中編4
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芋虫男

「芋虫が見えるんだよ」

芋虫ですか・・・? 後輩の勇太郎は顔を顰めた。

「芋虫だよ」

持っているコップを置き、吐息を吐いた。

「芋虫ってあれでしょう?僕、あれ無理なんですよね。気持ち悪くって」

俺だって無理だよ。――ため息混じりに言う。

「どうしたんですか?はっきり言ってくださいよ」

「最初に言ったとおりだ。芋虫が見えるんだよ」

俺は話しを続けた。

あれは、社長に誘われた酒屋で飲んだ後のことだった。

相当酔っていたんだろう。

俺は芋虫を潰した。

何故、潰したのかは憶えていない。

のっそのっそと気持ち悪く、這いずりまわるように。

その記憶は不思議とある。

今思い出すと気持ち悪い。

それからだ。

時々、見えるんだ。

芋虫が。

後輩はまた顔を顰めた。

「厭な話ですね」

俺も厭だよ。今度は口に出さなかった。

しかも、あれはちゃんと触れる。

這いずりまわっているという感触もある。

そのときにはいつも嗚咽感が充満する。

堪らなく、厭だ。

数回ほど嘔吐した。

「先輩、それは病院に行ったほうがいいんじゃないですか?」

勇太郎は俺の頭が狂ったとでも言いたいのだろう。

でも、俺もそうとしか考えられない。

麻薬をやっているわけじゃないし、そんなものが見えるのは普通はない。

バーのBGMだけがしばらく続いた。

俺は狂っているのか。

そのときだった。

沸いた。

芋虫が。

手にうじうじと。

俺は場所を考慮して、叫ぶのを抑えた。

堪らない。吐きそうだ。

そんな俺を心配したのか、勇太郎は大丈夫ですか?と背中を擦った。

返事ができない。気持ち悪い。

厭だ厭だ厭だ。

嗚呼、最悪だ。厭だ。

気持ち悪い。厭だ。

口元を押さえるので、精一杯だった。

胃液がこみ上げてくる。

「先輩?!先輩!」

近くにいるはずの勇太郎の声が、まるで遠くにいるようだった。

要約、治まった。

だが、この嗚咽感だけはしばらく何処にもいかなかった。

「ダメだ。このままじゃ・・・」

だが、どうする?病院に行くか?

だけど、こんな症状麻薬やっていると疑われるに決まっている。

そうじゃなくっても、こいつは気違いだと思われる。

厭だ。

俺は世間の目を気にするタイプなんだ。

だけど、会社は休めない。

やけに重く感じるドアを開けた。

「うっ」

おもわず声を上げた。

芋虫だ。

俺の頬あたり。

しかも、相当デカい。

「ぐえええ!」

抑えられなかった。玄関にさっき食べた白飯が吐き出された。

この何かが這う感覚。厭だ。途轍もなく。

こんなの、いつこようと慣れるわけない。

その日は結局会社を休んだ。

俺はベットの上で、悶絶してた。

ベットの横にある窓から、見える外灯だけが、真っ暗な部屋に居る俺の身体を照らしてくれる。

また、芋虫だ。

今度は数が多い。

そこら中に居る。

手にも足にも顔にも。

また、吐いてしまった。

寝ている状態なので、吐瀉物が頬を伝った。

厭だ。

厭だ。

厭だ。

我慢できない。だけど、身体が動かない。

身体がぶるぶると震えている。

俺は。

恐ろしいのか、この状況が。

怖いんだ。

結局、今日も会社を休んだ。

今のところ芋虫は現れない。

前例はないが。会社で現れてしまったら、どうする?

しかも、昨日みたいにそこら中に。

そして、やる気が起きなかった。

身体が動かなくなっている気がする。

このまま行けば俺は首だ。

そうはなりたくない。

東京には親に無理を言って、上京してきたのだから。

鬱なのか・・・俺は。

もしかすると、そうなのかもしれない。そんなの、厭だ。

芋虫が現れた。

だが、そんなのどうでもいい。

慣れたとかではない。今でもこの感覚は厭だ。

自然と嘔吐した。

だが、拭くことは出来ない。やる気がわかない。

不思議と四肢が動かない感覚に見舞われた。

そんなはずはない。

俺はただ疲れているだけなんだ。

そうだよ。この悪夢も、この吐瀉物も明日起きればなくなっている。すべては厭な悪夢なんだ。

なくならなかった。

吐瀉物は異臭を放っていたし。

芋虫は朝一番に現れた。

俺はもういつまでもこんななのか?

会社に電話する気にもなれなかった。

もう、どうにでもなってしまえ。

ベットから転げ落ちた。

痛い。感覚はなくなっていないようだ。

何故か、視線が台所に行く。キャベツだ。

そういえば、何も食っていない。

俺はキャベツが苦手だったはずだ。

なのに、なのに。なのに、なんで。

今はこんなにも魅力的なのだろう。

とても、美味そうだ。

涎がでる。はやく食べたい。はやく。はやく。はやく!

俺は地面を這うように、着実に台所に近づいていた。

「はぁ はぁ」

四肢が動かない。だけど、今はそんなことどうでもいい。あの、キャベツが!あのキャベツを!

ふと、鏡が目にとまる。

その風景に俺は驚愕した。

そこには一匹の芋虫がいた。

嘘だろ・・・。

服と身体は黒ずみ、地面を這う。

まさに滑稽だ。

これが俺?

いや、身体は人間だ。だが、いや、だけど。

そこにいるのは。

嗚咽感が身体を蝕んだ。

オエーと吐き出す。

だけど。

吐き出したのは糸だった。何かの液と糸。

何なんだこれは?

嘘だ。

厭だ。信じられない。

俺は芋虫なのか?

だけど、確かに、俺の目の前に映る鏡には。

そう。

一匹の芋虫がいたのだった。

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自分も芋虫嫌いだから吐き気が…

呪いですね…

呪いだな

感嘆