(実話怪談)使われていないトンネル

中編3
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(実話怪談)使われていないトンネル

Sさん(27歳・男性)は幽霊とか心霊スポットとか、その手の話をまったく信じていなかった。

彼は冷やかし半分な気持ちでよく心霊スポットに遊びに行くことも多かった。幽霊を信じていなかったから怖くもなかったし、友人たちとわいわい騒げる場所としては心霊スポットは悪くなかったのだ。

お金もかからないし、男友達と行っても盛り上がるが、何よりも女性を連れていくと、きゃーきゃー怖がっては自分に頼ってくるのが楽しかった。

その日もSは最近親しくなった若い女友達を連れて、ネットや雑誌の心霊特集でもよく取り上げられていた某心霊スポットへと足を運んだ。

彼女はトンネルに行く前から「怖い怖い」と口にしていたが、行くのをやめようとも言わなかった。

結局、彼女も肝試し感覚で男と一緒に心霊スポットに行くことを楽しんでいたのだろう。

会話も適度に弾み、Sの運転する車はあっという間にそのトンネルに着いた。

そのトンネルは現在は使われていない。 トンネルの先の道が数年前に閉鎖されてしまったからだ。 『この先、行き止まりです』という看板を無視してやって来るSのような肝試し目的の人間以外には、ほとんど目にされることも無いようなトンネルなのだ。

なるほど、いかにも幽霊でも現れそうな雰囲気のあるトンネルだと思った。 使用されていないトンネルは、人気はもちろん、明かりもほとんど無い。

Sがこれまでに行ったことのある心霊スポットも大体こんな雰囲気だった。 だが、過去に一度も不思議な存在を目にしたこともない彼は、ここも今まで行った場所と同じように「いかにも幽霊でも出てきそうな雰囲気のあるところ」というだけで、怖がりの馬鹿がビビって、幻でも見て大騒ぎをして、そんな噂が生まれただけなのだろうと、たかをくくっていた。

車でトンネルの真ん中あたりまで進む。

入口の時点で既に暗かったが、中に入ると本当に真っ暗で、彼女はジェットコースターに乗った時以上に悲鳴をあげるのに忙しくしていた。

とりあえず、Sは車をそこで止めて、しばらく様子を見ることにした。

噂によると、ここに現れる幽霊は2パターンあって。

1つは、白い服を着た老婆の幽霊。

もう1つは黒い服を着たまだ9歳くらいの男の子の幽霊である。

彼らが突然、運転中の車にぶつかってくることがあるというのである。

その他にも、トンネルから出たら車中に人の手形がたくさん付いていたという話もある。

……この手の話ってバリエーションが本当に少ないよな、と思う。

幽霊の目撃談などまったく信じていない彼は、どこかで聞いたような話ばかりが伝えられていることに不満も抱いていた。

このトンネルで目撃された幽霊の話はゴールデンタイムのテレビ番組でも何度か取り上げられたことがあったのだが、こんな今までに何百回と聞いてきたような話、フィクション物のドラマとかだったら、深夜番組でだって採用は決してされないだろう。

 と、そんなことをしばらく考えていても何も起こらず。

彼女のほうも悲鳴をあげるのに疲れてきたのか、多少おとなしくなってきている。

「老婆の幽霊も子供の幽霊も出てこなかったな」

がっかりしたように言うSの言葉を聞いて、彼女は「良かったよ~」などと言うが、その表情は明らかにちょっと物足りなさそうにも見える。

 自分たちのテンションを上げさせてくれるためにも、せめてどこかから怪しい声の一つでも聞こえてきやしないだろうかと思ったりもしたが……

やはり何も聞こえてはこない、何も見えてこない。

「じゃあ、後は車に手形でも付いているかどうか確認しようぜ」

あまり期待は出来なかったが、最後のイベントとして、車に手形でも付いていないだろうかと確認することになった。

トンネルの中は暗いので、外に出て明るいところで確認しようと、

Sはアクセルを踏んだ。

その瞬間、先ほどまでトンネルの真ん中にいたはずなのに、Sと彼女の乗った車はもうトンネルの外に出ていた。

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