中編2
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ナカムラさん

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これは、私が新人時代に体験した実話である。

私の会社は3ヶ月の研修中、新人を全員、指定のマンションに泊まらせる伝統がある。

私もその伝統に従い、あるマンションに泊まっていた。

研修は18時には終わるため、同期と飲みに行ったり、遊びに行ったりとなかなか楽しい期間であった。

ある日のこと。

夕食と入浴を済ませ、うとうとしている時の事だった。

時間は20時くらいだろうか。

「ピンポーン」

チャイムが鳴る。

同期が暇を持て余して遊びに来ることは何度かあり、特に警戒することもなく

「おう、どうした?」

とドアを開けた。

そこには全く知らない男女が立っていた。

男性は30歳前後だろうか。

全身をレザーに包んでおり、すらりとした長身だった。

女性は落ち着いた色のワンピースを着ており、何故かキャリーバッグを引いていた。

こちらは25歳前後に見える。

想定外の事態に立ち尽くしていると、男は

「ナカムラさんですか?」

と尋ねてきた。

ところが、私の苗字はナカムラではない。

咄嗟に防衛本能が働き、名前を言わないことにした。

「いえ、違いますが。」

と答えると、男は首をかしげながらバッグから書類を取り出した。

「おかしいなあ、確かにここのはずなんだけどなあ。」

と言いながら見るその書類には、何故か建物の構造と、部屋の間取りが書いてあった。

不審に思った私は、内心ビクビクしながら

「とにかく私はナカムラではないです。2ヶ月ほど前に越してきたので、人違いではないでしょうか。」

と強めに否定した。

一瞬粘られたらどうしよう、などと心配したが、意外にも2人は素直に帰っていった。

思ったよりすんなり帰ってくれたものの、その晩は不安と恐怖を抱きながら床に就いた。

翌日。私は少しでも恐怖を紛らわせようと、早速同期のナカムラに話をした。

「ナカムラ、昨日変な人呼ばなかった?」

「変な人?」

「実は怪しい男と女が来たんだよ。俺の部屋にさ。そんで『ナカムラさんですか?』って聞くの。」

そこでタナカが口を挟む。

「ははあ、そりゃデリヘルじゃねえの?ナカムラが呼んだ奴が間違えて行っちゃったんだな。」

「ああ、そうか!あのバッグには衣装とか道具が入ってたのか!」

「あんまり変なことするなよ、ナカムラ」

「いやいや、俺呼んでないから」

他愛もない話をしているうち、自然と恐怖も和らぐ。

ところが、話を聞いていたヨシダの一言が謎をさらに深めることとなる。

「でもさ、普通デリヘルなら嬢だけで来るもんじゃないの。

それに、ビルの構造とか部屋の間取り図とか持ってたんだよね?

風俗業者がそんなの持ってるもんかなあ?」

未だにあの男女の正体は不明である。

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あきらさん:
やはり犯罪関係でしょうか...
あの時部屋に入れていたらどうなっていたのかと思うと、今でも恐ろしいです

サギかな