中編5
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守りたい場所

これは、僕、薄塩、ピザポが高校1年生の時の話だ。

季節は夏。

僕等は、薄塩の姉である、のり姉と共に海辺の町へ旅行へ行った。

これは、その二日目に起こった出来事だ。

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目の前に建つ、見るからに不気味な廃墟を前にして、僕等(のり姉以外)は、大きな溜め息を吐いた。

時刻は午後の10時。

ついさっきまで泳ぎ回っていた僕等は、体力的にもう限界が来ていた。

早くも薄塩が弱音を吐く。

「もう嫌だ・・・帰りたい。寝たい。」

全く持って同感だ。

ピザポもうんうん、と頷いた。

元気なのはのり姉ばかりである。

「今回のターゲットは、首吊り自殺をした女の子ね!わざわざこんな素敵な廃墟を選んだセンス!気が合いそう!」

本当に・・・こっちの身にもなってほしい。

ピザポが、心配そうに僕に聞いてきた。

「なあ、コンちゃん・・・。この廃墟さ、人とか来なさそうだし・・・。もしかしたら、御本人、まだ居る・・・とか、ない?」

御本人・・・?

ああ。そういう事か。

僕は言った。

「居ない。ちゃんと回収済みだ。今はちゃんと石の下に居るだろう。」

ホッとした様にピザポが息を吐く。

僕だって御本人と対面するのは御免だ。

のり姉が高らかに言う。

「さあ!行こう!コンソメ君、侵入経路確認!」

僕はなるべくハキハキと答えた。

「はい。今回侵入するのはあの右側の建物です。一階の窓は基本全部割られているそうなので、そこから侵入します。ターゲットは二階にいるそうです。」

のり姉が右手をグッと空に突き出した。

「出発進行!!」

「「「・・・・・・おー。」」」

僕等も、弱々しく右手を上げた。

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その建物の一階は惨憺たる有り様だった。

窓は全て割られ、ゴミが散らばり、壁には一面にスプレーで落書きがされている。

思わず僕は眉を潜めた。

のり姉が呟く。

「不良の溜まり場だったのかな。・・・それにしても酷いね。」

僕は大きく頷いた。

険しい表情ののり姉に声を掛ける。

「・・・さあ、二階へ。」

僕等は、二階への階段を探し始めた。

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「う"っ・・・グフッッ・・あ"っあ・・・・!」

誰かの声が聞こえる。

階段を上りきり、僕等は扉の前に立っていた。

「・・・居るね。」

のり姉が言う。

「グッッ・・・ガッハッ・・・。」

声は未だ、続いている。

ドアノブに手を掛ける。

ガチャリ

ドアが空いた。

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ドアの向こうには、首を吊っている女の子。

制服を着ている。

「ガッッ・・・グフッ・・・。」

宙を蹴る両足。

苦しみの中でもがく表情。

・・・苦しむ必要なんて、無いのに。

だって彼女はもう・・・。

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死んでしまっているのだから。

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のり姉がふっ、と優しい顔をした。

鞄の中から、何かを取り出す。

「・・・手鏡?」

そう、とのり姉が微笑んだ。

「・・・ぁあ"・・・グアァ・・・。」

涙を流しながら苦しんでいる女の子に、のり姉が近付いて行く。

すぐ側まで行くと、のり姉はその子に優しく話し掛けた。

「・・・苦しい?」

「うう"っ・・。グルッ・・・グルジィッ・・!」

「大丈夫だから。」

ゆっくりと、女の子の前に手を伸ばす。

その手には、手鏡。

「もう大丈夫。だって貴女は・・・。」

女の子が鏡を見る。

目を見開く。

「・・・・・・!」

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彼女を苦しめていた縄が、消えた。

ドサッ

と、地面に女の子が落ちる。

暫く肩で息をしていたが、やがておずおずと、のり姉を見上げた。

のり姉がしゃがみこむ。

何か言ったらしい。

女の子が、ポツリポツリと何かを喋り始めた。

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二人は、そのまま何分か話していた。

僕等はその間、その様子を見ているだけだった。

やがてのり姉が立ち上がった。

女の子に何かを手渡し、こちらに戻って来た。

「ほら、帰ろう。」

僕等を押し退け、さっさと階段を下りて行く。

僕等は女の子に軽く礼をし、のり姉の後を追った。

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帰り道、のり姉が彼女と何を話していたのかを教えてくれた。

