長編19
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ある男女の末路

これは、僕、薄塩、ピザポが高校1年生の時の話。

季節は秋。

11月の半ば。

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秋である。

食欲の秋芸、術の秋、スポーツの秋・・・。

世の中に多種多様、様々な秋在れど

秋って・・・恋に落ちる季節だからfallなんだよ。

秋に恋に落ちるから、《fall in love.》なの。

だから、秋は恋の季節なんだょ・・・!!

とかのアホな事を言い出したのは何処の何奴だバカ野郎!!許さん!!断じて許さんぞ!!!

・・・何て、叫びたくなる様な空気が最近、教室中に蔓延している今日この頃。

理由は幾つか有るのだ。

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先ずは、ここ最近の気温のせいだ。

急激な気温の低下により人肌恋しさが増しているのであろう。異論は認めない。

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次に、この間行われた文化祭。

これもまた、この甘ったるいリア充人口爆発状態を助長しているに違いない。異論は認めない。

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そしてこれが一番の理由であろうーーーー来月に迫っている、クリスマス。恐らく、

高校生活最初のクリスマスを非リアで過ごすのは嫌だ!!

・・・何て思ってる奴等が、手当たり次第にカップルを製造しているのだ。無論異論は認めない。

僕は大きな溜め息を吐いた。

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・・・・・・・・・。

「本当にもう・・・どいつもこいつも爆発してしまえば良いのにな。」

いきなり話し掛けられ、ボケ~ッとしていた僕は、少し反応が遅くなってしまった。

「・・・・。・・・え、あ、ああ。うん。だね。」

声の主はクラスメイトのピザポ・・・

では無く、高梨君。

彼は今年の夏休みに所謂中二病を発病してしまい、10月頃に完治した後も微妙にクラスで浮いてしまっているという僕の友人だ。

「羨ましくは無いけど、うざったいな。・・・まぁ、夏休み明けの俺のが大分アウトだったと思うけど。」

「本当だよ。やっと自覚したんだ?」

・・・僕の口調が何か変なのは仕様だ。

御気になさらず。

「うんwww分かってたけど、酷いなコンソメwww」

高梨君が笑いながら軽く溜め息を吐く。

「あー・・・。タイムマシン欲しいなー。んで、夏休み前の俺に忠告してきたい。」

「気持ちは分かるけど、ちょっと無理かな。」

「そりゃそーだwwww」

噴き出す高梨君。この間まで色々と痛い事を言っていたなんて嘘の様だ。

まぁ、それはさておき・・・

「あー。皆爆発しないかなー。木端微塵にならないかなー。」

「本当になー。」

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中二病が治ろうと、僕が彼の中二病完治に少しばかり貢献していようと、僕等は非リアなのであった。

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・・・・・・・・・。

昼休みが終わり、午後の授業が終わり、放課後。

僕は机にダランと突っ伏しながら、クラス内での会話を聞いていた。

女子「もー!話聞いてんのー?!」

男子「うっせーよバーカ。聞いてるって。」

・・・実に甘酸っぱいやり取りである。

宛ら少女マンガの様だ。読んだ事無いけど。

こんな光景が教室内で繰り広げられるのも、本日何度目だろうか。

そんな事を考えながら、僕は窓際の男女に目を向けた。

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女子の方の名は上枝(仮名)さん。パッチリとした二重(メイクかどうかは分からない)が可愛らしい、活発な子・・・だと思う。何と言っても、僕にも結構頻繁に話し掛けてくれる位なのだ。いい娘である。

まあ、そうは言っても、僕が彼女をどうとかは無いのだ。普通にクラスメイトである。

問題・・・という程では無いが、その男女に僕が目を向けた理由は他にあるのだ。

女子「えーもう話聞いてよー!!」

男子「はいはい。聞いてますーー。」

このユルい態度で女子と会話をしている男子だ。

彼の名前は▲▲と言う。

そして、別名をピザポ。僕の友人だったりする。

「本当に・・・爆発しないかな。」

活発な上枝さんとピザポ。

お似合いだが、構ってくれる人が一気に二人も減ると、誠に自分勝手ながら寂しい。

「・・・・・リア充になりたい。」

誰にも聞こえ無い様な小声 で呟いた。

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・・・・・・・・・。

ピザポはモテる。

理由は簡単・・・と言うか、彼自身に昔(と言っても数ヶ月前)、コツを教えて貰った。

それは《他人の悪口を絶対に言わない事。でも相手の言った事を否定しない事》だそうだ。

単純だが、正に真理と言えよう。

まぁ、やや八方美人な気がしないでもないが。

しかし!

