたペットボトルの水に挿した。

あ、よかった!これなら枯れずに咲いてくれるかな♪

このお兄さん優しいなー。

それと、チョコレートを脇に置いた。

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甘いのも好きなんだよね私。ありがとう!

あれ?私、なんでありがとうなんて…。

足元に目を移すと、沢山の花や飲み物が置いてある。《お姉さん、ありがとうございます》子供が書いたような文字で大きな花束に挟まっている手紙。

あ…私、死んだんだ。。。この花たちは私への献花。

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私、このあと、あっちへ行くんだ。忘れてた。このまま忘れてたら…。

このまま桜を眺めていたら、ここから動けなくなっていたかもしれない。

お兄さん、ありが…

あ!待って!!お兄さんてば!

あ、そうか。幽霊だから見えないのか。困ったな。

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あっちへの行き方は思い出したけど、彼にお礼を言いたい。心残りを残してはあっちへ行けない。

仕方ない。追い掛けよう。。。

どうやらお兄さんは出張でここに来ていたようで、今日の夕方には地元へ帰るらしい。

歩いたり走ったり、普通のことがうまく出来ないから、ふらふらふわふわ、お兄さんに付いて行った。

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途中で犬に吠えられたり、カラスに突かれそうになる。

◇◇◇◇◇◇

私、これに乗れるんだろうか…。

ここは新幹線ホーム。

どうしよう。あ!お兄さん行っちゃったよ。んん〜、なるようになる!えぇい!!

ううわァ!!

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目の前で扉が閉まっちゃったー。あれ、私の下半身どこ??

閉まったと思ったけど、ここ新幹線の中だな。後ろを振り返ると、扉の外にある私の下半身を発見。

すり抜けてる!

新幹線から落ちたくないのでもう一歩踏み出す。なかなかうまくいかないけど、気合を入れたら、するっと中に入ることができた。

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よかったー。

お兄さんは扉からすぐそこの席にいた。彼の隣に座る。隣に座ったものの…激しく落ち着かない。。。

小一時間経った頃、お兄さんが出口に向かったのでついていく。勿論、彼は私の体をすり抜けて歩いていった。

改札口を出てしばらく歩くお兄さん。私はふらふらふわふわ、ついていく。

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駅裏の駐車場に彼は車を停めていた。

気合で後部座席に乗り込む。助手席は恥ずかしいので遠慮した。

誰かと連絡を取り合ってるらしい。先程からスマホをいじっている。

運転中なのに危ないなー。

私は幽霊だからいいけど、君、このままだと事故に遭っちゃうよ。

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◇◇◇◇◇◇

彼は自宅に着くと着替えもせずベッドに潜り込み、寝てしまった。

5分、いや。2分と経たずいびきをかき出した。

そんな彼を見て私も疲れたのか気を失った。うるさい程のいびきは、一人ぼっちの私にはむしろ心地良い子守唄になった。

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◇◇◇◇◇◇

暑い。なに、この蒸し暑さ。

しかもミンミンうるさいし。

まるで夏。

蝉はアパートのすぐそばの木で鳴いているらしく、ものすごくうるさい。

…夏。ナツ。なつ?ここ夏??

私が死んだのは春。お兄さんについてきたのも春。

寝てただけなのに、目を覚ましたら夏。

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彼は出掛けるところだった。

私はあわててエンジンのかかった車に乗り込む。乗り込む先はやはり後部座席。

車が向かった先は小さなアパート。小さいけれど、赤い挿し色がよく似合う可愛い建物だった。

彼はスマホでメールを送ったようで、アパートのエントランスから可愛い少女が出てきた。

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ほどよく締まったふくらはぎに夏らしいミュールを履いて、笑顔で助手席に乗り込む。

助手席に座ってなくてよかったー。

変なところで安堵した。もし、座ってたらどうなっていたんだろう。

◇◇◇◇◇◇

気がつくととある建物に着いていた。大きな道路横に建つそれは非日常的な雰囲気を醸し出していた。

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お城みたいな。

いわゆるラブホテル。

うそ!?

だってこの子何歳!?子供じゃないの??どういうこと!?

頭の中は『?』ばかり浮かぶ。しかもものすごく場違いな私。。。

あ〜ァどうしよ。中に入る訳にはいかない。そうだ!このままここにいよう。そっとしてよう。それがいい。

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◇◇◇◇◇◇

なのに。そう決めたのに。なぜだか、体がふらふらふわふわ動いてしまう。

どうやら女の子に引っ張られているようだ。

あー部屋入っちゃったよ。私まで入っちゃった。しかも、なんで出れないかなー。やばいよー。出たいよー。

とりあえず、耳を塞いで玄関の方を向いてよう。何か他のことを考えて…。

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茫然自失。ぼーっとしてたら、女の子がトイレに入った。

…話しかけてみよう!

ねえ!トイレの最中悪いけど…

…おーい。もしもし?聞こえてますか?

