中編4
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永遠の誓い

死後婚と言って、結婚直前のカップルの片方が死んでしまった場合に、その死んでしまった方の葬儀を供養の一環に結婚式として行うと言う事が、欧州では昔から行われています。

例えば、女性の方が何かしらの理由で御亡くなりに成ったとしましょう。

すると、その女性の葬儀で彼女は新婦としてウェディングドレスを纏い、新郎はタキシードを着て、参列者も喪服では無く華やかな格好をして、葬儀に臨むと言う感じです。

指輪やブーケトスも有るそうです。

あ、勿論その後、御遺体は埋葬されますよ。

ですが、残された方とその親族、近所の人々は其処から数ヶ月間、その居なくなった相手を居るものとして扱い、数ヶ月後に今度は正式な葬儀として、生前に身に付けていた物を御遺体に見立ててお墓に埋葬するのだとか。

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で、此処からが本題な訳です。

説明が分かりにくくて申し訳無い。

その死後婚と言うの、実は私達もそうだったんです。

その日、私達は結婚式の式場へと向かっていました。

いえ、当日とは違います。打ち合わせの様な物でして、本番はまだまだ先でした。

交差点で、一台の車が私達の車に突っ込んで来たんです。

そして・・・・・・・・。

私達は、離れ離れになってしまいました。

あ、表現が分かりにくいですか?

すみません。でも、《死》何て言葉、使いたく無いんです。

何せ、これから結婚式の話をするんですからね。

縁起の悪い言葉は、ちょっと・・・・。

で、何処まで話しましたっけ。

・・・・そうそう。事故に遭った所まででした。

その後、私達、ちゃんと式を挙げたんです。

ええ。幸か不幸か・・・・いや、完璧に不幸何ですけどね、私達が予約していた教会は、何と言いますか・・・・本式(?)の所でして。

結婚式だけで無く、葬儀も行っていたんです。

教会の人には随分と協力して頂きました。

ええ。本当に良い式でした。

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式の事を話す前に、少しだけ、妻との馴れ初めを語っても、宜しいでしょうか。

そう。私が彼女ーーーーそうですね。彼女が好きだった歌手の名を借りて、《愛子》として置きましょうか。

出逢ったのは、私と愛子が高校生の時でした。

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高校一年生の秋。

二学期の始まりと共に転校してきた愛子は、兎に角笑う事をしない娘でした。

クラスでも一位二位を争う芸人として、私は何としても彼女を笑わせてやろうと思ったんです。

毎日毎日、彼女に話し掛けました。

最初は酷かったですよ。もうガン無視。

でも、一ヶ月を過ぎた頃だったか・・・・。

確か、ギャグか何か言って・・・彼女がね、笑ったんです。

もう嬉しくて嬉しくて。

此れからもこの子を笑わせよう。そう思いました。

何時の間にか、彼女を好きになってたんですね。

でも、其処からが長かった!

告白をしたのは、卒業後でした。

シャイだったんです。あの頃は。

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後から聞いたんですがね。

愛子は、実の親から虐待を受けていたらしいのです。

更には育児の放棄によって服装等が汚くなってしまい、学校での虐めに発展。

其処から、施設で生活し、私達の学校に転校。

・・・・もっと早く、告白をして、もっと沢山、一緒に居てあげれば良かったと、今でも後悔しています。

・・・・おっと。話が辛気臭くなってしまいましたね。

馴れ初めは、ここら辺までにしましょうか。

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さて、式の本番。

彼女は、本当に綺麗でした。

何処のモデルだって、どんなアイドルだって敵わない程でした。

白いドレス。青い花の髪飾り。

髪飾りは、私達が高校生の時に彼女にあげたのをリメイクした物でした。

無くしたと言っていたのにと、泣きそうになりました。最後に最高のサプライズをしてくれました。

片方の足が無くなってしまっていたのは残念でしたが(愛子の足はとても綺麗なのです)、本当に、世界一綺麗な花嫁でした。

母の、

「愛子ちゃん、笑って。誰よりも綺麗よ。愛子ちゃん。笑って。笑ってよ。笑いながら、また、私の事を《お母さん》と呼んで頂戴。やっと、やっと本当の家族になれたのよ。」

と言う言葉が、今も頭から離れません。

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思えば、愛子はこの数年で、随分明るくなりました。

誰よりも可愛い愛子。

誰よりも愛しい愛子。

私が居ない世界何て、地獄と同じだと言っていた愛子。

今、また独りぼっちになって、どんなに寂しい思いをしているか・・・・。

嗚呼。今すぐ彼女を抱き締めてあげたいです。

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そうそう。突然話が変わってしまい、申し訳無いのですが・・・・。

