長編9
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赤い村-異質-(8)

wallpaper:151

music:4

1989年6月16日ーー

昨日、あの少女の父親である宮坂勇樹が病院を訪れてから、神山はいつでも村へ行ける準備をしていた。

病院も急遽休みにし、ただただ少女の無事を願う。

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(必ず....。

必ず救わなくてはならない....。

あの子だけはっ....!)

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だが、一向にあの男が病院へ訪れる様子がない。

神山は、過ぎていく時計を見つめ、ひたすら願っていた。

時間が経つにつれ、神山の心は徐々に焦りと不安に満ちていく。

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(早く....早く来いっ。

.....頼むっ....!)

.....そう願った直後だった。

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sound:18

コンコン.....

shake

(!!!!!!)

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.....来たっ、あの男だ!!!

そう確信した神山は、急いでノックがする扉へ走った。

しかし、現実は残酷な結末を神山へ突きつけた。

扉の向こうにいたのは、定期的に病院へ訪れる患者の中年女性。

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「....すみません、先生っ。

ちょうどさっき、知り合いからたくさん山菜いただいちゃって!

病院の前通ったら電気ついてたもんで、普段お世話になってる先生にお裾分けを、と思ったのよっ。」

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満面の笑みの女性は、スーパーの袋に入った山菜を神山へ手渡した。

自分の信頼する、腕利きの先生へのほんの気遣いで訪れた女性は、「きっと先生は喜んでくれる」と予想していたのだろう。

ところが、神山にはそれを笑顔で受け取る余裕は無かった。

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「.....あぁ....ありがとう、ございます.....。」

想像していた反応と全く違う神山の様子に、女性は少し不機嫌そうな顔になったが、それでもフォローを入れるように笑顔で言った。

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「あら、先生顔色悪いわねぇ。

体調悪いところ押しかけてしまったなら、なんだかごめんなさいね。」

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それでも殆ど反応の無い神山。

女性は、「余計なことしちゃったわね。」と言い残し、立ち去っていった。

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手には、無理矢理持たされた山菜の入ったスーパーの袋。

神山は、扉の前から動けず、袋を床へ落とした。

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(....あの男に.....何か、あったってことか。)

宮坂勇樹が訪れない場合の、神山の行動に選択肢は無かった。

日も落ち始めた夕方過ぎ、神山はあらかじめ準備していた道具を背負い、病院を抜け出した。

*************

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最寄りのバスは、あと30分は来ない。

街へ走り、タクシーを拾った方が早いと判断した神山は、一心不乱に走った。

走っている最中も、どうしても少女の「最悪の結末」を想像してしまう。

神山は涙を必死に堪え、「きっと無事だ。」と自分に言い聞かせた。

最悪、あの男に何かがあったのだとしても構わなかった。

「宮坂明子」さえ無事なのなら...。

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神山は、街で一番最初に見かけたタクシーを半ば強引に引き止めた。

少し驚いた様子のドライバーだったが、あからさまに急いだ様子の神山を見て、なるべくスピードをあげて目的地へ向かった。

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「....お釣りは要りません!!」

神山は値段を見ずに、1万円札を投げるようにドライバーへ渡し、街はずれの山へ入っていった....。

*************

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music:2

「ハァ、ハァ、ハァ.....。」

.....息が苦しい。

普段、軽い散歩しかしていなかった運動不足な身体は、すぐに重くなっていく。

神山は、今まで運動してこなかった過去の自分を殴りたい気持ちになった。

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「くそっ.....!

早くしないと....宮坂さんが...!」

それでも、不思議と喉は乾かなかった。

というより、喉を潤すことすらも今はどうだって良い。

神山の頭には、「少女の無事」しか見えなかったのだった。

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(確か.....ここら辺を入っていったはずだ。)

神山は比較的、方向感覚には自信があった。

案の定、神山の入っていった先には、あの時見た「不気味な鳥居」がそびえ立っていた。

空はすっかり暗くなり、神山は懐中電灯で辺りを照らした。

その光で照らされた赤く汚い鳥居が、より一層不気味に見える。

それが、神山にはまるで地獄への入り口のように思えてならなかった。

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「....確か、鳥居をくぐって真っ直ぐ行けば着いたはずだ。」

暗くなった空と、葉音をたてる深い木々の中にたった一人。

その孤独から来る焦りと恐怖が、時間の経過を狂わせ、神山を更に焦らせた。

....10分程走っただろうか。

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バサッ....!