「あの子ねー・・・。」

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要約する。

彼女の名前は○○○○○○○。

歳は14歳。

彼女は学校と家庭で、長いこといわゆる《ぼっち》だった。

しかし、それは自殺には何も関係無かったそうだ。

確かに肩身は狭かったそうだが、別にイジメにあっていた訳ではなく、元来、独りが好きな性分だったので、苦痛でも何でも無かった。

独りで、自分の好きな場所で読書をする。

それが彼女の一番の楽しみだった。

そして、あの廃墟の二階は、彼女のお気に入りの場所だったそうだ。

だが、ある日を皮切りにその廃墟に不良達が溜まる様になってしまった。

窓を割り、ゴミを散らし、落書きをし・・・。

自分だけのお気に入りの場所を汚されるのは、彼女にとって許せなかった。

だから、まだ被害の無い二階で、彼女は首を吊ったのだそうだ。

唯一、自分を受け入れてくれる(気がする)場所を守る為なら、命なんてどうでも良かったらしい。

そして、目論見は見事に大成功。

遺体は見事に不良達によって発見され、その不良達は二度と廃墟には来なかったらしい。

だがしかし、一つ問題が発生した。

首吊りは痛くて苦しいのだ。

しかもそれがエンドレスで続く。

自分が生きているのか死んでいるのかも分からない。

確か死んでいる筈、と思ってはいたが、如何せん痛みも苦しみも続いているので、今一どうなのか確信が持てない。

「で、鏡を見てはっきり理解したんだって。《自分は死んでいる》って。そしたら、何か楽になったんだって。お礼言われちゃったよ。」

のり姉はそう締めくくった。

自分のお気に入りの場所を守る為に首を吊るという考え方は、理解出来るか出来ないかで言ったら出来ないが、まあ、彼女にとって彼処はそれだけ大切な場所だったのだろう。

僕がそんな事を考えながら歩いていると、隣で空を見上げながら薄塩がぼやいた。

「てかまず、よくあんなのと喋れるよな。」

ピザポが激しく頷いた。

・・・そうだ。僕とのり姉達では見え方が違うのだった。

のり姉の目には、彼女はどんな風に映っていたのだろう。

首吊りというのは、確かかなり悲惨な見た目になる筈だ。

・・・・見たことないから分からないけれど。

僕は、前を進んでいるのり姉に向かって声を掛けた。

「のり姉ー?」

「んー?」

のり姉は振り返らずに応えた。

「最後に渡してたあれ、何だったんですかー?」

のり姉は、楽しそうに言った。

「私のオススメ本。あの子、私と好み合いそうだったから。」

「何の本ですかー?」

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のり姉は、振り返って悪戯そうに笑った。

「秘密ーー!!」

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のり姉すごいです。

自分のお気に入りかぁ

ベッドに寝転んで布団に包まれて愛猫と抱き合って寝てる
自分の部屋かなぁ
因みに生粋の茶トラ猫です
金の毛に、金の目です
かわいいのなんの…

その時間と場所を奪う奴がいたら、近所の人が作ってくれた
手作り木刀でフルボッコだな

のり姉は意味深な所に惹かれます
素敵な女性なんでしょうね…(^-^)
想像してしまいます

読んだ後もちょっと考えてしまうお話でした
お気の毒……そして怖い。

のり姉さん何渡したのかなー。気になるなー(*´-`)

最後までお付き合いします(*^.^*)

のり姉さん優しい方…惚れちゃいます(///ω///)♪

グダグダなんて...切なく怖くいいお話。
お気に入りの場所を守るために死ぬのも平気。

確かに人の価値観は千差万別ですね。

自殺するとその苦しみはエンドレスで飛び降りをしたらエンドレスに飛び降りを繰り返す...
首吊りすれば同じくエンドレス。

とゆうのを聞いたことがあります。本当なんですね。(((p''д`q)))

のり姉はその事を知っていて廃墟に向かったのでしょうか?3人に自殺は苦しいと知らせるため?
少女をエンドレスから解放するため?

いずれにしても凄い人ですね。

これからも4人の体験談をお願いします。

切なく怖く時に楽しくのお話楽しみにしてます。