中編3
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身籠。

とある筋から聞いた実話。

某少年誌で活躍する漫画家のアシスタントーーー仮に美里さんとする。彼女が体験した話。

美里さんはオカルト好きだ。たまの休日はよく心霊スポット巡りをして楽しむ強者である。

そんな彼女がとある霊山へと行った。場所は頑として教えてくれなかったが、そこは立ち入り禁止区域にも関わらず、自殺者が耐えないのだそうだ。

「ほんのお遊びのつもりだった……。先生が心霊モノの漫画を描いていたから、取材がてら行ってみることにしたんです。ただそれだけなんです」

霊山から帰ってきた後、彼女は突然の吐き気に襲われた。吐くわ吐くわの繰り返し。何となく熱っぽいし、怠い。おまけに生理が止まってしまった。

心配になった彼女は病院を訪れた。診察の結果、医師は首を傾げながらとんでもないことを口にした。

「妊娠している可能性があるって言われました。でも、妙なことに子宮の中には何もいなくて……そもそも妊娠するなんて有り得ません。当時の私は彼氏がいなかったんだから」

だが、彼女のお腹はみるみるうちに大きくなっていった。生理も相変わらず来ないし、体の不調は続いている。お腹が大きくなるにつれ、彼女はどんどん痩せこけていった。

ストレスのせいなのか髪の毛も抜け始めた。ブラシでサッととかしただけなのに、ごっそりと髪の束が絡みついていたり……。美容師をしている知人からウィッグを貰って被ってはみたものの、惨めさが増すだけだった。

その頃から毎晩のように悪夢を見た。寝ていると手負いの兵士が現れてベットに上がってくるのだ。ごつごつと節くれだった手で乱暴に寝間着を剥ぎ取られ、足を限界まで開かれる。そして激しく陵辱される……そんな夢。

夢にも関わらず、兵士の吐息や体温は熱っぽく感じた。幻聴なのか声まで聞こえるようになったという。

「オマエ、オレノ、オンナ……オマエ、オレノ、モノダ……」

目を覚ますと、ぐっしょりと汗をかいていた。唇には精液のような白っぽい粘液がネットリと付いていた。

美里さんはアシスタントを辞め、実家に帰った。

厳格な両親は美里さんにいい顔をしなかった。アシスタントを辞めたばかりか、つまらない男に引っかかり、妊娠した上に捨てられたと解釈したらしい。

例え事実を話したとしても、信じて貰えまい。精神科に行けとも言われてしまうかもしれない。美里さんは堪えるしかなかった。

そしてーーー十ヶ月後。

美里さんは朝方近く目を覚まし、あまりの悪寒に身震いした。トイレまで我慢出来ず、廊下で吐いた。胃液ではなく、どろりとした袋状に包まれた何かが出てきた。それはピクピクと痙攣を繰り返し、卵が孵化するように、袋を破って中から出てこようともがいていた。

美里さんは悲鳴を上げた。父親がしつこい勧誘を撃退するための木刀を持ち出し、袋を叩いた。何度も何度も叩いた。その姿を見つめているうち、彼女の気は遠くなった。

現在、美里さんは仏の道に入っている。人里離れた寺に住み込み、慎ましく生活している。

袈裟に身を包んだ彼女は微かに微笑んだ。幾らか痩せてはいたが、以前の骸骨に皮膚を貼り付けたかのような、異常な痩せ方をしていた時よりも肉付きはある。髪の毛もウィッグなしでも大丈夫なほど生えてきているようだ。

彼女は最後にポツリと漏らした。膨らみのない下腹部を撫でながら。

「二人目が、出来たようなんです」

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ネタバレ注意

呼んで改めて実感しました。
心霊スポットに興味本位で行っちゃいけませんね。
何が起こるかわかりませんもの。

鎮魂歌さん☞まめのすけ。

温かいお言葉、感謝致します。

鎮魂歌さんがこれ以上にないほど的を射た解釈をして下さったので、私から付け足すことはありません。まさしくその通りです。

彼女が行かなくてはならなかった場所は、病院ではなくて神社かお寺だったのかもしれませんね。病院では病気と解釈されてしまいがちですが、霊障の可能性もあるのですから。

uniまにゃ~さん☞まめのすけ。

確かに。認知くらいしてほしいところですよね。子を産むのは女性なのですから。

去年、従姉妹が出産しまして。元気な男の子が無事に産まれました。ただ、凄く痛いみたいですね。鼻から西瓜とまではいかないけれど、痛くて叫び転げたと言っていました。

リュミエールさん☞まめのすけ。

ご気分を害されたようで……大変申し訳ありません。強姦の話は聞いていて気分が良い話ではありませんよね。失礼致しました。

シリーズものに対してのお言葉、有り難く頂戴致します。そちらについては、もう暫くお待ち頂けたら幸いです。

つまりはネタ切れでして(笑)。またネタを仕入れ次第、書き上げますね。

赤煉瓦さん☞まめのすけ。

うわーん、お腹が空きましたー。マカロンが無性に食べたいです。おやつにはマカロンを頂きましょう。

エイリ○ンですか。なるほど、確かに感覚的にはそれに近いものがありますね。蚯蚓とか蛞蝓が繁殖するような感じなんですかね。単体が単体を産み落とすわけですから。

まあ、あんまり想像したくはないですが(笑)。 単体生物の繁殖方法って独特ですよね。

真苦楽さん☞まめのすけ。

お腹が空いて動けません、まめのすけ。です。ヘッドスパをお願いしましたら、あと三十分待って下さいと言われました。昼食まだなのに……。

今回は「魅入られた者は逃れられない」をテーマに書かせて頂きました。なるべく会話を減らし、直で伝わるようにと書いてみましたが、やはり難しいですね。

魅入られたら最後なのです。取り憑かれるのではなく、魅入られる。魅入られた人間の末路は末恐ろしいですよね。

美里さんの事は気の毒に思いますが、物語に引き込まれました。

この話で本当に怖いのは美里さんが母性本能に目覚め、
子ども(と夢の兵士?)を受け入れてしまっている事ですね。
これも霊の力によるものでしょうか??

病院では無くお祓いに行っていれば助かったかも……。

口から産めるんですね 二人目?? 誰の子って…彼方の子よぉぉ認知してちょうだい(-"-)

口から産み落とすって某有名漫画のピッ⭕ロ大魔王みたいですね。ただ、今回のような女性が暴行されるお話は好きではないですね。(。>д<)姉さんシリーズは書かれないんですか?あれを見ないと怖話を見てる気がしません。是非お願いします。(*^^*)

何❓ 妊娠するの? 実体の無い者からの行為で妊娠しちゃったのか・・・
出できた物は成長すると何になるのかな。
エイリア○ンを思い出してしまった…
何やら、探究心をくすぐられる作品でした。
次作にも期待しております。

何これ怖い!

交わってない妊娠といえば代表格は聖母マリア様でしょうか。
しかし、吐いたものに中から袋状の何かが居たって怖いにも程がある。
しかも二人目居るって正体は一体何!?