木と木の間を無理矢理抜け、神山は再び「赤忌村」へ到着した。

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「ハァ...ハァ....。

やっと着いたっ...。」

......村は静まりかえっている。

人の気配が全くしない。

まるで村が死んでしまっているようにさえ思えた。

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「どこだっ....宮坂さんっ....!」

村から抜けてくる風が、妙に生温い。

.....その時だった。

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shake

sound:18

「!!!!!!!!」

村の中央付近にそびえ立つ大きな太い木。

そこを照らしたライトの光に、一瞬だが誰かの足がうつった。

神山は恐る恐る、もう一度木の幹へ光を戻した。

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「あぁ......ぁ....。」

そこには、首を吊って死んでいる宮坂勇樹の姿があった。

雑に結ばれたロープに首を吊るし、森から来る風に煽られ、ユラユラと揺れる無惨な姿。

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「なん.....で....。」

宮坂勇樹の服は血に汚れ、赤黒くなっていたが、外傷は見当たらない。

だがそれは、少女に「何かがあった」ことを神山に確信させるには充分だった。

神山は、少女を必死で探した。

.....そして、神山はとうとう信じ難い現実を目の当たりにするのだったーー。

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music:3

「う、うそ....だろ....?」

そこは、かつて少女が儀式を行っていた屋敷のあの「儀式部屋」。

そこには、首がねじれるようにもげた遺体が六体、乱雑に転がっていたのだった。

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shake

「う.....うぉぇぇえっ....!」

神山は、その肉塊と化した遺体から発せられる生臭さに耐えきれず、その場に嘔吐した。

そして、その遺体から吹き出された血液で、部屋は真っ赤に染まっていたのだった。

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(宮坂....さん....。)

現実とは思えない地獄絵図。

散らばった首と、首のない遺体達。

.......神山は落胆した。

少女が、この無惨な遺体の中にいると思ったからだ。

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ピチャ....

ピチャ....

歩く度に、床に広がる真っ赤な液体が音を鳴らした。

神山は、放心状態で少女を探した。

転がる首を一つずつ拾い、確認していく。

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(.....な....い....?)

そこには、少女の遺体が何処にも無かったのだ。

いくら探しても、あるのは一人の老婆と五人の男の骸だけ。

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「ど、どういうことだ....。」

そう、その散らばる遺体は、まさにあの時儀式を行っていた六人のものだったのだ。

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(.....なぜ、こいつらが死んでいる....?

み、宮坂勇樹がやったのか....?)

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.....いや、違う。

それらの遺体は、「人の手によるもの」とは思えない殺され方をしていたのだ。

まるで何周も何周も首をねじられ、皮が耐えきれずに切れたような、そんなもげ方....。

見慣れない惨たらしい光景が、神山の意識を遠のかせた。

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「一体....何が..起きて...?」

バタッ....

神山は倒れた。

恐怖、不安、疲労、孤独、絶望による精神への限界が訪れたのだ。

神山は、血の海と化したその「部屋」で、とうとう意識を失ってしまったのだったーー。

*************

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music:2

1989年6月17日ーー

ーー神山の顔に、赤い光が当たった。

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「.....うっ....?」

一瞬、自分がどこにいるのか判断できない。

顔の片面に生温い赤い液体が浸かっていた。

自分の服が、その赤い液体を吸い、肌にくっつく感覚。

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すぐに神山は起き上がった。

真っ赤に染まる部屋。

相変わらず散らばる無惨な遺体。

部屋の窓から日の光が差している。

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窓は飛び血によって赤く染まり、そこへ日の光が差し込み赤い光へ変わって、赤い部屋をより深い赤に変えている。

明るくなって、より一層鮮明に分かるこの部屋の「異質」さに、神山はついに発狂した。

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shake

「あぁ....ぁぁ....ぅあああぁああぁあぁああ!!!!」

神山は叫んだ。

声が潰れるかと思う程に.....。

叫び、そして絶望した。

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消えた少女の行方を知らずとも、神山には分かったのだ。

この部屋の意味することが。

......最後の「儀式」が行われたことが。

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神山はしばらく叫び、声が出なくなって初めて涙を流した。

泣きながら、フラつく足を引きずって、外へ出た。

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村の中央の太い木には、久々のご馳走にギャアギャアと喜ぶ黒い羽が飛び交っている。

