中編5
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連行

「一週間前、入社した先輩と昨日入社した俺との二人がいきなり当直とは、、、警備する会社の責任感って本当にヤバイっすよね」

「お前さ黙れよ、一晩の警備で諭吉って言われて来たんだろ?会社の責任問題より俺達が貰う諭吉の行き先考えてた方が幸せってもんだろうが」

「だけど先輩、ここ何か出ないですかね」

「何がだよ?何が出るって?どうでもいいけどお前さぁ、仕事をする気が無いならもう帰れ」

「いや、違うんっすよ。文句ばっかり言ってすみませんが、今まどきこんな楽な夜間警備を新人に任せるか?って考えたんですよ。しかも、諭吉っすよ」

「そりゃそうだけど、お前も言ったように一晩で諭吉だぜ。第一に今は建物の中には誰もいない。次にだ。朝まで、いるはずも無い侵入者を阻止すればいいだけだなんて、こんな楽な仕事が他にあるか」

「そうでした。すみません、ただ門兵するだけですもんね」

「まぁな、わかりゃいいさ」

二人がいるオフィスビルの警備室は建物の入り口の左側にあり、受付のようなガラスの大きな窓から侵入者を監視すると言うのが仕事だが、ようはマネキンのように警備員の制服を着た者がただ座っているだけの仕事だ。

このビルから最後の残業社員が出て来た時、1名は玄関で待機する。残る1人が最上階から各オフィスの施錠を確認する。最後は赤外線の人感センサーをONにして終了。

後は変化のない各階の廊下、階段を写し続けるモニターを眺めているだけなのだ。

襲いかかる睡魔との戦いが始まった。

「先輩、眠気ざましに巡回してきても、いいっすか?」

「アホ、何の為のセキュリティシステムだよ?お前が建物内を歩いて人感センサーが作動する、警報が鳴る。会社から待機中の警備員が駆けつける。説教されて諭吉がパァって?ふざけんなよ」

