長編7
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夜の漫画喫茶

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(※サウンドノベル風モードでの閲覧推奨)

これは当時俺が漫画喫茶で働いていた時に起こった出来事だ。

その漫画喫茶は立地が良く、客の入りもそこそこ良い。

名前こそ出せないが、ネカフェ利用者なら大抵知っている有名なチェーン店だ。

俺のいた店はダーツやビリヤード、カラオケ等の娯楽設備は無く、調理するようなフードメニューも無い。

ドリンクと漫画とPCだけのサービスで、店内もあまり広くないため、1人勤務で1日3人で回すシフト制だった。

俺は主に遅番で夜の時間帯に入っていた。

昼から夕方に掛けては常連客や旅行者で賑わい、深夜は終電を逃したサラリーマンや難民らしき人たちで溢れている。

ただ、たまに店に客が1人もいなくなる時がある。

同僚曰く、その時に「出る」らしいのだ。

そいつはよく「夜は気を付けろ」なんて言っていたが、俺は同僚を鼻で笑っていた。

俺は理屈っぽい人間で、この世の全ては科学で証明出来ると思っている。

故に、幽霊と呼ばれるモノの存在も否定している。

だが、実際に店の中から客が1人もいなくなると、結構不気味だったりする。

その店は寝泊りで利用する客も多く、喫煙席と禁煙席のエリアは常に消灯されており、客に静かな空間を提供するために店内BGMは流さない。

そのため、店に客が1人もいないとすごく静かになる。

しかも、その店は毎日21時くらいに必ず無言電話が掛かってくるのだ。

電話の電子音が鳴り、受話器を取ってマニュアル通りに電話に出ると、終始無言。

そして数秒後にプツッと電話が切れる。

スタッフの間では誰もが知っている話で、店長も最初はイタズラだと判断した。

しかし、あまりにも規則的過ぎるほど毎日鳴るもんだから、業務に悪影響も無いってことで対処するのも面倒らしく放置していた。

ある日、俺は店で遅番のシフトに入った。

22時に上がって深夜勤務の同僚と交代する流れだ。

夕方の客の入りはそこそこだった。

夜になってからは退店する客が多くなり、店内には2~3人ほど客が残った。

時刻は21時過ぎ。

そろそろレジ点検を済ませようと思い、レジの中の紙幣と硬貨を数える。

しかし客というのは空気を読まない。

3人ほど客がカウンターに来た。

違うタイミングで入ってきた客なのに一斉にレジに並ぶ、コンビニで起るあの現象と似たようなものを感じる。

しかしこれも仕事だ。しょうがない。

(めんどくさいと感じる辺り、俺は接客のプロになんて成れないな)

なんて思いながら会計を済ませ、席を清掃しに行く。

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この店は、カフェテリア席(オープン席)を除く全ての席が半個室だ。

というより、風営法でそうしなきゃいけない決まりらしい。

密室にならないように、この店では席の入口の真ん中に引き戸があり、そこから柔らかいプラ板をぶら下げて、下から見えないように隙間を埋めている。

よく漫画喫茶に関する噂で

監視カメラで個室の中の様子が分かってしまう

というものがあるが

この店に限っては無かった。

というか、普通の大手チェーン店ならまず有り得ない。

この店は個室周りの通路のみをカメラで監視している。

(今日も平常運転)

そう思いながら、俺は客が席に残した灰皿や漫画を片付け、軽い足取りでカウンターに向かった。

レジを操作し、ディスプレイに表示された清掃中状態の席を開放する。

気付けばディスプレイには客数0の表示。

そこでふと同僚の話を思い出した。

「出る」って話だ。

何がどんな風に出るかまでは聞いていない。

そもそも信じてすら無かった。

そんな事よりも時間を潰す術を探していた。

時計を見るが、交代の時間まではまだ時間がある。

客が来る様子も無いため、暇潰しにドリンクサーバーの清掃や新刊チェックなんかをしていた。

とうとうやる事も無くなり、俺はカウンターでドリンクを飲みながら、モニターに映し出された監視カメラを眺めていた。

カウンター前 異常無し

カフェテリア席 異常無し

禁煙席エリア 異常無し

喫煙席エリア 異常無し

通路 異常無し

つまらないほど変化の無い映像を見ていたと思う。

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その時、喫煙席エリアを映すモニターに人影が通った。

(あれ。何だろう)