このコツには抜け穴がある!!

それは・・・・!!

女子との会話が困難な奴には、先ず使う事すら出来ない。

という事だ。

例えば、まともに自分からは、会話も出来ない僕の様に。

デロデロと溶ける様に机の上に腕を伸ばす。

あー・・・・モテたい。

女子と話したい。

ラブレターとか、貰いたい。

可愛くて優しい女の子からラブレター貰いたい。

貰いた・・・

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ガラガラッッ

いきなり教室のドアが開いた。

「・・・・ん?」

僕が顔を上げると、ドアの前に居る人物の顔が見えた。

「コンソメとピザポ、居るか?」

彼の名前は薄塩。

やはり僕の友人で、僕以上のコミュ障。

更には

「自称可愛い女の子の姉貴からの、ラブレターを配達に来た。」

確かに可愛い女の子だが、僕史上最強にて最凶、更には最恐そして変態の御姉様、のり姉こと、のり塩さんの弟でもある。

「て、事で今から廊下に集合な。1分以内に来なかったら姉貴に報告するから。」

嗚呼・・・・行きたくないなぁ。

要らないよ・・・ラブレターとか。

可愛くても、のり姉からのラブレターは要らない。

もう・・・寝てる振りしちゃおうかな。

「あ、そうそう。姉貴がこの間、スクール水着を買っていた事をお知らせしておく。」

「今行くぞコンチクショーウ!!!」

僕は一瞬で跳ね起きて、ヤケクソ半分に廊下へと向かった。

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・・・・・・・・・。

廊下で渡された悪魔の書・・・もといラブレターは、何時も通りの青い便箋だった。

書いてあったのは一言。

「Ibにはまりました。」

だった。

何時も通りの資源の無駄遣いだ。

しかも意味も分からないし。

「と、いう訳だ。」

「どういう訳だよ!!」

平然と言い放った薄塩にツッコミを入れる。

「察しろ説明めんどい。」

「分かるか!この面倒臭がり!!」

「うぇーー。」

「うぇーーじゃない!」

全く・・・・

適当かつ丸投げにも程がある!