「はぁ、すいません」

長い沈黙が続き、夜が明け始めた頃、突然ビー、ビー、ビーと警報がして、その数秒後には監視台の電話が鳴り始めた。

「はい、こちら○○オフィス、警備室」

「はい、6階のセンサーが作動し発報されていますが、モニターで確認したところ異常は見られません」

「はい、1名は現地に向かい目視確認、後の1名は待機ですね、了解しました。警報解除の上、指示の通りいたします」

受話器を置いて、警報を切った先輩が行けと言わんばかりにアゴをしゃくった。

朝日が射し込む中、6階へとエレベーターに乗り、誰もいない廊下、階段の異常がない事を確認して警備室へ戻ると誰もいない。

どうせトイレだと、気にも留めずにいたが30分しても戻って来ない。

先輩を探しにトイレへ向い、トイレを覗くと1番奥の戸だけが閉まっている。

「うっうっうっ」

「どうしたんですか?大丈夫ですか」

「くるなよ、くるなよ、ぎゃー」

と言ったきり静かになった。必死でドアを叩いたが、中からは何も音がしない。

警備室に戻り会社に事情を説明して指示を仰ごうと受話器を取ると玄関に同じ制服を着た警備員が数名いた。ホッとして、状況を説明しようとすると、

「もう1人は何処ですか」と聞いてきた。

「えっえっ?多分トイレです」

それを聞いた警備員は慣れたようにトイレへと駆け出した。それから暫くして

気絶した先輩がトイレから運び出されてきた。

血の気を失った青白い顔の先輩に何があったのかを問いかけても無駄だった。

先輩を車に乗せてドアを閉めた警備員が振り返り、残りの勤務時間を1人で終える事を告げるとともに質問してきた。

「君さ、この仕事を続ける積りある?」

「どうゆう意味っすか?」

「意味も何も無いよ、続けたいのなら、一つ忠告をする。警報がなった時は君が現地確認をする事、けっして警備室で待機はしない事だ。理由は無いイエスかノーかだ」

「・・・」

それから俺は忠告通り警報が鳴れば現場確認の役目をしていたのだが、そのつど、警備室に残った奴がおかしくなった。

ある者は言葉を失い青白い顔でただ震え、またある者は職場放棄、すなわち逃げ出したのだ。

金に目が眩んでいたので、次々に仕事を辞めてゆく夜勤の相方なんて何とも思っちゃいなかった。

後任の相方が見つからず1人勤務の夜は警報が鳴った時には自動ドアをロックして、1人で現場確認をした後に会社へ電話、後は変化のないモニター監視と睡魔との闘い。

しかし、こんな楽な仕事を辞める日がきた。

ある日、仕事を終え自宅でシャワーを浴び、バスタオルで身体を拭きながら居間のソファに腰をかけると、付けっ放しにしておいたテレビが再放送の心霊特集番組を流していた。

ビール片手に、ふとテレビに眼を合わせると“俺”が出ていた。

タイトルは(あるビルでの出来事)

モニター画像の中、制服姿の“俺”がエレベーターから降りると“俺”はリュックを背負っていた。???

よく見ると“俺”の背中には血まみれの女が背中から覆いかぶさり、足が千切れた女の様子はまるで血で汚れたリュックサックのようだった。

廊下を歩く“俺”の背中には首を左右に揺らして、あらぬ角度まで頭が回る女の顔が、、、

突然、真後ろに折れ曲がると赤黒い血を口から垂らし真っ黒な眼窩は監視カメラを睨んでいるようだった。

会社に電話をして、仕事を辞めると伝えると怒鳴られた。後任者も決まらないのに、今日言って今日で辞めるとは、常識も無いのかと荒々しい言葉だった。

先ほど見た自分が写っている画像の話をすると、舌打ちをして今夜の勤務を終えたら退職する事を認めてくれた。

当たり前って言えば当たり前だが、雑巾のような血まみれの女を背負ってモニターに写っていた自分を見た以上、警備室を出ずに最後の勤務を終えようと考えていた。

ビー、ビー、ビー、鳴るなとの祈りも叶わず無常に警報が鳴る。

「お前、ちょと確認して来い」

初めて忠告に従わず、今日来たばかりの新人を現場確認に行かせた。

モニターの中、新人はエレベーターを降りる。いつか見た心霊特集の画像に写っていた自分と重なる。そう、今だあの女がおぶさるのは、、、あれ?いや、いや、おかしい?何もいないし何も起きない。

モニターの中にいた新人が警備室に戻る時、ドアを開けるノブの音に顔を上げた俺の眼には正面のガラスに写る俺自身の姿と血まみれの“あいつ”がいた。

叫び声を無理やり呑み込む俺の耳元で

「は、な、さ、な、い、わ」

張り詰めた糸が切れたように突然、すぅっと気を失った。これが本当の恐怖への幕開けだったのだと思い知らされる事となる。

いつも誰かに付けられている気配がして、ひどい時には背後から生臭い匂いと共にブッブッとお経を呟くような声がした。

雨の日の夜明けか日没前の薄明かりの時間帯は特に危険だ。ある雨の夕暮れ前、傘を持って歩いていたら背後から叫び声がした。多分“視える”方なんだろう。傘を投げ出して水たまりに腰を降ろして震えながら俺を指差していた。

痩せ始めた俺は懸命に考えた。恐怖の始まりのあのビルに行って俺の背中から離れて貰うように、祈るしかないと思った。

夕暮れの中、かつて働いていたオフィスビルの前に立った時、上から“人”が降ってきた。

首が折れた自分を見下ろした俺の横には以前に見かけたことのある近くのコンビニの店主が

「あ〜ぁ、今回はとうとう通行人を巻き込んじゃったよ」

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rumiさん“怖い”を頂きありがとうございます。時間が経ってもお読み頂けるとは感謝感激です。

AokiMinoさん“怖い”を頂きありがとうございます。

ちーこさん、“怖い”をありがとうございます。頑張って駄文を晒します。

やあロビンミッシェルだ。

神判時氏、怖いな…ゾクゾク来ちまったよ!何を隠そう俺も10歳から20歳までの10年間、背中に「落ち武者」を背負っていたんで他人事とは思えなかったよ!…ひひ…

鎮魂歌さん、“怖い”をありがとうございます。投稿からわずかな時間でお読み頂き感謝、感激です。

まいちさん“怖い”ありがとうございます。他の駄作もお気に召して頂き嬉しさ満開です。

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