長編9
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百物語

僕等が高校1年生の時の事。

時期は夏休み。

僕等は海辺の民宿に、二泊四日の旅行に来ていた。

これは、その時の話。

前回の続きと言ってもいい。

今回も例に漏れず、パッとしない話だ。

退屈かもしれないが、一つ、お聞き願いたい。

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僕等が民宿に着いたら頃には、辺りは大分暗くなっていた。

僕等(のり姉除く) は、もうヘトヘトだ。

「だらしないなぁ。・・・まぁ、しゃーないか。」

玄関で動けなくなっている僕等を見て、のり姉が薄く笑った。

僕等は、誰も何も言わなかった。

いや、疲れすぎて何も言えなかったのだ。

何とか靴を脱ぎ、下駄箱に仕舞う。

カラカラの喉から声を絞り、靴を脱ぎながら撃沈している友人を起こす。

「ほら、ピザポ、起きろ。」

「・・・・・ん?・・・あぁ。」

今度は薄塩だ。靴を仕舞ったは良いものの、デロンと廊下に伸びてしまっている。

「薄塩、もう少しの辛抱だ。耐えろ。」

「・・・・・ごめんなさい。お姉・・zzz」

「だから、僕はのり姉じゃない。寝るな。」

「・・・コンソメ・・・・?」

二人は何とか起きた様だ。

のり姉が、此方に声を掛ける。

「部屋は二階の一番奥から一つ隣。私の部屋は一番奥。・・・私はこれから夕食だけど、コンソメ君達は、取り敢えず眠いでしょ?寝てなよ。コンソメ君達の分は、部屋に運んでおいてあげる。」