「なぁなぁコンちゃん(´・ω・`)」

「大体お前はだな・・・・あ?何?」

ピザポが何だか困った様な顔をして言った。

「あいびー?って、何ぞ(´・ω・`)?」

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・・・・・・・・・。

さて、知らない人とピザポの為に説明しておくが、《Ib》とは、2012年にkouriさんという人が作った、所謂フリーゲームである。

読み方は《あいびー》では無く《イヴ》。

ネタバレになってしまうのであまり此処では書かないが、全く分からなくてもこの話の内容が分からなくなってしまうので、産業で説明をしておこう。

小さな女の子イヴが美術館に迷い込み、

ワカメ系オネェと脱出を目指すホラーゲーム

ヤンデレもあるよ☆

てな感じである。

分からなかったら実況を見るか実際にやる事をお勧めする。

個人的には名作だと思う。

まあ・・・僕は実況を見ただけで、実際にはやった事無いんだけど。

では、話を本編ーーーー僕がピザポに《Ib》の説明をし終えた所に、戻させて頂く。

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・・・・・・・・・。

「つまり・・・・のり姉は何が言いたいの?」

「僕に聞くな。」

僕だって、《Ib》が何の事か分かっても、のり姉が何を言いたいのかは分からない。

薄塩の方を見ると、彼は鞄から一枚のパンフレットを取り出していた。

「つまり、こういう事だ。」

パンフレットには、よく分からない前衛美術家の個展が市立美術館で開催されるという事が書いてあった。

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・・・・・・・・・。

「美術館デートのお誘い?」

「そう。入場料は姉貴が出すって。どうだ?」

「どうと言っても、僕等に拒否権なんて端から無かろうに。」

「まあそう言うな。どうせ暇だろ?今度の土曜日だそうだ。集合は午前12時に美術館前の時計台。」

・・・分からない人の為、誰の言った台詞か書いておく。上からピザポ、薄塩、僕、薄塩の順だ。

前衛作品か・・・。

「・・・結構、面白そうかもな。」

しかし・・・。

のり姉が入場料やら何やらを出してくれる時は、大抵・・・いや確実に録な事が無いのだ。

隣を見ると、ピザポも顔をしかめている。

どうやら考えている事は同じの様だ。

だが。

スクール水着は嫌だなぁ・・・。

かなり嫌だな。

・・・仕方無い、か。

「・・・分かった。行く。」

僕は渋々と頷いた。

ピザポが驚いた顔で此方を見た。

「コンちゃん行くの?!どうせまたロクな事じゃ」

「だったらお前はスク水を着てろ。」

「行く!!めっちゃ行く!!」

ピシリと右手を上げ、ピザポが宣言した。

それを見て薄塩がニヤリと笑った。

「じゃあ、二人とも参加な。」

クルリと振り向き、自分の教室へと戻って行く。

僕とピザポは、苦虫を一気食いした様な表情で、顔を見合わせた。

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・・・・・・・・・。

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その次の土曜日。午前12時。

僕等は全員、時計台の前に集まっていた。

時計台の広場の後ろには市立美術館。

「よし!全員集まったね。」

のり姉が言った。

「あのぅ・・・・。」

ピザポが、オズオズと口を開いた。

「・・・今回は、何を見に行くんですか?」

「えっ」

呆気に取られた様な顔をして、のり姉が答えた。

「強いて言うなら・・・《絵》だね。」

「えっ」

「うん。《絵》。」

「えっ」

ポカーンとした顔をしているピザポを、のり姉は訝しげに見つめた。

「・・・どうしたの?」

ピザポはブンブンと頭を横に振った。

下手な事を言って自らの墓穴を掘るのを危惧しての事だろう。

「さて、行こうか。」

進みだしたのり姉の後に続き、薄塩が美術館へと歩き出した。

ピザポはまだポカーンとしていて、小さく

「なにそれこわい。」

と、呟いていた後、薄塩に続いた。

全く持って同感だ。

「コンソメ?・・・ほら、行くぞ。」

「・・・ん、ああ。今行く。」

もう美術館のすぐ前まで来ている薄塩が、此方に声を掛けて来た。

僕は小走りで皆の元へ向かった。

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・・・・・・・・・。