俺は特に気には留めなかった。

というのも、たまに初めての客でカウンターとは別方向の所に進んでしまったり、先に席を確保しようとする人もいるからだ。

特にこの店は狭くて入り組んでいるせいか、そういうこともしばしばある。

俺は確認するために、店内の一番奥にある喫煙席エリアに向かった。

しかし人はおろか人影すら無かった。

よく考えたら、店のドアが開く音は聞こえなかった。

だから入店してきた客の可能性は無い。

きっと見間違いだろう。

監視カメラは画質が荒いし、映像の乱れもよくある。

俺はカウンターに戻り、再びモニターを眺める。

少しすると、喫煙席エリアを映し出すモニターにまた影が見えた。

最初は客が消し忘れた煙草の煙じゃないかと思ったが、その影は黒く、壁の死角から少し覗くような形で微動だにしなかった。

通路先にある喫煙席エリアをカウンターから覗くが、それらしきものは見えない。

しかしモニターにはそれが映っている。

俺は少し怖くなってきた。

客のいない静まり返った店内。

カウンターは空調機の音とPCの駆動音しか聞こえない。

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sound:32

プルッ... プルルルルルルル!

大袈裟な表現でなく、口から心臓が飛び出そうになった。

けたたましく鳴る受話器を取り、電話客への決まり文句を言う。

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「○○、○○店で御座います」

sound:33

「.......」

無言だ。

俺は下唇を噛み、目を泳がせていた。

これが恒例の無言電話だということは分かっていたが、このタイミングで来られると不安に駆られる。

「もしもし?」

sound:27

プツッ... ツーツー

直ぐに切れた。

いつもなら何て事ないただの業務。

だが今回は少し不気味に感じた。

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今何時だろうか。

時計を見ると22時まであと10分程だった。

店長が顔を出すのも稀なこの店に、15分前出勤を心掛ける奴はいない。

そう思い俺は溜め息をつく。

sound:26

バタッ

本棚から漫画が落ちたような音が通路から聞こえた

ハッ

と思い出し、顔を上げてモニターを見る。

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music:3

そこには、身体の上下が服とは言えないような白い布で覆われ、腰の位置まである黒い髪をした女が通路に棒立ちしているところが映っていた。

俺は恐怖した。

声すらも出なかった。

すると、俯き気味だった女の顔がカメラの方を向いた。

監視カメラの画質じゃどんな顔をしているかまでは分からなかったが、あれは明らかに人じゃないということは分かった。

そして女はドリンクサーバーがある通路側、いや更に言えばその先の俺がいるカウンターの方へ、気をつけの姿勢で顔だけをカメラに向けたまま、ゆらりと歩きだした。

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俺はその異様な姿に鳥肌が立った。

もうパニック状態だった。

映像から距離感は掴めるがカウンターから通路を覗く勇気は無い。

もう喫煙席エリアの映像に姿は見えない。

通路の映像の端に、その女がこっちを見ながら歩いてくる姿が映る。

距離的には近いはずなのに何故か足音は全く聞こえない。

もうカウンターまであと少しで見える位置まで来ていた。

その時

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店の扉がガチャリと開いた。

俺は驚いて「うわっ!」と声を上げた。

music:4

すると、そこには俺と同じように驚く客がいた。

店の入口はカウンターの脇にあり、レジ側からはちょうど死角になっているのだ。

俺は我に返り、客に平謝りして席に案内した。

客はどこか腑に落ちないような顔をしていたが、すんなりと案内を受けた。

客を案内した後、すぐにモニターを見た。

しかしそこには何も映っていなかった。

俺は安堵した。

驚きはしたものの、あれほど客が来てくれて嬉しかった事は無いと心の底から思った。

その後、すぐ深夜勤務の同僚が来た。

「ごめんちょっと遅れた!」

時計を見るともう22時を回ろうとしていた。

そいつがタイムカードをギリギリで切ったところを見届け、俺は同僚に言った。

「無言電話が来て監視カメラに変なのが映ったぞ!」

「あぁ、見ちゃったの?」

「だから気を付けろって言ったのにー」

ニヤニヤしながら言ってくる。

小突きたい。

そもそも夜にやばいのが出るっていうのに何でわざわざそいつが深夜シフトに入っているのかが疑問だったが、それを聞くほどの好奇心はそこまで無かったため未だに分からない。

