中編4
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ゲシュタルト崩壊

”ゲシュタルト崩壊、って知ってる?”

私の部屋で

Aと黙々勉強していると

ふいに話しかけられた。

私は教科書に目を通していたが

話しかけられたものだから

読みかけの1文だけ読み切り仕方なく顔を上げた。

・・・・・。

てっきりAと目が合うものと思っていたが

Aの目線は教科書にあった。

Aが言い終わって10秒も待たせていないのに・・

やられた。

不器用な私は

勉強しながら話をすることは出来ない。

Aは私の不器用さを知っているのに

私の状態なんておかまいなしに話しかけてくる。

Aというのは、そういうヤツだ。

私を巻き込んで

退屈しのぎをする目論見だろう。

いつものことだ。

「旅は道ずれ、世は情け。って言うじゃん?付き合ってよ」

これがAの口癖。

しかし、今は勉強中。

しかも大事なテスト前日の追い込み勉強だ。

Aの思惑に乗せられる私じゃないぞ。

相変わらず教科書に視線を落としたままのAを

見ながらフッと溜め息をつき

「ゲシュタルト崩壊ね、知ってる。"あ"を書き続けると"お"になる、とかでしょ?

いつだったかテレビでみた」

と、サラッと返事をして

また教科書に視線を落とす。

が、"なんらかの返事がかえってくるだろう"と思うと集中できない。

「・・・・・。」

予想外に長い静寂が流れる。

そう言えば何故今、ゲシュタルト崩壊のなんだろう。

なんだ、もしかしてAは私が知らないと思って

一緒に実演でもしようとしてたのかな?

まぁ考えてみれば、2人でやってみると案外楽しそうだなぁ~

とは正直思うけれど。

なんてボーっと考えていると

「・・なぜ」

押し殺した声でAが話しかけてきた。

Aにしては、やけに低い声だ。

予想外の答えと声の低さに

「え?」

と反射的に顔をあげると

今度はAと目が合う。

Aと目が合っただけでもビックリしたのに

Aの顔付きは真剣そのもの。

私を睨み付けているようにも見える。

こんなAみたことない。

「っ!」

私は声にならない悲鳴をあげてしまった。

Aは何があったって、能天気で底抜けに明るいのだ。

Aが本気で怒ったことなど、見たことない。

浮かぶのはAの無邪気な笑顔ばかり。

それなのに・・

Aはこんな顔しない。

Aじゃない。

こんなのAじゃない。

声と共に、一斉に全身に広がる鳥肌。

動かない。

動けない。

声も出ない。

しっかり呼吸が出来ない。

「・・はぁっ・・はぁっ・・はぁっ」

酸素が上手く取り込めず苦しくて

意識が遠くなる。

誰か、誰か・・

助けて。

誰か、誰かいないの・・・・・

そういえば

なんで

私はここにいるんだっけ?

なぜAと勉強してる?

私は不器用だから、

教えたり教わることはしても

一緒に勉強なんてしないのに。

Aだって

知ってるはずなのに。

Aだって

Aも・・

A・・?

私は・・誰・・?

私の名前は

どうしてだろう、思い出せない。

私の顔も。

Aの顔は、こんなにも鮮明に浮かぶのに。

こんなに・・

どうして?

A

A

A・・?

Aは

Aは私。

そうだ、私はAだ。

私が、Aだ。

では、今

私の前にいるのは・・誰・・?

視線を再び

”前にいる人”に戻す。

そこには

青白い顔をした

"私"

の顔があった。

なに

なに・・?

これは

これは・・

これは、鏡だ。

私のお気に入りの、全身を映せる姿見。

私が映っている。

そして、私の斜め前には

いつの間にか私の姉がいた。

驚いた表情で私を見つめている。

私と姉は

双子だ。

姿形こそ私に似ているものの

性格は私とは間逆でボソボソと喋り

とにかく根暗な性格をしているが

勉強は学年1番だ。

本当に私とは真逆、だが私は

姉が実は茶目っ気のある可愛い人であることを知っている。

昔は、そうだった。

笑顔を絶やさず、クルクル動き回る愛らしい人。

両親にも友達にも愛される人だった。

私も、そんな姉が大好きだった。

私は大人しい性格だったが"姉に近づきたい"と想いを抱くようになり

姉の真似をする毎日だった。

しかし、段々と弱音をはく回数が増え疑心暗鬼に陥り

今はもう無口で無表情な人になってしまった。

いつからだろう、姉が暗くなったのは。

いつから・・

いつから?

呼吸が正常に近づくごとに

徐々に

記憶が戻ってくる。

そうだ、私は姉に勉強を教わるために

ちょくちょく姉を部屋に招き入れていたんだっけ。

姉の前には、何故か私に向けた手鏡が置いてある。

そう言えば

私の部屋を訪れた姉はみたことない教科書と

その手鏡を持ってきたんだっけ。

私の向かいに座った姉は

持ってきた教科書に視線を落として

しばらくブツブツ呟いていた。

「何つぶやいてるのー。集中できないじゃん?それより、この問題の解き方教えてよ~~」

確かに私は姉に向かって問題を指差しながら

そう言った。

だけど、そこからの記憶がない。

ただ姉の呟きは

「あなたは、誰?」

「おまえは、誰だ?」

そんな風に

聞こえた気がする。

私は

私は誰?

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