美術館には、思ったより人気が無かった。

土曜日だからだろうか。

「ゆっくり出来るね。」

のり姉が、嬉しそうに言った。

「そうですね。」

美術館の中は五月蝿すぎる事も無く、かと言って静かすぎる事も無く、丁度良い空気に包まれていた。

いや、人によっては美術館で話をしている人が居るのを嫌うのかも知れないが、僕は余り静かすぎると却って落ち着けない性分なのだ。

「さて、個展は何処だったかな。」

特別展示場は二階だ。

「下の階で先に、普通の展示品を観ようか。」

「はい。」

先ずは一階。

戦国時代の鎧兜や掛け軸等のコーナーへ。

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・・・・・・・・・。

さて、毎度お馴染み、会話オンリーダイジェストである。

誰の台詞かはユーアーセルフで察して頂きたい。

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先ず、戦国コーナー。

「あ、この鎧カッコいい!」

「コンソメ、この赤黒いシミって・・・・。」

「のり姉、ちょっとパンフ貸して下さい。」

「この兜、伊勢海老付いてるwww」

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次に、色々な時代の書物や掛け軸のコーナー。

「コンちゃんコンちゃん、この幽霊画、○○先生に激似www」

「バカ言え。・・・髪が多すぎるだろwww」

「・・・○○先生って、あの禿げてるコンソメ達の担任?だとしたらヤバいなこれwwww」

「そうww正解wwww」

「お姉ちゃん疎外感・・・(´・ω・`)」

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次は、江戸以降の現代アートのコーナー。

「あ、この絵、好きだな。」

「コンちゃんは風景画が好きなんだね。」

「てか、人物画が苦手なんだろ。」

「・・・そうなのか?」

「いや分かってねーのかよ。」

「私はこれかな。」

「のり姉は曲線が使われた絵が好きなんですね。」

「で、これは何の絵だ。」

「え?分かんない。」

「・・・分かってねーのかよ。」

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・・・そんな感じで、一階を回り終えましたとさ。

次はいよいよ二階の特別展示の個展だ。

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・・・・・・・・・。

特別展示場にもやはり、人の姿は少なかった。

飾られている絵画は、凡そ30点前後だったと思う。

どれも曲線と柔らかい色使いで、成る程これはのり姉が好きそうだと思った。

「綺麗ですね。」

僕の呟きに、のり姉が嬉しそうに笑った。

「でしょ?・・・あ、これは・・・花かな。綺麗な色。」

「のり姉、それ女の人の画です。花じゃないです。」

「・・・絵なんてフィーリングだよコンソメ君。何が描いてあるかじゃない・・・何を感じたかなんだよ。」

「・・・・・ですか。」

細い廊下を進んで行く。

右に左に現れる絵画達を見ながら、進んで行く。

僕はふと、一番端の一番日当たりの良い場所に、一枚の絵が飾られているのを見つけた。

いや、此処は美術館なのだから、絵が飾られているのは当たり前の事だ。

しかし、その絵はこの特別展示場の中で、少し変わっていたのだ。

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そもそも、今僕等が来ている個展の芸術家は、前衛美術家だ。

故に、まぁ、それが持ち味でもあるのだが、描いてあるモチーフが何なのか分からない物が殆どだ。

しかし、その絵は違った。

一人の女性の肖像画なのだ。

赤いワンピースを着ている。

飾りの無い長袖のシンプルなデザインだが、光沢があって、滑らかな質感で描かれている事から、恐らく天鵞絨かと思われる。

長い髪と瞳は濃い茶色。

幸せそうに微笑んでいる。

思わず感嘆の溜め息を洩らす様な・・・そんな絵だ。

絵の下には、一人の女性が立っていた。

大きな絵なので、見上げる様にしてその絵を見つめている。

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その女性は、真っ赤な光沢のあるワンピースを身に纏い、濃い茶色の髪を靡かせていた。