ダメだ。聞こえてない。

しかもノックも出来ない。

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はぁー。

どうしたもんかな。霊感あるんじゃないの?この子。

お兄さん服脱いじゃったし。女の子も脱ぎ始めたし。

もー!!

人前で服脱がないで!!

てか、私に気づいて!!

あ!こっち見た!!

お願い、私の話聞いて!

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彼女に近づく。なんだか、とっても怯えた顔をしてる。

どうしたの?なんで?

顔色が悪くなった彼女の顔に手を当てて問い掛ける。

彼が彼女に呼び掛ける。

『…ーちゃん』

彼女が振り返ると、私は彼のもとへ飛ばされた。

え?なんで??この子、何者?

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わーーーー!!

お兄さん裸だし!!きゃーーー!!

…待てよ。今ならお兄さんにも見えるかも!

ねえ!!私を見て!お礼が言いたいだけなの!

彼の顔だけ見えるように彼の顔へ手を伸ばした。だって、下は見れないじゃん。

『待って!!』

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彼女の大きな声が聞こえて、私はまたどこかへ飛ばされ、気を失った。

◇◇◇◇◇◇

気がつくと、可愛い部屋の中にいた。女の子の部屋だ。

もしかしてここはあの子の部屋かな?

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◇◇◇◇◇◇

それからしばらくは彼女に憑いて、ふらふらふわふわした。

憑きたかったわけじゃないけど、ひっぱられるんだもん。仕方ない。

この子、お風呂に入る回数が尋常じゃない。外に行く時と、帰ってきた時と、寝る前にお湯を沸かして湯船に浸かる。しかも、その都度、全部洗うって言う。休みの時はお昼ごはんの後にも入る。

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そりゃ、お母さんも怒るよね。

その割りに、コスメにはこだわりがない。お陰で乾燥し始めの季節に肌は耐えられてない。

髪のトリートメントはいいけどさー、クレンジングはクリームがいいよー!

脱衣所越しに、すりガラスをコツコツ叩きながらつぶやく。

『なーにー?』

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今、返事した!?

は、話を聞いて欲しいの!彼にお礼を言いたいの!

『…』

あれ?

今度は聞こえない。

なーんだ…どうやったら聞こえるんだろ。困ったなー。

おーい、聞こえてますかー。

コツコツとすりガラスを叩く。すると今度は彼女は振り向いた。

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けど、やはり私の声は届かないらしい。あっさりと前を向いてしまった。

困ったなー。。。ていうかもうちょっとお肌の保湿しようよ…。冬にサハラ砂漠になっちゃうよ。

テレビではお笑い番組が流れてる。

気分がふさいだときはリフレッシュにお笑いもいいかな!

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そう自分に言い聞かせ、他人のお宅でお笑い鑑賞をさせていただく。

久々に見たお笑い番組に思わず、爆笑をして部屋の棚にぶつかってしまった。

カタン!

やだ!ぶつかった??なんで?幽霊ならすり抜けるパターンでしょ。しかもなんか倒しちゃった!

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ごめん!直しておくから!

わわ!お気に入りの香水なの?すみません!!

一生懸命言葉にするけど、伝わらなかった。

どうやらこのあとお出掛けするようで化粧に夢中だ。

…今のうちに直しておきます。

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◇◇◇◇◇◇

今日は女友達と約束らしい。

彼女の運転する車の助手席に座って待ち合わせ場所につくと、

この子よりさらに幼い顔した子が私の方を見てた。

もしかして、私のことに見えてるのかな?話せるかしら?

と思ったけど、それからは目が合わなかった。

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◇◇◇◇◇◇

友達と別れ、自宅に帰ると、どうやらお母さんは居眠り中。黙ってひざ掛けを掛けてあげるなんて、優しい子だなー。

お祓いねー。祓われたら私、どうなっちゃうの?

むしろ、疲れてきてるのは私の方で、彼女は至って元気だ。

お嬢さん。その元気、私に分けて下さい。

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半ば投げやり気味な私の言葉が聞こえたのか、彼女は振り返った。

私と目が合った。

私のこと見えてる!?

確信はないけど、大きな声で叫んでみる。

聞いて!私の話を聞いてほしいの!聞こえてお願い!

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すると彼女がこちらに向き直り近づいてくる。ただ、顔は顔面蒼白。