「影みたいなのが見えたと思ったら無言電話が掛かってきて、その後白い女が映ったんだぞ! マジで死ぬかと思ったわ」

俺がそう言うと、同僚は怪訝な顔をして言った。

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「え? 俺が見たのは黒いボーッとした男っぽい奴だったけど...」

俺たちの間に沈黙が生まれる。

俺はそれ以上その事については話さず、業務の引き継ぎだけをして店を後にした。

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music:1

後日、一応そういう事があったという事を店長に報告した。

「そんな訳あるか」と笑いながらも監視カメラの映像をチェックしてくれたが、そこに女は映っておらず、何も無いのにカウンターでオドオドしている俺だけが映っていた。

それを見た店長は清々しい程に笑いのツボにはまっていた。

今はもう俺はその職場にはいない。

でもあの店を通る度に少し思い出してしまう。

俺が見たモノは一体何だったのか。

あの無言電話は何を意味していたのか。

今となっては知る由もない。

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紫さん:
コメント&評価ありがとうございます。
たしかに、カラオケ店のそういう類の話もよく耳にします。娯楽施設はどちらかというと華やかなイメージがありますが、何故かそういった話が尽きませんよね(笑)
直接実体を見てしまうのも怖いですが、映像などでリアルタイムで見てしまうのもまた怖いです...。
後日談は只今執筆中です!

こんばんは♪紫です(*^-^*)

めちゃめちゃ怖かったです(T_T)
私も少しの間、カラオケの深夜でバイトしたことがあります。カラオケ店でもよくこういった話がありますよね?
同じような体験をしなくて本当によかったと心の底から思います(´θ`llll)

同僚さんは何故深夜シフトに入るのか…
後日談も是非読みたいです!

喪さん:
コメントありがとうございます。
私のいた店もけっこう薄暗いので、喪さんが行かれるネカフェはもしかしたらその店なのかもしれませんよ...(笑)
ガスマスク大好きです。ミリタリーに興味があるんですけど、被り物とかも好きで、狐のお面など色々集めてます(笑)

わたしの行きつけのネカフェ、かなり薄暗いのよね…いつも行くの深夜〜朝方だし…ああ、こわい。しばらく行くのやめよ。

確かにネカフェは色々な人が来るよね…
性質上、変な人が集まりやすい場所ではある(笑)

余談ですが母の知り合いの40代男性がネカフェで亡くなったらしくてねぇ。
謎が残る上に、なんか悲しいな、と。
あの個室で最期を迎えるのは寂しいな〜。

全然関係ないけどガスマスクってかっこいいよね。好きです。

喪さん:
コメント&評価ありがとうございます。
投稿する時、読み手の人にその時の情景を上手く伝えたいたいと思っているのですが、そうするための文章力が無いために背景画像やBGMで誤魔化しています(笑)

ネカフェは色々な意味で怖いですよね...。指名手配犯が来たり、ヤ〇ザっぽい人が来たり、クレーマーが来たり...。当時店員だった自分にとっては、結局人間が一番怖かったかもしれません(笑)

ぐはあ……こ、こわい……
怨霊、じゃなくて音量。を上げて読んだけど、効果的でしたわ……
カメラ見ながら近付いてくるってのが怖い。
わたしだったら失神するかも。
あーネカフェ行く度にこの話思い出すな、きっと。イヤァァァ

Diabio616さん
コメント返信ありがとうございます。
私がよく行く所は結構怪談話があるんですが、
そちらは、そこまで無くて羨ましいです。
まあ、私の方は田舎と言うのもあると思いますが。

自殺などはよく起きるらしいですけども······
(ネカフェバイトの友達談)

Noinさん:

いつもコメント&評価ありがとうございます。
私がいた店では、怪奇現象と言えるようなものはこの話に出てきたこと以外には特にありませんでした。
ただ、漫画喫茶では稀に自殺があったり、跡地があまり良くないものだったりするので、そういう場所では霊感が有る方は引き寄せられるのだと思います。
特にビルに併設されているような店には、そういう場所が多かったりします。

私もネカフェ等はたまに行きますが、
真後ろから見られてる感じがして
振り替えるとなにもいない、
急に首の後ろを触られる、等の
心霊現象に会います。
ネカフェや漫喫ってそういうの多いんですかね?
まあ、今ネカフェに居るんですけども·········