その中心には、それらに突つかれて傷だらけになった宮坂勇樹の姿。

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(あぁ....なんて.....ことだ...。)

神山は、宮坂勇樹の遺体の前に泣き崩れたのだったーー。

*************

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music:4

ーーそこまで話すと、神山は口を閉ざしてしまった。

いや、思い出すことによって、どうしても話せなくなってしまったのだ。

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しかし、それは神山だけではない。

丸山もまた、絶句してしまっていた。

というより、何も言うことが出来なかったのだ。

一体誰が、この男を慰めることができる言葉を持っている?

当然、そんな言葉をこの二人が持ち合わせているはずがない。

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神山は辛い過去を思い出し、涙でボロボロになった顔をハンカチで抑えながら、丸山に一枚の紙切れを手渡した。

それは、丸山が今まで見てきた宮坂勇樹の日記と同じ紙。

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sound:18

「これ....は....?」

丸山は精一杯の声で尋ねた。

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「私が....あの宮坂勇樹の遺体の前で泣き崩れた時、彼のポケットからその紙が見えているのを発見したんです...。」

神山から渡された一枚の日記には、血と思われる茶色い染みがそこら中に付着し、クシャクシャになっていた。

丸山は、ゆっくりとその紙切れを開いた。

日記には、震える文字でこう書かれていた。

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先生 わたしは だまされ ていた。

ぎしきは 今日だっ たんだ。

先生の びょうい んからもどる と 、すでに あの子も めぐろ の連中 も死んでい た 。

ぎしき は途中 だった。

宿主 である あの子が死に、 ふういん もされていな い じょうたいだっ た。

このまま ではあの子 の死が 完全に むだに なると思った。

だから、 わたし はバラバラ になったあの子 のから だをあつめ、 封印すること にした 。

あの子の たましい は、これでえいえんに 封印され たまま。

先生、あの子が 死んでわたしだ けのうのうと生きては いけない。

罪を つぐないま す。

ごめんなさ い 先 生

ごめんね あ きこ

ほんと うにごめ ん。

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「儀式の日は....6月20日じゃなかった...ってことか...?」

丸山に、一気に押し寄せる焦りと恐怖。

このメッセージ通りに考えれば、儀式が行われたのは明後日の6月15日。

そう考えると、丸山のデッドラインは....

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「あと....二日....?」

丸山は混乱した。

いつ死ぬか分からない危機は回避したものの、すぐ足元まで迫る確実なる死。

もはや、丸山に残された時間は皆無だった。

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「か、神山さんっ....!

今すぐ村へ連れ....。」

shake

バシッ...

そう言いかけた瞬間、前田が後ろから丸山の頭を叩いた。

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「.....落ち着けよ。

今の話、お前は本当に整理出来てんのかよ?

確認するとこは、儀式の日だけじゃねぇだろ。」

前田は、神山へ尋ねた。

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「なぁ神山さん。

まだ隠してることがあるんだろ?

あんたは辛い過去をよく話してくれた。

それによって確かに色々分かったし、納得もした。

嘘は言ってねぇと思うよ。

だけど、あんたは確かに「話」はしたが、別に「全面的に協力」するとは言ってないもんな。

その日記だけじゃない。

俺らが生き残るためには、まだ村の儀式について書かれた古文書がいるはずだ。

......あんた、それ持ってんじゃないか?」

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前田の鋭い洞察力に、神山は目を見開いて驚いた様子を見せた。

そして、すぐに前田へ答えた。

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「......えぇ、ご察しの通りです。

......それでも、あれは渡せません。」

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sound:18

shake

(渡せない....だって....!?)

想定外の返答に、丸山は唖然としたように神山を見た。

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......そして、神山はその「理由」について説明し出したのだったーー。

続く

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ロビンMさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

大変嬉しいお言葉の数々、本当に感激いたしました。
ありがとうございます>_<

ロビンMさんが仰るほど、私の作品なんてまだまだ駄作で雑なものですよ(T ^ T)
それでも、心から光栄に思います!