僕は、ふわふわした頭で必死に応えた。

「僕等の為に・・・御手数を・・・。」

のり姉は、妙に優しげな声で言う。

「ううん。・・・廃墟探検は、明日にしよう。百物語、出来る?起きたら、連絡してね。」

僕は、小さく頭を下げた。

「御気遣い・・・有り難う御座います。」

食堂へ向かうのだろう。一階の奥へと歩みを進めながらのり姉はスッと右手を上げた。

「そうだ、温泉は10時までだから、過ぎたら、隣にあるコインシャワーを使ってね。」

「はい。」

上げた右手を軽く振り、のり姉は歩いて行った。

後ろを見ると・・・。

二人がまた眠りこけていた。

僕はこれから上っていく階段の事を考えて、大きな溜め息を吐いた。

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畳の上で目が覚めた。

どうやら布団も敷かずに眠ってしまったらしい。

顔を上げると、目の前には誰かの足。

「・・・失礼な。」

思いきり擽る。

「うぎゃあああぁぁぁ!!!」

声から察するに、ピザポの様だ。

・・・あれ?思っていた反応と違う。

「た、たす、す、たすけ・・・ッッ」

愚図りながらピザポが後退りする。

「・・・・ピザポ。僕だって。」

ピザポが恐る恐る此方を向いた。

「・・・コン・・ちゃん・・・?」

頷く。

「コンちゃん!!」

ピザポが、大声で僕を呼び、泣き出した。

「怖がっ"だあ"あ"ぁ"」

泣きじゃくるピザポの背中を摩る。

「ごめんな。」

「アイツ等だと・・・思った・・・。」

あのピエロ達か。

無理も無い。

下手すれば、トラウマになるレベルだ。

「ごめんな。悪かった。」

「ううっっ・・・ぐずっ・・・。」

「もう大丈夫だ。助かったんだから。な。」

ピザポがやっと泣き止んだ。

気まずそうに言う。

「・・・・ごめん。大袈裟だよな。白けた?」

項垂れるピザポの背中を軽く叩いた。

「いや、あんな事があった後だしな。僕が軽率だっただけだ。気にするな。」

ピザポは

「うん。」

と言って、目元をゴシゴシと擦った。

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ピロリンッ♪

突然背後からした音に、僕が振り向くと

薄塩が、此方にスマホを向けていた。

「・・・何してるんだお前。」

「目が覚めたらピザポがギャン泣きしててそれをコンソメが慰めてる件について詳細求む。」

僕は理由を説明した。

「実はだな(ry」

薄塩は、何度かコクコクと頷いた。

「成る程な。大した事無くて良かった。」

「おーい・・・。」

ピザポがおずおずと口を開く。

「さっきのピロリンッて、何の音?」

薄塩が、何も言わずにスマホの液晶を此方に突き出した。そこに写っていたのは

目が真っ赤で半泣きのピザポの顔面アップだった。

「うわあぁあぁああぁぁ!!」

さっきとはまた別の悲鳴が響く。

僕はピザポを軽く窘めた。

「気持ちは分かるが、ここは家じゃないんだ。もう少し声のボリュームを落とせ。」

「だって・・・!」

「だってじゃない。」

薄塩はニヤニヤと笑った。

「怒られてやんのーww」

悔しそうにピザポが薄塩を睨む。

・・・仕方がない。元はと言えば僕がピザポの足を擽ったからだ。助けてあげよう。

僕は薄塩に喋り掛けた。

「なあ薄塩。」

「んー?」

「その写真、消す気は無いか?」

薄塩のニヤニヤが大きくなった。

「どーしよーかなー?」

僕はもう一度問い掛けた。

「消すか?消さないのか?」

フフーンと薄塩は鼻歌を歌っている。

ならば・・・

「と、言うことは、今日からお前は《同姓の同級生の泣き顔写真を大切そうに保存してニヤニヤしているド変態野郎》って、事でいいな?」

薄塩のニヤニヤが一気に消し飛んだ。

「ちょ、何それ、止めろ。」

「だったら消せ。今すぐ消せ。」

それでも薄塩はブツブツと何かをぼやいている。

僕は、取って置きのゲス顔をして、バッグから自分のスマホを取り出した。

「・・・文明の利器というのは、便利だな。」

薄塩が不思議そうに

「はぁ?」

と声を上げた。

僕は、ゲス顔を維持しながら言い放った。

「もしその写真を消さないのなら、のり姉に教えると言っているんだ。《薄塩が、ピザポの泣き顔写真をニヤニヤしながら見てる》ってな!!」

薄塩の顔が、一気に引き攣った。

「薄塩・・・。のり姉にそんな事知れてみろ。自分の姉の趣味だ、・・・お前が一番よく知っている筈だろ?」

薄塩が、泣きそうな顔になった。

「今すぐ消します。だから、止めて下さい。」

僕の目の前で、画像が削除された。

ピザポが嬉しそうな声を上げた。

「コンちゃんスゲー!!」

僕(`・ω・´)

視界の隅でまだブツブツ言っている薄塩は、見なかったことにしよう。

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部屋に掛けてある時計を見ると、夜の10時半だった。僕は着替えを用意しながら言った。

「もう温泉はやってないな。」

ピザポが残念そうな声を上げた。

「えー・・・。」

「コインシャワーあるんだろ?行こう。」

いつのまにやら薄塩が復活していた。

僕等は、一階のコインシャワーへと向かった。

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シャワーを浴びて帰って来ると、部屋の中に三通の手紙が置いてあった。

青い便箋に、青いインク。筆らしき筆跡で、

「本日の午前二時より、百物語を執り行います。手紙を持って、私の部屋へ来てください。」

とだけ書いてある。

「百物語。」

僕がそう呟くと、薄塩は何も言わずに頷いた。

今は大体11時。

あと三時間だ。

手紙の隣にお握りとおかずが乗った皿があったので、僕等はそれを食べながら時刻が来るのを待った。

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のり姉の部屋は、電気が付いていなかった。

その代わりか、部屋の四隅に火の灯してある蝋燭型のライトが置いてあった。

「さあ、百物語の始まり始まり。席へ。」

僕等は用意されていた座布団に腰を下ろした。

「今回は略式。流石に百話は無理だから。時計回りに四巡。最初は北から。」

薄塩が、静かに語り始める。

「これは、ある寺であった話ーー」

真ん中に置いた硝子鉢の水面が、光った。

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話は進み、次の話が最後となった。

のり姉が、話を始める。

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昔々・・・と、言ってもそんなに昔の事ではないの。大体、百何十年か前の話。

その頃、日本には大きな転機が訪れていたの。

開国と新しい国作り。

だけどね、開国と文明開花の波は、良い事ばかりをもたらした訳では無かった。

確かに、一部の人はかなりの富を得て、幸せな生活を手にいれた。

けど、そんなのは本当にほんの一つまみ。

ほとんどの人は、苦しい生活を強いられた。

特にね・・・コンソメ君、被差別部落って、分かるよね?

「はい。」

ピザポ君は?

「一応。」

薄塩は?