「え・・・・・?」

そっくりだ。

肖像画の女性に。

まさかの御本人だろうか。

しかし、この絵が描かれていたから、もう何十年も経っているのだ。

この絵を描いた画家も、とうの昔にこの世を去っている。

況してや、描かれていた女性がその若さを保ったままでいるなんて有り得ない。

と、言う事は彼女は・・・・・。

「・・・行こうか。」

のり姉がゆっくりと、彼女の元へと歩き出した。

「やっぱりか・・・。」

「こうなると思ってたよ・・・!」

隣の薄塩とピザポが、顔を歪めた。

そう。最初からそんな感じがしていたのだ。

・・・彼女は。

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生きている人ではない。

「・・・行くぞ。」

しかし、拒否権は無い。

のり姉の後を追い、僕等もゆっくりと歩き出した。

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・・・・・・・・・。

僕等が近付いて行くと、女性はそっと絵の前から退いた。

のり姉が軽く会釈をする。

僕等も慌てて頭を下げた。

「・・・・あら。」

女性は、僕等に驚いた様だった。

此方に近寄って来て、申し訳無さそうに言う。

「御免なさい。・・・見えているなんて思わなかったの。ずっと絵の前を独占してしまって。」

何処と無く古めかしい言葉遣い。

やはり絵の女性本人なのだろうか。

のり姉が薄く笑いながら女性の言葉に応える。

「いえ。・・・素晴らしい絵ですね。貴女がモデルなんですか?」

女性は、緩やかに微笑んだ。

「ええ。・・・この服が、彼の御気に入りでして。だから、今日も・・・。」

のり姉は頷いた。

「そうなんですか。成る程。細かく描かれている訳ですね。・・・今日も、と言う事は、もしかしてこれからデートですか?」

女性が、ほんのりと頬を赤くした。どうやら正解らしい。

「・・・そうですか。・・・それでは、私達が此処に居るのも邪魔ですね。そろそろ退散する事にします。」

軽く頭を下げ、三歩程離れた僕等の元へ帰ってくる。

「・・・一階の飲食スペースでお茶にしよう。コンソメ君、用意は。」

「万端です。」

「宜しい。」

のり姉が一階と繋がる階段へと向かう。

僕は女性に一礼して、のり姉の後に続いた。

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・・・・・・・・・。

階段を下りながら、のり姉が話し掛けて来た。

「あの絵、そっくりだったでしょ。」

僕は頷いた。

「ええ。《赤い服の女》ですよね?」

《赤い服の女》とは、前述のゲーム《Ib》に出て来る絵画の一つだ。

僕は続けた。

「だけど《赤い服の女》は、傲慢で醜悪な女達をモチーフにしてあるんですよね?・・・彼女とはとても」

「それはどうだろうね?」

僕の言葉を遮って、のり姉が言った。

其処から何か続けて言うかと思ったが、そうでも無いらしい。のり姉はそのまま黙ってしまった。

なんだか気まずい空気が僕等の間に流れた。

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場を取り成す様にピザポが話題を変えた。

「コンちゃん、今日のお菓子って何ー?」

「ん?・・・ああ。」

僕は答えた。

「悪いが、今回は三種類中、二種類が既製品なんだ。」

のり姉がえー、と不満の声を洩らす。

いや、毎回毎回手作りのお菓子を作っている事を、もっと評価してくれて良いんじゃないかな。

本当に。

だが、僕だって別に手抜きをした訳では無い。

僕はのり姉の方を向いて言った。

「本日のお菓子は、マカロンとレモンキャンディー、ガレット・デ・ロワを用意しました。」

のり姉の目が、サッと輝きを増した。

それもその筈。この三種類のお菓子、詳しくは語れないがどれも《Ib》に出て来る物なのだ。

「書斎の鍵なんて入っていないので、安心して御召し上がり下さい。」

・・・本当に、分からない人には、全く分からないネタで済まないと思っている。

「そう。コンソメ君が《うっかりさん》じゃ無くて良かった!」

のり姉は楽しそうにそう言い、少しペースを上げて階段を下りて行った。

・・・我が主ながら、単純な人である。

とか言ったら、執事っぽいかもしれない。

いや、別に執事では無いんだけど。

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飲食スペースには、気だるそうにハンバーガーを齧っている男性が一人だけ居た。

