検針員 -世にも奇妙な怪談3-

中編3
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検針員 -世にも奇妙な怪談3-

その頃、ユウキには金がなかった。

ユウキはメーカーに勤める研究職。

理系の大学院生だった頃、これから語る恐怖体験をしたのだった。

院生は忙しい。

「家は貧乏だったしね」

バイトをする暇などなく、仕送りもゼロ。

学費だけ親に出してもらい、あとは奨学金で食いつないでいた。

最初の見込みが甘く、少し浪費をするとすぐに懐が厳しくなる。

「さすがに厳しかったんで、増額の申請をしたんだけど...」

増額された奨学金が振り込まれるまで、徹底的に節約することにしたのだという。

夜遅くまで大学で研究しているため、アパートは寝るだけの場所になっていた。

そこで、パソコンから冷蔵庫に至るまで全ての電化製品の電源を切り、水の使用量も最小限に抑えた。

「大学にはシャワールームだってあるし、大して困りはしなかったね。大学に住んでるようなもんだよ」

家を出る時に検針員を見かけたが、「使ってませんけどね、電気」などと心の中でうそぶいた。

その翌日、不摂生がたたったのか、ユウキは高熱を出して寝込んでしまった。

病院に行く気力もなく、少し良くなるまで寝ることにする。

季節は夏。

「いわゆる1Kって部屋でさ、玄関上がってすぐのところで寝てたんだよ。居間よりも床が冷たくて気持ちいいんだ」

かなりきつかったため、うずくまるようにして寝る。

寝入りかけた時、おかしな音が聞こえてきた。

「カチャッ」

ふとドアの鍵に目をやると、かけておいたはずの鍵が開いていた。

とっさに手で締め直す。

すると、再び鍵が開いた。

またユウキが締め直す。

「熱で頭が働かなかったんだけどさ、繰り返すうちにこれはヤバい、って気付いて」

何度か繰り返すと、鍵は開かなくなった。

人が去っていく気配があったので、スコープから外を伺う。

そこには誰もいなかった。

思い切ってドアを開けてみたが、検針員が帰っていくのが見えただけだった。

昨日も来たはずなんだけどな、と思ったが、あまり気にせず寝ることにした。

翌日。

思ったよりも回復が早かったため、病院に寄ってから大学に行く。

研究室に着くと、仲間が心配そうに話しかけてきた。

「お前、昨日大丈夫だったか?」

熱は出たけどなんとかなったよ。

「いや、そうじゃなくてさ。あのニュース知らないの?」

仲間はパソコンの画面を指差した。

そこには殺人事件のニュースが映っていた。

近所のアパートで、女子大生が殺されたという。

犯人は若い男で、検針員に偽装していた。

仲間はどこから聞いてきたのか、さらに詳しい情報を教えてくれた。

男の手口はこうだ。

まず電気メーターを確認し、ほとんど回っていない部屋に目星をつける。

ドアスコープ越しに留守を確認すると、ピッキングで鍵を開けて侵入、金目のものを盗むのだ。

女子大生は忘れ物を取りに戻った際に犯人と鉢合わせしてしまい、口封じに殺されたのだった。

「それでさ、お前のアパートでも怪しい検針員を見たって奴がいるんだよ」

昨日。

ユウキはほとんど電気を使っていなかった上、玄関先でうずくまっていたためにスコープ越しでは姿が見えず、ターゲットにされたのだった。

「あの時、音に気付かなかったらどうなってたんだろうな」

カフェの扉を見つめながらユウキは言った。

Concrete
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ちゃあちゃんさん:
ありがとうございます。
怪談にはやはり幽霊ものが多いですが、幽霊が出ない怪談で頑張って行きたいと思っております。

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aoiさん:
コメント頂きありがとうございます。
怪談だと、警察官や宅配業者への偽装も多いですね。
そうせざるを得ない境遇の人もいれば、快楽殺人のような人もいるのでしょうね。。。

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うーん、やっぱり生きてる人間が1番怖いわ〜(´Д` )

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検針員に変装して盗みを働くとは・・・
電話工事、水道工事業者、セールスマン・・・
褒められた事ではないですがよくやりますよね
リスクを考えると普通に働いた方が良さげな気がしますが・・・
普通に働くのが死ぬほど嫌なんでしょうけどね(^^;

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