そりゃ私お化けだもんね。怖いよね。。。

ごめんね。

泣きそうな彼女の頬に手を伸ばす。心の底から怯えてる様子が私の心を咎めた。抱きしめたら私の気持ち伝わるかしら…。

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余計に怖がらせてしまったのか目をつぶる彼女。

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◇◇◇◇◇◇

次に目を開けた彼女は、ぽろぽろと泣いていた。その瞳に怯えた色はもうなかった。

よかった。私の気持ち伝わったんだ。

この気持ちを伝えたい。彼に伝えたい。お礼を言いたい。

それだけなの。

◇◇◇◇◇◇

あれから、彼女に話し掛けてもこっちを見てくれないけど、私の姿は見えるようで、玄関の扉を開けといてくれたり、自動ドアでは先に行かせてくれたりと、気遣ってくれた。

ここは喫茶店。

彼が来るまでメニューでも見ていよう。どうせ食べれないだろうけど。

《旬の果物をたっぷり使った焼きタルト》

甘党な私。しかも、限定とか旬とかに弱い。

食べたいなー。死んでから初めて死んだことを後悔した気がする。

すると彼女がその焼きタルトを頼んでくれた。

◇◇◇◇◇◇

タルトが席に運ばれてすぐ彼があらわれた。

おいしそうにタルトを食べてる。私が食べたかったタルト…。

彼は食べながらチラチラとこちらを伺う。

今度は目が合ってぺこりと頭を下げてきた。

私も慌てて頭を下げた。

実はお礼が言いたくて。桜の枝のこととチョコレートのこと。あと、死んだことを思い出すきっかけをありがとうございます。

『あ、いえいえ。』

すっきりしたー!あなたのおかげ様であっちの世界へ行けます。

『とんでもない!』

コウ君。あなたとは生きてるときに会いたかったな。そしたら、お付き合いしてみたかった♪勿論、セフレじゃなくてね。

シーちゃんもありがとう!

これであっちに行けます。

紅茶と焼きタルトはお供えとしてあっちでゆっくり食べさせてもらうね♪

◇◇◇◇◇◇

あの時みたいな、ふんわりとあたたかい風とともに私は旅立った。

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tokinezu_様

素敵と感じて頂けて嬉しく思います(*^^*)
ぜひまた春に読みに来てくださいませ(^_^)/
コメントありがとうございましたm(__)mいただけるととても嬉しいです✨

素敵な話~!
春になったら、また読みにきたいです♪

彩貴様。
そうですよね。伝えたいだけなのに怖がられる…。悲しいですね。
チャンネルが合わないだけで、周りには沢山いるらしいですから、こんな霊もいるかもしれませんね(*^_^*)
もしかして、いい霊は守護霊になるのかなー??

幽霊の女の子はこんな気持ちを抱いていたんですね…
こんな風に思いを伝えたいだけで怖がられるってなんだかとても切なくなりますね、今自分たちが生きるこの世界にもこんな幽霊さんいらっしゃるんでしょうか?T^T

hika様。
私も春生まれなんです(*^^*)春って優しいイメージだし舞台をこの季節にしました。
せっかくのお供え物ですし、人助けした彼女に素敵なティータイムを過ごして欲しくて持っていってもらいました♡
は!!!!Σ(゚Д゚)彼女に名前が無かった…。けど、彼女はそこら辺にいる普通に優しい女性なのです(*^^*)きっと後輩の面倒見もいいでしょうね(*´ω`*)

uniまにゃ~様。ローザ改めフンショウロウです。
優しい感じ、伝わって嬉しく思います(*^^*)清々しいというか、ほのぼの、ほっこり等等して頂けたら幸いです。ありがとうございました♡

ちくわ様。ローザ改めフンショウロウです。
感動して頂けたなんて光栄です(*^^*)
次回作!?w文才があれば、ばんばんお披露目したいですが…何か書けたらいいな-と思います(^^ゞ

甘党な彼女が持って行ったから無くなってたんですねー、納得です(*^^*)

お礼を伝えるまでの過程で、しいのさんの事を心配してみたりと とっても優しい心の持ち主さんだったんだなと思いました(^^)

春生まれなので桜に関するお話で嬉しいです(*´◡`*)

うん、うん(T_T)
優しい感じですねぇぇ

とっても良い気持ちになりました
ありがとうございます

とても感動しました!
次回作、楽しみにしています!(^ ^)

黒崎一護様。
タイトルの「さくらいろ」は当初、幽霊が履いてたスカートの色ってだけだったんですが、やっぱり怖いの書くのは怖かったので、タイトルにあやかり優しい物語になりました(*^^*)
優しさが伝わってよかったです(*^_^*)ありがとうございました!

あゆ様。
書きながら香取慎吾さん主演の『ひそかな彼女』を思い出しちゃいました。結末は違いましたが。
せフレにもお互いを思いやる気持ちは大事ですね(*´ω`*)
付き合いたいそれとは違っても、やはり『好き』の気持ちがないと心も体も気持ちよくはなりませんから(〃∇〃)
次回作なんてw言っていただけると奮い立つ気がしますね♡

桜に愛された人だったのですねv(''▽^*)ォッヶー♪可愛い幽霊さん♪しーちゃんもいい人でコウ君にお礼言えて成仏出来て良かった!
実際幽霊に憑かれたら可愛い幽霊さんでも怖いと思う...ワタシゎビビリだから気持ち察してあげられなかっただろうな。
なんて感慨に浸れる怖くてほんわかしたお話をありがとうございました。
コウ君とならカレカノのククリを超えたセフ関係も成り立つのかも(笑)セフでも相手を大事に思えるならアリアリかなとかも考えてしまいました。ローザ様の次回作楽しみです♪

さくらいろのタイトル通り
優しい色をした幽霊さんですね♪