中編5
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テトラポッド

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music:5

防波堤とかにさ、

テトラポッドって置いてあるじゃん?

あそこって影になるから結構釣れるんだ。

ただ危ないからあまりおすすめしないけど。

まぁテトラポッドっつーのがあるんだよ。

そのテトラポッドでの話。

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夏の暑さが残る九月の事。

俺は友達のKといつもの防波堤で釣りをしていた。

K「なぁ。」

俺「ん?なんだよ?」

K「ここ釣れねえしさ、テトラポッドの方行ってみねえ?」

俺「昨日雨降ったし、危なくね?」

K「でも今日のこの暑さでばっちり乾いてるさ。」

俺「そうだな…行ってみるか。」

こうして俺達はテトラポッドで釣ることになったんだ。

K「うし。さっそく釣るか」

俺「おいw落ちんなよ?ww」

K「当たり前だ馬鹿wお前こそ落ちんじゃねーぞw…あ。なんかかかった!」

俺「まじで⁉︎はや!」

K「へっへっへーw……え…?」

俺「どした?」

Kはリールを巻く手を止めて黙り込んでしまった。

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music:3

顔を見るとKは涙を流していた。

俺「おい、どうしたんだよ!」

K「なぁ。⚪︎⚪︎(俺)…もしさ、死んだら何があると思う?」

俺「なんだよ急に」

K「いいから答えてくれ。」

俺「…俺は生きてるから分からない。」

K「…そうか。」

俺「いきなりどうしたんだよ。いいからさっさとそのかかった魚釣りあげろよ。」

K「そうだな…でも、俺にはもう出来ない。ごめんな。⚪︎⚪︎。体調わりぃし今日は帰るわ。」

俺「は?大丈夫かよ?」

K「おう。またな。」

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Kが帰ったあと俺はしばらく釣りを続けたが結局なにも釣れなかった。

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家に帰ると母さんが誰かと電話をしていた。

母さんは電話が終わり受話器を置いたと思うと俺の所に来て言った。

母「あんた。K君どうしたのよ。」

俺「え?釣りの途中で体調わりぃって帰ったけど?」

母「…まだ帰ってないって。」

俺「…は?」

母「わかった。あんたはなにも知らないのね。じゃあ晩ご飯にしましょ。」

俺は妙な胸騒ぎを感じていた。

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次の日、Kは学校に来なかった。

その日だけじゃない。それからずっと。

警察に捜索願いが出されて

俺のとこにも何度か警察が来た。

でも一週間たっても見つからなかったんだ。

…大人で見つけられないなら俺がみつける。

そう思って家を飛びだした。

日曜日の昼過ぎの事だった。

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あの時の防波堤についた時。

空は曇っていた。

もう警察もいなくなっていた。

俺はKを見つけるために

防波堤をひたすら探した。

どんなに探してもKに関する物は

見つからなかった。

まだ探してないのはテトラポッドだけ。

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いつの間にか降り出した雨の中、

テトラポッドに上がった。

海はいつも以上に荒れていた。

だからって引き返すわけにはいかない。

慎重に、あせらず、

少しづつテトラポッドを降りて行った。

そして俺は見つけたんだ。

テトラポッドの隙間に服が引っかかって水の中を漂うKを。

やっと見つけたKを前に俺はたまらず走りだしてしまった。

雨と海水で濡れたテトラポッドの上で。

案の定派手に滑って転んでしまった。

これが普通の道ならいいのだがここはテトラポッドだ。

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俺は背中を打ち付けながらテトラポッドの隙間に落ちた。

しかも運の悪い事に頭から落ちてしまった。

そのせいで体を浮かせる事が出来なかった。

水の中でひたすらもがいていたが

だんだんと頭の奥がボーッとして

つま先や手の先から冷えて行くのがわかった。

やがて全身が痺れて俺の意識は遠のいていった。

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__そこはまるで水路のようだった。

海に水路?おかしいじゃないか。

頭で理解していたが体が勝手に動いていた。

俺は延々と続く水路を進んでいた。

暗くて先が見えない。

それでも足は止まらなかった。

だって、その先にKがいる気がしたから。

最初は壁に並んでいたランプの明かりも

進むにつれだんだんと減って行き

今はもう真っ暗だ。

どれくらいの時間歩いたかわからない。

足が悲鳴を上げ始めた頃、

遠くに小さな光が見えた。

たまらず走り出した。

光がどんどんと近くなっていく。

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光は一つの扉からもれていた。

俺は迷う事無く扉を開いた。

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扉を開けたそこはまるで

遊園地のパレードかなにかをやっているかのような賑わいだった。

真っ暗な空間には眩しいくらいのライト。

華やかな衣装を着て踊りながら歩いていく人々。

各々で楽器を奏でながら進む動物。

そしてその人々や動物の共通点は

どいつもこいつも血を流していたり、痩せ細っていた。

彼らはとても生きているようには見えない。

そこはもう俺の頭じゃ理解はできなかった。

その異様な光景を眺めているうちに人々の中からKを見つけた。

Kは青と緑にスパンコールが散りばめられた衣装を身につけてめちゃくちゃに踊っていた。

俺「K!おい!K!」

俺が叫んだ瞬間

music:3

動物達の奏でていた音楽は止み、

踊っていた人々は一斉に立ち止まってこちらを向いた。

やばい。

そう思いそこで初めて引き返そうという気になった。

振り返り扉に手をかけたとたん、

背後から大勢の叫ぶ声が聞こえた。

ー逃がすな。

ー連れて行こう。

ー帰すわけにいかない。

ー追え。追え。

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俺は扉を勢い良く開くとそこから全速力で走った。

人々が走る音がする。

…振り向いたら捕まる。

俺は振り向かずに走り続けた。

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どれくらい走ったかはわからない。

けれどだんだんと壁にランプが増えてきているところを見ると出口は近いようだ。

人々はまだ追ってきているようだ。

俺はもう体力の限界なんてとっくに過ぎていた。

走って走ってようやく明るい光の差し込む出口が見えた。

あと少しで出られる!

その時。

shake

足がもつれて転んでしまった。

ーあぁ。もうだめだ。捕まる。

覚悟を決めたその時

K「俺が止めるから。早く行け!」

Kの声が聞こえた。不思議と力が湧いた。

体を起こし、

俺は出口に足を踏み入れた。

めまいに似た感覚が俺を襲った。

力が抜けて行く。

眩しくて何も見えない…

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music:4

目を覚ました時、俺は病室に居た。

海で溺れて運良く浜に打ち上がったそうだ。

それからさらに一ヶ月。

Kは結局行方不明のままだった…

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俺にはわからないことがある。

一つは、釣りをしている時Kが

死んだらなにがあるか。って言った事。

あの時Kは何を釣って何を見たんだろう。

そしてなぜそんな事を聞いたんだろう。

もう一つは、俺が行った水路の様な場所はなんだったのか。

最後に、俺は確かにテトラポッドで転んでテトラポッドの隙間に落ちたはずだ。なのに浜に打ち上がって助かった。これはきっとだけど、Kが助けてくれたんだと思う。

まぁ今じゃあもうわからないことなんだけどね。

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