照り焼きバーガーの匂いが此方まで流れて来る。

僕は、ずっと持ち歩いていたバスケットの蓋を開け、中の物を取り出した。

「昼食も兼ねてのお茶ですから、サンドイッチも用意しました。」

因みに、種類は二種類、チーズとキュウリ、ハムとレタスである。

個人的にはキュウリだけの物が一番好きなのだが、食べ盛りの高校生にキュウリのみのサンドイッチは少し物足りないであろうと思い、チーズを追加した。防水効果もあるし。

テーブルに紙コップを置き、紅茶を注ぐ。

ズラリとお菓子類をテーブルに並べ、六等分にしてあるガレット・デ・ロワをサーブする。

※残った二人分は持ち帰って両親が食べました。

「当たりには粒のアーモンドを入れました。」

のり姉に皿を手渡しながら言う。

のり姉が優雅に頷いた。

「そう・・・。ありがとう。」

マカロンは値段が高いので一人一個しか用意出来なかったが、まあ、他の料理もあるし、大丈夫だろう。

照り焼きバーガーの男性が驚いた様な顔で此方を見て来る。

軽い優越感を覚えてしまったのは御愛嬌だ。

まあ、要するにお茶の時は何も無かったのである。

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・・・・・・・・・。

片付けをして、荷物を纏める。

「じゃ、帰ろうか。」

そうして僕等は、美術館を出た。

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秋の空は高い。

勿論、高度の話では無い。あくまで感覚としてだ。

世間で、若者のおバカ代表、若しくは代名詞の如くに言われている「ゆとり世代」だとしても、実際に空が高くなる訳が無い事位知っている。

「ちょっと散歩して行こうか。」

のり姉の言葉に、大きく頷く。

雲の無い青い空。

僕は思わず背伸びをした。

グッッと腕を伸ばし、元に戻す。

上げていた視線も落とす。

すると、色付いた木々とフラフラしている骸骨が見えた。

うん。秋だなぁ・・・・。

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・・・・・え。

ちょいまち、今何が見えた?

骸骨?!

え、骸骨?!

うわ、目が合った!

眼球、無いけど!!

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ズダダダダッッ

骸骨が此方に向かって全力でダッシュして来た。

うわぁぁぁ!!こっち来た!こっち来た!!

ヤバいどうしよう逃げるべきかてか何で皆気付いてないの骸骨だよ骸骨!!

「すみませーーーん!!!」

うわあ喋り掛けてきたよ。と言うか先ずどうやって声出してんだよ。

「ちょっとーー!!其処のバスケット持ってるボクーー!!!」

ああもう確定だよ僕だよ。それ完璧に僕だよ。

てか高校生捕まえて《ボク》は何だか失礼じゃ無かろうか。

のり姉や薄塩がプルプル震えながら笑いを堪えている。

ああ・・・・もう逃げられないな。

悪いモノでは無さげだし、適当にあしらおう。

うん。そうしよう。

直ぐ近くまで来た骸骨が、此方を向いて爽やかに話し掛けて来た。

・・・・骸骨が爽やかって、ドユコトだ。

「こんにちは、ボク!ちょっと頼みがあるんだけど、良いかな?!」

僕は若干引きぎみで答えた。

「・・・・ええ。はい・・・どうぞ。」

「ありがとう!実は道案内をお願いしたいんだ!」

「はぁ・・・・。」

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その人(?)の話を要約すると、彼はさっきまで僕等が居た美術館に行きたいらしい。

「待ち合わせをしていてね。早く行かなくちゃならないんだ。」

骸骨が?待ち合わせ?

一体誰と・・・・。

あ!!

僕の頭に、さっきの赤い服の女性が浮かんだ。

まさか生者と待ち合わせが出来る訳無いから、恐らくあの人で間違い無いだろう。

「・・・・こっちです。」

美術館に向かってトボトボと歩き出す。

まだプルプルしている三人は、この際居ないと思う事にしよう。

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・・・・・・・・・。

さっき買ったチケットで再入場し、骸骨さん(多分個展の画家) を二階の特別会場へと連れて行った。

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彼女はまだ、あの絵の前に居た。

「ありがとう。それじゃ。」

骸骨さんが彼女の元へ走り出した。

どうやら待ち合わせの相手は、やはり彼女だった様だ。

嗚呼・・・。この感じ、何処かで見た事がある。

そうだ。

「《死後の逢瀬》・・・。」

そう。やはり《Ib》に出て来る作品、《死後の逢瀬》にそっくりなのだ。

絵の方を見ていた女性が、ゆっくりと此方の方を、いや、骸骨さんの方を向く。

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ふわり

花が開く様に彼女が微笑んだ。

その幸せそうな表情は、まるで肖像画から抜け出た様だった。

骸骨さんもまた嬉しげに彼女に駆け寄る。

そして、骸骨さんが彼女の前に立った。

彼女はまた、にっこりと微笑んだ・・・・・

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かと思うと、霞の様に消えてしまった。

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「嗚呼・・・・・。」

骸骨さんがガックリと肩を落とした。

その場にしゃがみ込み、

そうして段々薄くなり、消えてしまった。

「・・・成仏した・・・訳では無さそうですね?」

のり姉が頷いた。

「・・・話を、してあげる。」

のり姉が、ゆっくりと口を開いた。

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・・・・・・・・・。

あのね。あの画家さん、コンソメ君にどう見えた?