死後婚をした後は、キチンと御払いをしなければ、死んでしまった方が、生きている方を連れて行ってしまうのだとか。

・・・・まぁ、怖くは無いですよね。結局は本人達の受け取り方次第ですから。

でも、今回は、この様な形式の葬儀も有るのだ、と伝えたくて、この話を書かせて頂きました。

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あ、そうだ。私達、御払い、していないんです。

暗い部屋の中。愛子の香りが満ちています。

私は覚悟を決め、ゆっくりと振り向きました。

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寝息を立てている愛子。

目には涙の後が見えます。

ほら、愛子。泣かないで。

ごめんね。遅くなって。

片方だけの足でバージンロードを進み続けるのは辛かっただろう。寂しかっただろう。

愛してるよ。ずっと一緒だ。

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迎えに来たよ。愛子。

Concrete
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海月さんへ
コメントありがとうございます。

・・・どうなんでしょうね。
それこそ本人達次第な気がします。
阿呆な事を言ってしまいすみません。
・・・愛情とエゴの境目を見付けるのは、酷く難しい事と思います。
この話の彼は、本当に彼女を思って迎えに行ったのでしょうか・・・?

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こういうお話好きです!
最後ゾワゾワゾワーっとしましたが、しばらくしてから考えてしまいました。
幸せの絶頂で引き裂かれてしまった二人はまた一緒になることで再び幸せになれるのでしょうか...
はたまた去った方は遺した方の幸せを願い、そのまま去るべきなのか...
難しいですね...(汗)

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hikaさんへ
コメントありがとうございます。
ありがとうございます!
分かりにくく無いかと内心ハラハラしていたんです。ホッとしました。
死後婚、結構有名なんですね。
本当に調べて置けば良かった・・・・!
あと、何気にhikaさんの書いてる事、怖いです。勝手に死人と結婚させられるとか・・・。
・・・死んでも良い程、誰かを好きになるって、どんな感じ何でしょうね。

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最後にひねりが効いているお話、好きです^ ^

日本でも青森などでは死語婚や冥婚と言われていてムカサリ絵馬を用いて行われています。昔の方が多かったのでしょうが…
付き合ったりしていた訳ではないのに勝手に遺族に名前を書かれるという事が恐ろしい話として広まっていますが…

確かに、恋人同士であった2人ならば連れて行かれても嬉しいのかもしれませんね。

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☆チィズケェキ☆さんへ
コメントありがとうございます。
これ、僕が聞いた話はラストがちょっとだけ違くて、花嫁の幸せを願った旦那さんが、自分の事を引き摺らない様にそっと枕元に離婚届けを置く、と言う話だったんです。
ですが、それではやはり怖く無いだろうと言う事で、少しだけオチを変えてみました。
次回もよかったら、お読みになって下さい。

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翔さんへ
コメントありがとうございます。
死後婚、日本にも有ったんですか?!
初めて知りました。
やっぱりこう言うのはちゃんと調べないと駄目ですね。
あ、そう言えば、カップルの片方が、もう片方を連れて行く話って、結構有りますよね。

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楽しく読ませていただいてます。
意味が分かって後から
じわじわ来ましたー((((;゚Д゚)))))))
鳥肌がぞわわと。
今後のお話も楽しみにしてます(^∇^)

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亡くなっていたのは新郎さんの方でしたかΣ(゚д゚lll)
死後婚は日本にも有りますね(^^)
確か色紙に新郎&新婦の絵を書いて奉納するとか…σ(^_^;)
その時は相手は実在の人物はダメとか…
この話と同じ様に連れて行かれちゃうとかだったですよね;^_^A

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