長編8
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飛行機の落ちた山

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これは、私が中学生の頃のお話。

当時の私は、若さゆえに、

何にでも積極的で、

余計な事にまで首を突っ込む、

やんちゃな少年だった。

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ある日の事。

学校帰り、友達と二人で帰っていたとき、

友1「□△山、って知ってんだろ」

突然、尋ねられた。

私「…うん」

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友1「この前じーちゃんに聞いたんだけどよ、

昔あそこで、でっけー事故があったらしいんだよ」

私「…事故?」

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友1「ああ。飛行機事故。

何百人も乗せたジャンボ機が墜落して、

一人残らず、死んじまったんだと」

私「…ふーん」

その時私は思った。

こんな悲惨な話をしているのに、

何でこいつはこんなにウキウキしているんだ、と。

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次の日、登校してみると、

昨日の友達が、

4、5人の男子たちに囲まれている。

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友2「…ホントかよ」

友1「ああ。らしいぜ」

友5「そういえば親父が、むかーしあの山で、

でっかい山火事があったって言ってたな…」

友1「マジかよ…!それ絶対そーじゃんっ」

何やらとても盛り上がっている。

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私「おはよ。昨日の話?」

友1「よう!そうなんだよっ♪」

ああ、こいつもしかして…

友1「こいつがよ、あの山でむかし山火事があったって親父から聞いたんだと!

もう間違いねーだろこれ!」

…このテンション。

間違いない…。

友1「行くしかねぇだろっ♪」

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まあこの時は実際、私自身も、

面白そう。

と思っていたのは事実だ。

この手の話は、

信憑性が高ければ高いほど、

行ってみたくなるのが、この年頃の性(さが)と言ったところか。

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その後、私たちの間でそれはそれはオカルト話は盛り上がり、

最終的には、

ただ行ってみるにとどまらず、

今度の連休にみんなでキャンプしよう!