・・・え?!骸骨?!

・・・・・画家じゃ無くて!?

て事は・・・え?!《死後の逢瀬》じゃん!!

なにそれ!!超見たかった!!見たかったーー!!

もうミズチ様マジグッショブ!!!

いいなー!!コンソメ君いいなー!!!!

・・・・コホン。

ごめん。ちょい荒ぶった。

うん。

・・・実はあの画家さん、生前は女漁りの酷い人で有名でね。女の人を落としては捨て、落としては捨て、だったらしいよ。最悪だよね。

あの赤い服の女性も、本妻じゃ無かったみたい。

でも、人生最後の恋人ではあったそうだよ?

四十になる前に病気で死んでるから。

彼女もその後を追って自殺。

で、その頃からかな。

妙な噂が立ち始めたの。

どんな噂かって言うと、さっき私達が見た光景まんま何だけどね。

《逃げる女と追う男》

・・・何か、安っぽい小説のタイトルみたいだねえ。

・・・・・え?

何で女性は逃げるのかって?

・・・・・・・・。

決まってるじゃん。

捕まったら、飽きられるから。

飽きられたら、捨てられるから。

単純な事だよ。

・・・。

確かにね。一緒に居る喜びは感じられないかもしれない。

でもさ、大好きな人が他の女に盗られるのはもっと嫌なんだって。

そんなもんだよ。

まあ、逃げ回ってれば意中の人は自分だけを見続けてくれる訳だし?

画家さんの方にしても、ずーっと一人の女性を愛し続けられるんだから、良いんじゃない?

・・・コンソメ君には、少し難しかったかなー。

まあ、男女の仲ってのは、複雑怪奇を極めるもんだよ。

・・・・・ちょっとババ臭いかな。反省反省。

ぶっちゃけ、本当に見れるとは思って無かったなー。

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・・・・・・・・・。

そう言うとのり姉は、感慨深そうにあの肖像画の前まで行った。

「さて、あの二人は幸せなのかしら?」

少しだけ気取った言い方をして、のり姉は幸せそうに微笑んでいる女性を見つめた。

見れば見る程、彼女は幸せそうだ。

僕は、その笑みが何だか異様に怖く思えて、背中に嫌な汗をジットリと掻いたのだった。

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・・・・・・・・・。

帰り道の僕とピザポの会話。

「結局、のり姉は何がしたかったんだろうな。」

「毎度の事だし、分かんないなー・・・。」

「・・・・なぁ。」

「んー?」

「あの二人は、本当に幸せなのかな。」

「・・・・。どうだろうね。」

「・・・・・・・・。」

「ごめんねコンちゃん。俺には分かんない。」

「・・・そうか。だよな。ごめん。」

「コンちゃんが謝る事じゃないよ。」

暫くの沈黙。

帰り道を分けるY字路が近付いて来た。

僕は意を決して口を開いた。

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「・・・・・なあ!」

「え?」

ピザポが、驚いた様に此方を見た。

身体から空気を絞り出す様にして声を出す。

「お前は、あんな風になるなよ。」

「え?」

怪訝そうな顔のピザポを余所に、僕は続けた。

「あの画家みたいに軽薄になるな。上枝さんを、あの女性の様にするな。」

「それって・・・。」

「僕が言うのも可笑しいけどな。本当にそう思ってるんだ。」

言い切った途端、胸の中をスウッと風が通り抜けた様な気がした。

嗚呼。そうか。

僕は上枝さんが好きだったんだ。

今、やっと気付けた。

もう、全てが遅いけど。

ピザポの顔を見ているのも辛くなって、視線を下げる。

「コンちゃん・・・・。」

上から降って来るピザポの声は、やけに生ぬるくて優しげだった。

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「俺、上枝と付き合って無いよ。」

・・・え。

「俺は只の話し友達。」

・・・・・え!

