中編4
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カエンサマ

その日、手紙が届いた。

宛先は書いて無かったがどこか見覚えのある字で「カエンサマ」と書かれていた。

私の苗字では無いので手紙を開けて読むのは気が引けて郵便局に持っていこうと靴箱の上に置いた。

何日かして、また同じ様な手紙が届いた。

宛先は不明。

この前の手紙はまだ郵便局に持って行ってなかったからいっしょに持っていこうと思って靴箱の上に二枚重ねた。

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私の友人に変な奴がいる。

本と昼寝が大好きな「春」という名前の不思議な奴。

本人は不死身だって言ってるけど本当かどうかはわからない。

その春に手紙が届いた話をした。

春は眠そうに私の話を聞きながら、最後に「放っておけばいつかこなくなるんじゃないの?」と言った。

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家に帰って、靴箱の上の手紙を見た。

「放っておけばこなくなるんじゃないの?」

春の言葉が頭の中で再生された。

ものすごい罪悪感に駆られながらも、わざわざ35分もかけて郵便局まで行きたくないという思いが勝って靴箱の中の空箱に手紙を入れた。

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その日から、真夜中に家の周りで物音がするようになった。

何の音なのかはわからない。

小さな一軒屋なので大体どのへんで音がなっているのか、部屋で寝てるだけで分かる。

その音は決まって家の周りを3周すると消える。

不気味に思いながらも危害があるわけではないので放っておいた。

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一週間後…

「ねぇ、春?」

「ん?」

「今日うちに泊まりにこない?」

事態は悪化した。

昨日の夜またあの音がした。

いつもの事だと何の気にもとめていなかったが昨日は違った。

「どうして?」

春はなにも知らずに聞いてくる。

きっと深夜に家中の窓という窓を叩かれたと言っても信用してくれないだろう。

百聞は一見に如かずだ。

「面白い事があるよ」

春は少し不思議そうな顔をして、それからにいっと笑って「行く」と短く返事をした。

春を連れて帰宅し玄関の鍵を開けた。

少し前まではばあちゃんと二人暮らしだったけど、今は帰りを待ってくれている人なんていない。

それでも長年の習慣で「ただいま」と小さく言った。

うしろで春が「お邪魔します」とつられて小さな声で言った。

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靴を脱いでいると郵便受けに入った手紙を春が見つけた。

宛名は「カエンサマ」

あの手紙だ。私は手紙の事なんてすっかり忘れてたので少しドキッとした。

「靴箱の、箱の中に入れといて」

春は興味無さげに言われるまま箱の中に手紙を入れた。

そのあとの時間は何事もなく過ごした。

ご飯を食べて、お風呂に入り、テレビを見てグダグダと過ごした。

そろそろ眠いなーってなった時はもう既に12時を超えていた。

春はいつの間にかどこからか出してきた毛布にくるまって寝てた。

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私も寝よっかなーって独り言を呟きながら、押入れから布団を出して敷いて、がんばって春をソファから布団まで移動させた。

かよわい(?)女子に成長期の男子を運ばせるなんて、とか思いながら私もその隣の布団で眠りについた。

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深夜2時、春が何かガサガサしてる音で目が覚めた。

うっすらと目を開けてみると何故かカーテンから何かを覗いてる春がいた。何をしてるんだろう。そう思ったのもつかの間であの音がした。

ザザッ…からん…ザザッ…からん

これが何周目なのかはわからないが確かに家の周りをゆっくりと回ってる。

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ザザッ…からん…ザザッ…ザザッ…

……………

春が覗いてる所で音が止まった。

30秒くらい経っただろうか。

「春…」

声をかけようとした途端に

ドンドンドンドンドン

と家中の窓を今にも叩き割ろうとするような凄まじい音がした。

春は平然とカーテンの外を見つめながら

「あっ、起きたんだ」

と寝ぼけたような声で言った。

「春!なんなのこの音!!」

「落ち着いて」

「落ち着けるわけないじゃない!」

頭の中が真っ白になった。昨日はもっとノックをしているようなそんな音だったのに今は明らかに殴っているような音だ。

どこからかドーンドーンという金属バットで家を叩き壊しているような音とさえする。

耐えきれなくなって叫んだ。

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気がつくと真っ白な所だった。

夢…なのかな?

春もいた。知らない女の人と話をしてた。

女の人の方はあまり見えないけど薄紫の着物を着てた。

そのうち女の人はどこかへ消えて行った。

春がゆっくりとこっちを振り返って「終わったよ」と言った。

何の疑問も抱かず「終わったんだ」って呟いてまた私の意識は遠くなった。

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美味しそうな匂いで目が覚めた。

そこはいつも通りの朝だった。

一つだけ違うのは春が朝ごはんを作ってた事だ。

おはよう、と言って席に着く。

テーブルには目玉焼きと焼き魚をはじめとする日本の朝ごはんが並んでいた。

いただきます。

こんなまともな朝ごはんを食べるのはいつぶりだろう。

そんな事を考えながらふいに昨日の事を思い出した。

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「あかり、食事中に泣くのはやめて」

春がこっちを見ずに言った。

「怖かったなら素直にそう言えばいい」

そっか、怖かったんだ。

「食事が終わったらゆっくり話そうか」

私は黙って頷いた。

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春はとても短くまとめた。

カエンサマの手紙を玄関先に置いてあげるとこの奇妙な出来事は収まる、という事と、これからは何でも面倒臭さがらない様に、という事だった。

元はと言えば春が放っておいたらこなくなるって言ったくせに、そこはスルーされた。

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手紙は玄関先に置いた。気付くとなくなっていた。

春にカーテンから何が見えたのか聞いて見たけど結局教えてくれなかった。

今でもたまに「カエンサマ」宛の手紙が来る。

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