ラストに関しては、私もなかなか頭を悩ませておりますが、頑張っていこうと思います!
また更新しましたら、宜しくお願い致します(^O^)

やあロビンミッシェルだ。

な、NAOKI氏聞いてくれ!

君の文体に感銘を受けて同じ様に真似して書こうとしたんだが、全然書けなくてもう訳がわからなくなっちまったんだ!…ひ…

改めて君の凄さが分かったよ…

ここには尊敬できる素晴らしい作者が沢山いるが、俺の中で君も間違い無くその内の一人だ!

『赤い村… 』

…ひ…ラストへ向けて皆の期待がデカイ分、そのプレッシャーもえげつないだろうが頑張ってくれ!

すまん!長文申し訳なかった…ひひ…

あきらさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

プロなんてあり得ないですよ>_<
しがないトラックの運転手ですw

駄文にも関わらず、面白いと言ってもらえて本当に嬉しい限りです。

また更新した際は宜しくお願い致します^_^

ナオキさん、あんたまさか・・・
プロの作家か?
最高に怖くておもろいぞ!(´Д` )
凄いペースで投稿しまくってるけど、おもろいからもっとやれ〜^ ^

暇人さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

ミステリーですか....
廃病院では、いかにもホラーな感じだったので、ミステリー的な要素も意識してたので、嬉しいです^_^

そういうシリアスなホラーも好きなので....

また更新の際は宜しくお願いします^_^

更新早くて助かります!
すごく面白いです!
怖い話というよりミステリーに思えてきました(笑)

絶望さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

残酷ですよね....
でも、私もこういうの大好きなもので...^_^
絶望さんの期待に添えられるような話を作っていきたいと思っておりますので、また更新の際には宜しくお願いします^_^

VEILEDGOTさん、コメント&怖い&ご指摘いただき、ありがとうございます。

ご指摘していただいた箇所、今確認して修正いたしました。
申し訳ございませんでした&ありがとうございます^_^

最初はこんなディープなものにするつもりはなかったのですが、、
やっぱり私自身、こういうの大好きみたいですw

また更新の際には、宜しくお願いします^_^

なんて残酷な話し けれどそれがいいんですよ♪

タクシーのくだり、おつりは要りません!
がおつりは入りません!になってますよん(`・ω・´)ノ

だんだん話がディープに…(´・ω・`*)こわいぜ

ロビンMさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

褒めすぎですよロビンMさん>_<汗
もう、めちゃくちゃ嬉しいです(T ^ T)

ロビンMさんは、本当に一番最初から応援して下さった方なので、私としては感謝しかありません>_<

本当に毎回、ありがとうございます。

これからも、末長くお付き合い願えればと思っておりますので、また更新の際には読んでもらえたら嬉しいです^_^

宜しくお願いします^_^

65_uverさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

気になっていただけて良かったです^_^

次の更新を楽しみしていただければ幸いです^_^

やあ✋ロビンミッシェルだ。

な、NAOKI氏! すまん!遂に一つだけ矛盾を見つけてしまった…う…

そ、それは初登場に近いにもかかわらず文章力、及び構成力、及び想像力が半端無いという事だ!….ひ…

毎回退屈させない言葉運びと、ゆっくりと偲び寄る確信に、もう次回がめちゃんこ気になる木だよ!…ひひ…

きになるうううう

ガラさん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

いえいえ、恐縮です>_<

でも、すごく嬉しいです^_^
ありがとうございます。

またなるべく近いうちに更新すると思いますので、その時はぜひ宜しくお願いします。

酢物さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

またご感想をいただき、本当に感謝致します^_^
続きは、一応明日中には書ける...予定ではいます。
お待ちいただくかもしれませんが、どうぞ更新の際には宜しくお願いします。

灞嚠さん、コメント&怖いを付けていただき、ありがとうございます。

私のお話を読んでいただいているということで、非常に嬉しく思っております^_^

駄文ですが、末長くお付き合い願えれば幸いです^_^

宜しくお願いします。

やっぱりNAOKIさん凄いですね。
怖すぎですよ、続きが待ちどおしいです。

待ってました!
その場の情景が浮かんで来る文章に一気に読んでしまいました。
続きも楽しみにしてます!

いつも読ませていただいてます。
引き込まれる文章力で内容が本当に面白い。
続きすごく楽しみです!