にまで話は発展した。

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そして週末。

少しばかりワクワクしながら、

私は待ち合わせ場所である学校へ向かっていた。

正門前にはすでに、4人の友達が集まっていた。

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友1「おっせーよ」

私「ゴメンゴメンっ」

友2「…これで全員だな」

私「…あれ?友5は?」

友3「彼は病欠~♪」

…びびったなあいつ。

と、おそらく全員がこの時そう思った。

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そして私たちは、正門前からバスに乗り込んだ。

泊まりがけで行くというだけあって、みんなそれなりに大荷物だ。

友3「ちょ~楽しみ」

友1「なー♪」

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バスに揺られながら私は、

家を出る直前まで行かせる事を渋っていた母親の事を考えていた。

今思えば母は、本能的に悪い予感がしていたのだろう。

しかし当時の私の心の中には、

最終的に母親を説得して送り出してくれた父親への、

感謝の気持ちしかなかったのだ。

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1時間ほどバスに揺られ、目的地に到着したのは、

午後3時を少し回った頃だったと思う。

まだ日も沈んでいないのに、

その山のふもとは妙に静かで、薄暗かった事を何となく覚えている。

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友4「…そんなに大きな山じゃないと思ってたけど」

友2「こうしてふもとに立ってみると、意外とあるな」

確かに…。

これは少し時間がかかりそうだ。

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しかしこの時は、なんとも言えないこの不気味さが、

逆に私の冒険心をくすぐっていた。

友1「おーし、登ろうぜ」

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~~~~~

ほの暗い山道を登り始めて約1時間。

頂上まであと少しというところで私は、山道脇の森の中に、

小さな「祠」(ほこら)があることに気が付いた。

私「ねぇ…あれ何だろう」

友2「んあ?」

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友3「あ~コレ…やばいやつ?」

祠を囲むように5人で立ち、しげしげと眺めながら、友3が言った。

友4「やっぱり、あれかな。

その事故で亡くなった人たちを祀ってるとか?」

友2「…だろうな」

…いま思えば、私はこの時から、

言い様のない不安に駆られていたのだ。

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午後5時。

辺りが一層暗くなり始めた頃、私たちは頂上にたどり着いていた。

友1「うーわ…暗っ」

友2「さっさと立てちまおうぜ」

そこから20分程で、テントが2張り完成した。

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~~~~~

友2「ちげーよ…お前、

火の起こし方も知らねーのか?」

友1「炭ならべて火ィ着けるだけだろ」

友2「ちっ…どけよ」

友3「木の枝集めてきたよ~」

友2「いらねーよそんなヒョロいの。

それよりヤカンに水汲んでこい。」

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情けない話、

当時の私はキャンプに関して何の知識もなく、

それは周りもそうだったようで、何から何まで友2に任せっきりだった。

私「あ…俺は、何すれば?」

友2「知るか。草でもむしっとけ」

私「…わかった。ゴメン」

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~~~~~

そんなこんなで、無事インスタントラーメンで夕食を終え、

コーヒーを飲みながら休憩していると、

友1が切り出した。

友1「ふー…よし、ゆく?」

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私「…もしかして」

友3「キモダメシ~♪」

友2「やっぱそうきたか…」

友4「あと5分待って…

カップラ食い過ぎて…ッ!」

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これもまあ自然な流れ。

分かってはいたが、私の頭の中では、

警告音が、かすかに鳴り始めていた。

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当初、友1が提案した肝だめしのルールは、

1人1個ずつ、あの祠に、

持ってきた飴玉を供えてくる。

というものだったが、

私と友3が頑なに拒否したため、やむなく全員で行くことになった。

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~~~~~

時刻は、午後8時を回った頃だったろうか。

私たちは、あの祠へと向かった。

友2の左手には、インスタントカメラが握られている。

友1「さすが、用意がいいね」

友2「…」

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ソロソロとゆっくり歩いて行ったので、30分程かかって、

ようやく祠にたどり着いた。

懐中電灯を持っていた私が祠を照らすと、

つい4時間前にみたものが、

より気味悪く、なにか…

今にも中から声が聞こえて来そうな、

そんな不気味さに包まれていた。

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友1「うっわー…不気味っ」

友3「ねーもう帰ろ、テント戻ろうよ…」

普段は友1よりお気楽な性格の友3が、少し前からやたらと帰りたがっている。

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友2「おい、持ち前のおちゃらかさはどうした」

友3「たのむよ~、テント戻ろ…」

友2「あと少し頑張れ」

友3「テントがダメなら家帰ろうよ~」

友2「家は無理だろ」

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友3がすでに限界だったので、持ってきたカメラで記念撮影だけ済ませ、帰ることにした。

「撮るよ…」

祠をバックに一列に並び、シャッターが押された。

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その瞬間、森が…

山が、ざわついた。

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それを感じたのは、私だけだったのか…。

私以外は何事もなかったように、テントへの道を戻り始めた。

しかしテントに戻ってからは、みんな何となく口数が少なく、

それほど時間もたたないうちに、全員寝袋へと入った。

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翌朝、軽い朝食を済ませ、私たちは早々に山を下りた。

一番後ろを歩いていた私だが、

祠の横を通るときは、誰もそちらのほうは見向きもしなかった。

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~~~~~

二日後、学校が終わった後の教室で、

友1が現像した写真を、みんなで見た。

私は、

いや…もはや全員が、

絶句した。

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写真に写る5人が、

燃え盛る火に…囲まれている。

いや…正確には、

全身が燃え盛る人々に、囲まれている。

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苦しそうに、

助けを求めるように、

両手を前に出し、大口を開けて、

数十人の人々が、迫ってきている。

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友3「…これ、アイコラ?

…っはは、完成度たけ~」

友2「しゃべんな」

…怖い。

こわい。

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教室にいるはずなのに、

後ろを振り向きたくなるほど、怖い。

頭の中で警告音が鳴り響く。

どうすればいい…早くしないと。

なにかしないと!

謝りに行かないと…っ!!

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パニックを起こしていた私を、

友2が呟いた一言が、我に返させた。

友2「こりゃ、マジにお焚き上げが必要だな」

私「…お焚き上げ……。」

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友2「誰か知り合いに、神主はいないか」

友1「神主…?」

友2「お焚き上げと言えば、神社だろ」

友4「おれこの間、兄貴の合格祈願で〇〇神社に行って、

そこで庭掃除してた人と、話したぞ。

神主とか、よくわかんねーけど…」

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友2「一刻を争うかも知れん。

今からそこに皆で行こう」

友2の提案で、私たちはそのまま、

〇〇神社へと向かった。

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それから約30分後、

私たちは、神社の鳥居を全力でくぐり抜けていた。

…数秒後には、

ついさっきまで庭掃除をしていたであろう、

箒を持った老人に、

息つく間もなく喋りかけていた。

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その場で写真を見せ、

事の次第を説明すると、

老人は黙って、何故かニコッと笑い、

私たちを神社の裏へと案内した。

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裏口を抜け、拝殿と呼ばれる建物の中を進むと、

ある部屋で、若い男が正座しており、

巻物の様なものを読んでいた。

老人「〇〇よ。ちょっとよいかの」

男「はい」

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その男は、この神社の神主だった。

私たちはもう一度写真を見せ、説明した。

神主「……。

あなた方全員、よくぞご無事で」

その一言に、私たちは身震いした。

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神主「強烈な写真ですね。

…お焚き上げは可能ですが、

あなた方に憑いてる複数体の霊魂は、

今の私では祓いきれません」

この時ほど、人生に絶望した事はなかっただろう。

しかしその直後、希望がさしたのだった。

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神主「ああ、心配しなくても大丈夫。

今日は父がいますので」

そう言って神主は、横にいる老人を、

改めて紹介してくれた。

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神主「父は先代の神主なんです。

これも運命の巡り合わせ。

あなた方は運が良い。

私の代になってからは、

父は数週間に一度、境内の掃除をしに来る程度なんですよ?」

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その言葉に、どれ程救われた事か…

誠、ありがたや。

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そうして私たちは、

神主に写真をお焚き上げしてもらっている間に、

ひとりひとり、お祓いをしてもらった。

全員のお祓いが済むと、老人は、

老人「最後に一言。

…いや、言いたいことは、わかるね?」

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友1「はい。もう、

ああいった場所へは、行きません」

全員、強く頷いた。

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お礼を言って、

神社を後にしようとした、その時。

神主が、小走りに近づいてきて、

尋ねてきた。

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神主「あなた方は、あの写真に写ってた5人ですよね?」

友1「はい」

神主「撮ったのは、インスタントカメラか何か?」

友1「…そうですけど」

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私「写真が、何か…?」

神主「いや、写真自体はお焚き上げしました。

ただ、インスタントカメラなら、

あの写真を"撮った人"も、

お祓いを受けなくてはならないと思いますよ?」

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…以上が、

もう10年以上前に体験した、

私の、怖話。

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ご覧いただきありがとうございます。

そんなに怖くなかったですか?(^^)
もし本当に漏らしていたとしたら、そちらの方が恐いですね。

久しぶりにコメントまで頂いたついでに、また1話書いてみようと思います。
投稿まで至ったら、また読んでくださいね(^^)

返信

いや、別に怖くねーし。
ちょっとウンチョス漏れただけだし。

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