て、事は僕にもまだチャンスが・・・!!

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「上枝が付き合ってるのは俺じゃ無くて田山。」

無かった。一ミリも無かった。

「くそおおおおおおお!!!」

そうして僕の魂の叫びは、早くも暮れ始めた秋の空へ吸い込まれて行くのであった。

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あの二人は、今もまだあの不毛な追いかけっこを続けているのだろうか。

永遠に結ばれ無くとも、互いは互いを愛し続けられる・・・・・

それは果たして幸せなのだろうか。

僕には分からない。

しかし、分からない事が少しだけ誇らしくもあるのだ。

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hikaさんへ
秋冬は食べ物の管理が楽なので、ついつい気合いが入ります(笑)
ガレット・デ・ロワは市販のパイシートを使えば案外簡単でした。
まあ、その代わりカロリーが凄いんですけどね。
あ、骸骨はリアルな物では無く、イメージとしては骨格標本の様な感じでした。

Uniまにゃ~さんへ
《行動を伴わない言葉は意味を為さない》
と、言いますしね。
僕にはまだよく分からないですが、何れ理解出来たら、と思います。
結局の所、あの二人は幸せなんでしょうか。
これも、何時かは解るんでしょうか。(´・ω・)

コンちゃんの持参の食べ物のくだり、いつもためになるなぁーと思ってしまいます!
私も御相伴にあずかりたいです( º﹃º` )

猛ダッシュの骸骨が爽やかに話しかけてくるとかもう怖いのを通り越して吹きました…

花粉症辛そうですね、お大事になさってください(>_<)

追われると、逃げる…その心理だいすきっス
好きだとか、愛してるとか言われると別れる私です(^_^)/
言葉じゃなくて、態度で示せってぇの

黒崎一護さんへ
あ、そうです。
分かりにくい表現ですみません。
速やかに直しておきます。

ごめんなさい読み間違いでしたm(__)m
「のり姉、それ女の人みたいです」
のセリフは、花の色使いが綺麗だと言ったのり姉への、
突っ込みだと思ってました(/-\*)
本当は、花と女の人をみ間違えてたことに対する訂正の言葉なのですね。

黒崎一護さんへ
失礼な事・・・。のり姉に対してですよね。
・・・・言ってました?
取り敢えず、スク水は着せられてません。
まあ、いざとなったら
「全ては御嬢様の事を思っているからです」とか何とか言って執事風に誤魔化します(笑)

読み間違いなら良いのですが…
コンソメ君さらっと凄く失礼な事言ってましたが、
その後大丈夫だったのでしょうか?
スク水執事が目に浮かぶようでした(--;)

雀魔さんへ
有り難う御座います!!
嬉しいです!!
のり姉への忠誠は基本恐怖政治の下で発動しています(´・ω・`)

のり姉怖いです。下手すると幽霊より。
あ、自分達の日常に、非日常を重ねるのは面白いですよね。
次は出来れば本物の祓魔師が見たい!!(笑)

気分を害したりなんかしませんよ(笑)
歪かも知れないけれど、案外こんな日々が好きだったりするんです。

どうも初めまして!
雀魔と申します。

いつも紺野さんの作品を影ながら見させて頂いています(笑)
でも、今回は明るみに出て、見ているとゆう事を伝えたくて、コメント致しました。

今回はのり姉さんシリーズですね!
相変わらずの忠誠っぷりに感激しました(笑)
Ibとゆうゲームは私初耳でしりませんが、現実でゲームと同じ事が繰り広げられるとゆうのは、すごく面白そうですね♪

こんな環境で暮らしているとゆうのは、私のような人間からすると、もし気分を害すると申し訳ないのですが、とても憧れちゃいます。

これからも、投稿楽しみにしてます!
心からあなたの作品が大好きです。でわ