「分かんないって言ったら?」

・・・ggrks。

「嘘だって。分かるよ。」

・・・その人達はかなり生活がキツくなったの。

何でかって言うとね、それまでは、他の人達から忌み嫌われていても、同じ仕事をしている人が少なかったから、収入は安定していたの。

でも、法律が変わって、他の人もその仕事をやり始めちゃったから、仕事が無くなっちゃったのね。

うん・・・別の仕事も出来たけど・・・それはあくまで法律上の話。

長年染み付いた差別意識は、そう簡単には消えかったの。だから、他の仕事は殆ど出来なかった。

話は変わるんだけど、その当時、サーカスが流行っていたの。いや、今みたいな感じのじゃないかな。少し洋風の見世物小屋みたいな。

でも、見世物小屋が増えると、只の見世物だけじゃお客が入らなくなる。

だから・・・奇形の子供を、妖怪や、化け物と称して見世物にしたの。

そう。許される事じゃないよね。

でも、仕方がない。それが時代だから。

そこで、話は繋がる。

お金が無くなって、仕事も無くなった人達は、自分の子供達をサーカスに売り払ったの。

・・・けど、普通の子供じゃ買い取ってくれない。

だから、計画的に奇形の子や障害を負った子を作った。

・・・惨いことだよね。でも、その部落の人も、仕方が無かったの。

なんか、《仕方がない》ばっかりだね。

でも、仕方がなかったの。

妊娠中に薬や水銀を飲んで・・・。

分かりやすい障害や奇形の子だけを残して、売れるまで育てて、それ以外は棄てて。

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そこまで話して、のり姉は僕等の方をじっと見た。

「あの子達は・・・そういう子なの。」

ピザポが、固まった。

「あの子達って・・・!」

のり姉が頷く。

「そう。見たんでしょ?あの子達を。」

薄塩が言う。

「姉貴・・・。何で、そんな事知ってんの。」

のり姉は、薄く笑って、何も言わなかった。

「だって・・・顔の真ん中に、大きな穴があったり、ぐちゃぐちゃになってたり・・・もう、あんなの・・・」

「人間だよ。」

ピザポの言葉を、のり姉が遮った。

「え・・・?」

僕は唖然とした。

薄塩とピザポは、僕なんかよりずっと酷いものを見てたのか。

そして、後悔した。

「何で・・・助けてあげられなかったんだろう。」

人間だなんて、思わなかった。

「あの子達は何も悪く無かったのに・・・。」

挙げ句果てには、化け物だなんて・・・。

「仕方がなかったの。」

のり姉が、僕の方を見て、言った。

「コンソメ君。あまり無理しないで。使命感なんかどうでもいいから。コンソメ君は、何も特別なんかじゃないの。」

涙が出た。俯いて目を擦る。

薄塩が、手を伸ばして背中を叩いてくれた。

「無理すんな。泣いとけ。」

「・・・すまん。」

膝の上に、ポタポタと涙が落ちた。

それに、とのり姉が言った。

「伝わらない事も、沢山あるの。」

眉を潜める。

「あの子達、悪気は無いの。でも・・・善悪を考える事も出来ないの。」

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ドンドンドンッッ

窓が鳴る。

ヒッッ。とピザポが声を上げた。

部屋を出ようとする。

「駄目!!!」

のり姉が、厳しい声で言った。

「出ないで。此処は安全だから。」

チャリン、と音が聞こえた。

ブツブツと呟く声。

「なんで・・・!!助かったんじゃ・・・?!」

錯乱気味のピザポを、僕と薄塩で挟む様な体勢で囲む。涙はもう、止まっていた。

硝子鉢の水面が波立つ。

風も無いのに、蝋燭の火が揺らぐ。

「ライトじゃなかったのか?!」

僕が驚いて声を上げると、

「ライトだよ?でも、結界だから。」

とのり姉が言った。

溜め息を吐く。

「善悪が無いからね・・・。痛い目に合わせなきゃ、駄目なの。悲しいけどね。」

のり姉が、木刀を構えた。

窓に、手を掛けた。

その瞬間ーー

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僕の意識は、

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飛んだ。

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「・・・い!おい!起きて!!コンちゃん!」

目を醒ますと、皆が此方を覗き込んでいた。

「・・・何があった。」

「倒れたんだよ。」

薄塩が答えた。

話を聞くと僕は、のり姉が窓を開けて御姉様無双を始めた瞬間に気を失ったらしい。

「のり姉凄かったんだよ!マジで!」

ピザポが言う。

僕は聞いた。

「あのピエロ達は・・・?」

のり姉が笑った。

「ちょっと叱っただけ。でも、もう懲りたと思うから、大丈夫。」

その日は、大事を取って皆でのり姉の部屋で眠った。のり姉が言った。

「変な気起こさないでよwwww?」

僕等は、言った。

「変な気ってなんぞwww」

「・・・殺意じゃないか?」

「命の恩人であるのり姉に、殺意なんて湧きませんし、湧かせませんよ。」

上から、ピザポ、薄塩、僕である。

明日は海に行くんだ。

早く寝よう。

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三人組のキャラ好きです。のり姉も。引き続き読みまーす。

ピザポ(*^。^*)
ナイスキャラですね

・・・もっと上手く伝えたいんですが、省くべき所と、残すべき所とがよく分からないんです。
あの子達は本当に何も悪く無いのに。
・・・何故かのり姉が無双をする時って、気を失ってしまうんですよね。
一体どんな目に逢わされたのか、少しだけ心配です。

悲しくなりました。・゚(´□`)゚・。
日本の暗い歴史の犠牲者。

体たらくなんて...
怖く切ないお話です。
紺野様だから書けるお話ですョ。

益々のチップス仲間の体験談を楽しみにしてます.。゚+.(・∀・)゚+.゚